石川温の「スマホ業界 Watch」
「GoogleはAIに本気」、Google I/O取材で確信したこれからのGoogleの強み
2024年5月21日 00:01
2024年5月14日にアメリカ・サンフランシスコ州マウンテンビューで開催されたグーグルの開発者向けイベント「Google I/O 2024」を取材してきた。
基調講演はYouTubeで同時配信されており、日本からでも視聴可能だ。しかし、現地に行くと、グーグルが開発している最新テクノロジーのデモを体験できたり、サービス開発者から説明を受けたり、プレゼンに登壇する幹部も参加するハッピーアワーでビールを組み合わしたり、スンダー・ピチャイCEOを囲んだ質疑応答セッションに参加できたりと、2日間しかないが、かなり濃い取材活動ができる。円安基調で出張費はバカにならないが、毎年、欠かさず取材に行っている貴重なイベントだ。
今回のGoogle I/O、全体的な感想と言えば、やはり「GoogleはAIに本気」というのがよく伝わってきた。これまで基調講演と言えば、AIだけでなく、Androidの次期バージョンについて紹介もあったが、今年はAndrioidもAI関連のみが語られただけだった。Android関連の発表は別日に設定するなど「AIに集中」というメッセージを世間に伝えたいというグーグルの意図が垣間見えた。
世間ではChatGPTのOpenAIが先を行き、Googleが懸命に追いかけているというイメージかも知れない。どっちのAIが賢くて速いかといった競争でもOpenAIのほうが優秀なんて事を言う人もいるぐらいだ。
ただ、将来的に世界にAIを普及させ、イノベーションを起こしていくのは、やっぱりグーグルなのではないか。Google I/Oを取材していてそんな考えが固まってきた。
なぜ、グーグルがAIで世間を席巻できると考えるのか。それは、インドの記者がインド出身のスンダー・ピチャイCEOに対して「AIはインド経済に変革をもたらすことは可能か」という質問に答えたときだった。
ピチャイCEOは「インドはパソコンの普及率において先進国には遠く及ばなかった。固定電話もあまりなかった。しかし、ほとんどの人が携帯電話を持つようになった。もはや、いまではAndroidスマートフォンによって、インドはグーグルのユーザーベースでナンバーワンの国になった。我々グーグルはAndroidスマートフォンにAIツールを提供することに全力を注いでいる。いま、インドからも多くの開発者が参入している。いずれAI時代が本格的に到来する時にはインドが有利な立場になるのではないのか」というのだ。
インターネットは世界に革命をもたらしたが、世界を見ると、光ファイバーが敷設され、コンピューターを持ち、インターネットを楽しめている国と地域なんて限られている。
しかし、安価なAndroidスマートフォンにより、新興国でもインターネットが爆発的に普及した。世界にインターネットを広めたのはグーグルのAndroidスマートフォンといってもいいぐらいだ。
OpenAIはマイクロソフトと組んでいるが、OpenAIが世界に彼らのAIを普及させようとしても、マイクロソフトは基本的にはサービスやソフトの会社であり、Windowsというプラットフォームはパソコンがメインだ。
世界のあらゆるところにAIを普及させるのはOpenAIにはかなり荷が重いのではないか。一方、グーグルはアプリやサービスだけでなく、Androidというスマートフォン向けプラットフォームを手がけている。
ピチャイCEOは「Androidの進化は、とてもエキサイティングだ。信じられないような技術曲線があり、毎年、私たちはより多くのテクノロジーをデバイスに詰め込むことができるようになっている。
これからはGemini FlashとGemini nanoがAndroidにやってくる。スマートフォンにAIが搭載されることで実現する可能性は無限大ではないか」と語る。
AI Overviews(AIによる概要)がもたらすGoogle検索への効果
グーグルが生成系AIに本気で取り組む中で「グーグルのビジネスモデルが崩壊するのではないか」と危惧されていたりする。
これまでのグーグル検索はキーワードから様々なサイトを呼び出し、あちこちページを見まくって、ようやくユーザーが知りたい事にたどり着くというものだった。
何度もページを見ていくうちに、広告も大量に表示されるし、いつしか、広告に目が止まり、広告元のページにいきつくなんてことがある。それこそが、グーグルの収益源だったのだ。
しかし、生成系AIにより、ユーザーが知りたいことにダイレクトにたどり着くようになった。余計なサイトを訪れる必要はなくなり、AIがすべて要約し、広告を排除したスッキリとしたページが1枚、表示されるだけになる。まさにグーグルのビジネスモデルである広告表示がなくなるというわけだ。
しかし、そんな仮説についてグーグルの検索担当Vice PresidentであるLiz Reid氏は「AI Overviewsによって、検索の快適性が向上し、ユーザーはもっと検索し、もっとサイトを見るようになる。そこに広告主が役立つ広告を掲載することでユーザーにさらにリーチしやくするなるのではないか」と語る。
AI Overviewsとはユーザーが検索をかけると、それにまつわるサイトだけでなく、評価の点数や地図など関連情報も含めてAIが要点を上手いことまとめて表示する機能だ。
つまり、AIによって、検索が減るのではなく、整理整頓された情報が羅列されていくので、人はもっと知りたいという探究心が芽生え、検索をさらに続けていくというわけだ。結果として、広告の表示が増えるわけで、グーグルの広告ビジネスが衰退することはないというわけだ。
グーグルの儲けの源泉である広告収入が維持できるのであれば、一般向けのAIによる検索サービスは無料で提供し続けられることだろう。さらにPixelを普及させるためのテレビCMも、広告収入から予算配分され、ますますシェアが上がっていくはずだ。グーグルがAIに本気になっても、いまのビジネスモデルは変わらない、ということになりそうだ。