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ドコモの法人イベントでNTT Com小島社長が講演 ドコモビジネスの目指す「驚きと感動」のDXとは

 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、 10月10日、11日の2日間、ドコモグループの法人ビジネスイベント「docomo business Forum’24」を開催した。初日に、同社 代表取締役 社長執行役員 小島克重氏が「ドコモビジネスが描く『驚きと感動』のDX」と題する基調講演を行い、ドコモビジネスの今後の方向性や具体的な取り組みについて語った。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役 社長執行役員 小島克重氏

ドコモ、コムウェアと統合し「ドコモビジネス」を立ちあげ

 NTT Comは、1999年のNTT再編によって誕生した会社だ。長距離通信、国際通信、インターネット事業を提供し、主に大企業を顧客に持つ。

 国内通信以外に、グローバル、セキュリティ、ソリューション、データセンターなどの分野で事業を拡大していたが、2022年1月にNTTドコモ、NTT Com、NTTコムウェアが1つになって、新しいドコモグループが誕生した。

NTT Comの変遷

 分社当時の2000年の事業構造は音声とネットワークの事業の収益がほとんど。ソリューション事業はわずか9%だった。

 しかし、2023年度時点で、祖業である音声・ネットワーク事業は合わせて約40%と大幅に減少。一方、ソリューション事業が55%と半分以上を占めている。

 20年を超える歴史の中で、NTT Comは音声・ネットワークの提供会社から、ソリューション・DXの提供会社へと大きく変貌。その上で、ドコモのモバイルやコムウェアのソフトウェア技術も加わり、「お客様の経営課題や社会産業課題を解決するケイパビリティ(能力、可能性)をさらに広げることができた」と小島氏は語った。

事業構造の変化。ネットワークと音声が主流だった2000年度。一方、2023年度はソリューションが50%以上に。

 NTT Comグループの従業員は約1万7000人。全都道府県に配置されているという国内拠点は54拠点。海外拠点も70以上あり、顧客の海外事業を支援している。R&Dセンターには、グループ全体で約2800人の研究員が所属している。

 顧客基盤は65万社に上る。2022年には東京・大手町に共創の場として「OPEN HUB for Smart World」を開設した。このOPEN HUBには約2万人が参加し、カタリストと呼ばれるビジネスコーディネーターの数は900人を超えているという。

 さらに、ドコモが保有する約1億のdアカウント会員基盤があり、そのデータと「お客様のデータと掛け合わせることで質の高いマーケティングを実現できる」とする。

NTT Comの基本情報。

 法人事業はNTT Comに集約されたのを機に、ドコモグループの法人ブランドとして「ドコモビジネス」を立ち上げた。NTTグループ各社のサービスやソリューション、さらにパートナーのサービスをつなぎ合わせ、「ワンストップで、付加価値をつけて顧客に提供している。経営課題や社会産業課題の解決に貢献している」と小島氏は胸を張る。

ドコモグループの法人ブランドである「ドコモビジネス」。

今後の取り組み、目指す姿

 小島氏は、「事業運営の中で大切にしたいキーワード」として「“驚きと感動”のDX」を紹介。驚きと感動のDXを提供するために、従前より磨いてきたソリューション力、DX力に加えて、「価値を進化させる先端テクノロジーの採用」「価値を創出するデータの活用」「価値を広げる戦略的な協業・提携」という3要素を大切にするという。

驚きと感動のDXを実現するための3要素。

 「価値を進化させる先端テクノロジーの採用」の例として挙げたのは、NTT版LLMの「tsuzumi」、液冷方式のデータセンター「Green NexCenter」、広帯域、低遅延、省電力という特長を持つ「IOWN」だ。

NTT版LLMの「tsuzumi」、液冷方式のデータセンター、IOWNなど先端テクノロジーを採用。

 tsuzumiは3月に商用提供を開始。小型軽量ながらも世界トップクラスの日本語性能を持つ。

 軽量なモデルのため、大規模なハードウェア環境の構築が必要なく、「オフィス内でオンプレミスでの利用も可能なため、企業内のデータを外部に出さず、安全にカスタマイズできる」とアピールした。

 IOWNについては、10月7日、IOWN APNを活用した分散データセンターでの生成AI学習実証実験に世界で初めて成功したことが発表されている。

 「インターネット経由の分散データセンターでは、単一データセンター内の処理と比較して29倍の時間がかかるが、IOWNでつないだ分散データセンターでは1.006倍と、ほぼ同等の時間で処理することに成功した」(小島氏)

 2つ目の要素「価値を創出するデータの活用」については、さまざまな手段でデータを収集し、それを安全に保管して流通させることはもちろん、「お客様の持つデータと、ドコモグループが持つ巨大な顧客基盤や位置情報を掛け合わせることで、今までにない質の高いマーケティングも可能」とした。

 例として、小島氏は、西武ライオンズとの取り組みを紹介する。

 野球観戦に来場した人たちのファンクラブ会員データと、ドコモグループが持つデータを掛け合わせて分析することで、「有効な広告やイベントにつながる実証が行えると、お客様の評価は上々」だという。

 「価値を広げる戦略的な協業・提携」としては、前述のOPEN HUB for Smart Worldを取り上げ、「社会・産業課題の取り組みを加速するために、案件レベルだけでなく、事業レベルでの戦略的な協業・提供を推進したい」との意気込みを語った。

OPEN HUB for Smart Worldでの共創案件は1000件に上る。

今後注力する8つの事業領域

 NTT Comが目指す姿を実現するために、今後は特に「社会産業プラットフォーム」「地域創生」「中小DX支援」「デジタルBPO」「生成AI&データ活用」「IoT」「ゼロトラストネットワーク/クリーンICT」「GX」という8つの事業領域に注力するという。

注力する8つの事業領域

社会産業プラットフォーム

 「社会産業プラットフォーム」の取り組み事例としては、IOWN関連技術を活用して、さまざまな産業や地域課題を解決する事業コンセプト「HOKKAIDO IOWN CAMPUS」が紹介された。

 HOKKAIDO IOWN CAMPUSの実現に向けた足掛かりとして、7月1日にNTT ComとNTTイノベーティブデバイスは千歳市に拠点となる事務所を開設している。

HOKKAIDO IOWN CAMPUSは、半導体産業クラスタ、IOWN産業クラスタ、学術機関クラスタの3つの柱で構成される。IOWNを軸に、産業、まち、人をつなぎ合わせ、半導体産業をはじめとする様々な産業・地域課題を解決し、北海道の地域創生と日本の半導体産業の発展に貢献するという。

 また、スマートシティ事業の取り組みとして「スマートシティデジタル実装コミュニティ」を紹介。建設・不動産業界全体のDX、GXを加速し、社会産業課題の解決を目指すという。

ビルごとに異なるデジタル実装の標準化や、開発プロセスでのデジタル利活用の最適化、先端技術の実装により、竣工後もアップデートを続けるビルの実現を目指す。

地域創生

 「地域創生」の取り組み事例としては、ICTシステムの活用を通じた持続可能な参加型のまちづくりを紹介。

 同日、陸上養殖に関わる子会社の設立を決定したことが発表済み。AIやICTを組み合わせた先進的なシステムを提供し、陸上養殖における安定的な収穫量を支えるという。

最先端の水処理技術にAIやICTを組み合わせ、生産効率の高い循環式陸上養殖システムを提供する。
「地域創生」の取り組み事例として、民間のノウハウやアセットを活用して、社会インフラ課題の解決を目指す「JCLaaS」も紹介。JR西日本や金融機関と一緒に取り組んでおり、NTT Comは、インフラに関わるデータを自治体やパートナー企業、市民と連携するためのデジタルソリューションを提供。

中小DX支援

 「中小DX支援」の取り組み事例としては「ドコモビジネスパッケージ」を紹介。これは主に中小企業の様々な課題に合わせて厳選したソリューションパッケージで、迅速な課題解決、業務の効率化を実現する。

例えば、効率的な配車計画を自動作成し、ドライバーのスマホに即配信できる運輸業向けパッケージ、スマホの内線化によりドライバーとの連絡を効率化し、通話コストも削減できるコミュニケーションパッケージのほか、経理、マーケティング向けなどを含めた7つのパッケージを提供している。

デジタルBPO/生成AI&データ活用

 「デジタルBPO」「生成AI&データ活用」の取り組みとしては、トランスコスモスとの協業による、tsuzumiを活用したAIコンタクトセンターの開発や、デジタルBPOの取り組みを紹介した。

講演後の囲み取材で小島氏は、「トランスコスモス様との協業を発表してから、デジタルBPOの分野はかなり引き合いをいただいている。予想以上の反響。この分野はおそらく、これから伸びていくと思っている」とコメントしていた。

 また、クラウド型のセキュリティが一体となった統合ネットワークサービス「docomo business RINK」も紹介。ネットワークサービスは、利用環境や目的に合わせた回線の手配やセキュリティ設計などで、利用できるようになるまで多くの時間を要するが、docomo business RINKは「いつでも簡単に利用できる」とアピールしていた。

docomo business RINKでは、IoT機器のセキュリティ対策機能でビジネスモデル特許を取得。2025年度下期に提供を開始する予定だ。

IoT

 「IoT」の取り組みも強化している。

 単につながるネットワークを提供するだけでなく、業界それぞれの用途に合わせた最適なネットワーク、管理プラットフォーム、アプリケーションを提供する。

 国内にとどまることなく、グローバルにも展開。「IoT関連ソリューションは2027年度に2500億円規模のビジネスにしたい」と小島氏は意気込んだ。

KOMATSUの建機のIoT化支援や、BMWにワールドワイドでのコネクティッドIoTの提供を進めている。
「GX」の取り組みでは、住友林業と協業している森林価値創造プラットフォーム「森かち」を紹介。

大阪万博

 小島氏は最後に、来年開催される大阪万博のNTTパビリオンについて動画で紹介。「ワクワクするような未来のコミュニケーションの形をお見せしたい」と語っていた。