俺のケータイ of the Year

iPhone 5s(SIMロックフリー版)

iPhone 5s(SIMロックフリー版)

石川 温編

「iPhone 5s」

 9月20日にiPhone 5sが発売された当初、正直言って「俺のケータイof the Year」に選ぶとは思ってもみなかった。

 iPhone 5sといえば、デザイン的にはiPhone 5を踏襲したものであり、見た目のインパクトはほとんどない。ゴールドが登場して、色の選択肢が増えたくらいだ。確かにTouch IDは便利だが、日本市場からみれば、指紋認証といえばやっぱり富士通だ。もちろん、ついにNTTドコモが取り扱いを始めたことで、売れ行きは飛躍的になると想像できた。3社による販売合戦が過熱し、販売ランキングを独占するのも理解できる。しかし、じゃあ、iPhone 5sが2013年を代表するスマホかといえば「それは違うでしょ」と9月の段階では明確に否定できた。

 だが、11月22日、自分にとってiPhone 5sは歴史に残るスマホになってしまった。理由は簡単。アップルがSIMロックフリー版をアップルストアで直販し始めたからだ。

 これまで、2007年はAT&T版初代iPhone、2008年からはiPhone 3Gでソフトバンクを追加、さらに2011年からはiPhone 4sでauを追加するなどして国内キャリア版を持ち続けつつ、同時にSIMロックフリー版も携帯し続けてきた。海外渡航時、現地のSIMカードを挿して手軽に日本語が使えるという点で、SIMロックフリーのiPhoneは本当に便利に使えるからだ。

 その昔は、香港版を苦労して入手し、iPhone 5からはベライゾン版を契約してSIMロックフリー版のiPhoneを使い続けていた。海外出張に行った際、現地のアップルストアでお土産のようにSIMロックフリー版のiPhoneを購入するのが当たり前のようになっていった。入手には苦労するが、買えたときの喜びは、ほかには代えがたいものがあった。

 「iPhone 5sのSIMロックフリー版はいつ、どこで入手しようかな」と考えていた矢先、アップルが日本市場向けに売り始めた。うすうす「ドコモも取り扱いを始めたことだし、日本でも売り始めるかな」という予想はあったが、まさか現実になろうとは。数年前では考えられないことだった。

 アップル(というかクアルコムかも)がすごいのは、どんな通信規格もひとつの端末で使えるようにしてしまっていることだ。iPhone 5sになって、LTEの対応周波数も増え、1つのモデルでNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、どのキャリアでも使えるという環境がそろった。2010年のSIMロックフリー議論のころ「LTEが普及して3キャリア共通になっても、音声は3Gを使うのでSIMロックフリー端末は意味がない」という指摘もあったが、iPhone 5sの3GはW-CDMAだろうがCDMA2000だろうが使えてしまうというのがすごい。

 仮にアップルが、2年前にSIMロックフリー版を出したとしても、チップセット側が対応しておらず、日本ではどこのキャリアでも使えるという状況にはなく、盛り上がりに欠けていただろう。アップルは、NTTドコモがiPhoneの販売に乗り出し、端末が各社の周波数に対応でき、日本でMVNOによるSIMカードが増えてきたこの2013年秋という絶妙なタイミングでSIMロックフリー版のiPhoneを投入してきた。

 正直言って、端末代金が高いので、誰もがSIMロックフリー版のiPhoneを買うという状況にはならないだろう。しかし、来年以降、確実にスマホの買い方が変わっていく雰囲気を感じる。まさにSIMロックフリー版のiPhone 5s(とおまけでiPhone 5c)は、SIMロックフリー時代の幕開けを象徴する1台になるといえるだろう。

石川 温