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OpenAIのライトキャップCOO、楽天とのパートナーシップに「ポテンシャル感じる」

 15日、米OpenAIは、東京でのオフィス開設を発表した。日本の企業や政府機関とのコミュニケーションを活発化させ、GPTシリーズのさらなる普及を図る。

 2023年には楽天グループとの協業が発表されており、会見に臨んだブラッド・ライトキャップCOOは、楽天から日本企業のことを学び、「ポテンシャルを感じる」と将来性に期待感を示す一方で、日本市場では生成AIの活用がまだ初期段階として、まずはニーズの把握などに努める考えを示した。

 質疑応答では、日本法人をリードする長崎忠雄氏、米国本社で渉外を統括するバイスプレジデントのアナ・マカンジュ氏(Anna Makanju)も登壇した。

左からライトキャップ氏、長崎氏、マカンジュ氏

――日本市場に対してどのような魅力があると考えているのか。また、生成AIの安全性に対して、政策担当者にどのような提案をするのか。

ライトキャップ氏
 日本は、ビジネスにおいてテクノロジーを効果的にうまく取り入れることができた、非常に豊かな歴史を持っています。

 そして、その社会では、AIが次の波になると考えている。産業、政府、社会の両方を前進させることができる重要なテクノロジーだ。日本は、その点で重要なリーダーになるだろう。

 我々OpenAIは、その移行の一翼を担い、企業や政府のパートナーになりたい。

 安全性については、OpenAIの使命の中核をなすものです。有益なだけでなく、安全なAIの開発について考えており、どのように頼り、ソフトウェアとの関係を根本的に変えるにはどうすればいいのか。それが核心なのでしょう。私たちはAIがその象徴だと考えていますし、安全性についてもトレーニングの最初から、導入に至るまでずっと考えています。

――日本にサーバーを設置するのか。

ライトキャップ氏
 日本でビジネスを展開する上で非常に重要な点です。日本企業のコンプライアンス、データ保護などの要件を満たす必要があれば、それを尊重していきたい。

 OpenAIでは、マイクロソフトと緊密に連携しており、そのマイクロソフトは日本での大規模な投資のコミットメントを発表したところだ。そちらと連携しながら進めたいです。

――初期段階での日本法人の規模や役割は?

長崎氏
 既存顧客からのフィードバックを得る、支援する部隊を最初に立ち上げる予定です。

 官民、政府系との対話が必要になりますので、グローバルアフェアチーム(渉外)を設置します。年内で十数名の予定です。

――営業販売戦略について聞きたい。長崎氏はAWS時代、グローバルなパブリッククラウドに積極的ではなかったSIerを口説いてパートナーにしていった。OpenAIでも同じような活動なのか。

長崎氏
 まだ、今日が1日目です。多くのお客さまがすでにOpenAIのツールをご利用いただいています。それでも何が足りないのか。もっと使っていただくにはどうしたらいいのか、といったところに時間を使いたいです。

 個人、スタートアップ、中小、教育機関、NPOなど、規模にかかわらずあらゆる業種にとってAIツールのメリットを享受できるでしょう。そこにきちんと提案して、対話し、適切なフィードバックが回っていくと思いますので、一日も早く確立したいです。

【OpenAIのサム・アルトマンCEOによる東京オフィス開設時のビデオメッセージ】

――日本は生成AIに積極的と言われる一方で、ルールが固まりきっていないという指摘もある。OpenAIがルールづくりなどでリーダーシップを発揮する考えは?

マカンジュ氏
 私たちも、もちろん、自民党のホワイトペーパー(自民党が4月12日に発表。AI関連の戦略をまとめた)もリリースされていて、歓迎しています。

 G7での広島宣言(2023年5月のG7広島サミットで採択されたもの。AI関係者に向けた指針、行動規範などが策定された)などもホワイトハウスで議論されています。

 東京にオフィスを構えることで、そういう議論に参加できることを楽しみにしています。

 東京を選んだ理由のひとつは、AIの開発や研究、支援にとても前向きだからです。

――Fortune 500の何社くらいがOpenAIを利用しているのか。そのうち日本の割合は? 日本での成長はどの程度と見込んでいるのか。

ライトキャップ氏
 92%がChatGPTを何らかの形で利用しています。エンタープライズは60万件、利用されています。

 地域で分類していないが、日本は200万人が毎日使っています。

 日本市場については、たくさん成長したいです。リソースの活用に時間もかかるでしょうから、パートナーシップの機会もあると思います。

――日本のマイクロソフトとはどういった協力関係は? また、電力消費にどう取り組んでいるのか。

ライトキャップ氏
 マイクロソフトとは、2019年から協力しており、主に我々のモデルをトレーニングするためのコンピュート・インフラの構築に貢献してもらっている。日本でも重要なパートナーだと考えています。

マカンジュ氏
 各国政府とも電力について話し合っています。

 将来、よりクリーンで効率的なエネルギーをより豊富に確保するために必要なことだ。そしてそれは、我々が取り組んでいる分野のひとつでもあり、研究に関するパートナーシップを追求します。

――日本での投資計画は? マイクロソフトの4400億円と別なのか。

ライトキャップ氏
 OpenAIで優先する事柄は、この地にチームを保有することです。そして営業を通じて、ChatGPTを利用していただけるのか、APIなのか、企業の皆さんといっしょに進めたい。

 日本語のカスタムモデルを発表しましたが、日本でご利用いただくだけではなく、AIモデルも開発したいと考えています。

 日本という国、そして日本におけるビジネスのあり方を形作る手助けをし続けたいです。

――日本の規制のあり方にどうコミットしていくのか。

マカンジュ氏
 日本政府の皆さんと議論するのがとても楽しみです。

 日本については、G7の広島宣言を打ちだしたことが大きな貢献だと思います。広島宣言は、今や国際的なモデルであり、私たちを含む多くの企業が支持を表明しています。

 自民党のホワイトペーパーも拝見して、どう協力していくか考えています。

 我々のモデルがどのようなルールに従わなければならないかを正確に理解できるよう、これを実際に十分に具体化する方法について議論することを楽しみにしています。

――今後の営業の方向性は?

長崎氏
 日本のお客さまとお話していると、OpenAIのことを正確に理解されている方がほとんどいません。

 サービスラインアップ、特にエンタープライズ向けでは非常にセキュアなものをご用意しており、提案していき、その過程で足りないものを今後埋めていくことにフォーカスしたい。

 製品ラインアップ、ビジョンステートメントをお伝えして理解していだけるようにしたいです。

――日本語カスタムモデルはどうやってデータを集めてトレーニングしたのか。英語以外の言語への戦略を教えて欲しい。

ライトキャップ氏
 言語ごとに改善する方法はいくつかあります。

 ひとつは、モデルが日本語の文字を読み取る能力を向上させることです。そのために、日本語の文字を解釈するモデルの能力を向上させます。データと関係のないところですね。

 もうひとつは、「こちらは重要」「こちらはそうでもない」とAIモデルをトレーニングするときに学ばせるやり方についてです。これで、パフォーマンスを向上できるか検討してきました。

 私たちが本当に楽しみにしていることのひとつは、研究を続ける中で、日本には大きなチャンスがあると考えているということです。

 日本語のニュアンスなどをもっと学びたい。日本とのパートナーシップの中で、日本語を特に向上させる素晴らしい機会があると思います、。

――すでに日本語に特化したAIモデルを開発しているところもあるが、協力する考えは?

ライトキャップ氏
 もちろんあります。

――サム・アルトマン氏が2023年に来日した際、日本オフィスについて言及していましたが、その前にロンドン、ダブリンに開設されました。日本オフィスの開設がこの時期になった理由は?

ライトキャップ氏
 進出する際には、その市場のことを十分確認してからと思っています。

 日本のビジネスが何を必要としているのか、しっかりと理解したかった。私たちのシステムが、日本の企業が期待する標準を満たせるかどうかを確認したかったのです。

 また、日本オフィスのチーム立ち上げも乗り越えるべき課題でした。長崎は、日本のビジネスと新興のテクノロジーをつなげ、理解をもたらしてくれる。私たちは将来に大きな期待を抱いており、これからも楽しく投資していくつもりだ。

――2023年、楽天グループとの協業が発表されている。この関係はどう変化するのか、あるいは仕切り直しになるのか。楽天のようなパートナーがこれからどんどん増えるのか?

ライトキャップ氏
 楽天は非常によいパートナーとして、これまで歩んできました。日本企業とどう仕事をすればいいのか学びまして、非常に大きなポテンシャルを感じています。

 これから楽天の三木谷浩史氏とパートナーシップをどう深めるか話し合っています。

 まだ始まったばかりです。

 多くの企業がこれからAIを活用していく、初期段階です。私達にとっても学びの道が始まるわけで、パートナーシップを深めていくことに全力を尽くしています。

――建設でもAI活用が活発化している。他社との差別化ポイントやメッセージは?

ライトキャップ氏
 生成AIという技術は、水平展開しやすいんです。どの業界でもです。

 業界ごとの違いもありますので、早く導入できるところもあれば、そうではないところもあるでしょう。

 ただ、ビジュアル系のデータは理解が深まっています。

 建設業界については、ビジネスのプロセス改善、生産性向上に貢献できると思いますが、十分に準備して、規制にも対応していく必要があるでしょうから、改善する点、新たに作る点もあるでしょう。

長崎氏
 日本の建設業界は今後、人手不足に直面すると思います。

 建設ならではの予防保全、建築資材などを画像認識などを使うことで、人の手でやっていた作業を自動化したり、ワークフローをもっとスムーズにしたりして、AIを取り込んで改善できるところがあると思っています。

――アルトマンCEOがビデオメッセージでAGI(汎用人工知能)という言葉に何度か触れていた。そのインパクトをどう捉えていて、日本オフィスはどういう役割を果たすのか。

ライトキャップ氏
 AGI自体はまだ提供していませんが、私達は信じています。

 AGIのためには、グローバルに活用される技術を持つことと、グローバルなエンゲージメント(関わり)から学ぶテクノロジーがあります。

 それは、いわば、たとえば欧米と同じように、日本でのユースケースを得意とするモデルを育成するということです。

 さきほど建築に関する質問がありましたが、それは好例で、わたしたちのモデルが効果的にユースケースを攻略し、各業界の生産性を向上できる方法を考えたい。

 生産性の向上だけではなく、建築物の設計、材料工学まで複雑な課題に、規制、コンプライアンスといった要素を踏まえてAIを活用するのは難しいことで、AGIはすべての領域で活躍できるモデルでしょう。

 今日は日本での初日です。日本での活動を通じて、我々のモデルがどこで機能し、どこで機能しないのか、知る機会そのものが増えます。AGIに少しでも近づけるよう、パートナーと密接に協力してモデルを改良できると思います。