ケータイ用語の基礎知識

第887回:ユニコーン企業とは

 ユニコーンは、その神々しさからあがめられる、伝説中の一角獣です。しかし「ノアが箱船を作ったとき、その凶暴さのため救われずにいなくなった」という民話もある悲しい獣でもあります。

 その伝説上の存在にたとえられる「ユニコーン企業」とは、急成長したスタートアップ、ベンチャー企業を指す言葉です。具体的には、「非上場のベンチャー企業」「企業としての評価額(プライベートマーケットでの評価)が10億米ドル以上」「創業10年未満程度」「ソフトウェアやソリューションを提供する企業」といった要件を満たす企業です。

 投資家にとっては、伝説と思われるくらいめったにお目にかかれないこと、しかしもし遭遇したときの喜びから、そのような名前が付けられました。主にベンチャー企業、スタートアップを対象にして、アグレッシブな投資でハイリターンを狙う投資ファンド(投資会社)を「ベンチャーキャピタル」と呼びます。米国のベンチャーキャピタルのひとつ「カウボーイ・ベンチャーズ」のアイリン・リー氏が、このような企業の2013年に雑誌の記事に寄稿したのがこの言葉の起こりのようです。その時点では、現在は上場済みですが、かつてのFacebook、Twitterなどこれまで39の企業がユニコーン企業でした。

 ちなみに、主に英語圏では、100億米ドル以上の価値がある場合「デカコーン(decacorn)」、1000億米ドル以上の場合は「ヘクトコーン(hectocorn)」と呼ぶこともあるようです。

 現在、米国メディアでは、The Wall Street Journal(経済紙)、Fortune Magazine(経済誌)、CB Insightsなどがそれぞれの分析で企業を格付けしています。それらでは、世界中で200程度のユニコーン企業が存在していることになっています。

 ユニコーン企業の属する国を見ると、Ant FinancialやDiDiを擁する中国、UberやWeWorkなどの米国がその多くを占めます。日本からのユニコーン企業が生まれることは、これまでほぼありませんでした。

 ただし、ユニコーン企業自体はほとんどなくても、ユニコーン企業に投資するファンドは日本にもいくつか存在します。たとえば、本誌でも何度か取り上げられている「ソフトバンクビジョンファンド(SVF)」です。

 SVFは、ユニコーン企業のうち、将来性があり、ビジネスモデルが評価できることなど、一定の基準を満たす新興企業へ投資する方針を掲げています。これまでに20社以上へ投資した実績が明らかにされています。

日本の起業しにくさがユニコーンの生まれにくさに

 これまで日本でユニコーン企業が少なかった理由としてよく挙げられるのは「起業しにくい環境」です。

 多くの調査で、日本は、起業家精神指標などで下位となっています。その理由はさまざまです。たとえば起業がキャリア形成に有利だと考える人が少ないこと、「自信」や「能力への理解」の欠如、文化的な「失敗に対する不寛容」、さまざまな規制です。起業自体が増えないとユニコーンも生まれないのは自明でしょう。

 とはいえ、日本でも新たな企業を生み出そうとする動きは大きくなってきています。多くのユニコーン企業が手がける事業はスマートフォンで活用できるものであり、たとえば日本の大手携帯電話会社は、先述したSVFのほかにも、KDDIやNTTドコモがスタートアップを支援する動きを数年来に渡り進めています。日本から、新たなユニコーン企業が続々と誕生する日は、さほど遠くないのかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)