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NTT Com丸岡社長基調講演、AIやIoTで大小さまざまの社会課題を解決する取り組みを紹介

代表取締役社長の丸岡 亨氏

 NTTコミュニケーションズは、法人事業の展示イベント「docomo business Forum'23」を10月12日~13日を会期に開催している。

 開催初日となる12日には、同社代表取締役社長の丸岡 亨氏による基調講演が行われた。

NTTグループ再編の意義を説明

 基調講演冒頭で丸岡氏は、2021年に実施されたNTTグループ再編により、同社がNTTドコモグループとなった経緯についてあらためて説明。

 当初は事業ごとにNTT本体から分割していったが、近年は固定やモバイルといった通信媒体による区分がなくなり、融合していくなかそれぞれの領域からお互いの領域に進出して競争していく環境になったとし、新型コロナウイルスなど競争環境に変化が生じたタイミングでの再編だったとした。

 現在のドコモグループ内での事業の棲み分けとして丸岡氏は、「ドコモはスマートライフ事業と通信事業」、「NTT Comは法人事業」、「NTTコムウェアはソフトウェア開発」と説明。

 NTT Comのブランドも「ドコモビジネス」とドコモグループであることを前面に押し出したものとなったが、企業理念「人と世界の可能性をひらくコミュニケーションを創造する。」は引き続きしっかりと実践し、地域や産業の課題解決、サステナブルな社会の実現に取り組んでいくとアピールした。

 NTT Comとしては、ドコモグループ入りする前までは東名阪の大規模法人の顧客が多かったが、ドコモが強みを持っていた地域や中小法人を取り込むことで、ドコモブランドで法人全般にワンストップでソリューションを提供できると、統合の意義を説明した。

 統合によるメリットについて、丸岡氏はこれまでの固定プラットフォームやデータセンターのプラットフォームに加え、モバイルやドコモのユーザー基盤が活用できるサービスを取り込むことができたとし、これらを統合した「統合ソリューション」によって価値を提供できるようになったとする。

主なソリューション

 丸岡氏は続いて、現在進められている主なソリューションを披露した。

丸岡氏

建設業界

 まずはじめに建設業界のDX化について、パートナー企業と協業しながら現場の作業効率化と生産性や安全性の向上を図る取り組みを実施している。

 たとえば、現場の3DデータをiPhoneやiPadを活用して作成し、専門性が必要な3次元の計測を、小規模~大規模な現場まで誰でも簡単にできるものや、ショベルカーなどの建機を、ドコモのMECを使って遠隔操作するソリューションなどが紹介された。

 また、これまで紙ベースでの管理が続いていた工程管理と日報という基本的な部分をデジタル化し、一気通貫で見られるようなソリューションも取り組んでいる。これは、2024年問題としてあげられている、時間外労働の規制や就業人口の減少といった課題に対応するものだという。

水田からのメタンガスを減らす取り組み

 農業分野では、水田から放出されるメタンガスを、IoTで減らす取り組みを行っている。

 IoTセンサーを設置し、乾燥してひび割れた「中干し」状態の期間を減らすことで、メタンガスの排出を3割減少させる。そして、減らした分を可視化し、カーボンクレジットとして発行・販売支援を行っている。

 生産者は、温室効果ガスの排出を抑えた「グリーン米」としてブランド化できたり、発行したカーボンクレジットによる新たな収益源の獲得ができるという。

サプライチェーン全体の炭素排出量の可視化

 鉄鋼製品の分野では、サプライチェーンを含めた産業全体の炭素排出量の可視化を目指すカーボンマネージメントソリューションの取り組みも行っている。

 自社だけでなく、サプライチェーンなど産業全体の温室効果ガスの量が求められるScope3の計測ができるしくみを導入し、産業全体で情報共有や連携できる仕組みができるとしている。

スマートシティ

 まちづくりにかかわるソリューションでは、11日に発表になった自動走行ロボット管制サービス「RobiCo」のほか、行政と地域住民をつなぐソリューションを実践している。

 住民にアプリを導入してもらうことで、アプリを通じて行政から防災情報を伝達するほか、地域の事業者にも参画してもらい、地域特性に沿った来訪促進やマーケティングを行うプラットフォームで、地域の魅力向上に寄与するという。

 このほかにも、実際に同社で使用しているという社内コミュニケーションの活性化ツールなど、社会課題を解決するソリューションの取り組みを行っている。

ソリューション以外の事業も継続

 同社の強みであるネットワークやデータセンター事業に関しても、新たな取り組みを進めている。

 データセンター事業では、放熱量が上昇しているチップを水冷(液冷)方式のものに順次更新していくほか、これから新たに設置するデータセンターでは、原則この方式を採用する。

 将来的には、IOWN APNを組み合わせて、遠隔地のサーバーも1つのサーバーとして利用できるようなしくみが考えられている。

国内事業だけでなく、グローバルでも事業展開
通信やデータセンター事業にも引き続き取り組む

 また、コミュニケーションAIにも投資を行っていくとし、生成AIと組み合わせることで、コミュニケーションの質を向上させていくという。丸岡氏は、「未来のコミュニケーションAIの形の一つが『もう一人の私』と思っている。『もう一人の私』が、さまざまな世界をどんどん繋げてくれる」とし、さまざまなAIがIOWNでつながり大きなAIとして機能する未来を言葉で示した。

丸岡氏

丸岡氏が考えるAIとの未来

代表取締役社長の丸岡 亨氏

 基調講演を終えた丸岡氏は、報道陣にあらためて「ドコモグループとして法人と一緒になって社会課題を解決する。地域の法人顧客も増えてくるなか、各支社を巡って社員と情報共有をしてきた」と地域の情報を直接キャッチアップしてきたとコメントした。

 続いて丸岡氏は、記者からの「AI事業への投資規模は?」との問いについて、同社ではLLMを使ったAIソリューションを提供しており、ドコモやNTT(持株)が行っているようなLLM自体の開発は行わないと説明。一方、AIを活用したコミュニケーションAI(COTOHA)のようなソリューションは投資を進めていくとし、具体的な期間の明言は避けたものの100億円規模の投資が必要だろうと見通しを示した。

丸岡氏

 丸岡氏は、今後のAIの成長やGPU(チップ)の高度化の予測が難しいと考えを表し、スピード感を持って対応するものの、先述の「100億円規模の投資」という数字に具体的な根拠があるものではないとコメント。しかしながら、IoTやコールセンターなどさまざまなソリューションにもAIが絡んでくるとし、AIへの投資は必要である強い認識が見られた。

丸岡氏

 AIの活用に関連し、同社内でも営業などでAI活用による生産性向上が進められている。

 丸岡氏は「通信の世界は、効率化の連続」とし、これまでも技術革新が進めば、社員が別の職に就くのは当たり前にやってきたと説明。

 同社については「全体的に人が足りていない状態」と実情を明かした上で、AIによる効率化で、人員に余剰ができても、たとえば営業であればさらに次の営業にすすむなど、各々の適性を見ながら新しい職についてもらうとコメントする。

 また、AIの大規模化で登場する汎用AIについて、IOWNを使った汎用AIについての考えを問われた丸岡氏は「まだまだ私の思うようなことは答えてくれない」とし、一般的な文言には使えるが、パーソナライズされていないと指摘。

 先述の基調講演であった「もう一人の私」という言葉については、「もう一人の私(AI)は、私よりも幅広い世界観を持っている。いろいろなことを知っているので、それで自分自身の世界が広がるように行動が変わる世界観が出てくるのかな」と、将来の可能性に言及した。

丸岡氏

5Gソリューション

丸岡氏

 AIが加速度的に発展する一方で、5Gを使ったソリューションがなかなか登場できていない現状がある。

 5Gのビジネス活用について丸岡氏は「実際に利用するケースをどう考えてるか。実際に4Gでまかなえるところが大きいが、4Gから5Gへの以降は進んできている(という認識)。SA(スタンドアローン)はこれからだが、サービスごとに回線を割り当てるなど、多様な使い方が出てくると認識しているが、世の中のニーズと提供側のタイミングが一致していない」と見解を示した。

 今後については、各事業者からDXなど新しいユースケースが必ず出てくるとしており「Beyond 5Gや6G、IOWNの世界になると、また使い方が変わってくる」とコメントしながら、今後も5Gはしっかり訴求していき、法人事業からのアプリケーション開発を促進していくとした。