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ドコモとタカラトミーからクラウド型のお話しロボ「OHaNAS」
「+d」戦略の新たな取り組み、「しゃべってコンシェル」を応用
(2015/6/4 11:00)
NTTドコモとタカラトミーは、クラウドと連携して自由度の高い会話を楽しめるロボット玩具「OHaNAS(オハナス)」を10月上旬に発売する。クラウドサーバーとはスマートフォンを経由して繋がるようになっており、「アイスクリームは何が好き?」「しりとりは負けないよ!」など、人間の声を認識して、しゃべった内容にあわせた返事もするなど、単体ではできなかった幅広い会話能力が大きな特徴。価格は1万9800円(税抜)。
高さは16cmで、単2電池3本で駆動する。別売りのACアダプタも用意される。専用アプリはAndroid版、iOS版が提供され、最大10mまで通信できる。好きなものはうどん、いろんな知識を持ちつつ、人間の心がよくわからない、趣味は俳句……といった性格付けもされており、イメージとしては5歳くらいの男児のような雰囲気を目指したという。一問一答ではなく、幅広い会話・雑談に応じられる。NGワードが設定されており、そうした言葉が投げかけられても、無視したり「意味が分からないよー」などと返したりする。
ひつじをモチーフにした小さなボディ
「オハナス」は、ひつじをモチーフにした外観に各種センサーやBluetoothを搭載したロボット。ドコモにとっては、他社との協力で事業を展開する「+d(プラスディー)」戦略の一環という位置付けで、ローソンとの連携や、自治体向け高齢者見守り支援サービス「おらのタブレット」に続くもの。スマートフォンやタブレットと連携して、ユーザーと会話を楽しめる。
目としてデザインされた部分の周辺に静電式のタッチセンサーが設けられており、手をかざすと会話をスタート。「おはよう」と話しかければ「おはよう、今日も良い天気だよ」と返事してくれる。
外観は、幅広い年齢層に受け入れやすいよう、丸みを帯びたボディに目のようにデザインされたLED、たれた耳、リボンなどを付けられるおへそ、とペットのようなシルエット。モチーフはひつじとのことで、「耳が良い動物ということもあって選んだ」(タカラトミーニュートイ企画部部長の木村貴之氏)という。黒い耳のパーツのうえには白い角がある。子供の手にも持ちやすいサイズで、ゆらすと振動センサーで検知して「目が回るよ~」などと反応する。
タカラトミー側が用意したシナリオに沿って雑談に応じてくれるほか、「天気は?」「今日は何の日?」などと呼び掛けると、その質問に沿ってネットを検索し、結果を音声で伝えてくれる。またしりとりを楽しんだり、専用アプリに登録したユーザーの情報にあわせて「誕生日おめでとう」などとしゃべったり、季節にあわせた会話ができる。
発表時点で用意されたシナリオは数千種類で、今後は1万件を超えるシナリオが追加される見込み。会話した内容の一部は、短期間、記録され、ランダムで次の会話に活かすことがあるが、基本的にロボット内およびサーバー上でユーザーとの会話の内容は保存されない。従って、ユーザーの趣味や好みを学習することはないが、ユーザーのあだ名、誕生日といった個人的な情報は、スマートフォン/タブレットアプリに登録しておくことで、活用する。
【お詫びと訂正 2015/6/4 13:37】
記事初出時、「+d戦略の第2弾」としておりましたが、5月28日にNTTドコモから発表された「おらのタブレット」も+dの取り組みの1つとのことです。お詫びして訂正いたします。
“クラウド型会話ロボット”その仕組みは
クラウド「オハナス」は、ドコモの対話型エージェント「しゃべってコンシェル」の技術を応用した新プラットフォーム「自然対話プラットフォーム」が採用されている。オハナス自身に3G/LTEやWi-Fiといった通信モジュールは搭載されておらず、スマートフォンやタブレットとはBluetoothのHFP(ハンズフリープロファイル)で繋がる。単体である程度、動作するとはいえ、基本的にはクラウド側で音声認識や返事の生成などを行う形で、「オハナス」の肝となるハードウェアは、スマホ用のハンズフリーマイク&スピーカーと言える。機械としては比較的シンプルな構成だが、愛らしいボディで親しみやすく、家族内の新たなコミュニケーションのきっかけを作ってくれる。
コミュニケーションを促進する“自然な対話”は、ドコモの提供するプラットフォームを用いる。この自然対話プラットフォームは、同じ読み方で意味が異なる同音異義語であっても、前後の流れから正確な意味を判断する「文章正規化機能」、天気などを検索して返事に使える「外部コンテンツ連携機能」、キャラクターらしいしゃべり方にする「キャラクター風発話変換機能」、アプリに登録されたユーザーの情報を対話に使う「ユーザー情報自動抽出機能」という4つの要素で構成されている。これにより、ユーザーが「オハナス」に話しかけると、サーバー側でその発言を「認識」→「解釈」→「返信用の音声ファイルを生成」→「オハナスが返事する(スマホで音声ファイルを再生、オハナスをワイヤレススピーカーとして再生する)」、という流れで利用できる。全ての処理は基本的にサーバー側で行われ、スマホやタブレットは中継役のみ。そのため、ドコモ以外のスマートフォンでも利用できる。
会話の流れは、事前に用意されたシナリオに基づいており、ディープラーニングを採用した人工知能がリアルタイムに判断する形ではない。それでもシナリオは発表時点で数千種類用意され、10月の発売までさらに増える予定。シナリオはドコモではなく、タカラトミーが玩具メーカーならではのノウハウでアイデアを出して作成されており、いわばフローチャートのような形。「オハナス」がユーザーに向かって「アイスは好き?」と質問した場合、想定される回答をあらかじめ用意しておき、アイスの種類が回答だった場合、あるいはアイスは食べないといった回答だった場合、それぞれの分岐に沿った返事を用意しておくという形になる。
機能追加もクラウド側の改善で済む形で、発売以降も新たなシナリオ、あるいは新機能の追加が検討される。
世界的なトレンド
タカラトミーの木村氏によれば、以前よりロボットと対話を楽しみたい、というニーズはユーザーへの調査で明らかになっていた。タカラトミーとしても、常々、オモチャを通じた新たな体験、価値の創出には注力しており、対話できるロボットは開発してきたが、クラウド技術を用いるとなると玩具メーカーにとってはハードルが高かった。そこで、2年ほど前からドコモに対してアプローチしてきたが、なかなか具体的な形には進まなかった。
一方で、ドコモは2013年秋頃、ドコモ側でも開発者向けにさまざまなAPIを開放しはじめ、その1つには雑談対話APIもあった。それからある程度時期が立った、2014年8月、木村氏は「しゃべってコンシェル」の開発に携わるNTTドコモR&Dイノベーション本部の内田渉氏と出会い、プロジェクトがスタート。タカラトミーでは、通常より多くのリソースを費やす決断をし、通常は1年半~2年はかかるというロボット玩具の開発と比べ、今回は1年を待たずして発表、14カ月での発売を目指すことになった。
折しも海外では、英Vivid Imagination社から女児向けの人形で、スマートフォンと連携する「ケーラ(Cayla)」というオモチャが発売され、人気を博す。2015年3月には、米マテルが「音声認識対応のバービー人形を2015年秋に発売する」と発表。最新テクノロジーを採り入れるのは世界的なトレンドになっていたが、海外では人型のデザインを採用したもの。タカラトミーにも「リカちゃん」という不動の人気玩具があり、長年、「リカちゃんでんわ」を提供してきたが、今回は、家庭での利用を想定し、「ペットの子犬、うさぎのようなほどよいサイズ感を意識した」(木村)と小柄な大きさとして、なおかつ、家族みんなで楽しめるよう空想の生き物のようなデザインを採用した。
「オハナス」は据置型で、目の色を変えて状態を知らせる。現状では、車輪や足による歩行など、動きを採り入れる場合、モーター音などノイズをいかに除去していくかが課題だという。
今後の展開
両社の間では、既に第2弾、第3弾についても前向きな見方をしている。木村氏は「今回の製品を踏まえて、男児向けのロボット型、もっと女児に受け入れられやすいカワイイ人形型なども考えられる」と説明し、今後も新たな価値の提供を目指す。
現在は日本語のみサポートするが、「英語対応の開発が進んでいる。1年以内に対応できるのではないか」とNTTドコモサービスイノベーション部長の大野友義氏。
オモチャの概念を変える
タカラトミーの次期社長兼CEOで、昨年6月にタカラトミー副社長となったハロルド・ジョージ・メイ氏は、「ただ遊ぶだけではなく、生活の一部に飛び込む、生活に役立つ、そんな玩具を開発したい」と同社の姿勢をアピールする。
これまでのオモチャの概念を超えるには、幅広い年齢層に受け入れられる「エイジレス」、時が過ぎてもなお楽しめる「エンドレス」、そして国境を越えて利用可能な「ボーダーレス」という“3つのレス”が必要としたメイ氏は、「オハナス」は、クラウドと連携することでエイジレスとエンドレスの要素を兼ね備え、今後の拡張で多言語対応することで、ボーダーレスをも実現し得る、だがそれも玩具メーカーだけでは実現できず、強力なパートナーがあってこそ、と話す。特に「2900万ダウンロード、アクセス総数が11億件」というしゃべってコンシェルの利用実績をもとにした自然対話プラットフォームなど、ドコモの技術力を高く評価した結果、タカラトミーからアプローチして、「オハナス」開発にこぎ着けた。
NTTドコモの加藤薫社長は、「タカラトミーとドコモという組み合わせは意外に思われるかもしれない」としつつ、今回の取り組みが、他社とのパートナーシップで新たな価値を提供する「+d(プラスディー)」の一環の好例と胸を張る。コミュニケーションを支える通信企業として「オハナス」のもたらす価値に期待を示した。
ビジネスモデルは?
ドコモの自然対話プラットフォームの活用にあたり、タカラトミー側からドコモにシステム構築代と、毎月の利用料が支払われる形。毎月の料金は、一定のアクセスまでは定額という契約になっているという。
「オハナス」を購入するユーザーは、1万9800円という本体価格のみ支払う形で、2年間は無料で利用できる。3年目以降、料金が発生するかどうかは今後の検討となる。タカラトミーとしては、家族で、なおかつ長期間利用できる玩具としての1万9800円という価格にしたという。