【Mobile World Congress 2017】

TD-LTEの優位性は「物理法則とビジネスリアリティ」、ソフトバンク孫氏が新技術をアピール

 スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2017(MWC 2017)」にあわせて、さまざまなイベントが開催されている。GTI(Global TDD Initiative)が主催する「GTI Summit」もその1つ。GTIは、TD-LTE方式を推進する団体で、発足時からのメンバーとしてソフトバンクが加盟している。

GTIのイベントに登壇し、TD-LTEの技術を語った孫氏

 TD-LTEの導入に伴い、過去にはGTI主催のイベントでNTTドコモやKDDIも講演を行っている。2月28日(現地時間)には、このGTI Summitに、ソフトバンクグループの代表取締役兼CEOの孫正義氏が登場。

 TD-LTEのメリットをアピールするとともに、この1年の成果を披露した。2月27日(現地時間)に基調講演を行った孫氏は、2日連続での登壇になる(※関連記事)。

 ただし、講演内容は前日から一転、「もっと専門的なTD-LTEのお話をしたい」(孫氏)というように、技術に寄った話が中心となった。

将来の見通しを語った前日の基調講演とは内容をガラリと変え、話題はTD-LTEの新技術で占められた

 孫氏がTD-LTEを推す理由は2つあるという。「1つが物理法則、もう1つがビジネスリアリティ」だ。

 物理法則とは、周波数の利用効率のことを指す。「FDD-LTEは、上りと下りが必要で、TD-LTEの2倍の周波数がいるが、TD-LTEは1つでいい」(孫氏)というのが、それだ。それにも関わらず、FDD-LTEの採用キャリアが多い理由を、孫氏は「音声のネットワークが念頭にあるのではないか」と推測する。

孫氏
「音声は上りと下りに同じだけデータ量が必要になるが、データの世界ではダウンロードが圧倒的に多い。(時間で上下を区切れるTD-LTEは)効率がはるかにいい」

 もう一方のビジネス的な理由については、一言「チャイナモバイル(中国移動)、以上」(孫氏)と語り、会場を沸かせた。中国移動は世界最大のキャリアで、ユーザー数は8億を超える。このユーザー数を背景に、孫氏は故スティーブ・ジョブズ氏に、iPhoneをTD-LTEに対応させることを迫ったというおなじみのエピソードを紹介した。当時孫氏は、「最大のスマートフォンのマーケットは中国とインド。日本は規模は小さいが(ジョブズ氏と孫氏は)友だちだ(から対応してほしい)」とジョブズ氏に語ったという。

 加えて孫氏は、「キャリアの数は少ないが、TD-LTEは人口の大きな国が使っている。ビジネスは、キャリアの数ではなく、ユーザーの数や端末の数に従うべきだ」との持論を展開した。キャリアの数が少ないことは、「1つの部屋で話せばすぐに物事が決まる」(孫氏)のもメリットだという。

昨年のMobile World Congressで行われた会議で、孫氏はHPUEの導入を主張。すぐに合意に至ったという

 その一例として、孫氏は昨年、同イベントで導入を訴えた「HPUE(ハイパワーユーザーエクイップメント)」を紹介。これは孫氏が提案したもので、送信出力を上げ、高い出力の周波数帯の電波をより遠くまで届くようにする規格のこと。孫氏は「我々とクアルコム、アップル、サムスン、ファーウェイ、中国移動、スプリントが1つの席に座り、すぐに決まった」と導入の経緯を語る。同時に、「もし端末メーカーやフィルターメーカーが同意しなければ、『それなら買わない』と言えばすぐに対応する」(孫氏)と述べ、会場の笑いを誘った。

 孫氏によると、HPUEは「正式な手続きが終わった」段階で、スプリントの2.5GHz帯に導入を行う。商用化は、2017年の第1四半期。これによって、「Band 41(2.5GHz帯)のエリアカバレッジが30%上がり、99%、1.9GHz帯と同じになる」(孫氏)。孫氏によると、1.9GHz帯は周波数オークションでの価格が高いのに対し、電波の飛びにくい2.5GHz帯はコストも安い。「カバレッジが1.9GHz帯と同じ程度まで広がれば、価値ももっと上がるだろう」との見通しを語った。端末に関しては、「今年、来年と2年以内にメジャーな端末は、すべてHPUEに対応する」(孫氏)という。

出力を3db上げることで、2.5GHz帯のカバレッジが1.9GHz帯並みに広がるという
HPUEの導入によって、スプリントのエリアが広がる様子を紹介
対応端末も、2017年から2018年に登場する予定だ

 一方、日本では、ソフトバンクが「Massive MIMO」を一部地域で導入した。これを紹介しながら孫氏は、「5Gのキーテクノロジーの1つが、すでに現実のものになっている。これは商用環境の話で、ラボの中のことではない」と力説した。Massive MIMOは、アンテナを128と大幅に増やし、収容量を上げる技術だ。

急拡大するトラフィックに対応する技術として、ソフトバンクは5Gの要素技術を先取りし、「Massive MIMO」を導入した

 この効果を証明するため、孫氏は映像で、その効果を解説した。映像の内容は、混雑地で3キャリア、それぞれ100台ずつの端末を使って同じデータをダウンロードし、そのうち何台がダウンロードに成功するかという実験。結果として、Massive MIMOを導入しているソフトバンクのみ、100台すべてで成功したという結果が披露された。

同条件で実験を行った結果、オレンジのA社が34台、赤いB社が49台なのに対し、ソフトバンクは100台すべてがダウンロードに成功したという

 最後に孫氏は、昨日に続きARMのIoT向けチップセットに言及。「20年以内に1兆個に達する」という話を改めて紹介した。