石川温の「スマホ業界 Watch」

「iOS 17」新機能で見えたiPhoneの強みとアップルの戦略

 アップルは2023年6月5日(現地時間)、毎年恒例の開発者向けイベント「WWDC23」を開催。今秋正式リリースとなる「iOS 17」の一部を公開した。

 基調講演にて、同社のソフトウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントのクレイグ・フェデレギ氏がiOS 17を説明する際、「日々、人々とのやりとりする上で中心となる3つのアプリ、電話とFaceTime、メッセージの主なアップデートから始めましょう」といった瞬間、個人的には「いよいよアップルもRCSに対応するようになったか」と一瞬、勘違いしてしまった。

 RCSとはSMSの進化版とも言える規格で、世界の通信事業者などがあつまる団体であるGSMAが標準化。世界各国のキャリアやAndroidを手がけるグーグルが積極的に展開している。日本でもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクによる「+メッセージ」もRCSをベースにしているとされている。

 グーグルではアップル・iMessageとやりとりができないため、事あるごとにアップルに対して「RCSに対応してくれ」と声高に叫んでいたのだった。

 今回、アップルが譲歩し、RCSに対応するかと思いきや、「iOS 17」でのメッセージのアップデートはRCSなんか徹底的に無視しまくってした、アップル独自の機能強化がてんこ盛りであった。アップルはRCSなんかに対応する気はさらさらないのだろう。

 アップルではiMessageに関して、たとえば音声で吹き込まれたメッセージに対して、自動的にテキストに起こしてくれる機能を搭載したり、写真や動画などから被写体を切り抜き、スタンプとして送れるようにもしている。

 また、検索機能が強化され、メッセージから探している情報をすばやく見つけられるようにもしている。

電話着信時、自分が相手にどう表示されるか、カスタマイズできる

 電話機能においては、たとえば会議中で電話に出られなかったとき、相手の留守番メッセージがテキストで自動的に書き起こされるので、今すぐ出るべきか、後でかけ直せば良いかもすぐにわかる。

 FaceTimeではビデオによる留守番メッセージも残せるようになった。

 アップルがここまで電話やメッセージ、FaceTimeを強化しているのは、やはり「囲い込みの効果が大きい」という判断が働いているのだろう。

 今回の出張中、現地に駐在している知り合いと話したのだが、「二人の子どもから誕生日プレゼントにiPhoneをせがまれて悩んでいる。自分はPixel 7aで大満足しており、子どもにも勧めたいのだが、iPhoneじゃないと嫌だと頑として言うことを聞いてくれない」とボヤいていたのだった。

 日本でもよく聞く話ではあるが、アメリカの場合、企業や店舗からメッセージはSMSで発信されることがとても多い。「WhatsApp」というメッセージやビデオ通話に使えるアプリもあるのだが、基本的にはSMSでやりとりする傾向が強いようだ。

 その延長線上で、アメリカにいる子どもはiMessageでグループチャットして連絡を取り合うようだ。だからこそ、Pixelでは「仲間はずれ」になってしまうため、絶対にiPhoneでなければならないようだ。

 日本でも「iMessage縛り」があるようだが、それでもLINEというiPhoneとAndroid、どちらでも使えるアプリがあるので、そこまでの縛りはきつくないかもしれない。

 しかし、もうひとつ「AirDrop縛り」も存在するため、やっぱり「iPhoneじゃない」という話になってしまうようだ。

AirDropで注目すべき新機能とは

 その点、アップルではiOS 17においてもAirDrop関連も強化されている。

 たとえば、初めて会う人同士で、iPhoneを向け合うことで、自分の連絡先を相手に送れる「Namedrop」という機能が追加される。iPhoneを向け合う姿は、かつて、ケータイで赤外線通信を使って連絡先を交換しているのと全く同じだ。

 自分の連絡先はあらかじめ顔写真や名前などをデザインしておくことで、連絡先交換に使うだけでなく、電話した相手の着信画面に表示させるといったこともできる。

 AirDropで動画をおくっている途中でiPhone同士が離れてしまっても、インターネット経由で、動画をおくり続けることが可能となる。

 AirDropは、近くに居ればデータ容量を消費することなく、データのやりとりができるというのが、若者にはありがたいのだろう。

 こうした「iMessageとAirDrop縛り」が子どもの間で浸透し、お父さんは子どもにiPhoneを買い与えなくてはいけなくなっているのだ。

 iPhoneデビューしてしまうと、今度はiCloudに写真が溜まっていき、他のプラットフォームに移行しづらくなる。一度、iPhoneを使い始めると離れられなくなってくるのだ。

 今回の「iOS 17」はあらためてiPhoneの強さを示しているように感じた。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。