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音声AR「SARF」にマネタイズ機能などを強化した「SARF+」を追加

 エイベックス・アライアンス&パートナーズは、同社が展開する音声ARサービス「SARF」について、博報堂と協力し、課金や利用者分析などの機能を追加した「SARF+」の提供を開始すると発表した。この発表に合わせ、エイベックスでは「SARF」のプレス向け体験会を開催した。

SARFの音声ARとは何?

音声ARとは

 「AR」はAugumented Realityの略で、日本語では「拡張現実」と訳されることが多い。ハッキリした定義があるわけではないが、現実世界のモノや場所に映像や音声を付加することで「拡張する」、というものをARと呼ぶ。

 音声ARのSARFは、簡単に言えば美術館の音声ガイドの拡張版だ。GPSやBluetoothビーコンなどを使った位置情報をベースとし、指定したポイントに行くとあらかじめ収録された音声が再生される。

SARFアプリのトップページ。配信中のコンテンツを確認できる。今回の体験会ではQRコードからしかアクセスできないコンテンツが使用された

 細かい使い方のイメージとしては、まずSARFアプリ上で事前にコンテンツをダウンロードし、そのコンテンツをスタートさせる。音声ARはバックグラウンド動作するので、別のアプリを起動したり、スリープ状態にしても良い。この状態でコンテンツの対象となるエリア(たいていは街とか施設とか)を歩き回り、音声のあるポイントに入ったらその音声が自動的に再生される。

位置情報だけでなく、ストーリーや時間などを付加したコンテンツを配信できる

 コンテンツは同時に1つしか動作させられないが、1つのコンテンツには複数のチャンネルを組み込める。ユーザーが任意にチャンネルを選択できることもあるし、時間帯に応じてチャンネルが変わるようにもできる。これにより、言語を切り替えたり、違う視点の観光ガイドを配信したり、夜は怪談を配信するといったこともできる。

利用イメージ。実際には使用中はアプリを表示する必要はない

 ちなみにダウンロードされるコンテンツデータには音声データは含まれず、位置情報とそれに対応する音声のURLだけが入っている。ポイントに入ると、その都度、音声をストリーミング再生するというイメージだ。

 位置情報はGPSだけでなく、Bluetoothビーコンも利用可能で、これにより、屋内でも利用できる。ヤマハの音声ビーコンにも対応するという。ただし位置情報に関しては、スマートフォン側の精度に引っ張られる部分が強く、全体的な傾向としてiPhoneよりAndroidスマートフォンの方が細かいという。当然だが、位置情報をボカす機能、たとえばiPhoneでいう位置情報サービスの「正確な位置情報」をオフにしたりすると、精度は著しく低下する。

どんなことに使われているの?

 現行のSARFは有料コンテンツなどはないので、観光ガイドやコンテンツのPRといった用途で使われている。

実証実験的に提供された友ヶ島第3砲台美術館

 たとえば瀬戸内海国立公園の友ヶ島では、「友ヶ島第3砲台美術館」という音の美術館が提供された。国立公園内となると、景観などの問題から看板やQRコードなどの設置が制限されるが、SARFは屋外ならGPSだけで動くし、屋内も目立たないところに小さなBluetoothビーコンを隠せる。

会津若松で提供された新撰組のコンテンツ

 会津若松では昼は通常の観光ガイド、夜は「裏会津」として肝試しコンテンツと、時間帯によって変わるコンテンツが提供された。また、同じく会津若松で提供された新撰組のルーツを巡るコンテンツでは、終盤は土方歳三視点と斎藤一視点のそれぞれを選択できるような形式で提供されている。

みなとみらいデート、というテーマのコンテンツ

 このほかにも全国各地でさまざまなコンテンツの実証実験や導入の実績がある。地方自治体や観光地域作り法人(DMO)が中心だが、エイベックスが関係するIPを活用したりもしている。

 たとえば横浜のみなとみらいでは、BLタイトルの「チェリまほ」の登場人物の2人(アニメ版の声優による録り下ろし)のデートボイスラリーが提供された。このほかにもアイナ・ジ・エンドはファンクラブ向けバスツアーでSARFを活用したり、僕が見たかった青空は地元出身メンバーが名古屋市内を音声でナビゲートしている。

実際に使ってみると……

 SARFは位置情報に結びついているので現地に行かないと体験できないところだが、今回はプレス向けのコンテンツを体験することができた。

初回利用時にはBluetoothデバイスを使うかの許可が必要
コンテンツをスタートしてしまえば、あとは操作は不要

 実際の使い方としては、アプリ上でコンテンツをダウンロードしてスタートするだけなので、何も難しいことはない。音声を聞く必要があるので、Bluetoothヘッドセットなどは必須だが、移動しながら使うので、安全のためにも片耳だけとか、ヒアスルー機能付きのものとか、あるいは耳を塞がないタイプのものが好ましい。

 筆者はHUAWEIの「FreeClip」というイヤカフス型のBluetoothヘッドセットを使ったが、こうした耳穴を塞がず、環境音にスマホの音声を自然に乗せるタイプのヘッドセットとの相性は抜群だ。

初回利用時はバックグラウンドで位置情報を提供するかの許可も必要
ロック中も勝手に再生が始まる。停止操作だけはできる

 コンテンツをスタートさせたら、あとはそのことを忘れて歩き回れる。アプリ上ではスポット位置を地図で確認できるが、スマホをスリープ状態にしてポケットに突っ込んでいてOKだ。スポットに入ったら自動的に音声が再生されるが、環境音も聞こえるヘッドセットを使っていると、周囲のスピーカーからガイド音声が流れてくる感覚に近い。

地図上でスポット確認可能

 スタート後は操作不要なので、ガイドブックなどと違って立ち止まる必要はなく、歩きスマホで何かにぶつかる心配もない。観光地や美術館であれば、周囲の環境や展示物に集中できるので、元からある体験価値をほとんど損なわず、そこに付加価値を拡張するというのが面白い。

「SARF」と「SARF+」の違いは

これまでのSARF

 SARFは2021年に正式サービスをローンチし、福岡市や名古屋市、会津若松市など7都市にAR観光ガイドとして採用された。その後、エンタメや教育啓蒙にも使われ、2023年にはコンテンツ制作をサポートする管理ツールの「SARF Studio」も提供を開始している。

ビジネスとして強化されるSARF+

 そうした進化を続けているSARFの新しい進化軸として、今回、博報堂と協力して「SARF+」が提供される。

 「SARF+」は通常の「SARF」にいくつかの機能を追加したバージョンだ。実のところ、アプリは同じものを使っていて、一部のコンテンツがSARF+になる、という形式だ。

SARF+との違い

 SARF+ではまず、利用者情報の分析が可能となる。通常のSARFは気軽に使ってもらうために、個人の追跡は最小限となっていて、アカウントなしでも利用できるし、誰がどのスポットを巡ったかの情報も収集していない。SARF+ではそこをある程度、追跡できるようにして、マーケティングツールとしても使えるようにしている。

 さらにコンテンツ課金の機能も追加される。有償コンテンツの収益を企業やIP保有者とシェアするモデルも作れる。

唯一無二な雑誌「ムー」のコンテンツも

 こうしたSARF+の第一弾コンテンツとしては、大阪で開催されるLDH LIVE-EXPOと連動したコンテンツがOsaka Metroの8駅で提供される。このほかにもいろいろなコンテンツを提供予定で、ワン・パブリッシング社の「ムー」との世界観で地域を周遊するコンテンツも2025年に予定されている。

コラボコンテンツ

 音声ARが拡大するにはヒットコンテンツが必要で、そうなるとエイベックスのIPに限らず、パートナーシップも重要となる。すでに現在、交通新聞社による「隠された徳川埋蔵金を探せ!!」という東京駅周辺を対象としたコンテンツが提供中だ。また、KADOKAWAのカクヨムとのコラボでは、音声AR肝試しコンテンツが配信中だ。

 現状、こうしたコンテンツはマネタイズされていないが、SARF+の登場でビジネスとなり、より拡大していくことが期待される。

 なお、コンテンツの提供方式はApp Storeなどに近い形で、基本的にエイベックスが審査してアプリ内ポータルに掲載されたものしか利用できない。位置情報を使い、実際に現地に行って利用するコンテンツなので、個人が勝手に作るような、その場所の権利者を害するようなコンテンツは提供できないというスタンスだ。