石川温の「スマホ業界 Watch」

新型「iPad Pro」「iPad Air」実機で感じた進化点とeSIM体験が示す未来

 2024年5月15日に発売となる「iPad Pro」並びに「iPad Air」を数日間、試用する機会を得た。

 やはり、最も気になるのが「iPad Pro」だ。これまでディスプレイは液晶だったが、今回から有機ELディスプレイを採用しているのが大きな変化点だ。

 この有機ELディスプレイによって、最も恩恵を受けているが本体サイズだ。

 今回、従来モデルと比べて102gも軽くなり、厚みも1.3mmも薄くなっている。

 実際に持ってみると、その軽さ、薄さに驚く。実は従来モデルとなる「iPad Pro」 129インチモデルを所有しているのだが、これだけ軽くなってくると、正直言って、この進化だけで所有欲をくすぐられるほどだったりする。まさに「薄さ、軽さは正義」だろう。

 この薄型化によって気になるのが本体の堅牢性だ。確かに大画面で薄くなれば「曲がりそう」というのは気になるところ。さすがに実際に曲げるわけにはいかないので、試してはいない。

 しかし、アップルもこのあたりは配慮しているようで、オプションとなるMagic Keyboardが今回からアルミを使っている。従来のMagic Keyboardに比べて堅くなっているため、本体カバーとして、かなり安心感が増したといえる。

 このMagic Keyboard、今回からファンクションキーが並び、トラックパッド部分も大きくなった。ファンクションキーにより、アプリの切り替えや明るさ、音量の調整がしやすくなった。いちいち、画面をタッチする必要がなくなったのはかなり嬉しい。

 使い勝手的には、MacBook ProやAirのキーボードに近づいた。

 実際、キーストロークは短く、打鍵感も物足りないところはある。ただ、これも普段からMacBook ProやMacBook Airを使っているユーザーであれば、あまり違いは感じないのかも知れない。

 新モデルでは、本来であれば明るさが足りない有機ELではあるが、「iPad Pro」では2枚重ねにすることで、輝度を確保するという手法を確立した。有機ELによって「黒が締まった」と期待したが、自分が所有している「iPad Pro」12.9インチと比較しても、結構、互角な見え方であり、有機ELだからととびきり黒が締まっていると言うわけでもなかった感がある。

 ただ、現行モデルが白が強調されるのに対して、新モデルは自然な色合いに近いような感があるなど、発色に関しては多少、違いを感じることができた。

インカメラが横に配置

 新しい「iPad Pro」では、インカメラが横に配置された。ビデオ通話をする際、横長の画面として使うとちょうど真ん中に来るようになったのだ。

 これまでのiPadシリーズはiPhoneと同じ、縦長画面の上部分にインカメラがあったため、本体を倒してビデオ通話をすると、インカメラの位置がズレるという難点があったのだが、これがようやく解消されたわけだ。

 確かに実際に使ってみると、新しい「iPad Pro」のほうが自然だ。アップルとしても、コロナ禍がここまで広がり、ビデオ通話が一般的なツールになるとは数年前は考えもいなかったのだろう。

Apple Pencil Proがもたらす体験

 Apple Pencil Proに関してはペンの回転などを反映することができるようになったため、書いている途中に太くしたり細くしたりといったことができるようになった。ペンを握ることでサブメニューを呼び出せるなど、使い勝手が大幅に向上している。

 かなり、満足度の高い進化なのだが、現行のApple Pencilは新しい「iPad Pro」では本体側面にくっつけても充電に対応しないなど、これまで買ってきた周辺機器が新しい「iPad Pro」では使えない問題は何とかして欲しいところだ。実はMagic Keyboardも、新しい「iPad Pro」を購入すると買い直しが必要なのだ。

 Apple PencilもMacgic Keyboardも結構、良いお値段がするだけに、アップルには今後、周辺機器の持続可能性を検討してもらいたい。

eSIMの転送を試す

 「iPad Pro」はプラスティックSIMカードには対応せず、eSIMしか使えない仕様となっている。

 アメリカではすでにeSIMしか使えないiPhoneが流通しているが、ひょっとすると近いうち、日本でもeSIMしか使えないiPhoneしか販売しないなんてこともあり得そうだ。

 eSIM時代が本格的に搭載するなか、「iPad Pro」のeSIM周りはどうなっているのか。

 アップルから送られてきた「iPad Pro」と「iPad Air」の箱を開け、起動させると、すぐに他のアップルデバイスからデータを転送するかを聞かれる。すでに所有するiPhoneやiPadには「iPadに自分もしくは子供のデータを移すか」というメッセージが出てくるので、ここで自分もしくは子供のアカウントを選択する。

 iCloudにバックアップがあれば、そこからダウンロードする、あるいはデバイスから直接、データを移すことも可能だ。

 セットアップを進めていくと、eSIMをダウンロードする項目が登場した。

 今回、アップルから借りた「iPad Pro」と「iPad Air」には、あらかじめソフトバンクの5Gプランが事前にアクティベートされていたようで、すぐにeSIM情報がダウンロードされて、セルラー通信が利用できるようになった。この際、もちろんQRコードの読み取りといった作業は不要だ。

 どうやらこれは「eSIM Carrier Activation」という仕組みを使ってダウンロードされているようだ。アップルのWebサイトを見ると確かに日本ではau、NTTドコモ、楽天モバイル、ソフトバンクが対応キャリアと記載されている。

 今回、発売される「iPad Pro」と「iPad Air」にはSIMカードスロットがなく、プラスティックのSIMカードは入らない。

 おそらく、店頭でセルラー版を購入したり、あるいはオンラインショップで購入した際も、セットアップを進めていくと、途中でeSIMをダウンロードする流れになるのだろう。

 今回はiPadであったが、将来的にiPhoneもeSIMのみとなれば、このeSIM Carrier Activationを使って、セルラー通信機能を使えるようにすることになりそうだ。

 「iPad Pro」と「iPad Air」でのモバイルデータ通信の設定画面を見ると「新規プランを追加」の項目には「iPad用プランを転送」「新規プランを探す」「QRコードを使用」という3つの項目を選択できる。
「QRコードを使用」は一般的なeSIMを導入する方法だ。項目を選べばカメラが起動する。

「新規プランを探す」も従来からiPadにある項目だ。選択すると日本に居るとau、1GLOBAL、GigSky、ソフトバンク、RedteaGOの通信プランを選べる。ただ、auやソフトバンクはかなり割高なプリペイドプランが設定されており、日本在住のユーザーがあえて、ここを選ぶ必要はなさそうだ。

 安価なサブブランドやMVNOのeSIMを選び、QRコードで読み取った方がいいだろう。

 最初の項目にある「iPad用プランを転送」はすでにiPhoneで提供されている「eSIMクイック転送」と一緒だ。

 借りている「iPad Pro」で起動したところ、自分が持っている「iPad Pro」に入っているKDDIのプラスティックSIMカード、さらに借りている「iPad Air」に入っているソフトバンクのeSIM情報が見られた。

 残念ながら、KDDIのプラスティックSIMカードの情報を転送しようとすると、自分の契約のせいか、KDDIのサイトでエラーが出てしまった。ただ、プラスティックSIMカードは、iPad上でeSIMに切り替えたのち、転送すれば新しい「iPad Pro」に移行できるようだ。

 こうしてみると、アップル製品はiPhoneもiPadもeSIM対応によって、実に乗り換えがスムーズになった感がある。もともと新しいデバイスに乗り換えても、Apple IDとiCloud経由で、アプリや写真、設定情報が簡単に移行できたが、iPhoneに続き、iPadのSIMカードも対応してしまったことに驚きだ。

 各キャリアともiPhoneのeSIM対応に続き、iPadのeSIMクイック転送対応を進めてきていたが、今回、久しぶりにiPadの新製品が出たことで、iPadのeSIMクイック転送デビューする人が増えそうだ。

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクにはデータ使い放題にデータ通信専用の子回線を紐付けることで、数十GBのデータ容量を使えるプランが存在する。

 iPhoneとiPadをまるごと1つのキャリアで契約し、データ通信容量を賢く使うという人が増えていくかも知れない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。