インタビュー

キーパーソンインタビュー

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エイベックス村本氏に聞く、動画サービスのプラットフォーム戦略

 NTTドコモの端末で利用できる「dビデオ」(旧称VIDEOストア)、ソフトバンクモバイルの端末で利用できる「UULA」、これらの動画サービスはどちらもエイベックス・エンタテインメントやその子会社と、各キャリアが合弁会社を設立しサービスを提供している。音楽事業で有名なエイベックスグループだが、モバイル向けサービスでは映像コンテンツ、そしてプラットフォームとしてのサービスの提供に注力している。

 今回、ドコモとエイベックスの合弁会社であるエイベックス通信放送の、事業戦略室 室長の村本理恵子氏に、動画サービスの戦略について聞いた。村本氏は兼務する仕事の中で「UULA」も担当しているため、インタビュー後半では「UULA」の内容についても聞いている。

エイベックス通信放送の村本理恵子氏

――エイベックスの手がける動画サービスですが、まず、これまでの経緯や背景を教えてください。

 エイベックスそのものは音楽の会社ですが、総合エンタテインメントカンパニーとして、まず映像事業をスタートさせました。当初は映画の配信が中心でしたが、我々は新参者でしたから、そこで活躍できるかというと難しく、単にコンテンツをヒットさせられるかどうかでしかありませんでした。

 その後、社内で映像事業の方向性を検討し、我々はプラットフォーマー(プラットフォームの提供者)の立場を取りたい、つまり映画館に代わるような、そういった場所を作れないか、と考えたのが始まりです。そしてその場所はどこかと検討し、モバイルだと。

 これが2007年末で、モバイルで動画の配信という新しい市場を作り出したい、そのトップランナーになりたいという目標が生まれました。この頃は「ケータイ小説」が生まれて、流行していたのも参考になりました。

 一方で、当時はケータイ向けに、人気の映画を配信することはあり得ませんでしたし、技術的な制約もあり、せいぜい10分程度の映像が限界でした。そこで、オリジナル作品で、テレビで普通に放送されているクオリティのコンテンツを配信する、というコンセプトでスタートしたのが(ドコモとエイベックス・エンタテインメントの合弁会社が運営する)「BeeTV」です。

 名称にあえて“TV”と付けたのは、テレビでは普通に見られるようなドラマなどが、ケータイ向けだけに作られている、というコンセプトからです。これが新しさであり、ケータイ動画のクオリティを一気に上げていく、そういう意気込みでスタートしました。この「BeeTV」がスタートしたのが2009年の5月です。

 「BeeTV」はサービス開始の初月で33万人が入会するなど、当時の動画サービスとしては圧倒的に多数のユーザーを獲得できました。モバイルで動画を見るということはどういうことなのか、どういうスタイルで見るのか、それらを徹底的に研究したひとつの成果だったと思います。

 そうした中、2010年にスマートフォンやiPhoneが普及してきました。私達が目指すデバイスや通信環境が揃いそうだと見えてきました。そこで2011年3月には「BeeTV」をスマートフォンに対応させました。

 一方で、この年には「VIDEOストア」、つまり今の「dビデオ」に連なる構想が始まりました。それは、オリジナルコンテンツだけでなく、洋画、邦画、海外ドラマ、韓国ドラマなどを含めた豊富な二次コンテンツ(映画やテレビなどほかのメディア向けに制作されたコンテンツ)を見放題で実現しようという構想です。本格的に立ち上がったのは2011年の2月で、11月にはドコモと「dマーケット VIDEOストア」としてスタートすることになりました。

 一貫して言えるのは、モバイルデバイスの中で動画を楽しんでもらう、という点に徹してきたということです。

――ユーザー層はどうなっているのでしょうか。

 中心は20~40代で、極端に若いということはありません。スマートフォンでは男女比が半分ずつで、そういう意味で比較的女性が多いと言えます。

――フィーチャーフォンとスマートフォンで利用動向に違いがあるのでしょうか。

 基本的には変わりはありませんが、スマートフォンでは視聴時間が長くなるなどの傾向があります。また、平日は短尺、週末は長尺といったように、ユーザーの中で使い分けられている印象はありますね。ほかにもミュージックビデオが充実していますし、カラオケも使えたりと、いろいろな場面で利用されています。

――これまでの、ドコモと共同の「dビデオ」に加えて、ソフトバンクと共同で「UULA」もスタートします。キャリアとの関係は今後どうされるのでしょうか。

 もちろん良好な関係です。ドコモさんとは今後も良い関係ですし、新たなパートナーであるソフトバンクさんとも“ガッチリとやっていきましょう”ということです。特別にどこかのキャリアを選ぶ、ということではありません。

――話題は少し戻りますが、動画サービスの提供にあたって、なぜモバイルにフォーカスしようと考えたのでしょうか。

 自分の日常生活を見ても分かりますが、一番持っているのはケータイです。これは2007年当時から変わらないと思います。一番身近で、体の一部と化している。生活時間のあらゆる接点で一番そばにあるのがモバイルです。

 モニター(画面)として、距離感という点でも、パーソナルで一番近いところにある。サービスを提供するにあたって、一番身近にあって、常に肌身離さずあるものの中でエンタテインメントのサービスを展開したいと考えました。

 テレビでヒットした作品が映画になる、ではモバイルでヒットした作品が映画になってもいいじゃないか、そういう意気込みもありました。

ドコモの「dtab」

――スマートフォンやモバイルの方向性での発展は続いていますが、一方でドコモさんは春モデルの発表会で、「dtab」「dstick」などホームネットワークでの使い勝手を向上させる展開も打ち出しました。こうした流れをどう見ていますか?

 もともと、そうしたいと考えていました。いつでも、見たい時に、見たいスタイルで、というのがユーザーのニーズという気がしていますし、例えば電車の中ではスマートフォン、家に帰れば大きな画面で、あるいは自分の部屋ではパソコンで続きを見たい。あるいは、家で見ていた続きをスマートフォンで見る。そういった、今までできなかった使い方でできるようになるのは、当然のことだと思います。

――通信業界の観点では、通信トラフィックが増大している問題があり、サービスによって動画はWi-Fiで、というケースも少なくありません。こうした環境が制約になることはありますか?

 あまり制約になるとは考えていません。我々は画質を3種類用意していますし、3Gの通信でも耐えうる容量のものもあります。元々フィーチャーフォンで提供していたので、今の通信環境は夢みたいな部分もあります。今までパソコン向けやテレビ放送で提供していた人たちには制約に感じる部分はあるでしょうが、我々はモバイルからスタートしているので、すごく良くなったという印象です。もっといい画質ならWi-Fiで、というように、ユーザーにとっての選択肢が広がったと考えています。

――動画というジャンルでは、例えば海外のHuluなどが日本市場に参入していますが、新たなライバルの出現についてどう捉えていますか?

 市場が広がるので、いいと思います。“当たり前化”していかないと、1社だけで頑張っていても一般化していきませんから。ライバルが現れたということは、そこに市場があると皆が思うようになってきた、ということですから。そういう意味では前向きに捉えています。その中でいかに勝つかということです。

――ライバルに対する御社の強みはどこでしょうか?

 ほかよりも早く始めてやってきたという点は、さまざまな意味でノウハウが蓄積されているという意味でも、強みだと思っています。キャリアとの強い連携も強みかと思います。オリジナル作品を制作できるという点もあります。あとは音楽が充実している点で、映画だけではないサービスになっています。

――この分野での海外進出、プラットフォームとしての海外展開は考えていますか?

 視野に入っています。

――もし進出するなら、最初はアジアですか?

 そうですね。やるとなったらまずアジアでしょう。すでに我々は(国内で)一定数の会員を抱えていますし、逆にアジアのコンテンツホルダーも我々に提供しやすいと思います。(進出先の市場で)いかにいいコンテンツを集められるかが大きなポイントになるでしょう。どういう形で、どういうパートナーと組むかも重要になります。そのあたりは慎重に考えています。

 例えば日本のユーザーでも、ベトナムのテレビ番組が気になるかもしれません。各国には面白いコンテンツがあるので、そういうものが体験できる場を作っていきたいですね。

――スマートフォンの普及とともにソーシャルネットワークサービス(SNS)も重要になっていますが、SNSへの取り組みはいかがですか?

 もちろん、Facebookなどで公式ページを設けたり、連携したり、積極的にやっていきたいと考えています。

 「UULA」では、そうした連携部分もかなり意識して、仕組みを用意しています。

――「dビデオ」はこれまでの取り組みをリニューアルする形ですが、エイベックスとしては今回の刷新をどう活かすのでしょうか。

 リブランディング(ブランドの再構築)でしょうか。旧称の「VIDEOストア」は一般名称に近く、正直に言うとブランドとして弱い部分があったと思います。「dビデオ」という形でリブランディングを行い、2月末からはかなり大規模な宣伝も展開します。これからもっと認知度を上げていきたいですね。

「UULA」の展開について

「UULA」

――「UULA」については当初の発表より開始時期が延期されましたが、難しかった点はどこでしょうか。

 ユーザーによって使いやすいものを作ろうというのは我々にとって重要な部分で、商品として自信を持って提供できる、というところまで到達できなければいけませんから。

 また、iPhoneが対象になるので、Appleの審査など、こちら側の都合だけでは進まないという要素もあります。

――「dビデオ」「UULA」という2つのサービスで、大きな違いはありますか?

 ひとつ大きな違いは、「UULA」では音楽と映画を大きな柱に据えています。「dビデオ」は、映画、テレビ、「BeeTV」オリジナル、音楽の4つの柱で、音楽は4つの中の1つです。「UULA」は音楽を比較的大きな柱としているのが大きな違いです。

――「UULA」の音楽では、エイベックス以外も扱われるのでしょうか。

 当初はミュージックビデオやライヴビデオなどが中心ですが、もちろんエイベックス以外もあります。

――そうすると、コンテンツプロバイダーというよりプラットフォーマーとして展開されるわけですね。

 我々は自分たちを既にプラットフォーマーだと思っているので、自社のものに偏ってオススメはしないですし、プラットフォーマーとして、良いコンテンツはどんどん取り入れていきたいというスタンスです。

 「UULA」については、これからどれだけ成長できるかにもかかっているでしょう。“場”になってくれれば、コンテンツプロバイダーにとっても配信したいとか、その中でシェアを取りたいという動きが出てくると思います。

 すでに「BeeTV」のミュージックビデオでは各社のものが配信されていますし、エイベックスだけという意識は全くありません。

――「dビデオ」はアニメーションも存在感がありますが、「UULA」のラインナップは音楽が中心でしょうか。

 品揃えでいうと、「dビデオ」よりも音楽が多い、という部分が特徴です。ただ映像系も、アニメ、洋画、邦画など、競合に負けないよう、ひと通り揃っています。

――ドコモの「dビデオ」とソフトバンクの「UULA」の両方を利用するユーザーは双方のサービスを連携できるのでしょうか。また将来的に統合することは、あり得ますか?

 キャリアが違うと契約も違うので、今はそれぞれを最大化していくことが重要です。それから先については、デバイスやキャリアの戦略を見ながら、ということになると思います。

――iPhone向けサービスは、Appleの課金システムを使うものについてはau、ソフトバンクと区別せずに利用できますが、これは「UULA」についても同様でしょうか。auのiPhoneで「UULA」が利用できると考えていいのでしょうか?

 それ(Appleの規定)は、我々が制限できない部分ですね。

――「dビデオ」と「UULA」は競合するサービスに見受けられますが。

 切磋琢磨できるよう、そうしています。社内でも部署間の壁はしっかりとさせ、分けています。宣伝担当も別々ですし、同じチームが担当している訳ではないので、いろいろな部分を分けています。会社として両方を手がけることのメリットもあると思います。そういう意味では、競合をあえて作ったという考えが正しいかもしれません。

――ソフトバンクの孫社長は、端末の開発ひとつひとつに細かなオーダーを出すと言われていますが、「UULA」についても具体的な指示や戦略はあったのでしょうか。

 “エンタメのプラットフォームを作りましょう”というのが孫社長と松浦(エイベックス・グループ・ホールディングス代表取締役社長CEO)のスタートですから、ようやく実現することができたというのがひとつです。

 もうひとつ言えるのは、映像と音楽という2つのサービスがあったとき、従来なら分かれて存在している2つのサービスを行き来できるように、ひとつに繋げるのが「UULA」の新しさということです。「UULA」なら、シームレスに双方を利用できます。

――最後にケータイ Watchの読者に向けてメッセージをお願いします。

 「dビデオ」「UULA」ともに、低価格で良質で、同種のサービスの中では最大限にいい映画、いいドラマ、いい音楽を集められていると思います。“見放題”で楽しめるサービスとして自信をもってオススメできますので、ぜひ使ってみて下さい。

――本日はどうもありがとうございました。

太田 亮三