石川温の「スマホ業界 Watch」

ahamoや楽天ユーザーを狙い撃つpovo、新トッピング「1.32TB」の巧妙な戦略

 KDDIのオンライン専用ブランド「povo」が本気を出してきた。ネットワーク品質を改めてアピールし、他社から顧客を奪いに来たのだ。

KDDI Digital Life代表取締役社長の濱田達弥氏

 6月19日から新規登録者を対象に「データ使い放題(24時間)」のプロモコード10回分をプレゼントするキャンペーンを開始する。povoのスタンスとしては「いまの契約はまだやめなくていい。乗り換え不要だから、とりあえず、povoを使ってみて」という感じらしい。

 確かに楽天経済圏の魅力に惹かれて、楽天モバイルを契約している人もいる。親がNTTドコモだから、家族まるごと自分もNTTドコモという若年層もいるだろう。そうした縛られた人たちへの誘い水として「データ使い放題(24時間)」のプロモコード10回分をプレゼントするというわけだ。

 実際、一昔前に比べて、他社回線を試しやすくなっているのは間違いない。2018年にiPhone XSがeSIMに対応して以降、デュアルSIM対応のスマホが増え、複数のSIMカードを入れやすくなった。メイン回線を維持しつつ、サブ回線にも切り替えやすくなった。

ネットワーク品質を武器にするKDDI

 povoがいま商機と捉えているのは、やはり他社のネットワーク品質に対する不満の声が増えているということだろう。

 povoが発表したデータでは「B社」と「C社」と伏せ字になっていたが、満足度や不満の声を見る限り、NTTドコモと楽天モバイルなのは明らかだ。KDDIとB社であるソフトバンクはどちらも満足度が高く「2強2弱」となっている。

 特に楽天モバイルに対しては、KDDIはこれまでローミングを提供してきた間柄だ。しかも、この9月にもローミング契約が打ち切られる可能性が極めて高い。すでに6月に入った段階で、楽天モバイルへのローミングエリアがかなり縮小になっているのを、KDDIのサイトでも確認できる。

 SNS上では6月以降、ネットワーク品質の低下を嘆く楽天モバイルユーザーの投稿が増えており、明らかにローミングエリア縮小の影響が出ているのがわかる。そんな楽天モバイルユーザーのポストを見てみると、結構な割合でpovoをサブ回線にしている人が多い。

 実際のところ、6月以降、povoユーザーが増えたり、トッピングの量が増えるといった追い風は吹いているのだろうか。povoを提供するKDDI Digital Lifeの濱田達弥社長は「SNSに上がっている声の通り、トレンドは我々に向かってきている。(中略)6月は例年、業界的には静かなシーズンだが、povoに関しては成長を続けている」とした。

 濱田社長はC社が楽天モバイルであるとは言っていないが、全体的に好調ではあるようだ。

povoの次なるターゲット

 povoの強みは、利用期間やデータ容量など、多様なトッピングが揃っているという点にあるだろう。

 正直、「どれを選べば得なのか」「長期間のトッピングを使っていたら、後からさらにお得なトッピングが出てきて損した気分になったり」するのだが、それでも、あれこれ選ぶ楽しみがあるのも事実だ。

 そんななか、今回、povoでは「1.32TB、3万9240円(365日間)」というトッピングを始めるとした。1.32TBという、かなり中途半端な設定であるが、1か月あたりにならすと月110GB、3270円相当となる。

 この設定を見た瞬間、「実に巧妙だなぁ」と思わず膝を叩いてしまった。

 110GB相当というのは、明らかにNTTドコモ「ahamo」大盛り、110GBを意識したのだろう。ahamo大盛りは110GBで4950円となっており、料金的な優位性も大きい。ただ、ahamoの場合、1回5分までの無料通話がついてくる。povoで1回5分の無料通話は月550円だ。つまり、3270円+550円で3820円と、これでもpovoのほうが安い。

 1か月あたり3270円という金額設定は、「Rakuten最強プラン」で、20GB以上使ったときの3278円をかなり意識したものと思われる。1か月あたりで110GB以上、使うユーザーであれば楽天モバイルのほうがいいが、そこまで使わないのなら「ネットワーク品質の良いpovoを使ってね」ということだろう。

 もうひとつ、povoでは「月0.5GB、600円」というサブスクトッピングも開始する。これも、NTTドコモがかつて提供していた「irumo 0.5GB 550円」を思い出させる。NTTドコモは「短期解約の温床になっていた」として、irumo 0.5GBを辞めた経緯があったが、povoはあえて、0.5GBを仕込んできた。オンライン専用でコストもさほどかからないという強みを生かしているのかもしれない。

 povoの説明を聞いていて改めて感じるのは「ネットワーク品質が強ければ、経営戦略の自由度が高い」という点に尽きる。

 ライバルを意識した多様なトッピングを展開できるだけでなく、オンライン専用ブランドなので、スピーディにスクラップアンドビルドを繰り返せる。

 9月に楽天モバイルへのKDDIローミングが完全に終了した場合、草刈場を一気にpovoが刈り取っていくのか。9月に向けて顧客獲得争奪戦が盛り上がりを見せそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。