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人工知能がタクシー需要を予測、ドコモなどが実験

 今、タクシーに乗りたい人はどこにどれくらいいるのか、そのニーズを予測してタクシーが現地へ向かう――人工知能(AI)でタクシー需要をリアルタイムに予測する実験を、NTTドコモ、東京無線協同組合、富士通、富士通テンが実施。その成果を17日、公開した。

30分後の需要を予測

 名付けて「AIタクシー」という本実験は、2016年6月~2017年3月にかけて東京23区、武蔵野市、三鷹市、愛知県で実施されている。NTTドコモの携帯電話の利用状況をもとにした人口統計と、東京無線のタクシー運行データ、気象データ、店舗などの施設情報をもとに、現在から30分後、タクシーがどの程度利用されるか、その需要を予測する。たとえば需要予測に使われるドコモの人口統計は、携帯電話の利用状況から今、どこにどの程度人がいるかわかる。これが予測の精度を高めている。

 需要を予測するため、今回、タクシー4425台のデータでいったん学習を進めた。9月には、予測と、実際にどれだけ乗客を獲得できたか照らし合わせてみると、予測精度は92.9%に到達。そして2016年12月から実フィールドで12台のタクシーを使って検証が進められた。

 需要予測では、地図を500mメッシュで区切り、現地で必要とされるタクシー台数が数字で表わされる。たとえば渋谷などの駅前が他の地区よりダントツに需要が高いという予測が示される。一方、タクシー運転手にとっては、現在地周辺から数分以内のエリアで、ニーズが高い場所がわかれば、そちらに舵を切る、という使い方になる。配車依頼をするアプリとは異なるアプローチで空車の時間帯を減らす効果が見込め、その分、売上アップに繋がる。

フィールド実験の結果

 フィールド実証を行った12月は1年で最も需要が高まる時期。11月と比べると需要はもともと伸びる時期で、東京無線のタクシー運転手全員(1万640人)の平均として、12月は11月よりも4500円、売上が伸びた。

 これが実験参加者(26人)になると、11月→12月の売上を比べると6723円増えていた。つまり全体よりも1.5倍、多く売上を上げた。

 また実験してわかった効果として、新人乗務員の教育ツールとして有効ということ、ベテランであっても知識や経験を補完・補正ができること、長距離の乗客を降ろしたあと戻ってくるような場合、知らないエリアでも乗客を乗せることができたこともあった。

よく見ると皇居内にも需要予測……どうやら過去の実績によるデータのようだ

 実験でたまたまAIタクシーに出会った乗客のなかには、1月の成人式の帰り道だったという人もいた。着物姿で懐かしい友人たちとひとしきり会場でおしゃべりを楽しんだ後の帰り道……というタイミング。しかし、タクシー運転手からすると、成人式の開催日時が事前にわかっていたとしても、参加者はおしゃべりに興じて帰る時間がまちまち。タクシーに乗りたいというニーズがいつ発生するかわかりづらいが、携帯電話の利用状況から人の動きがわかれば、ニーズの高まりをチェックできる。こうした形でタクシーに出会った乗客からは、乗りたかったタイミングで利用できた、と評価されたという。

赤い点線で囲われたエリアは、100mメッシュで特に需要が高いと思われるエリア。矢印は進行方向を示し、この場合、北→南へ進むように現地へ行けば乗客を見つけやすい、ということを示す

2017年度下期に実用化へ

 NTTドコモ法人ビジネス本部IoTビジネス部部長の谷直樹氏は「ドコモでは、IoTのなかでも特に交通分野が重要と考えている」と説明する。

 少子高齢化が進む日本では、交通分野は「運転手不足」→「コスト上昇」→「運行数削減/営業エリア減」→「ユーザー減」→「収益悪化/賃金低下」→「運転手がさらに不足」……という負のループが懸念されている。

 AIタクシーにより、効率的な配車が可能になれば、運行数などで改善が図れる。タクシー会社にとっても空車を減らして収益が改善し、ユーザーにとっても利用しやすい環境となり、ひいては無駄な走行が減ってCO2の削減にも繋がる。

 AIタクシーに用いられているプラットフォームは、富士通が提供する「SPATIOWL」。エリアの分析、遅延予測、交通情報の分析などが可能だという。そして富士通テンはタクシー配車システムを60年もの間、手がけてきた企業。

 今回の実験は12台のタクシーだけ。また需要を予測するものの、それにあわせて供給されるタクシーの台数をどうするか制御する部分がシステムに組み込まれていなかった。今後は、さらに参加するタクシーの台数を増やすほか、あわせて供給側のコントロールについても開発が進められる。タクシー運転手のなかには、カーナビの画面との一体化を求める声もあり、富士通テンと協力して開発していく方針だという。