石川温の「スマホ業界 Watch」
新型「iPad Air」「iPad Pro」がeSIMのみ対応、携帯各社と総務省に求められるこれからの対策
2024年5月9日 00:01
アップルは2024年5月7日、スペシャルイベントをオンラインで配信。iPad ProとiPad Airをロンドンとニューヨークで披露した。
M4チップとタンデムOLEDディスプレイを搭載することで、iPad Proはかなり薄く軽くなった。実際に持ってみると、本当に軽くなっていて驚く。ディスプレイは黒が引き締まり、色鮮やかで写真や動画の視聴には最適なデバイスだと実感できる。
ただ、ケータイWatchの読者的に気になるのがiPad ProとiPad Airにおける「プラスティックSIM」の廃止なのではないだろうか。
今回から、iPad ProとiPad Airのセルラー版ではプラスティックSIMが廃止され、eSIMだけ使えるようになっている。
すでにiPhoneではアメリカで売られているモデルはeSIMのみとなっているが、iPadにもその流れがやってきたことになる。
関係者に話を聞いてみたところ「すでにメジャーなキャリアはeSIM対応が一般的だし、(海外の)マイナーなキャリアでもeSIMの導入が進んでいる」として、iPadでもeSIMオンリーという英断に踏み切ったようだ。
ただ、振り返ってみると、世界の通信業界において、実はアップルほどeSIMの導入に積極的な会社はない。世界におけるeSIMの普及はアップルによる貢献とも言えなくはない。
そもそもアップルは2014年にiPad向けにデータ通信専用の「Apple SIM」を出した。
当時はプラスティックSIMであったが、2016年に発売となった9.7インチiPad Proからはアップル独自の内蔵SIMに対応。iPad Proの画面から世界のキャリアやMVNOの料金プランを購入でき、キャリアショップに行かなくても、セルラーによるデータ通信が利用できるようになっていた。その後、Apple SIMから一般的な仕様のeSIMとなり、利便性は拡大。
まさにiPadのセルラー版と言えば、eSIMの歴史とも言えるのだ。
現在でも、iPadでセルラー通信の項目を開けば、世界で使える通信事業者や日本ではKDDIやソフトバンクとオンラインでeSIM用のデータ通信プランを契約することが可能だ。
今回、アップルがプラスティックSIMからeSIMへの本格移行していくスタンスを示したことで、日本のキャリアやMVNOとしてはeSIM対応に本気で向かいあっていく必要が出てきた。
いまのところ、日本ではiPad ProとiPad AirだけがeSIMしか使えないようになっているが、ひょっとすると今年秋に発売されるであろうiPhoneの新モデルは「eSIMオンリー」なんてことが十分に予想されるからだ。
音声プラン込みのプランだけでなく、データ通信専用プランもeSIMを簡単に発行できるよう、オンライン契約のプロセスを見直していく必要があるだろう。もちろん、4キャリアだけなく、データ通信プランをそれなりに売っているMVNOも同様だ。
ここで厄介なのが、あまりに簡便にeSIMの新規契約や機種変更をできるようにしてしまうと、第三者が本人になりすまし、悪用を前提にeSIMを発行するというトラブルが出てきてしまう恐れがあることだ。
先日も楽天モバイルがeSIMの発行について警告をしたばかりだったりもする。
iPad向けのデータ通信契約であればさほど問題ないかもしれないが、将来的にiPhoneでeSIMしか使えないようになってくれば、より簡便に契約できるようにしなければならない一方で、本人確認なども厳格にしていく必要がある。
一般の人にはそもそも「SIMカード」がどういったものであるか、理解している人は相当、限られている。ましてやQRコードの読み込みや電話やWebサイトでの切り替え作業など、初心者にはハードルの高い手続き行程が待っている。
iPhoneには「eSIMクイック転送」という機能があり、機種変更する際には簡単にeSIM機能を古い機種から新しい機種に転送できる機能が備わっているし、iPadも同様の機能が提供されつつある。
アップル製品を使っているユーザーからすれば簡単で便利な機能ではあるが、Androidとの行き来には対応していないので、アップル製品に上手く囲い込まれる要素でもあったりする。AndroidとiPhoneの間でもeSIMクイック転送をできるよう、総務省は検討すべきではないか。
日本では総務省が、キャリア間の乗り換えを促進させようとeSIMの普及を促進してきた。乗り換えのしやすさをさらに加速させる一方で、eSIMによる犯罪がこれ以上増えないよう、キャリアと総務省は今後、対策を強化していく必要がありそうだ。