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基地局の電波でデバイスを充電、6G時代に向けソフトバンクなど実証に成功

 ソフトバンクと金沢工業大学、京都大学の3者はミリ波通信とワイヤレス充電を両立する仕組みの実証実験に世界で初めて成功したと発表した。2030年代ごろの実用化を目指す。

ミリ波で充電

 同取り組みは、Beyond 5G/6Gの時代を見据えて通信と給電を両立させるというもの。ワイヤレス電力伝送(WPT)自体は、すでに他社でも研究が進んでいるがSub6帯によるものが多い。今回3者ではほかの通信への干渉を抑えるべく、比較的通信の利用が少ないミリ波帯での実現を目指している。

 夜間など、非通信時の基地局のリソースを有効活用しつつ、OFDMを崩さずに通信と給電を両立できるというメリットがある。WPTには普及の観点で課題があったが、通信の拡張機能というかたちを目指しており、基地局インフラを活用した広域での社会実装と新産業の創成が期待できるとする。

 電波防護指針に準拠しており、人への影響は低い。また、人体を検出する機能を組み込むことで、WPTをオフにしたりビームを向けないといった工夫で将来的にはもう少し高い電力を給電することもできる見込みがあるという。

基地局で充電

 実証では、ミリ波の通信装置にワイヤレス電力伝送の機能を実装したシステムを開発。通信と電力伝送には同一のアンテナを使用し、ビームフォーミングを活用することで、ミリ波の通信と電力伝送を時間と空間ごとに使い分けられるようにしたという。

 WPTの効率を落とさない特殊なOFDM変調信号を生成しながらも、64QAMをダウンリンク信号として使用し、高速大容量通信に対応。これにより、高速通信と電力伝送を同時に実現した。

 開口面積の広いアンテナと高周波数の電波により、伝搬効率は向上するが、大開口のアンテナは近傍界での効率が著しく低下するという課題があるという。そこで、京都大学が提唱する、近傍界での効率を改善する「フォーカスビームフォーミング」を使った電力伝送を試したところ、近傍界でも高効率を保つこともあわせて確認できた。

 金沢工業大学が開発した受電レクテナへ送電したところ、5mの距離で1つの素子につき100μW(マイクロワット)の受電が確認できた。ソフトバンク 基盤技術研究室 無線電力伝送研究開発課 課長代行の長谷川直輝氏によれば、仮に素子を100個並べたとすると、理論上10mW程度の受電が期待できるとしており、忘れ物タグの「Tile」や「AirTag」などを駆動するには十分という。

2030年ごろの実用化見込む

 「Society 5.0」などリアルと仮想空間の融合やIoT活用の機運が高まるなか、その実現に向けて増加が見込まれる、センシングデバイスやIoTデバイスへの給電問題の対処の必要性が浮き彫りになっている。

 2035年には世界のIoTデバイス数は1兆個、1人につき100個のデバイスを使うことになるといった試算もあり、現状のように家庭で充電しながら利用するといったスタイルは難しくなる。

 ワイヤレス電力伝送は、日本国内においてすでに制度化されているほか、パナソニックと京都大学などが数メートル範囲の屋内で利用できる仕組みを整えつつあるなど、その実現がせまっている。

 今回のミリ波を活用した仕組みは、Beyond 5G/6Gの展開が見込まれる2030年ごろの実用化を目標としており、基地局から10m以下程度の範囲での利用を見込む。当初の展開としてはビジネス利用が想定されており、その後の展開が見込まれるコンシューマー向けのイメージとしては、クレジットカードなどに組み込まれた忘れ物タグを無意識のうちに充電できるようになるといった可能性が紹介された。