ニュース

マルチチャンネルスピーカーもワイヤレスへ

クアルコム、家庭内機器を連携するAllJoynとAllPlayを本格展開へ

サンフランシスコのイベント会場入口

 米クアルコムは14日、サンフランシスコで「From the Internet of Hype to the Internet of Everything」と題した、「Internet of Everything(IoE:あらゆるもののインターネット)」周辺の製品・技術・動向を紹介するイベントを開催した。

 同イベントでは、ホームネットワークでさまざまな家電を接続し連携させるAllSeen Allianceのオープンプラットフォーム技術「AllJoyn」や、そのAllJoynのフレームワーク上で動作するオーディオ機器向け技術「Qualcomm AllPlay」についても詳細な解説と関連製品の展示があった。

Windows 10も対応するAllJoynとは

家庭内の多様なデバイスの連携を可能にするAllJoyn

 AllSeen Allianceは、Linux Foundationによって運営されている非営利団体であり、クアルコムをはじめ、パナソニックやシャープ、ソニーなど世界中の約150もの企業がプロジェクトメンバーとして参加している。一方「AllJoyn」は、さまざまなIoT機器とアプリとの間で連携するためのフレームワークであり、元々はクアルコムが開発したプログラムだ。現在はAllSeen AllianceがこのAllJoynをクロスプラットフォームなオープンソースプロジェクトとして管理し、普及活動などを行っている。

 AllJoynが実現するのは、簡単に言えば家電機器の相互連携だ。スマート家電やIoT機器としてスマートフォンアプリなどから操作できる家電製品はこれまでにもあったが、そのほとんどが専用のアプリを使い、その製品単体のみコントロールできるものだった。対してAllJoyn対応機器では、無線LANを用いて、ホームネットワーク内の複数のデバイスを連携させながら利用できる。

 例えば帰宅して玄関の鍵を回すと同時に部屋の明かりがつき、さらにリビングのテレビの電源がオンになって映像が流れ始める、といったような実生活での利用シーンが考えられる。個々の家電のメーカーが何であるかは関係なく、AllJoyn対応製品でホームネットワークに接続されていれば、さまざまな連携方法で利便性の高いライフスタイルを実現できるわけだ。

エレクトロラックスのAllJoyn対応冷蔵庫
AllJoyn対応の給湯器
アプリから明るさや色をコントロールできる電球「LIFX」を用いた卓上ライトもAllJoynに対応

 2014年にはマイクロソフトがAllSeen Allianceに参画し、IoT機器向けのOS「Windows 10 IoT Core」のリリース準備が進められていることも明らかにされている。世界中のテクノロジー企業や家電・デバイスメーカーが参画するAllSeen AllianceのAllJoynは、IoE/IoT市場拡大の足がかりの1つとなる大きなソリューションになってきたと言えるだろう。

低遅延でワイヤレスサラウンドも実現するAllPlay

Qualcomm AllPlayの概要

 そんな中、クアルコムがイベント開催中の15日に発表したのは、そのAllJoynのフレームワークをベースに稼働する「Qualcomm AllPlay」というマルチメディア機器向けプラットフォームの機能強化だ。“スマートメディアプラットフォーム”と銘打たれたAllPlayは、ワイヤレス通信でスマートフォンやスピーカー、その他オーディオシステムとのスムーズな相互連携を可能にし、ありていに言えば、スマートフォンなどで再生している曲を部屋のスピーカーから簡単に出力できるようにするもの。だが、それだけ聞けばAppleのAirPlayやChromecastと似たようなものと思われるかもしれない。

 しかしAllPlayのポイントの1つは、AllJoynのフレームワークの中で稼働するという部分。つまり、単にスマートフォンとオーディオ機器との間のデータ(情報)のやりとりに止まらず、他の家電を含めた連携まで可能になっている点で大きく異なる。言い換えると、AllJoyn対応家電群のネットワークの一部に、AllPlay対応のオーディオ機器が組み込まれる、ということだ。

 さらに今回発表されたAllPlayの機能強化では、現在多く出回っているBluetoothスピーカーをWi-Fiネットワークに接続して“再ストリーム(re-streaming)”再生できるようにする機能や、CDプレーヤーやレコードプレーヤーのライン出力を同じくWi-Fiに“再ストリーム”再生する機能、各機器ごとに異なるイコライジング設定を施せる機能、さらには100ms以下の遅延で複数機器への音声ストリーミングを同期再生できるようにする機能が追加された。

 これらにより、Wi-Fi非対応のオーディオ機器も巻き込んで、より幅広いAllPlay対応オーディオ製品を開発できるようになる。とりわけ低遅延のストリーミング再生機能を用いることで、5.1chや7.1chのようなサラウンドオーディオにおいて、課題の1つだったリアスピーカーなどへのケーブル配線が不要になり、自由度高くスタイリッシュなホームシアター環境を整えることができるようになるのは大きな進歩と言える。

 2016年にはAllPlayのこのようなメリットを活かした「新しいタイプの」サウンドバーやホームステレオ製品が登場することになると、クアルコムの担当者は語っていた。

各社からAllPlay対応機器が続々とリリース

LencoのAllPlay対応スピーカー「PLAY LINK」

 現在のオーディオ機器におけるAllPlayへの対応状況はどうなっているだろうか。AllPlayの商用サービス開始が発表された2014年以降、いくつかの製品がリリースされており、日本のパナソニックの他、無線機器を中心に手がける中国のデバイスメーカーTP-LINK、オランダのオーディオ機器メーカーLencoらが、AllPlay対応スピーカーをリリースしている。さらに、今回新たに加わったメーカーとして、Hitachi America、ASUSTeK、トルコの大手電気メーカーVestel、ドイツの高級オーディオブランドMagnatの4社が紹介された。

 イベント会場に展示されていたHitachi Americaのスピーカー新製品は、サイズ・出力違いでW50/W100/W200の3種類のモデルが用意される。当初は北米のウォルマートのみで取り扱われ、クアルコムの担当者によれば「オーディオファンでもテクノロジーファンでもない、一般ユーザーをターゲットに」販売される。

Hitachi AmericaのAllPlay対応スピーカー「W」シリーズ

 また、ハイファイオーディオ向けの高品質オーディオケーブル「モンスターケーブル」で知られるMonsterも、AllPlay対応のワイヤレススピーカー「SOUNDSTAGE」を発表した。当初はBest Buyのみで販売され、こちらもサイズ・出力違いで3モデルが用意。天板を皮で覆うなど、音質にこだわっているだけでなく外観でも品質の高さを感じられる製品となっている。イベント当日は同社CEOのノエル・リー氏がセグウェイに乗って登壇し製品をアピールするパフォーマンスも見せ、AllPlayへの期待感の高さを伺わせた。

MonsterのAllPlay対応スピーカー「S」シリーズ
Monster CEOのノエル・リー氏がセグウェイに乗って登壇
Fonの音楽配信サービス対応Wi-Fiルーター「Gramofon」がAllPlayの新機能に対応する

 その他、日本国内ではフリーWi-Fiスポットの展開で話題になったFonが、音楽配信のSpotifyやインターネットラジオなどを直接再生できる機能をもつWi-Fiルーター「Gramofon」をアップデートし、AllPlayに対応することを公表している。これにより、Gramofonを直接接続しているオーディオ機器だけでなく、宅内の複数の部屋にあるAllPlay対応スピーカーで自由に再生するなど、楽しみがさらに広がることになるだろう。

 なお、AllPlayのプラットフォームがカバーする範囲はハードウェアだけではない。音楽配信などのサービス側にももちろん関係してくる。現在のところ定額音楽配信のSpotify、napstar(Rhapsody)、ネットラジオのTuneInなど20サービス以上が対応しており、それぞれのスマートフォンアプリから直接AllPlay対応機器で再生するよう指示できたり、オーディオ機器をコントロールするスマートフォンアプリ内にこれらストリーミング配信サービスを受信・再生する機能を組み込めるようになっている。

 担当者いわく「2年以上前からプロジェクトをスタートした」というAllPlayは、これまで対応製品にあまり恵まれなかったこともあり、特に日本では注目されにくかったテクノロジーではある。AllJoynのような家電を連携する技術についても、日本国内では家電がネット接続することのメリットに懐疑的な声が少なくなかったこともあって、冷ややかな目で見ていたところもあるのではないだろうか。

 しかし、IoE/IoT時代の本格的な到来が迫るなか、家電がネット接続することの意義が少しずつ明確になってきた。今回のAllPlayの機能強化と対応機器の拡大によって、ホームネットワークの次の活用方法、あるいはコネクテッドホームの具体的な姿がはっきりと見えてくるかもしれない。2015年はまさしくIoEの実質的なスタートと言え、少なくともそのコアとなる領域でクアルコムが一定の存在感を示していくことは間違いないだろう。

Snapdragon 410を搭載する新しいDragon Board 410c。IoE/IoTデバイスの製造にはこうした開発用ボードの存在も欠かせない。75ドルと前モデルに比べ大幅に安価になり、入手しやすくなった。2015年夏頃リリース予定だ

日沼諭史