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総務省の料金引き下げタスクフォース第2回、高市総務相も出席
大手3社、MVNO、消費者相談センターからヒアリング
(2015/10/26 21:55)
26日、総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第2回会合が開催された。安倍晋三総理大臣からの“鶴の一声”で設置された会合で、今回は、携帯電話大手3社のほか、格安スマホとして知られるMVNO事業者の代表としてIIJと日本通信が出席し、それぞれの立場から説明を行った。
高市総務大臣「料金、わかりにくい」
第1回は補佐官が出席していたが、当事者である携帯会社から事情を聴くことになった今回、高市早苗総務大臣が出席した。会合のなかで高市大臣は自ら質問を投げかけることはなかったが、挨拶だけではなく会合の終盤まで在席し、各社からの意見に耳を傾けていた。冒頭の挨拶は、個人の主観と断わった上で語られたものではあるが、現在の携帯電話市場での課題を指摘しており、タスクフォースの方向性をある程度示した内容だ。
高市総務大臣
「9月の経済財政諮問会議において、安倍総理より携帯電話料金の家計負担について検討するよう、指示があった。既に昨年12月、ガイドラインを改訂し、11月からSIMロック解除の受付も始まるところだが、それでも検討ということで、ユーザーの皆様にとって、低廉でわかりやすいサービスが受けられるよう、また情報通信産業の健全な発展という視点も踏まえつつ、料金の軽減策を考えてもらうことになる。
1人のユーザーとしては、端末代金と通信料金が事実上、一体化しておりわかりにくい。頻繁に端末を買い替えたり、携帯電話番号を変えずに乗り換えたりする人に対して、キャッシュバックなどで還元される。その一方で長期ユーザーに重い負担がかかっているのではないかと感じる。ライトユーザーの負担が必要以上なものになっていないか。
MVNOのサービスも、もっと普及したほうがいいのではないか。もう1つ、我が家では結果的に携帯電話の二台持ちになってしまっている。また通話定額も、事実上、あまり利用できていない、実は必要ないんじゃないかと感じたりする。ユーザーそれぞれで感じることは違うだろうが、あくまで主観として申し上げた。そういったことも検討課題の1つになるのではないか。忌憚ない意見を聞かせて欲しい」
「説明不足」「抱き合わせ」「オプションの解約がわからない」
高市総務大臣からは「料金がわかりいくい」「不公平感」「MVNO」といった点が挙げられたが、実際のところ、今の消費者はどういったトラブルを抱えているのだろうか。その立場で今回、説明を行ったのは、全国消費生活相談員協会(全相協)理事の石田幸枝氏。
全相協は、全国の自治体などで、消費生活に関する相談を受ける、相談員がメンバーの団体。今回はユーザーから寄せられた相談の一例が紹介された。
- 携帯電話の購入時に、通信量を抑えられるからモバイルWi-Fiルーターを契約することにしたが、繋がりが悪く使わなかったので解約を申し出たら違約金がかかると言われた。
- 他社からMNPする際、定額のかけ放題は不要であったが、つけないと通話できないと言われた半年で解約できると言われたので契約したが実際は違った。
- スマートフォンで自分が利用しているパケット量は1カ月0.5GBくらいと知り、データ通信量の小さい契約にすれば安くなるかと思って携帯電話会社に問い合わせたが、定額プランしか選択できず安くならないとわかった。不審だ。
- スマートフォン購入時に無料だからと言われ子供用携帯2台を持ち帰った。スマートフォンを解約したら2台分の通信料が毎月、かかりはじめた。そんな説明は聞いていない。
- 携帯ショップでオプションを付ければ値引きするというので、10個くらいオプションを付け、無料期間の2カ月後に解約しようとしたが方法がよくわからない。解約しにくくしており悪質だ。
- 家電量販店で料金が安くなると勧められ、スマートフォンに買い替えた。請求書を見るとオプション契約が付加され(それ以前の)倍額近くになっていた。業者に苦情を伝えたが、契約書通りという。解約したい。
- スマートフォンの機種変更をしようと店に行ったら、3年経っているのに中途解約金を請求された。機種代は支払い済。3年目なのにどうして中途解約金がかかるのか。おかしい。
店頭で携帯電話を購入する際には、説明事項が数多くあり、場合によっては数時間~半日かかることも珍しくない。石田氏は「高齢者の場合、使い方や、横文字(の専門的な言葉)でよくわからないとなることもある。容量の大きいものを勧められてそのまま契約するも、家族から『ここまでは必要なかった』と言われることもある。口頭での説明を受けても理解されていないことがある。書面の告知を使えばかなり変わってくるんじゃないか」とコメント。
タスクフォースの構成員で、全国地域婦人団体連絡協議会事務局長の長田三紀氏は、周辺機器としてSDカードが販売され、トラブルになっている事例はないか、と質問。これに石田氏は「高齢者が、自らには必要ない容量のSDカードを契約していた」と報告する。
このほかMVNOについては、まだ広がりだしてから間もないこともあり、相談件数は少ない。ただし「料金にひかれて契約したものの、速度が遅くて繋がらない」「格安SIMとセットでスマートフォンを購入したものの端末が故障しており、再度、送付されてきた端末も故障し交換や修理に1カ月かかるのに代替機がない」といった相談があったという。こうした点について石田氏は、航空業界におけるLCCと同じように、大手と異なるサービスであることをきちんと認知してもらえるよう、MVNO側の積極的な取り組みを求めた。
携帯各社、これまでの取り組み
携帯3社からは、ネットワーク設備に投資しつつ、2014年度からは通話定額を導入したこと、固定回線とのセット割も導入されたことなど、これまでの取り組みが紹介される。
NTTドコモ 経営企画部長の阿佐美弘恭氏
「昨春は端末の差別化が難しく、(キャッシュバックは)価格競争が過熱していったのかなと反省している。行き過ぎた割引、わかりにくい価格といった点は認識しており、販売方法の見直しや代理店への監督・指導の強化を行う」
KDDI 渉外・広報本部長の藤田元氏
「世帯あたりの携帯電話料金が増えたのは、世帯での回線数が増えたことが主な理由。ライトユーザーはシニアとジュニアに多く、auではそれぞれの層に向けた機種と料金プランを用意している」
ソフトバンク渉外本部本部長の徳永順二氏
「iPhoneも最初の半年間は売れなかったが、実質0円やパケット定額の値下げなどで取り組んだ。端末購入の負担を少しでも平準化しようと割賦を使って、毎月の割引を適用するなど工夫してきた。人気の高いiPhoneもバージョンアップしてどんどん高機能になる。良い機能を使ってもらおうとキャンペーンもしてきたし、ネットワークもLTEへ切り替わる時期でもあった」
冒頭の高市大臣の挨拶や、消費者相談の事例にも含まれていたが、「通話定額や通信量が多すぎる」という声が挙がる中、auのLTEスマートフォンユーザーにおける月間平均通信量は3.7GB(2015年6月度)であることが明らかにされた。またソフトバンクの平均月間通信量は約4GBだという。こうした平均値は、ヘビーユーザーによって偏る可能性があるのでは、と構成員から質問が投げかけられるとソフトバンクの徳永氏は「かなりのペースで1GB以下の人が減っているのは事実」と説明し、ユーザーの通信量は増加傾向にあるとしている。
販売奨励金は減らせるのか
キャッシュバックなどは行き過ぎ、今は反省した――と述べる携帯大手に対して、野村総合研究所の北氏は、「競争がある中、キャッシュバックは辞めることができるのか。販売奨励金も国際的に見て異常なレベルだが減らすことはできるのか」と問いかける。
ソフトバンクの徳永氏は「ユーザーが高額なハイエンド機種を求めるなかで、MNPのキャンペーンを辞めたり、奨励金をなくしたりするのはかなり難しい。ただあきらめると、そこで終わってしまう。知恵を出していくのがマーケットとして良い姿になる」と何らかの方策に取り組む姿勢を打ち出す。またドコモの阿佐美氏は「昨年3月に無理な競争をした反動でキャッシュバックは控えている。やってみないとわからないが、業界として取り組めるかなと認識している」とコメント。KDDIの藤田氏は「寡占の弊害と言われるとそれ以上言いようがなくなるが、マーケットが動かなくなるとどうなるのか。今は少し陰りが見えている」と述べ、競争そのものをなくすことはできないものの、何らかの取り組みは必要との見方を示す。
MVNO、品質を維持するには
MVNOの代表として説明を行ったIIJ取締役CTOの島上純一氏は、MNOと呼ばれる大手3社にはできない領域でサービスを提供することが、MVNOの存在意義と説明。注目を浴びたことで、市場としては成長傾向にあるものの、国内の携帯電話契約全体からするとまだまだであり、「MNOによる販売奨励金の適正化」「通信サービスと端末の分離、選択の自由化」などが必要と指摘する。
同じくMVNO代表という立場となる、日本通信代表取締役社長の福田尚久氏は、今回は大まかな説明をする場として、技術的な説明は省きつつ、HLR/HSSと呼ばれる顧客管理に関する設備をMVNOにも開放するよう求める。これが開放されれば、「たとえばAPNの設定が必要なくなる」(福田氏)とのことで、より簡単にMVNOのサービスが使えるようになる。また独自性のあるサービスも打ち出せるようになるともされており、今回のプレゼンではドコモもMVNO側とHLR/HSSについて協議を進めている、と自らの取り組みの1つとしてアピールしていた。ただ、福田氏は会合終了後、その協議について具体的な内容な避けつつも、なかなか前進しないとも報道陣に漏らす一幕もあり、しばらくはMVNO側にとって開放を求める状況は続きそう。
さらに福田氏が指摘したのは、接続料について。MVNOでは、ドコモやauから回線を調達するときになるが、この料金(プレゼンで福田氏は賃借料と表現)が10Mbpsあたり、2008年度の1267万円から、2014年度は94万円と劇的に下がった、としつつも、MNOと同じ通信速度を実現するためにMNOが回線を調達すると、94万円という単価であっても、合計3900万円必要として「実質的な値上げが続いている」とする。
また家計への負担を下げる、という目標を掲げる安倍総理の指示も例に挙げて、現在、世帯における通信量の占める割合を現在の5.5%から、仮に0.1ポイント減らした程度では意味がない、とも語り、抜本的な対策が必要とした。
これらの主張に対して、構成員の北氏は「MVNOは現在、激安競争にある。借り受けた帯域のなかに、どれだけたくさんのユーザーを詰め込めるかで、損益分岐点が上がる。こうなると、MVNO全体に対して、“安いけど繋がらない”という風評が広がる。MVNOが立ち上がろうとする中で逆風になるのではないか」と対策を問うと、日本通信の福田氏は、MVNOの業界団体(MVNO委員会)でも非公式に協議している、としつつ、同氏が主張する「実質的な接続料の値上げ」が続く限り、MNOの劣化サービスしか提供しようがない、とあらためて接続料値下げの必要性をアピールする。
IIJの島上氏は「品質に影響するのはその通り」としつつ、MVNO同士の競争という環境下においては、そうした状況を踏まえた事業を展開する必要があるとも語る。
業界としてMVNOによるサービス品質をいかに維持していくか、という点は、課題の1つとして何らかの取り組みが求められる。
「iPhone優遇の理由」語られず
第1回の会合では、不公平感を与える大手キャリアの施策の1つに「iPhoneの優遇」が挙げられていたが、今回の会合では質問も挙がらなかった。
ただ、公開の場では、踏み込んだ話も難しいとして、総務省では次回会合を非公開で行うと案内。そうした場では構成員に対して何らかの説明が行われる可能性がある。