レビュー
「iPhone 5s」「iPhone 5c」ファーストインプレッション
「iPhone 5s」「iPhone 5c」ファーストインプレッション
正統進化の「iPhone 5s」とカラフル進化の「iPhone 5c」
(2013/9/20 22:48)
9月20日、iPhoneシリーズの最新モデルである「iPhone 5s」と「iPhone 5c」が発売された。今回のiPhoneは2機種同時発売で、新たにNTTドコモからも発売されている。高機能モデルであるiPhone 5sは、事前予約を受け付けなかったため、各店頭ではiPhone恒例の徹夜行列が発生した。これに対し、多くの店舗が通常よりも早い朝8時から営業し、さらに販売スタッフも総動員することで、1日に販売手続きできる台数を増やす“iPhoneシフト”を敷いて迎え撃った。
しかし実際にふたを開けてみると、夕方になっても一部モデルでは当日販売分の在庫が残っている店も多かったようで、「在庫瞬殺」とまではならなかった。当日まで実機が展示がされず、レビュー記事や口コミもまだ広がっていないことから、様子見していた人たちも多いと思われる。
筆者は今回、iPhone 5s(au版)とiPhone 5c(ドコモ版)を購入したので、主に前モデルのiPhone 5と比較しつつ、ファーストインプレッションをお届けする。なお、ソフトウェア面については、別記事としてiOS 7のファーストインプレッションを掲載済みなので、そちらもご参照いただきたい。
iPhone 5の流れを引き継ぐ高機能モデルのiPhone 5s
今回発売される2機種のうち、iPhone 5sはスペックの高いモデルとして位置づけられており、パフォーマンスや機能を重視するユーザー向けのモデルだ。
デザイン的には、iPhone 5とほぼ同じだ。ただし、カラーバリエーションが異なり、iPhone 5では「ブラック&スレート」と「ホワイト&シルバー」だったが、iPhone 5sでは「スペースグレイ」「ゴールド」「シルバー」の3種類となった。同じ黒系でも、iPhone 5の「ブラック&スレート」に比べると、iPhone 5sの「スペースグレイ」は名前の通りグレイに近い色になっている。
外観のデザインは、iPhone 5とiPhone 5sではほぼ変わらない。スペック上の大きさ、重さはまったく同じだ。形状的な違いは、よく見てもわからないレベルで、ジャケットカバーなどの互換性もありそうだ(ただし、新たに買うときは対応機種確認を忘れずに)。大きな違いとして、iPhone 5sでは指紋認証センサーがホームボタンに内蔵されたため、ホームボタンのデザインや形状は変更されている。
スペック面で見ると、指紋認証センサーを新たに搭載したほか、カメラの性能が向上し、CPUが64bit対応の「A7」(アップル製)になって、モーションセンサー処理用プロセッサも追加された。画面は4インチの1136×640ドットと、iPhone 5から変更はない。率直に言ってしまうと、指紋認証以外の部分では、少し触れただけで「新しい!」と感じられる部分はない。
カメラについては、画素数はiPhone 5と同じ800万画素だが、センサーサイズの向上とレンズの明るさの向上で、より暗い場所での撮影に強くなったとされている。また、LEDによる撮影補助照明も、2色のLEDが動的に色調を調整するようになった。一気に写真の体験が向上するわけではないが、堅実な性能向上だ。もっとも、今回撮影した写真サンプルでは違いはわからないレベルで、もっと撮影が難しい場面でないと差はでないかもしれない。
画質以外の面では、高速連写と毎秒120フレームのスローモーションビデオ撮影にも対応している。面白い機能だが、頻繁に使う機能というわけでもない印象だ。ちなみにiPhone 5でもiOS 7にアップデートすることで連写機能が使えるようになるが、iPhone 5sの方がはるかに高速。さらに、iPhone 5sでは連写後、撮った写真が1つのスタックとして扱われ、それらの写真から一番良いと自動的に判断された写真が表示されるようになっている。
5色のカラバリで展開するiPhone 5c
iPhone 5cは、5種類のカラーバリエーションで展開するモデルになっている。用意されるカラーは「ホワイト」「ピンク」「イエロー」「ブルー」「グリーン」の5色。ホワイト以外はかなり鮮やかなカラーが採用されている。
これまでのiPhoneというと、白系と黒系の2色展開までだったが、今回は一気にバリエーションが増えた形となる。初期のiMacやiPodシリーズなど、アップルの過去のカラフルな製品展開のように、綺麗にまとまっている印象を受ける。ちなみに筆者が見聞きした限り、店頭ではグリーンとイエローの人気があったようで、売り切れになるところが多かった印象だ(出荷数が少なかっただけかもしれないが)。
背面と側面は、プラスチックの一体成形パーツで構成されている。このあたりのデザインテイストは、iPhone 3G/3GSとも似ているが、3G/3GSのほどのラウンド感はない。3G/3GSではフロント側に配置していたシルバーのフレームもなく、iPhone 5cは背面パーツとフロントパネルの2パーツ構成になって、前面からは側面パーツの一部が額縁のように見えるようになっている。iPhone 5cはどのカラーでもフロントパネルが黒なのだが、このシンプルな構成により、「黒いフロント」と「ビビッドな背面」の対比が面白い印象になっている。
画面はiPhone 5/5sと同じ4インチ、1136×640ドット。重さはiPhone 3G(133g)とほぼ同じ(132g)だが、iPhone 5/5s(112g)よりは重たい。同時に発売されたiPhone 5sとiPhone 5cを手にして比べてみると、「確かに5cの方が重たいかな」くらいの微妙な差は感じる。
スペック面で見ると、CPUは前モデルであるiPhone 5と同じ「A6」を採用し、カメラもiPhone 5と同等。ストレージ容量も、16GBと32GBのモデルしか用意されず、iPhone 4s以降にあった64GBのモデルは用意されない。
iPhone 5sと比較すると、スペック的に少々物足りなさも感じるが、iPhone 5を1年間使ってきた筆者の感覚から推察すると、ごく普通に使うだけなら、少なくとも今後1年はこのスペックで問題ないとも思われる。ちなみに32GBモデル同士の価格を比較すると、iPhone 5sよりもiPhone 5cの方が1万円程度安い(2年間使った場合)。
iPhone 5s/5cの使い心地は以前と変わらず“iPhoneテイスト”
iPhone 5s/5cともに、スマートフォンの使い勝手にとって最大の要素とも言える画面サイズは、iPhone 5から変わっていない。このため、iPhone 5s/5cの機能や使い勝手は、iOS 7にアップデートした前モデルのiPhone 5とほとんど一緒だ。
iPhone 5s/5cが標準搭載するiOS 7は、それまでのiOS 6とはユーザーインターフェイスが大きく変更されたので、どちらかというとハードウェアの変化より、ソフトウェアの変化の方が大きい。iOS 7については、別の記事で紹介しているので、詳細はそちらをご参照いただきたい。
iPhone 4s以前と比べてみると、画面は縦に長くなっているが、横幅はまったく同じだ。片手で操作していると、画面の上部に若干指が届きにくいと感じるシーンがあるかもしれないが、それほど大きな差にはなっていない印象だ。
画面サイズは4インチと、最近のAndroidスマートフォンに比べると、かなり小ぶりだ。画面が小さい分、映像を全画面表示させたときなどの迫力には劣るが、片手操作にこだわるならば、5インチクラスのスマートフォンより、4インチのiPhoneの方がはるかに使いやすいと感じられる。
iPhone 5sでは指紋を使ってワンタッチ・ロック解除が可能に
今回発売されるiPhoneの最も大きな進化は、iPhone 5sに搭載されている指紋認証センサー「Touch ID」だろう。ホームボタンに内蔵され、ホームボタンを押すと同時に、その指の指紋を識別することができる。このTouch ID、スマートフォンで最も頻繁に行う操作でもあるロック解除の操作時に大きな恩恵を受けることができる。
従来のiOS機器でスリープ状態からロック解除をするときは、まず電源ボタンもしくはホームボタンを押し、表示されたロック解除画面でスワイプ操作をして、初めてホーム画面が表示された。パスコードロックを設定していると、スワイプ操作のあとにパスコードの入力も必要だ。
iPhone 5sでは、指紋認証を設定しておけばスリープ状態でホームボタンを押すだけで、スワイプ操作もパスコード入力も省略でき、すぐにホーム画面が表示される。セキュリティ認証を行っているのに、従来より手順が少なくて済むのだ。
ホームボタンを押した後、指紋が認証されるまでの少しだけ時間がかかる。0.1~0.3秒くらいだろうか。短い時間だが、ほとんどの人が認識できるくらいの時間だ。ホームボタンを押したままにすると、Siri(音声エージェント機能)が立ち上がってしまうので、押した後、指を柔らかくホームボタンに乗せておく必要がある。
指紋認証は、Apple IDと紐付けをして、App StoreやiTunes Storeでのコンテンツ購入時にも利用できる。設定をオンにしておくと、コンテンツ購入時、指をホームボタンの上に置く(押すとホーム画面に戻ってしまう)ことで、Apple IDが認証される。これもなかなか便利だ。
ちなみに、指紋認証を設定する場合、パスコードも設定しておく必要がある。また、指紋認証を設定していても、パスコードでロック解除が行える。今のところ、どうやってもパスコードだけでロック解除が可能なので、指紋認証にするからといって、単純なパスコードの使用は避けた方が良い。「簡単なパスコード」の設定をオフにして、長めのパスワードにしておくのも手だろう。
ここで設定するパスコード/パスワードは、これら端末のセキュリティ設定を変更する際などに用いられるほか、電源を入れ直したときのロック解除時にも必要になる。これらのケースは、指紋だけの認証でロックを解除をすることができない。
他キャリアに比べると当初の機能制限が多いNTTドコモのiPhone
正直に言ってしまうと、ユーザーとして見た場合、今回のiPhoneは、iPhone 5sの指紋認証と、iPhone 5cのデザイン以外、特筆すべき進化はない。しかし端末以外の部分では大きな変化があった。ドコモからも、iPhoneが発売されるようになったことだ。
ソフトバンクやKDDI(au)も、iPhoneを発売した当初、いろいろなサービスがiPhoneで使えず、ユーザーが不便が強いられたことがあったが、今回のドコモでも、発売直後の現在はいろいろなサービスが対応せず、不便な状態となっている。
最大の問題は、スマートフォン向けのドコモのメールサービス「spモードメール」が使えないことだ。ドコモでは10月1日からspモードメールに対応すると案内しているが、それまでの間、「○△□@docomo.ne.jp」のメールをiPhoneで送受信する手段はない。iモードを同時に契約して「iモード.net」(PCのブラウザでiモードメールを送受信するサービス)を利用することも、不可能だという。「○△□@docomo.ne.jp」のメールを多用しているドコモユーザーにとっては、短期間だが、これは致命的な欠点と言えるだろう。
10月1日からは、iPhoneからspモードメール、メッセージR、メッセージSの送受信が可能になると案内されている。ただし当初はプッシュ通知には対応しない。12月上旬にはメールサービスが「ドコモメール」に変わるが、そこでもプッシュ通知に対応せず、プッシュ通知に対応するのは、来年2014年の1月中旬以降になるという。
今回、ドコモショップで手渡された「注意事項」によると、10月1日以降、「ドコモお客様サポート」からプロファイルをダウンロードすることで、spモードメールなどに対応するようになるという。具体的にどのような方法で送受信するかは公開されていないが、iOSに搭載されている「メール」アプリのアカウントの1つとして扱われると思われる。auはこの方法でメール機能を提供している。
そのほか、ドコモの各種コンテンツサービスも現在はiPhoneから利用できないが、順次iPhone対応を進めていくという。ドコモの豊富なコンテンツサービスがiPhoneに対応していけば、これは大きな魅力となりそうだ。
留守番電話機能も、同じiPhoneとはいえキャリアごとに対応が異なっているポイントだ。iPhoneは端末内の簡易留守番電話機能、いわゆる伝言メモがないため、留守番電話を使いたい場合、キャリアが提供する留守番電話サービスを契約する必要がある。
auとソフトバンクは、留守番電話センターに録音されたメッセージをiPhoneに自動転送し、iPhone上でいつでも再生できるようにする「ビジュアルボイスメール」の機能を月額315円で提供している。ソフトバンクは音声ガイダンス式の無料のサービスも利用可能だ。auは、3G契約のiPhone 4sでのみ無料で提供している。
ドコモの場合は、有料の「留守番電話サービス」(月額315円)を利用するしかない。これは音声ガイダンス形式のサービスだ。操作がちょっと面倒なことに加え、メッセージ再生のたびに通話料がかかる。Androidスマートフォンでも、GALAXYシリーズなど、伝言メモ機能を搭載していないモデルは同様の対応だが、国内メーカーのAndroidスマートフォンは、多くが伝言メモ機能を内蔵しているので、それに比べるとちょっとコストがかかるという印象を受けてしまう。
ドコモの留守番電話サービスセンターにメッセージが録音されると、本来は「VM:01」などのSMSが送られてくるのだが、iPhone上では「新着の留守番電話がある」という通知が表示される。その通知をスワイプすることで、留守番電話センターに発信してメッセージを確認できる。
このほか、緊急速報(緊急地震速報と災害・避難情報)については、au版、ソフトバンク版同様に、ドコモ版iPhone 5s/5cでも利用可能だ。ちなみにソフトバンク版では緊急速報について「設定をオンにするとバッテリーのもち時間が短くなる場合があります」と表示しているが、ドコモ版とau版にはそういった記述は出ない。auは緊急速報についてバッテリーを消費しない仕組みで実装していると案内しており、ドコモも同様だと思われる。
ドコモとauは800MHz帯のLTEに対応
au版では、iPhone 5に比べると、iPhone 5s/5cでは新たに800MHz帯、いわゆるプラチナバンドのLTEネットワークに対応した。auはLTEでは800MHz帯に力を入れていたため、これでLTEが使えるエリアが一気に増えるとしている。また、使える帯域が広がったため、さらに高速化も期待できる。なお、iPhoneはauが提供している1.5GHz帯のLTEネットワークには対応しない。
ドコモのiPhone 5s/5cでは、基本となる2.1GHz帯に加え、800MHz帯と1.7GHz帯のLTEにも対応する。しかしドコモでも、1.5GHz帯のLTEネットワークは、iPhoneからは利用できない。
ソフトバンクのiPhone 5s/5cは、引き続きメインである2.1GHz帯と、イー・アクセスが構築した1.7GHz帯の、2種類のLTEネットワークを利用可能だ。現時点ではこの2つだけだが、来春から運用予定の900MHz帯のLTEネットワークも、iPhone 5s/5cで利用可能となる見込みだ。
iPhone 5s/5cのLTEで対応する周波数帯の種類が増えたことにより、エリア拡大などの改善が見られるはずだが、自分が使いたい場所で使えなければ意味がないし、逆に使いたい場所で使えれば、少なくとも普段は、人口カバー率などを気にする必要はない。「ネットワークは水物」と言われることもあるほど、携帯電話のネットワークは、電波に影響を与える環境も含めて、変化が激しい。あまり人口カバー率やプラチナバンドといったキーワードに惑わされることなく、自分にあったキャリアを選ぶようにしよう。
今回のiPhoneは「買い」か?
どのようなユーザーが今回のiPhone 5s/5cを買うべきだろうか。
まずiPhone 4s以前のiPhoneユーザーは、毎月割/月月割が終わっていれば、買い換えを強くおすすめしたい。通信速度、画面、本体の軽さなど、性能や使い心地の進化に感動できるはずだ。
iPhone 5のユーザーにとっては、iPhone 5s/5cは大きなユーザー体験の進化はないように感じられる。そもそも、まだ毎月割/月月割も残っていると思われるので、ここで素直に買い換えてしまうと、コスト負担が大きい。auでは800MHz帯対応で使えるエリアが広くなるなどの影響が大きいので、検討に値するかもしれないが、こうした部分によほど困っていない限りは、我慢のしどころかもしれない。
ドコモのiPhoneの発売を待っていた、という人も少なくないだろう。そういった人は、是非この機会にiPhoneを、と言いたいところだが、iモード/spモードメールへの対応が遅れていることに注意が必要だ。一応の対応が開始される10月1日以降に買うか、来年1月中旬のプッシュ通知対応まで待つか、ここも悩みどころだ。
ほかのフィーチャーフォンユーザーやAndroidユーザーにとってはどうだろうか。まず、おサイフケータイや防水仕様がないことが、注意するべきポイントだ。iPhoneはスマートフォンとして使いやすい部類に入ると言えるので、スマートフォン初心者にもおすすめしやすい製品だと思う。逆に、Androidスマートフォンを使いこなしているならば、あえて使い慣れたOSやアプリを捨ててまで、iPhoneに移行する必要はないだろう。
今回は2つのiPhoneが同時に発売されたので、最新のiPhoneを買うという場合でも、どちらのモデルを買うか、悩めるようになってしまった。
デザインでiPhone 5cを選ぶのも大いにありだと思う。カラーバリエーションなどのデザインにこだわりがなければ、多少の価格差はあるものの、iPhone 5sをおすすめしたい。ただ、それでも、スペックだけでスマートフォンを選ぶのはおすすめできない。すでにWebサイト上での予約も行われているが、なるべく店頭で手に取って、実際のデザインの見た目や、手に持った際の感触をしっかり確かめてから、購入を検討するようにしよう。