【Mobile World Congress 2017】

5Gにいたる道筋はどうなる? ドコモ吉澤社長インタビュー

 スペイン・バルセロナで開催されている「Mobile World Congress 2017」では、来たる5G(第5世代)の通信技術に関する動向や、スマートフォンの最新機種などが続々と発表された。今後のトレンドが示される「Mobile World Congress」の会場で、NTTドコモの吉澤和弘社長を直撃取材した。

――昨年の社長就任から約半年近くが経過しましたが、どのような印象をお持ちでしょうか。

吉澤氏
 そうですね。こういう展示会場に来たからというのもありますが、やはり、世の中は次に向かって、どんどん動いているなという印象ですね。5GやAI、IoTなどがクローズアップされている真っ只中で社長になったわけですけど、そういうところから見ると、技術の進化もサービスの進化も待ったなしの状態で、どんどん推し進めていかなければならないですね。

 他のキャリアやOTT(Over The Top)もさることながらですが、我々としてはネットワークやテクノロジーをベースにして、今までにないようなサービスや製品をお客さんに対して提供し続けていかなければならない。

 それから、昨年はタスクフォース(総務省の携帯電話料金や販売施策に関するタスクフォース)があり、販売方法の見直しや料金プランの多様化などの対応を行ないました。ただ、ご指摘をいただいた部分について、十分に応え切れていない部分もあり、これからもそういった部分にも応えていく必要がありますし、料金についてもお客さんに還元していかなければならないですよね。こういう部分には終わりがないので、検討し続けて、いい形でご期待に応えていきたいですね。

――厳しい時期のスタートでしたよね。判断を迷うこともあったのでは?

吉澤氏
 会社として、スタッフが判断に必要な材料だとか、情報をしっかりと揃えてくれ、アイデアも出してくれるので、あまり迷うことはなかったですね。

――日本はオリンピックをターゲットに5Gをスタートさせるなどの動きがあり業界各社の技術もそこをターゲットに動いています。ドコモとしても「Beyond 2020」という形で、いろいろなコンセプトを打ち出されていますが、具体的な内容は?

吉澤氏
 中期戦略で4月の決算会見でお話しする予定なので、あまり詳しいことはお話しできないのですが、2020年に東京でオリンピックがあり、そこへ向けて、いろいろなものをチューニングしているように伝えられています。ただ、オリンピックですべてのことが実現できるわけではありませんし、その先でどんなことができるのかも考えていかなければなりません。なかには今の事業やサービスが進化するものもあるでしょうし、今までは提供しきれなかったものが出てくることも考えられます。

 また、切り口として、個人の生活や働き方に対するモバイルの改革みたいなものもあります。ドコモとしてはこういったいろいろな切り口において、2020年の向こう側の世界を個人や企業のみなさんに対して、「あ、こういったことができるんだ」というものを見せていきたいですね。まあ、春には具体的にイメージできるものをお見せしたいと思いますので、楽しみにお待ちください。

――5Gはドコモにとって、もっとも重要な話題ですが、AIやIoTなど、これまであまり通信会社には関わりがなかったジャンルの話題が増えてきた中で、研究開発にはどのように取り組んでいるのでしょうか?

吉澤氏
 AIやIoTの分野はリソースを配分してきてます。ただ、ドコモがすべてをやるわけではなく、AIをやるにしてもいろいろなパートナーさんを募って、進めていく必要があります。ドコモが持つビッグデータがいろいろあるので、それをパートナー企業が持つビッグデータを組み合わせることで、新しい価値や可能性を生み出していきたいですよね。すべてがドコモのテクノロジーで構成できるわけではありませんからね。たとえば、その一例が先日発表した「AIタクシー」もそのひとつですね(※関連記事)。あのサービスの場合、30分先の需要をAIで予測するのですが、我々が持つ位置情報や人口統計、空間統計といった強みを組み合わせるからこそ、実現できるわけです。

――5G標準化の流れが見えてきました。

吉澤氏
 ちょうどMWCのタイミングで、欧米や日韓のキャリアやベンダーなど、22社が早期策定に同意したという発表がありましたが、5Gを含めたユースケースを含めた技術がかなり見えてきていて、標準化を加速することで、それを現実化できる環境が整ったということにになります。

 あとは周波数をどうするかという課題はありますが、我々もクアルコムなどと協力しながら、いろいろな周波数での試験を重ねて、的確に対応できるように体制を整えています。

 5Gは技術も見えてきていますが、大切なのはお客さんに対して、5Gを使うことで、何ができるのかといったことをイメージできるような体験を早めにお見せする必要がありますよね。かつてのLTEや3Gのときも「そんなに早くして、どうするの?」といったことを言われましたが、実際にネットワークを使いはじめると、「これはいい」とご評価をいただけました。できるだけ体験を前倒しして、お見せしたいと思います。

――4Gまでの課題がハッキリすることで、それを5Gに活かせるということですか?

吉澤氏
 そうですね。我々は4G LTEのネットワークで、1Gbpsの超高速通信を本当に実現しようとしていますが、これも5Gにつながっていくものです。5Gは基本的にネットワークの技術にしても設備にしても4Gの延長線上にあります。

――dTVをはじめ、DAZNなど、動画配信サービスが増えてきています。4Gから5G、そして、その次へと進化していく中で、どこまでモバイルネットワークのキャパシティは拡大できるのでしょうか?

吉澤氏
 なかなか難しい質問ですね。たとえば、みなさんが一斉に4Kのビデオを視聴するというのは、さすがにまだ厳しいと思います。ただ、あまり遮蔽物がないような空間で、高い周波数を使い、みなさんに一斉に動画を配信するといったことを考えられます。5Gで目指しているもののひとつですよね。

――サッカーのスタジアムで、Wi-Fiを使ったサービスを提供していますが、ああいったものが5Gでさらに高度化するというイメージでしょうか?

吉澤氏
 そうですね。どのくらい帯域が取れるかという課題はありますが、たとえば、対応端末を持っている人はスタジアムでゴールシーンをいろいろな角度で見られるといった使い方ができそうです。現在のDAZNでもカメラを何台も持ち込んで中継をしていますが、放送用のカメラだけでなく、スタジアムに360度カメラを設置したり、特定の選手だけを追いかけるカメラを組み合わせ、よりゲームを楽しんでいただけるというのが我々の目指すところです。しかもそこで遅延を最小限に抑えて……としたいところですが、まだなかなか難しいですね。今回のMWCでソニーモバイルから4K対応ディスプレイを搭載した「Xperia XZ Premium」が発表されましたよね。現時点ではあの高画質で全員が楽しむというのは難しいかもしれませんが、スマートフォンでもあそこまで来ているわけですから、将来的に活かせる環境は実現したいですところです。

――海外ではスタジアムでアンライセンスバンドを使った動画配信サービスなどが登場していますが、法的な問題も含め、日本ではなかなか実現は難しそうです。たとえば、特区などでドコモが取り組むといったことは考えられないでしょうか?

吉澤氏
 アンライセンスバンドというのは今のところ、考えてないですね。やはり、いただいた免許の範囲内で、効率良く、情報を配信する形を目指したいですね。

――今日はありがとうございました。