ケータイ用語の基礎知識
第641回:船上基地局 とは
(2013/12/3 11:58)
「船上基地局」とは、その名前の通り、船の上に搭載された携帯電話の基地局です。大規模な災害が発生した際に用いられる、被災地用基地局の1つです。現状はまだ実験中ですが、2013年度中の実用化を目指しています。
災害時、すばやくエリアを復旧
携帯電話は、災害時、救助要請や安否確認を行うツールとして、多くの国民が利用したいと考えるツールです。
しかし2011年3月に発生した東日本大震災の際には、地震の被害の大きかった東北地方を中心として多くの基地局も被災しました。総務省の調べによれば、最大で2万9000もの(NTTドコモ6720局、KDDI3680局、ソフトバンク3786局、イー・モバイル704局、ウィルコム1万3760局)の携帯電話・PHS基地局が地震の揺れで倒れたり、停電で電源を喪失したり機能を停止したほか、交換局との間の回線が壊れてしまうといった状況に陥ってしまいました。その結果、多くのエリアで携帯電話が利用できなくなり、各社の緊急対策によってエリアが復旧したのは、2011年4月末と、震災から1カ月半ほどかかってしまいました。
この教訓を受けて、携帯各社は、車載型基地局や持ち運びのできる基地局(可搬型基地局)、あるいは、交換局との間の回線に無線を使う「無線エントランス回線」の増強など災害時に向けた取り組みを進めました。
一方、総務省では災害時の通信の確保を検討するため「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」という会合を開催しました。そこでは、道路事情によっては、基地局を修理に向かう車が通行できず、復旧が遅れることがあり、スピーディに、どこでも利用できる“移動基地局”の充実が重要と指摘されています。
つまり、広いエリアが被災したとしても、それらの被災地にすぐ駆けつけて携帯電話のサービスエリアを復旧させる仕組みが必要、という点から、陸上だけではなく、海上からの取り組みも構築しようという考えが生まれました。そして、作られたのが、船に基地局を搭載した「船上基地局」というわけです。
船舶は、海を通って早期に街に近い沿岸部へたどり着けます。それに船舶が搭載している電源装置を使えば、基地局に必要な電力も安定して供給できます。こうした点がメリットに挙げられます。
KDDIが昨年秋に実地試験
2012年11月27日、KDDIは広島県呉市に近い倉橋島・大迫港にて船上基地局の実験を行いました。これは船の上の基地局から島に向かって携帯電話用の電波を発射して、実際に電波の届き具合を確認するというものでした。
この実験では、海上保安庁の巡視船「くろせ」に基地局設備と、交換局への衛星回線設備が搭載されました。その「くろせ」が位置するのは、沿岸1kmの場所、そして3km離れた沖合いでした。そこから陸地に向けて800MHz帯の電波を発射すると、島では800MHz帯によるサービスエリアができることになります。そこで通話やデータ通信を行い、満足な品質の通話ができるか、電波強度はどうだったか、データ通信時の速度はどうか、はたまた潮の満ち引きの変化が通信品質に影響するか、波で船が揺れるとどうなるかなど、多くの点で検証が行われました。
実験結果として、船上基地局は、災害時に必要なサービスを提供できることが確認されました。そのエリアの広さは事前のシミュレーションに近いこともわかり、船を派遣する前にどれくらいサービスエリアを構築できるか予測できます。通信品質も、固定電話並とされ、船の揺れ、潮位の変化といった影響は受けないものの、船の針路の変動は影響があることがわかりました。
今後の改善点として、潮流などで船の向きが変わった場合にも対応できるアンテナを開発すること、あるいは持ち運びやすくするため設備をコンパクトにすることなどが挙げられています。