【Mobile World Congress 2012】
NECカシオ田村社長に聞く、海外展開のポイント


 世界中の携帯電話関連企業が「Mobile World Congress 2012」へ出展する中、日本の企業も多数参加している。NECカシオモバイルコミュニケーションズは、単独ブースでこそないが、親会社であるNECブースにおいて、海外向けの端末を展示し、その存在感をアピールしている。

 今回、Mobile World Congress 2012に出展した狙い、海外にアピールしたいポイントなどについて、会場内でNECカシオモバイルコミュニケーションズ 代表取締役 執行役員社長の田村義晴氏に話を伺った。

――今回は親会社であるNECのブースでNECカシオの端末が展示されていますが、こういった海外展示会に出展する狙いはどこにあるのでしょうか。

NECカシオの田村社長

 最近の海外の顧客(端末納入先となるキャリアなど)には、「やる気度」や「本気度」を評価するところがあります。たとえば「MWCには営業だけ来るけど展示はしない」では、顧客に「本気でやっているの?」と思われてしまうこともあります。そこはちゃんとやる気を見せたい、と考えました。

 そして、フィーチャーフォン(従来型の携帯電話)時代と異なり、スマートフォンでは兄弟モデルを含め、モデルごとの共通性が高くなっています。顧客ごとにプラスアルファの機能を追加搭載するにしても、ベースとなる戦略商品を一般に公開した上で「これが我々の戦略商品ですよ」と見せることにしました。ターゲットは当然、海外の顧客で、いま商談している相手に本気度をお見せするのも重要ですし、商談していないところから、「こういった製品が欲しい」と声がかかれば非常にありがたいことだと考えています。

――このMWCはバルセロナで開催されていますが、世界市場のうち、どのエリアをターゲットとしている、といったことはあるのでしょうか。

 先日、日本で開催した発表会でも説明いたしましたが、NECカシオが重点的に攻めているのは米州、つまり北米、中南米です。1月のCESでは、バックヤードでお客さまに商品を見せることもありました。一方、MWCでは、親会社のNECが毎回ブースを出展してプレゼンスもあったので、NECカシオの商品も表立って見せることができています。

――今回の展示で、特にアピールしたいポイントは?

展示されているグローバルモデル

 先日の発表会でも紹介した、3つのグローバル向けモデルになります。こちらの商品は、「薄型」という従来のNECの強みを活かした商品です。まずは薄型デザインのモデルがありますが、海外では薄型へのニーズが国内ほど強くありません。そこで、薄型化の技術を活かしてバッテリーと画面サイズを大きくしたモデル、薄型を2枚重ね、ちょっと厚めなサイズにおさめた折りたたみ型モデルと、「薄型」というコンピタンスを基本にしつつも、薄型以外の部分で訴求できるものをそろえました。

 あとは、G'zOneシリーズがあります。こちらも、G'zOneっぽくない日常的な感じだけど、G'zOneのタフネス性能を備えるもの、といったモデルも考えています。これら4つのモデルをアピールしています。

 バッテリーを大きくしたモデルと折りたたみ型のモデルで、動作する実機はまだありませんが、設計図はありますので、ニーズがあれば製造できる段階にあります。

――これらのモデルは日本でも販売される可能性はあるのでしょうか?

 私たちは「逆輸入」や「帰国子女」などと言っていますが、ただ単に「グローバルモデルですよ」とお客さまに持っていっても、果たして売れるのか、とも言われています。まずはグローバルで実績を作ってから、(国内へ)提案していくことを考えています。

――NECカシオはすでにLTEでの実績があります。そういったところを海外向けにアピールされるのでしょうか。

コンシューマーよりも業界関係者向け展示会なので、端末展示はケース内。あとは商談ブースで、という形式

 いま動作しているサンプルは、実際には3Gモデルになります。これのLTE版を作って、というお客さまもいらっしゃるので、そこは取り組んでいるところです。動作モデルのない2機種については、最初からLTEで考えています。

 しかしLTEでは考えているのですが、お客さまによってはLTEネットワークの導入が近日、とはいかないところもあります。ここは悩ましいところです。3GとLTEの両方のモデルを作らなくてはいけないのか、LTEモデルは3Gもサポートしているので、LTEでやればいいのか、と。

――おサイフケータイを作り続けてきたこともあり、NFCに対するノウハウもあるかと思いますが、そこは海外展開の強みになるのでしょうか。

 ノウハウはあるのですが、NFCが果たして差別化要素になるかというと、若干の疑問が残ります。Bluetoothみたいなものではないでしょうか。先に手をつけているメーカーが、干渉や伝達距離、エラー訂正などでノウハウを多く蓄積でき、未経験者より若干有利ですが、しかしテクノロジーの1つに過ぎない、とも考えています。

こちらはタイでの導入が決まっているモデル

――NECグループとしてソリューションの提案はされるのでしょうか。

 それはすでにやっています。しかしソリューションの中でこの端末とこのシステムとの組み合わせでしか使えない、ということだと、世界が狭くなってしまいます。「この端末でしか使えない」ではダメです。そういったところを含めて、NFCは経験やノウハウがありますが、決定的な差別化要素にはならないと考えています。

――今冬のモデルでBluetooth 4.0のLow Energy(LE)をサポートされました。そこに対する海外の注目度はどうでしょうか。

 Bluetooth LEはテクノロジーのひとつですが、やっているメーカーとやらないメーカーがあります。NECカシオは、カシオとのパートナーシップがあり、わかりやすい打ち出し方ができるのでやっていきたいと考えています。

――今回はスマートフォンのみの展示になりますが、海外ではスマートフォンでがんばる、ということでしょうか。

先日発表されたばかりのNOTTV対応タブレットN-06Dも展示されていた

 これまでにVerizon向けにはフィーチャーフォンのG'zOneシリーズを提供しており、信頼性のあるブランドです。しかし、いまから新しい市場・お客さまにフィーチャーフォンを提供するほどのリソースを裂くことはできません。価格帯の問題もありますが、よほどの特徴がないと厳しいところです。

――G'zOneシリーズは十分な特徴を持っていると思いますが、たとえばアフリカやインドなどのエリアではタフネスモデルはニーズがあるのではないでしょうか。

 環境的にはあっていますが、それを買っていただけるユーザー層がどのくらいあるかわからないところです。もしかするとNECカシオのマーケティングが足りないだけかもしれません。そういったことを確かめることも、こうしてMWCに来る意義でもあります。我々のマーケティングが届いてないだけで、「北米で出してるG'zOneが欲しい」という人もいるかもしれません。

――Androidの世界ではOSのアップデートがかなり速くなっています。開発サイクル的を短くするのは大変なのでしょうか。

 最初の頃、Froyo(Android 2.2)からGingerbread(Android 2.3)への移行には苦労しました。しかしGingerbreadからIce Cream Sandwith(ICS、Android 4.0)への移行は、あまり問題がありません。Gingerbreadのときは、最初からOSのバージョンアップがあるだろう、と考え、ソフトウェアの作り方を変えたのです。そうすることで、当初考えたほどの重荷にはならないな、と実感しているところです。GingerbreadとICSの間だけなのかもしれませんが、こういったことが2回くらい続けば、慣れてくるだろうと思います。

――スマートフォン自体以外の展示は何かあるのでしょうか。

センサー内蔵のジャケット

 NECのブースとNTTドコモのブースでも展示していますが、センサーなどを追加できるジャケットを展示しています。CEATECで展示したものよりも薄く、普通のスマートフォン用ジャケット並のサイズになっています。これはドコモとの共同開発になります。

 ものとしては、ジャケットと本体のあいだにモジュールカードを差し込むスロットがあり、モジュールカードとスマートフォン本体の間はFeliCaを使った非接触での通信と電源供給を行なっています。気温や湿度、紫外線、口臭や体脂肪計などのモジュールを作っています。

 NECカシオとしては「薄型」が基本のコンピタンスになります。しかしそこだけでは商売としては足りないので、可能性として、こういったジャケットを活用できると思っています。

ジャケットとモジュールが分離できるので、たとえば別の機種向けのジャケットで同じモジュールカードを利用できる

――こちらのジャケットのターゲットはコンシューマーになるのでしょうか? それともビジネスユースでしょうか?

 両方あると思います。口臭チェックはおもしろおかしく使う、というものかもしれませんが、体脂肪計はフィットネスクラブや健康機器メーカーなど、サービスとのタイアップを含めて考えられると思います。単にものを売るだけでなくて、ちょっとビジネスモデルの可能性があるようなところにも展開できればと考えています。

――規格化することでサードパーティの利用、といった可能性もあるのでしょうか。

 我々だけで開発し、ビジネスを組み立てることもよいと思いますが、一定の情報を公開した上で、市場全体で盛り上げてもよいと思います。

――今後のNECカシオのアピールポイントやテーマとは?

 構造改革について、さまざまに報道されていますが、縮こまるための変化ではない、とアピールしたいと考えています。これまで、フィーチャーフォンメインでやっていたところが、急激にスマートフォンがメインになってきました。その変化に合わせて、体つきを変えていこうと、強くなるための取り組みということです。

 たとえば同じプールで行なう競技でも、シンクロナイズドの選手と競泳の選手では、筋肉や脂肪の付き方が違うのではないでしょうか。競技内容によって体つきを変える、ということです。競技が変わったから体を変え、強くなるために脂肪をそぎ落としている、というイメージです。

 そういったところがなかなか伝わりにくいところがあるので、こうしていろいろなものをお見せしたりして、業界にアピールすることが重要だと考え、バルセロナにやって来ました。

――限られたスケジュールの中、本日はありがとうございました。




(白根 雅彦)

2012/2/28 14:33