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AIで需要を予測して効率的なバスの運行を目指す、ドコモと未来シェア

 NTTドコモと未来シェアは、人工知能(AI)で交通機関の需要を予測し、路線のルートや配車数を決める「AI運行バス」を実現するためのサービスプラットフォームを開発することで合意した。2018年度中の実用化を目指し開発を進めていく。

「AI運行バス」とは

 一般的なバスは、大型の車両に、複数人が乗車し、一定の走行ルートを定期的に走るというものだ。一方、今回両社が開発する「AI運行バス」は、AIがバスのニーズのあるエリアや時間帯、乗車人数をあらかじめ予測しておき、そのニーズにあわせて大小さまざまな車両を配置し、適切な走行ルートを提供するというもの。ドコモと未来シェアでは、“タクシーとバスの両方の長所を組み合わせた乗り物”と説明する。

9日には報道関係者向けにAI運行バスのデモンストレーションが披露された
アプリでバスを呼び出した人が乗り込む

 現時点での使い方としては、ユーザーがスマートフォンアプリでバスを呼び出すと、配車システム側が周辺のバスのうち、最適な車両を選び出して運転手に現地へ向かうよう指示する……という流れ。

 乗る人数によっては、バスは大型ではなく、一般的な乗用車サイズの車両を配置することもある。また既に乗車している人が、目的地へ到着したい時間を設定しておくことで、その到着時間より一定の時間以上遅れそうな場合は、たとえすぐ近くに乗車希望の人がいたとしても対応せず、目的地までの走行を優先する。このとき、システム側では「最小不幸」と名付けられた判断基準で、ユーザーの乗車リクエストに応えるかどうか決める。その詳細は明らかにされていないが、先述した通り、先に乗車している人が求めている到着時刻など“時間”が最小不幸を左右する要素として含まれている。

 乗客が急ぐ場合は、タクシー並の料金になるものの、他の乗客を拾わず、目的地へ最優先して走行するモードも用意される。

配車システムで見たバスの位置。車両の定員とニーズを示す
ユーザーが使うスマホでは乗車位置や乗車人数を入力する

背景にあるのは「少子高齢化」

 両社ではドコモの「リアルタイム移動需要予測」と未来シェアの配車システムを組み合わせ、移動の需要がある場所や時間、乗車人数をAIが予測。最適な時間に、最適なルートをバスが走行できるようなプラットフォームを開発していく――というのが今回、両社が開発に合意し、今後目指していくところだ。

 こうした「AI運行バス」の開発を進める背景に、NTTドコモの法人ビジネス本部長を務める古川浩司常務は、少子高齢化を挙げる。

左から未来シェアの松原氏と中島氏、NTTドコモの古川氏と法人ビジネス本部IoTビジネス部部長の谷直樹氏

 人口のうち、子供が少なくなり、高齢者の占める割合が占める。広く知られる「少子高齢化」はさまざまな分野に影響を与えていくが、「交通」という視点で見ると「運転手のなり手が少なくなる」「自身で運転する機会が減る」という言い方ができる。人手やコストがかけられるのであれば、少子高齢化社会でも、バスやタクシーを街中に配置して、いつでも便利に使える。しかし現実はそこまでの人手も資金もない。

未来シェアが開発した「SAV」

 ドコモが今回タッグを組む未来シェア社は、公立はこだて未来大学初めてのベンチャー企業だ。設立に携わった中島秀之氏は、同大名誉学長であり、なおかつ東京大学特任教授を務め、日本の人工知能研究をリードしてきた人物として知られる。

 2004年、はこだて未来大学へ赴任すると、函館市の公共交通がうまく機能していないという印象を持った中島氏は、タクシーとバスの長所をあわせたような交通機関の自動配車システムの開発を推進。NTTドコモが、携帯電話ユーザーが現実の街で動く状況をもとにはじき出した統計データ(モバイル空間統計)も活用して配車システムを練り上げ、技術的には実現に向けて目処がついた。

 タクシーのように、ユーザーが予約して車両を呼び出すという特徴と、バスのように複数の人が乗車できる(乗り合い)という特徴を組み合わせた車両システムは、SAV(スマートアクセスビークル、サブ)と名付けられた。そこに目を付けたNTTドコモがコンタクトを取り、2016年7月、SAVを専門に手がける企業として未来シェア社が設立、中島氏は会長に就任し、はこだて未来大学副理事長の松原仁氏が代表取締役社長となった。

 中島氏によれば、函館には、現在、200台のバスと700台のタクシー、1万数千台の自家用車が走っている。シミュレーション上は、SAVが3000台あれば、どこに乗車希望の人がいても5分以内にSAVが駆けつけられるという。いわゆるライドシェアサービスのひとつであり、少子高齢化がもたらす自家用車ドライバーの減少と公共交通機関へのニーズの高まりを、SAVベースのシステムであれば吸収できるという目論見だ。

 法制度面では、バスそのままでは運行できないとのことだが、特定のエリア内であれば運行できる「区域運行」という枠組で導入できるのでは、と中島氏。各地にある地域交通協議会と協力することとで、運賃設定や運行ルートも相当自由な裁量が得られそうとの見通しで、そのためには自治体の連携が不可欠と見る。

 現在はスマートフォンアプリからの予約でSAVを呼び出す、という流れが想定されているが、この「オンデマンドバス」なSAVに、ドコモの「リアルタイム移動需要予測」を組み合わせることで、いずれはAIによる需要予測により、予約という手続きすら不要にするのが今回の目標のひとつだ。さらにドコモでは、九州大学などと進める自動運転バスとの組み合わせも視野に入れる。