石川温の「スマホ業界 Watch」

またもスマホが「実質値上げ」に? 総務省のルール見直しで負担増の懸念

 今年、メモリー高騰や円安基調などの影響を受け、値上げが相次いだ各社のスマホだが、年末から年明けにかけて、またもスマホが「買いにくく」なる可能性が出てきた。

 総務省による有識者会議である「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」にまもなく動きがあるのではないか、と業界関係者が戦々恐々としているのだ。

 先月、パブリックコメントが公表され、専門委員会による取りまとめ案が公開された。これにより、早ければ今月中にも答申がまとまり、年内から年明けにかけて新たな規制が始まる可能性が出てきた。

 メーカー関係者が特に問題視しているのが端末購入プログラムにおける残価率(2年後に返却する際の想定買取価値の割合)算出ルールの変更だ。このルールが変更されることで、キャリアで購入する際、今まで以上に手が出にくくなる恐れがある。

現場を疲弊させる「RMJベース算出ルール」の限界

 現状、各キャリアが提供している端末購入プログラムでは、各社が好き勝手に金額を設定できるわけではない。

 端末購入プログラムは48回払いが基本となっているが、2年後に本体を回収することを前提に、月々の支払いの負担を下げるという仕組みがベースとなっている。

 この2年後に回収する際の金額を高めに設定すれば、それだけ、ユーザーの負担を抑えられる。かつて、この買取価格を各キャリアが自由に決められたため、他社からユーザーを奪うために、常識から外れた金額に設定するというキャリアが現れた。

 そこで、2024年、総務省ではそうしたキャリアを封じ込めようと、2年後の買取価格を、中古買取業者の団体であるRMJ(リユースモバイル・ジャパン)が算出する金額をベースにすると決めた。キャリアはRMJの金額をもとに2年後の買取価格を検討しなければならなくなった。

 しかし、世間に売られているあらゆる機種に対して、年数に応じてどれだけ買取価格が下がっていくか、それらの金額をベースにして、新製品に対して、どれだけの残価を設定するか、といった作業が膨大になっていった。RMJもキャリアもこのルールに縛られ、疲弊していった。

 そもそも、このルールは導入時の段階ですでにキャリア関係者から不満の声が上がっていた。

 RMJは中古端末の買取業者が組織した団体であり、ビジネスモデル上、できるだけ、ユーザーから安価に買い取るというモチベーションが働いている。

 つまり、市場の価値よりも明らかに低い額で端末を評価しているため、その金額をベースに2年後の買取額を算出するとなると、おのずとキャリアは低い額でしか買い取れなくなってしまうのだ。

 また、RMJが扱う端末数は市場全体の1%未満に過ぎない。たった1%未満の台数に対しての評価額で、新製品に対する買取価格を決定するというのは、正しい評価とは言えないという指摘がある。

 さらにRMJが買い取る際にA評価もあればC評価もあるなど、品質が安定しておらず、結果として、金額が下がる傾向にある。

 RMJは年に2回、買取金額のデータを公表しているが、場合によっては7カ月から1年近く前の金額を参考に、キャリアは買取額を決めざるを得なくなってくる。

 昨今、メモリー高騰や円安基調で値上げが続く中、どうしてもタイムラグが発生し、実態にあった金額設定がそもそもできない構造になってしまっている。

 キャリアやメーカー関係者はそもそも「RMJのデータは信頼性に欠けるので参考にはしたくない」というのが本音なのだ。

総務省の新ルールで残価率低下、スマホ「実質値上げ」の懸念

 現在、各キャリアは、端末購入プログラムにおいて、個々の端末ごとに残価率を設定するのではなく、「iPhone」と「すべてのAndroid」といったような分別にして、それぞれ残価率を設定している。もちろん、各キャリアともその残価率は異なっている。

 しかし、総務省では、ルールを厳格化しようと、端末メーカーごと、さらには高価格帯や中価格帯ごとに分けて残価率を設定しようと検討しているようだ。しかも、キャリア間で競争はさせず、業界で残価率を統一するという暴挙も視野に入れているようだ。

 業界関係者が試算したデータを入手したのだが、現状、各キャリアが設定している残価率よりも、明らかに新しいルールでは残価率が下がる傾向が見て取れる。

 この試算によれば、すべてのキャリア、メーカーの端末で残価率が下がるため、結果として、ユーザーの月々の負担額が上がることになるのだ。

 メモリーの高騰、円安基調に加え、総務省が一方的に決めた端末購入プログラムの改悪によって、我々ユーザーはますますスマホを買いにくくなるというわけだ。

複雑怪奇化した端末割引規制、もはや撤廃すべき時期では

 そもそも、これまで何年にもわたって総務省が定めてきた端末割引に対する規制は、何度も手直しを重ねたことで複雑怪奇になってしまい、もはや総務省をはじめ、キャリアやメーカー、販売代理店にとって手に負えないモンスターと化している。

 元はと言えば、端末割引に対して規制を入れたのは「通信料金を下げる」というのが狙いだったはずだ。

 端末割引に多額の資金を投じるならば、その割引原資を元に、シンプルで安価な料金プランを作れ、というのが総務省からキャリアに対するメッセージだったはずだ。

 振り返ってみれば、割引規制など関係なく、2020年ごろ、菅義偉首相による値下げ圧力によって、楽天モバイルが生まれ、NTTドコモ「ahamo」が誕生し、各キャリアから多様な料金プランが出てきた。

 昨今、値上げ基調ではあるが、それでもユーザーの選択肢は増えた。

 端末販売においても、キャリアのみだけではなく、メーカー直販や家電量販店、ECサイトなど、販路は拡大した。

 もはや、総務省が端末販売に対して、割引を規制しつづける意味がどこにあるというのか。

 今年、この議論が始まった際には「複雑化したルールを簡素化しよう」というのが発端だったはずだ。

 いまからでも遅くない。

 中古端末の買取金額から、2年後を予想して残価を設定するなんて無駄なことは辞め、端末割引に関する規制はすべて取っ払い、各キャリアが自由に販売競争をできる世界にすべきではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。