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野村證券が手がける「セキュリティ・トークン」とは? 有価証券をブロックチェーン技術でDX化する取り組みを説明

 野村ホールディングス(野村HD)と野村證券は、同社のデジタル・カンパニーでの取り組みの一つ「セキュリティ・トークン・オファリング」(STO)に関する取り組みを記者向けに説明した。

 大きな資産を持っていない個人投資家でも「不動産投資」などに参加できるセキュリティ・トークンとはどういったものなのか。具体的な事例と、野村證券における取り組みを聞いた。

社内横断組織「デジタル・カンパニー」

 野村HDのデジタル・カンパニーは、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める組織で、部門横断で取り組んでいる。

 野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー兼営業部門マーケティング担当の沼田 薫氏は、今年の4月に収益貢献を目指すべく名称変更を行い、現在は2部2室体制のほか、カンパニーの子会社を傘下に活動を進めているという。

野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー兼営業部門マーケティング担当の沼田 薫氏

 デジタル・カンパニーでは、スマホアプリを専門に開発するノウハウを蓄積してきており、野村アプリをはじめとしたオンラインサービスの提供を行っている。

 その活動のなかで、新領域の新たなビジネス創出として「セキュリティ・トークン」に積極的に取り組んでいる。

セキュリティ・トークン

 セキュリティ・トークンは、ブロックチェーン技術を応用し、有価証券(セキュリティ)を電子証票(トークン、ブロックチェーンを使って配布するコイン)で販売、管理していくもの。金融商品取引法(金商法)の下で実施されている物で、デジタルをベースとしながらも、法律に則って作られるアセットだと沼田氏は説明する。

 全体の流れとしては、発行体が社債や不動産を根拠としたトークンを、セキュリティ・トークン基盤を通じて発行し、投資家がそのトークンに投資する。発行体は、投資家に対して金銭または非金銭によるリターンを送付するかたちで投資を募る流れとなっている、

 大きな特徴は、不動産など投資に大きな資金が必要だった金融商品が、トークンの小口化を図れるようになったこと。また、金銭以外のリターンをすることもできる。沼田氏は、「小口化や金銭以外のリターンを各社模索している段階」としており、まだ発展途上の段階であると分析している。

セキュリティ・トークンの具体例

 12月現在、セキュリティ・トークンの多くは「不動産」を裏付けしたものを占めており、一部で社債のトークンが発行されている状態だという。

 マンションなどの不動産トークンが発行される中、「草津温泉の旅館」を投資対象とするセキュリティ・トークンの発行も実施されている。

 「草津温泉の旅館」のトークンでは、テナントとして運営を行う事業者の信頼性などを確認した上で投資を募ったもの。また、先述の「非金銭によるリターン」として、投資した旅館に宿泊した際にレストランなどで利用できる「利用券」をリターンに追加し投資家に還元している。

 また、都会の不動産投資商品が多い中、地方の不動産に関する商品を取り扱うことで、地元での盛り上がりが生まれ、地方の優良な資産としてまた魅力的なものとして伝えることができているという。

不動産の商品例

 不動産以外にも、JPX(日本取引所グループ)のデジタル環境債や事故募集型の債券として丸井グループのデジタル債などで金融的なノウハウの提供や管理オペレーションのフローなどを共同で検討しているという。このデジタル債は、エポスカード会員向けに募集をかけており、リターンを同カードのポイントでも還元している。高利回りを実現しているほか、ポイントが丸井グループで利用されることで、同社のビジネス拡大にも寄与できると沼田氏はコメントしている。

丸井グループのデジタル債
JPX(日本取引所グループ)のデジタル環境債

セキュリティ・トークンの環境整備にも関与

 野村HDでは、戦略子会社として「BOOSTRY」を設立し、ブロックチェーンの共有基盤の整備にも取り組んでいる。「BOOSTRY」では、セキュリティ・トークンに特化したブロックチェーンプラットフォーム「ibet for Fin」をほかの金融機関13社と共同で運営している。

 また、ブロックチェーンでの暗号鍵の管理や、デジタル会員権の発行事業などを実施している。

 このほか、野村HDでは暗号資産に関する取り組みも進めている。ノウハウをもつ会社に出資し、将来の規模拡大に備える形で取り組んでいるという。暗号資産に関して沼田氏は「暗号資産をファンドのような形で提供したい」と将来のサービス像をコメントする一方、どうしたら作れるかを今検討しているところとし、少し先を見据えた取り組みであることを示唆している。

 沼田氏が説明中繰り返し語っていたキーワードとして「安心安全な取引を提供する」ことが挙げられる。暗号資産については、昨今大きな出来事があったばかりということもあり、「暗号資産に安心して投資するために必要なことや、投資に値するものかなどを、伝統的な金融機関がノウハウを提供することで、安心して取引できる環境を作れるのでは」(沼田氏)とコメントしている。

 なお、暗号資産の取引に関する世界的な規制強化の動きについて沼田氏は「規制強化については言い面も悪い面もある」とし「帰省のないところ(国や地域)で自由にやろうとは思っていない。業界健全化への取り組みとして一定の規制は必要」との旨をコメントし、前向きの姿勢であることを示した。

セキュリティ・トークンの今後

 セキュリティ・トークンの現時点での手応えについて沼田氏は「今年のインフレをみると、アセットとしては強い。ミドルリスクミドルリターンの商品として、ユーザーへの提案ができている」との考えをコメントする一方、税制に関する課題や発行済みの証券を流通させる「セカンダリーマーケット」に関する取り組みなど、業界全体で取り組まなければならない課題もあるという。

 また、現時点では出資額を小口化して組合という形で不動産を保有するもの(関連法:「不動産特定共同事業法(不特法)」)との違いがわかりづらいという声も一部である。沼田氏は「セカンダリー(マーケットの整備)やある程度のボリューム(規模)が出てくると、ブロックチェーンを使う効果が発揮できる」としている。

 セキュリティ・トークンの今後について沼田氏は「不動産は同じペースを維持していきたい」とコメント。また、債権に関する商品については「発行される方の要件や、機関投資家、個人投資家の置かれている状況をすりあわせて実施していくので、どんどん出しても消化できるかどうかは不透明」とし、状況を見ながら展開していくと慎重な姿勢を示した。