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NTT×KDDI×ソフトバンクが三つどもえの政策バトル、その主張とは

ヒアリング第2弾――ドコモのみ規制撤廃か、FTTHのユニバ化も

 2020年代に向けて、通信・ネット関連の分野には何が必要なのか――そうした視点で議論を進める総務省の「2020-ICT基盤政策特別部会」の第4回が15日、開催された。今回はNTT持株、NTTドコモ、KDDI、そしてソフトバンクからの意見を聴取する会となった。

 15日のヒアリングを通じて、事前規制の撤廃を求めるNTTグループ、設備競争の重要性やNTTグループの独占回帰を危惧するKDDI、そしてNTTグループに対して設備部門とサービス部門の機能分離や光ケーブルのさらなる開放を求めるソフトバンク、と三者三様の主張が出てきた。

 こうした場では、通信を活用して、どのような未来を実現できるのか、という点での議論も期待されるところだが、今回は通信インフラでの競争の在り方について論じる時間が大半を占めた。

NTT持株とドコモ、「事前規制撤廃を」

 NTT持株のプレゼンテーションは、常務取締役で研究企画部門長の篠原弘道氏が担当した。同氏は、NTTが描く2020年代の未来像や迫り来る課題として、環境・エネルギー問題、交通システムの高度化、医療費の削減、犯罪の抑止などを挙げる。

 これは通信やインターネットに限らず、社会全般の課題を通信が支援するという姿勢を示したもので、そうした未来を実現し課題を克服するには、異業種との連携などが欠かせないものであり「ICTは目的ではなく手段。新たな価値を提供するもので、B2Cの時代からB2B2Cの時代に変わってくると思っている。これからはICTがいろんな業界と、サービスなどでコラボレーションする時代に変わっていかねばならない」と述べ、、NTTは「value add enabler(付加価値を提供できる事業者)」という立場を目指すとする。

 その上でNTTとしては、「事前規制から原則自由な事後規制」」「グローバルスタンダードと整合する政策」「自由なコラボレーションによる新たなイノベーションを促す政策などを求めた。

電気通信事業法第30条 第3項で定められている禁止行為

  • 他社設備との接続で知り得た他社の情報を(営業活動など)目的外に使ったり、提供すること。
  • 特定の電気通信事業者を不当に優先的な扱いをして利益を与えたり、逆に不当に不利な扱いをして不利益を与えないこと。
  • 販売代理店やメーカー、コンテンツプロバイダーなどに対して、不当に干渉したり、縛りをかけたりすること。

 続くNTTドコモ 取締役常務執行役員で経営企画部長の吉澤和弘氏は、2020年代には2010年の1000倍のトラフィック(通信量)になること、これまでの市場が変化して価値や利便性が変化することなどを指摘した上で「2020年に向けて事業、サービスがどう変わっていくのか。過去、モバイルは成長期だった。競争フェーズだったと言えるが、成熟期に入って全体が拡大しないまま、パイの拡大があり、健全ではない競争もあった。これからはサービスの競争になっていく。そのフェーズに入ったと思っている。グローバルに異業種を含めたパートナーとダイナミックにコラボすることで、付加価値を創造していく」と決意を示す。

 競争がグローバルになり、さらにサービスレイヤーでの競争ということで、さまざまな企業と連携していく必要があり、NTT持株と同じく事前規制を撤廃して事後規制にするよう求めた。

 2月~3月にかけて、一部報道ではNTTグループのセット割が解禁されるとの報道もあったが、今回のヒアリングでは、NTT持株、NTTドコモともにセット割には触れず、あくまで他社との自由な連携を可能にする規制の撤廃を求める形となった。

「2013年から1年で42%も伸びた」

 業界2位であり、モバイルサービスのみならず、光通信やCATVなどを手がけるKDDIはどのような立場なのか。これまではNTTへの規制を緩和することに反対する論ばかり述べてきたが、田中孝司社長が今回、ようやくスタンスを明らかにした。

 KDDIでは2020年代の未来として「あらゆるものがネットに繋がる」「リアルとバーチャルの境目のない、超高精細映像の世界」「ありとあらゆるところでのセンサーネットワークの普及とより安心・安全な世界」を挙げる。そのためには通信インフラは超高速で、安く、災害にも強いという資質を備えなければならないと説く。

 特に2020年代には、現在のLTE(3.9世代)の次の次、つまり第5世代(5G)が実現されるころであり、その頃、モバイル通信では、局所的なトラフィックを処理するため、わずかなエリアをカバーする極小基地局を数多く設置する形になる、と説明。たとえば1年前、2013年4月の段階ではユーザー1人あたりの通信量は3.8GBであり、それをWi-Fiに分散させることでモバイルネットワークにかかる負荷は1.9GBだった。ところが1年後の2014年3月、ユーザーの通信量は6.2GBに増加し、分散させても2.7GBをモバイルネットワークで処理。たった1年で42%も増えた。

 その基地局に繋がるのは、光ファイバー回線であり、固定通信がますます重要になり、現在、基地局回線コストはネットワーク関連コストのうち30%程度を占めるものの4G、5Gという今後の通信技術の時代にはその比率がさらに高まる、と分析する。

 災害対策でも、バッテリーの24時間化などは進めつつ、基地局と基地局を結ぶ回線、いわゆるバックホール回線についても、NTTに依存しない体制が必要とした田中氏は「基地局回線のダイバーシティ、キャリアダイバーシティを作っていかなければいけない」と強調する。

「NTTの機能分離を」「光ケーブルの1分岐を」孫氏の提案とは

 2020年代にさまざまなサービスが予想される中、各社ともにトラフィックが1000倍になる、というのは共通認識とソフトバンクの孫正義代表取締役社長は有識者に訴えかける。その上で、KDDIと同じく、モバイル通信は固定通信がサポートすることを説明して、「3年前、『光の道』の議論の際、NTTさんの機能分離か構造分離か提起したが、NTTさんは『自分たちに任せて欲しい。一気に普及させる』とした。確かに整備率は98%になったが、利用率は(48%と)上がっていない。まったくもって約束違反」とNTTグループと、当時の有識者会合を批判する。

 こうした光ファイバーの在り方に関する議論は、民主党政権になる前の2007年ごろからあり、今回も再燃した格好。NTT東西では最小で8分岐(1本のケーブルを8つに分ける)単位での貸出を行なっており、光ファイバーを他社が借り受ける際には、KDDIは8分岐でいいとする一方、ソフトバンクは1分岐単位での貸し出しを求めてきたが、過去の議論で1分岐の貸し出しは認められてこなかった。孫氏は今回、再び議論を提起して、モバイル通信で光ファイバーを用いる際にも1分岐でなければ不都合があると指摘。たまに同社のデータ通信端末が用いられている公衆無線LANスポットについても、「Wi-Fiアクセスポイントには光ケーブルが後ろにあって初めてできる」と説明したほか、「ADSLでは1回線単位であり、300社も参加して競争が進み、日本全国にブロードバンドが拡がった。光はまったく進展していない」と述べる。

 孫氏は、英国での例を出し、固定事業者に対して設備部門とサービス部門が分離するようにさだめ、その状況を監視する第三者組織があると紹介。日本もそうした仕組みを採り入れるよう求めた。

光回線、立場が違う各社

 孫氏の「1分岐」への要望に対して、NTT持株側として出席したNTT東日本のからは「確かに整備は進んで利活用は進んでいないが、とりわけ教育、医療、自治体での活用がまだ。NTTとしてはコストを削減して、接続料やサービス料金を下げており、設備競争は進んでいるが、そういった公的な分野でどう活用してもらうか。ようやくいくつか事例が出てきているが、(活用が進んでいないのは)構造の問題や情報通信分野の規制ではなく、ICTへいかに合理的に取り組むかという問題ではないか。NTTの構造を変えれば普及するという話ではない」とした。また1分岐がかつて受け入れられなかった要因として、ケーブル1本を敷設して、8回線分使えるところが、1回線だけ使うという場合、残りの7回線分のコストを誰が負担するのか、といった点などが課題であり、それは今も変わりないとした。

 KDDIの田中氏は「KDDIも1分岐貸しに反対した。かつてKDDIはソフトバンクと同じように光回線に参入していなかったが、1分岐ができないとなったとき、日本のためということで、東京電力や中部電力が進めていたFTTH事業を買収し、設備競争をスタートさせた。その結果、世界でもダントツに安く高品質なFTTHサービスが実現できた」と、ソフトバンクとの違いや、設備競争の重要性を示しながら、8分岐貸しで十分とした背景を説明した。ただ、田中氏は、NTT東西が値下げ競争をリードすると、競合他社は価格競争についていけなくなると指摘。

 「モバイルのキャッシュバックが問題になったが、NTT東西は家電に10万円とかつけている。それにはついていけない。固定通信の設備競争は相当厳しい。これ以上値下げが続くと、NTT以外の事業者は食っていけない。新たな投資を続けるのは苦しい状況に追い込まれている」と語った。

 これに対してソフトバンクの孫氏は「KDDIは微妙な立場にいる」と述べて会場の笑いを誘う。続けて、光ファイバーの整備率が98%であることに触れて、固定通信への投資はすでに一定のレベルまで完了しているとの認識を示す。その回線を保有するNTTは、政府が株を持つ企業であることも問題視して、日本政府がNTTの資本を手放して政府の収入に充てるべきと述べ「(規制に)縛られるのが嫌なら、自由に競争するならば、国が資本を持つことはないのではないか。きちっと分離して、独占回帰する議論はおやめになったらどうかなと思う」とNTTと政府を牽制した。

中長期で見るべき「競争」

 前回の会合では、有識者から「競争のメリットとは何か」という、やや不思議な質問も投げかけられたが、今回、KDDIに対して設備競争の重要性があらためて問われると、田中氏は「通信事業者にとって、設備投資をした後、償却が済めば利益になるが、次の技術が登場するとさらに投資して利益がなくなる。かつて、3G時代にauのモバイルサービスでは定額制を導入した。これは3Gになって通信容量が増えたから実現できたサービスであり、それまでは『パケ死』という言葉まであった」と語り、仮に1社しか存在しない市場では、設備投資がなかなか進まず、価格も安くならないと説明した。

MVNOへの接続料、ドコモが安いのはなぜ?

 大手3社とそのグループに収斂している、日本のモバイル通信市場に対して、総務省は今後、MVNO(仮想移動体通信事業者)を進展させることは、市場全体の競争を促進させる方策の1つと位置付けている。

 そのMVNOは、携帯各社から回線を借り受けて、独自の価格設定で販売する、という形になり、その料金設定の基礎、すなわち“MVNO向けの接続料”は、ドコモが最も安く、次いでKDDI、ソフトバンクの順に高い。いわば大手ほど安い形だが、これは、接続料を算定するために総務省が定めたガイドラインが「設備投資とユーザー数の関係から算出されるよう決まっているから。設備全体をお客さんの数で割る。そういう風に帯域料金ってなっている」とKDDIの田中氏は説明する。ユーザー数が多いドコモの接続料が安くなるのは「当たり前」(田中氏)で、これでは他社はまともに戦えず、MVNOがこれから促進される際、ドコモへの規制が何の配慮もなく、撤廃されると、KDDIやソフトバンクの回線を使うMVNOはいない、と訴える。

「セット割」めぐる規制緩和、田中氏「野菜会社は別に良い」

 さらに田中氏は、もし70%超のシェアを持つNTT東西、そしてモバイルで45%のドコモがタッグを組むとモバイル市場におけるドコモのシェアは高まると危惧を表明。またドコモと東西が直接組まずとも、たとえばNTTグループの一括請求を行うNTTファイナンスが介在することで、割引サービスを提供することも可能として、NTTへの安易な規制緩和には危惧を示す。その一方で、「何が良くて何がだめか、具体的に議論すべき」と述べて、「○○はOK」といったリスト化を提案する。

 たとえば「例が悪いかもしれないが、(ドコモが)出資した野菜の会社(らでぃっしゅぼーや)とか、そういうのは別にいいんじゃないか。でも、たとえばグーグルやAmazonとドコモが排他的な契約をして、auユーザーがそれらのサービスを使えなくなるのは問題。何が良く何が悪いか、議論を突き詰めるべき」と語る。

 これに対してNTTドコモの吉澤氏は「上位レイヤー(サービス面)の動きはすごく速い。これがOK、これがNGという間にビジネスはどんどん進展する。ポジティブ、ネガティブとリスト化して仕分けしていくことが、(そうしたスピーディな動きに)追いつけない。そこは自由なコラボレーションで新しい価値を作る。やってはいけないことは、事後規制で十分。何か弊害が出てくれば(総務省が)業務改善を命令できる」と反論した。

ドコモへの規制は撤廃OK?

 競合他社からは内容次第で、規制に柔軟性をもたせる、といったは提案も出てきた今回、さらにKDDI、ソフトバンクともに一定の条件が満たされれば、ドコモへの規制撤廃を認める姿勢も見せる。

KDDI田中氏
「NTTドコモは、かつてNTT再編のとき、出資比率を下げるという約束があった。ところが今は(NTTがドコモ株を)6割持っている。かつては限りなく0に近づく約束があった。ドコモに対する規制はシェア40%で適用される。今、ドコモのシェアは45%程度。40%以下に下がれば(規制撤廃について)これは問題ないと思う」

ソフトバンク孫氏
「ドコモさんが単独で設備競争する場合、そんなに、ドコモさんが特別優位な立場にあるとは思っていない。ドコモを縛りすぎるのはいかがなものかという指摘はうなずける。しかしドコモを(の株式を間接的に)国が保有していて、NTTグループで一体経営がなされている。たとえば人事にしても、NTTグループから順繰りにドコモの社長が送り込まれるという感じだ。ブランドもNTTという三文字、国民全員が知っているブランドであり、安心安全を感じられる。これに対してNTTを外して、資本分離して、人事も分離して、NTTとの一体運営がなされないということが構造的に担保されれば(ドコモへの規制を外してもいい)。真剣に議論すべき時がきた」

FTTHがユニバーサルサービスに?

 質疑の最後には主婦連合会の長田委員が「2020年代を考えると、(現在は音声通話だけが対象の)ユニバーサルサービスに当然、ブロードバンドを含めていかなきゃいけないと思っている。DSLサービスは前回のヒアリングで、老朽化という話があり、そうなるとブロードバンドはFTTH(光ファイバー)になる。通信各社は、ユニバーサルサービスとしてブロードバンドを担うためにどういう展開があるのか」と尋ねた。

 NTTの篠原氏は「ユニバーサルサービスとして、世の中に何が不可欠なのかが一番大事。ブロードバンドで何をすることが国民生活にとって不可欠なのかという議論から、どういう技術が必要で、そのためのコスト負担などが今後議論されるのではないか。できれば、まさに国民あげての議論をしっかりして、みんなのコンセンサスを得るなかで実現しようじゃないかという形でいって欲しい」とした。

 KDDIの田中氏は「ユニバーサルサービスは現在電話サービスだけだが、どこまで含めるのか。最初に国民のコンセンサスが必要。モバイルがそれなりのエリアに広がり(高速通信サービスが日本全国で利用できるようになっており)いろんな手段が選べるようになっている。それに従って対応していけばいいと思う」と語る。

 ソフトバンクの孫氏は「ブロードバンドによる恩恵を、受けたい人が、どこの場所でも(その恩恵を)受けられる権利を提供するということが肝要。光ファイバーの整備は行われているが、活用がまだ不十分。3年前に普及が進んでいなかったら見直すと。それをやれば、ユニバーサルサービスもおのずと実質的に提供できるようになると思っている」とした。

関口 聖