石川温の「スマホ業界 Watch」
AIの進化がスマホからAIを遠ざける? メモリー高騰が招く「端末値上げ」のジレンマ
2026年6月26日 00:00
スマートフォンに値上げの波が訪れてきた。昨今のAIデータセンターに対応する設備投資のあおりを受け、メモリーの争奪戦が起きているのだ。
メーカー関係者は「昨年末ごろからメモリー高騰の兆しが出てきた。打ち合わせをしている間も値段が上がっていった。前モデルに搭載していたメモリーの価格に比べて数倍は上がっている」と打ち明ける。
実際、ここ数カ月、手に取るように価格が上がっている。Xiaomi 17 Ultra、LeitzPhone対抗として期待の高かった「OPPO Find X9 Ultra」は27万4800円と、LeitzPhoneを上回る値付けとなった。
6月11日発売のソニー「Xpeira 1 VIII」(RAM16GB、ROM256GB)はソニーストアで23万5400円となっている。シャープの「AQUOS R11」はチップの違いはあれど、前モデルから5万円ほどの値上げだ。同社では、メモリーの高騰により従来通りのラインナップ展開が難しくなっているようで、ハイエンドとなるProシリーズの年内の発売は見送られた。
シャープの中江優晃通信事業本部長は「外部環境が例年になく大きく変わっている。今までと同じ考え方でproを出すと、お客さまに手に取って使っていただけるのか、という懸念がある。AQUOS R9 proを出したときに感じたが、やはり20万円を超えてくると、1つの大きな差になる」と本音を漏らす。
日本市場の場合、メモリーの高騰に加えて、円安というダブルパンチがメーカーを襲う。特にエントリーモデルの展開が難しくなっており、シャープではミドル以上の比率を現在の4割から7割まで高める方針であると明らかにした。
現在の状況では、AQUOSのエントリーモデルとして人気のあったAQUSO Wishの後継機種も「メモリーの高騰や、中東情勢を含めた原材料費の高騰は、スマートフォンにおいてはローエンドが一番影響を受ける。われわれがスマートフォンで提供する価値は、ハイエンドとミドルレンジを中心としたい。wishは法人で活用いただいているが、どちらかというとRやsenseに注力していくことになる」(中江本部長)という。
ただ、wishシリーズが打ち切りになるというわけではなく、中江本部長は「ユーザーから信頼いただいている価値がある。現在、(後継機種を)検討中なので、しかるべきタイミングでご紹介したい」とした。
シャープがAQUOS Wishの後継機種で悩む中、エントリーモデルを意地で出してきたのがFCNTだ。新製品「arrows We3」は、SIMフリー、RAM 4GB/ROM 64GBモデルで4万2000円程度、RAM 8GB/ROM 128GBモデルで5万6800円程度となっている(いずれもオープン価格)。
かつてのように総務省の割引施策を狙った2万2000円という値付けは流石に難しかったようだ。しかし、NTTドコモでは、他社から顧客を奪う「弾」として2万2000円という金額に無理やりしたようだ。
総務省で割引規制の見直しが議論されたが、結局、MNPの短期解約抑止ばかりが注目を浴び、割引金額が見直されることはなかった。これにより、今まで以上にスマートフォンが買い替えにくくなるのは間違いないし、端末メーカーは苦しい立場に追い込まれることになりそうだ。
値上げ基調はAndroidに限った話ではない。先週、アップルのティム・クックCEOが、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで「残念ながら値上げは避けられない」と語ったという。
クックCEOは「大幅な値上げを最小限に抑えるために最善を尽くし、ユーザーに影響が及ばないよう努めてきたが、もはや限界に来ている」と白旗を上げてしまったようだ。
すでに日本国内でも、家電量販店などでの価格は春頃から上昇傾向にあるという。またキャリアでの販売でも価格改定の動きがあるようだ。
iPhoneは毎年9月に新製品が発表、発売されるが、それを待たずして、既存の製品で価格改定が起きる気配だ。これまで、アップルは円安基調やメモリー高騰の流れがあっても、iPhone 17eで10万円を切る値付けをするなど、かなり踏ん張っていた印象だ。
iPhone 17e発売時、筆者のインタビューに答えてくれたマーケティング担当VPであるカイアン・ドランス氏は「アップルでハードウエア、ソフトウエアだけでなく、Appleシリコンやモデムを開発し、それらを高度に統合している強みは大きい」として、メモリー高騰や円安に強いとしていたが、いよいよそれも限界に達したようだ。
本来ならば、Androidであれば「Gemini Intelligence」、iPhoneなら「Apple Intelligence」といったように今年後半からスマホでAIを活用できるプラットフォームに進化していく。
理想は、メモリーを大量に積んで、快適にAIをブン回せるのが望ましいが、メーカーによってはメモリーを抑えて価格高騰を避けるという戦略をとるところも出始めた。メモリーの容量をセーブすると、結果として、将来的にOSのアップデートができず、商品寿命が短くなるというデメリットも出てくる。
AIを活用するために、プラットフォーマーなどはこぞってデータセンターへの投資を進めているが、結果として、スマートフォン向けのメモリーが高騰し、一般のユーザーがAIを活用できないというジレンマに陥っている。
一般ユーザーがAIを活用できなれば、結果として、AI業界全体が伸び悩むことも予想される中、メモリーの価格が落ち着く目処は立っていないのが、とても残念だ。






