インタビュー

キーパーソンインタビュー

キーパーソンインタビュー

世に問う製品で継続性のある物作りを目指すNECカシオ

 MEDIASとG'zOneという2つのスマートフォンブランドを展開するNECカシオモバイルコミュニケーションズ。それぞれのブランドや技術を持ち寄る形で事業の強化を図り、国内の激しい携帯電話開発競争を生き抜いてきた。

 しかしながら、スマートフォン時代全盛を迎え、海外メーカーの攻勢の一方で、NECカシオをはじめ国内メーカーは厳しい局面に立たされている。ドコモの春モデルとして幅広い層に向けたMEDIAS X N-04Eと、先進ユーザー向けともいえる2画面のMEDIAS W N-05Eを発表した同社は、どのようにこの状況から脱却し商機を見いだしていくのか。MEDIAS Wが生まれた背景も含め、代表取締役 執行役員社長の田村義晴氏にお話を伺った。

NECカシオモバイルコミュニケーションズ 代表取締役 執行役員社長 田村義晴氏

“Zプロジェクト”から花開いたMEDIAS W N-05E

――現在の国内外のスマートフォンのトレンドを御社としてはどのように受け止めていますか。

田村氏
 全体としてはスマートフォンへの流れが加速し続けていると思いますが、いくつかのクラスターに分かれてきたのではないかと思います。

 iPhoneを除けば、国内においては、とにかく大きな画面で、という“大画面の端末”と、携帯性にフォーカスした“コンパクトな端末”の2極化、というほどじゃないのかもしれませんが、大きくはその2つに分かれてきたように感じます。グローバルにおいては、さらにもう1つ、“安価な端末”というのが加わるでしょう。日本ではそういう傾向はまだ見えていませんが。

――そんな中、2画面のMEDIAS W N-05Eと普及モデル的なMEDIAS X N-04Eを発表しました。

田村氏
 先ほど言ったように、画面が大きいものと、少しコンパクトなものという傾向があるにしても、販売店に並べるとどうしても画一的で、スマートフォンってどれも同じに見えるよね、というところがあります。だから、もうちょっと違ったものを出せないかと業界のみんなが考えていると思うんです。MEDIAS Wはそういう思いを少し先行して出したわけです。

 片手で操作することの多い携帯電話は、本来はコンパクトな方が携帯性にしても操作性にしてもいいはずですが、画面は大きい方が見やすくていいという人も多い。でも、5インチ、5.5インチ、6インチ……としていくと、タブレットとどこが境界になるの?、となってしまう。

 それに対してMEDIAS Wは、普通に使うときは幅を狭くコンパクトにしておいて、両手を使ってもいいから大きく見たいというときには広げられるようにした。これも一つの解だと思うんですよね。我々としてもお客さまが欲しているのなら5インチ、6インチを出すのはやぶさかではないのですが、その流れがどこまで行っちゃうの、という思いもあり、1つ、こういう折りたたみ型のものを出してみようと考えました。

――Mobile World Congress 2012でMEDIAS Wのベースとなる2画面端末のモックアップが展示されました。その後本当に発表されて、業界関係者でも驚いた方が少なくなかったと思います。

田村氏
 そこまでに至るには背景がありまして。前任の社長である山崎が設立時に「何かびっくりするものを2年後に出したい」と表明していました。明確にMEDIAS Wみたいなものを出そうと考えていたわけではないのですが、他社から数々のスマートフォンが出てきている中で、我々はどういったことをやれば差別化できるだろうか、ということを考え、商品企画だけでなく、社内の体制や仕組みを変えるところまで風呂敷を広げて、“Zプロジェクト”という社内プロジェクトを立ち上げたのです。

 その中のサブセットとして、商品としてどういうものであればインパクトがあるのか、と考えたときに、2画面というのが出てきました。実は、旧NECも、旧カシオ日立モバイルコミュニケーションズも、NECカシオとして一緒になる前から似たようなことを考えていたことがわかって、担当者が集まったら「なんだ、同じことを考えていたんだ」となりました。

 そうして、2010年から2011年にかけて2画面のプロジェクトを進めたのですが、現行のスマートフォンとの差が大きいので、作ればすぐ売れるという確信を持てなかったんです。とりあえず、アドバルーンをあげてみよう、という気持ちで、海外のキャリアにこういう製品はどうですかと提案していたら、そこそこ面白いと言っていただき、MWC2012にモックアップを発表しました。そこでもさらに反応が良くて、じゃあモックアップだけでは誰も信じてくれないから作ろうよ、となりました(笑)。

 試作品ができたのが2012年の夏前くらい。動くものを実際に見せたら、海外のキャリアさんからもポジティブな話をいただいて、今も商談が続いているところもあります。結果的に一番最初に発売するのがお付き合いの長いドコモ様からということになりましたが。

――幅広いユーザー層にはMEDIAS X、尖ったユーザー向けにはMEDIAS WやG'zOneというようなすみ分けになっていると感じます。

田村氏
 MEDIAS WやG'zOneのような端末に真っ先に飛びつくのは先進ユーザーかもしれませんが、実はMEDIAS Wは意外と使いやすいんですよ。みんなが使って操作感を体験してもらい、ユーザー同士で教え合うくらいになれば、購入時の心理的なハードルは下がると思います。iPhoneだって、最初は「これって何?」みたいな世界から始まったと思います。みんなが使い始めて、どういうところがいいのか、どうやって使うのかというのを教え合ったことで広がってきたわけですから。

 MEDIAS Wは、閉じている状態では極めて普通のスマートフォンで、開いて2画面にするとタブレットのように使えます。2つWebブラウザーを開いたりとか、片方の画面をキーボードにしたりといった2画面を別々に活用する使い方は、MEDIAS Wならではのものなので、最初は戸惑われるかもしれません。しかし、すぐに慣れていただけると思いますし、ユーザーが増えてくれば自然とユーザー同士が教え合うこともできるだろうと思います。

――田村さんご自身がフィーチャーフォンにおける“折りたたみのN(シリーズの端末)”を生み出したわけですが、その視点からMEDIAS Wをどう見ていますか。

田村氏
 周りの人がどれだけそれを意識してくれたのかわからないですけれど(笑)、MEDIAS Wの根底に“折りたたみのN”があることは事実ですね。

 私が折りたたみ式の携帯電話を最初に開発したとき、携帯電話における2つの矛盾点をまとめ上げるにはどうしたらいいのか悩んでいました。携帯電話は、“携帯”と“電話”という2文字ずつが組み合わさったものです。“電話”であるからには、耳から口元まで届く長さと形状でなければならず、しかし“携帯”というからには可能な限り小さい方がいい。その矛盾を解消するには、とにかくど真ん中で真っ二つに折るのが一番の方法だよね、という非常にシンプルな発想から、折りたたみ型携帯電話というものが生まれたんです。

 スマートフォンも、ポケットなどに入れて持ち運ぶ携帯電話です。ただ、情報端末でもありますから、画面表示は大きい方がいいのも当たり前で、フィーチャーフォンと同じように矛盾がある。スマートフォンにおけるこの矛盾を一気に解決するにも、ど真ん中で二つに折るのがいいのではないかと思います。

 そうしたときの問題が、真ん中に必ずパーティションができてしまうことです。これを小さくする方法として、ヒンジを裏側に設ける「バックフォールド」形状にしました。液晶画面が狭額縁になるほど2つの画面が近づいて見えるというわけで、企画や技術など関係者らがこだわって作った部分ですね。

――全部入りの端末が多い中、MEDIAS Wは2画面ではありますが機能を絞り込んでいます。

田村氏
 もともと海外にも通用するユニークな端末を作れないか、という考えでMEDIAS Wを開発し始めたところもあって、FeliCaやワンセグなどのいわゆる日本仕様の機能は入れていません。携帯性と大画面を両立するために2つ折りにし、できるだけ薄く作りたかったので、全部入りは難しく、今回は割り切ろうということになりました。

 ただ、カメラはそんなに割り切れないよね、ということで、最新ではないけれど画像を画面で見たり、ネットに載せる分には十分な800万画素にしました。液晶は狭額縁のものを使い、バッテリーは設計当時としてはそこそこ大きい2100mAhにするなど、重要なところは手を抜かずに、この際なくてもいいと思える部分は思い切って省いています。

 今回はそういった割り切りもあるんですが、次の進化版があるとするなら、防水にして、クアッドコアのCPUにして、最低でもワンセグを搭載するということになるんだろうと思います。

“多少いい”商品ではなく、継続性のある商品企画を

――アップルやサムスンなど勢いのある競合に対して、国内市場で戦っていく上で重要なことはなんでしょうか。

田村氏
 当たり前のことかもしれませんが、トータルとしての商品力に尽きるんじゃないかと思います。スペックもそうだし、デザインもそうだし、あるいはユーザーエクスペリエンスというのもある。そういうものがスマートフォンで“何ができるか”ということに結びつかなければなりません。

 “多少いい”程度の商品であれば、たしかにそこそこ売れるかもしれませんが、2年、3年と事業として継続性をもって関わっていける商品企画をしていく必要があると考えています。MEDIAS Wはそういうものを目指した中で出てきた商品です。

――MEDIAS Wのような新しい提案を今後も継続的に考えていく、ということでしょうか。

田村氏
 いい例がG'zOneでして、他社に比較するものがない商品で、半年、1年でスペックなどを向上させつつ時代に合ったデバイス・機能を盛り込み、しかし、G'zOneのブランドの芯の部分は変えずに進化させることができました。MEDIAS Wでもそういうことができればいいなと思っています。我々としてはこれを進化させて、G'zOneのようなシンボリックなものにしていきたいですね。

――他社との差別化や、NECカシオでしかできないこと、というのが重要になると。

田村氏
 そうですね。でも、いくらいいものを作ったところで、端末の価格が10万円もしていたら、キャリアが料金施策で割安に見せてくれたとしても厳しい。ある程度数が売れるレンジまでコストは抑えなければなりません。当然、品質などベーシックな部分も満たしていないと、いくら格好良くても落としたら壊れてしまう、というのでは意味がない。そういう点をしっかり満たした上で、新しいものを持続的に提示していきたいですね。

――このMEDIAS Wはどれくらいのペースで新モデルをリリースすることになりそうでしょうか。

田村氏
 今回のモデルの受けがよければ、1年に1回くらいは進化させたいと思っています。これが売れなかったら結局“多少いいもの”に抑えて作るのかというと、そうではありません。やっぱり新しいものを生み出すような活動は続けるべきと考えていて、他にも検討はしています。

――TizenやFirefox OSといった新しいOSが出てくる兆しがあります。そういった新しいプラットフォームやオリジナルOSへの移行があり得るのかどうか、教えていただけますか。

田村氏
 今の我々の立場としては、体力的に、新たなOS開発プロジェクトを立ち上げて自ら旗を振ることは難しいですから、やはり既存のプラットフォームを採用することになるでしょう。卵をかえすような役ができないのは内心忸怩たる思いがありますが。

 ただ、ユーザー数が見込めるということは重要で今のいろいろな状況を見ながら、一番ユーザー数が多く見込め、さらにビジネスパートナーの意向に合わせてプラットフォーム選択していくことになります。簡単に言えば「商売になるんだったらやりますよ」というスタンスですが(笑)。

 Tizenの場合はアソシエーションのボードメンバーになっていることもあり、情報も常に仕入れて、開発の一端に関わっていますので、注目しています。とはいえ、2013年度はTizenはまだ爆発的には普及はしないのかなと見ています。普及するとしても2014年度からではないかと思います。

――メキシコなどで海外展開も進めていますが、最近の円安傾向の事業への影響についてはどう見ていますか。

田村氏
 海外の事業規模が大きければかなりプラスになるのかもしれないでしょうけれど、海外から部品を輸入している部分もあるので、プラス・マイナス両方あるんですよね。円安は我々にはそんなに大きな影響はないと言えます。

 それでも、海外における価格競争力の面では、従来よりは有利になりそうです。ドルに直したり、逆に円に直したりといったときに、今まではいくらなんでもこれではどうにもならない、というのが少し緩和された感じがします。

――スマートフォンもありますが、フィーチャーフォンについても今後も開発を継続していくのでしょうか。

田村氏
 もちろんです。たしかに利幅は薄くなりましたが、事業計画を立てやすいというところはあって、その中で利益を出していける限りは続けていきます。今でも生産数量で言えばかなり大きいんです。どの機種でも一定の販売数を見込めるという安定感は底堅いところがあります。ちなみに、海外ではG'zOneシリーズのフィーチャーフォンが相当の販売規模になっていますし、そういう財産も大切にしていきたいですね。

新しいユーザーインターフェースが次の端末で明らかに

――スマートフォンのハードウェア面では、全部入りなどの多機能・高性能を競い、少し前にはキャラとのコラボモデルが出て、今度はMEDIAS Wのように形状を工夫したもの、というようにトレンドの移り替わりがあるように感じています。それに対して、ソフトウェアの方はどうなっていくでしょうか。

田村氏
 ソフトウェアについて言えば、大なり小なり、スマートフォンのユーザーインターフェースはアップルがだいたいの流れを作ってきたのだと考えています。ただ、ゼロベースで考え直した場合に、本当にそれが一番いいのか? とは思います。ある形のデバイスにしたとき、どういうユーザーインターフェースにするのが最適なのか、実は今、集中的に検討しています。

 もうひな形は実際にできあがっていて、一度にその全てを商品に盛り込むのは難しいのですが、次に発表する端末からはその一端を採用してどんどん進化させていこうと思っています。次の端末限定というわけではなく、進化させつつ新しい端末で引き継いでいきます。

――それはAndroidというプラットフォームの中ででしょうか?

田村氏
 コンセプトの話なので、たとえばTizenの中でもできるでしょう。電源を入れた時のロック画面、その後の第1階層や第2階層の画面がどうなっているのが一番使いやすいのか、という考え方の部分なので、どんなプラットフォームであってもかまいません。もちろん次の端末で出すのはAndroidになりますが。

――最後に読者にメッセージを一言お願いします。

田村氏
 海外では“Me too商品”と呼ばれる模倣品とか二番煎じの端末があり、ちょっとでも安くとか、ほんの少しスペックで勝っている、というような基準で開発され、売られていたりします。そういう世界も必要だとは思いますが、やっぱりそれでは将来的な展望が開けないわけです。

 iPhoneが、世に初めて出てからまだ5年余り、BlackBerryがヒットするまでにも数年かかっています。彼らと同じように、我々も世に問うような製品を出さないといけない。そこのところは忘れずに、“Me too”ではない「これってどうなのよ」と言われるような製品を作っていきたい。MEDIAS Wに限らず、こういった特徴のある端末を世に問うという姿勢は今後も1年周期くらいで続けていきますので、注目してください。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史