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野村證券がスマホアプリに力を入れる理由は?――デジタル・カンパニーのキーマンが語るデジタル戦略

 国内の証券会社大手である野村證券。その親会社である野村ホールディングス(野村HD)は、今、資産運用や投資情報に関するスマートフォンアプリに力を入れている。たとえば、資産管理や運用に関する情報を提供する資産管理アプリ「OneStock」や投資情報アプリ「FINTOS!(フィントス)」が提供されており、野村證券に口座がなくても、アプリの大部分が無料で利用できる。

 これまでは、窓口や担当者からの案内が中心だった証券会社だが、野村證券ではデジタル化を目指すべくさまざまな取り組みを進めているという。

 なぜ野村證券はデジタル化を進めようとしているのか? なぜスマートフォンアプリの開発に力を入れるのか? デジタル化を推進する野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長兼営業部門マーケティング担当の池田 肇氏から話を聞いた。

資産運用の不安を「デジタル」で払拭

野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長兼営業部門マーケティング担当の池田 肇氏

 デジタル化を推進する「デジタル・カンパニー」について池田氏は「部門横断する組織で、門構えを広くしてグループワイドでデジタル戦略を策定する」と説明。8年間広報に携わっていたという池田氏には「ユーザー目線で最良のサービスを作っていきたい」という思いがあるという。

 その池田氏は、ユーザーの声について「投資に参加しにくい理由」として、ユーザーから聞く4つの“投資しない理由”を紹介した。

 理由として多いのが「投資に充てる資金がない」「『損失回避』の傾向」、「投資に関する知識が不足」、「投資への心理的距離」と池田氏は上げる。

 池田氏は、これらについて「お金持ちでも『お金がない』とおっしゃる」と事例を説明しながらも、デジタルを活用し、これらの不安を払拭するサービスがあると説明。たとえば、野村HDとLINEが協力して提供する少額投資向けの「LINE証券」といったサービスや、投資先の小口化でリスクを分散できるサービスが登場している。また、Webでの情報掲載や普段の買い物で貯まるポイントを投資できる「ポイント投資」といった新しいサービスも登場しており、投資へのハードルが低下してきていると指摘する。

 さらに、「これまでの対面だけだと対応できるお客様に限りがあった」(池田氏)が、デジタルやテクノロジーの活用で、これまでカバーできていなかったユーザー層にアプローチすることができていると説明。実際に5年間で若年層の投資参加比率の増加が顕著といい、これまで投資に縁遠かったユーザーが、資産運用に参加すべく証券会社の口座開設が急増しているという。

 金融機関のデジタル化が進む一方、デジタルプラットフォーマーが本業サービスから派生した決済などが登場し、2つの不可逆的な変革が進行していると池田氏は分析。ブロックチェーンやAIなどの新しいテクノロジーは、啓発期に入り、普及が進んでいるとしている。

野村證券のデジタル戦略は「オンラインとオフラインの融合」

 野村證券のデジタル戦略について、池田氏は「すべての金融サービスに基本デジタルを用意する」とコメント。“若年層はデジタル”、“お得意様はリアル”といった分け隔てをせず、まず基本にデジタルをすえ、その上にコンタクトセンター、リアルと重ねる「3枚の座布団」(池田氏)のように、ユーザーとの接点をつなげていくという。

 具体的には、スマートフォンアプリでユーザーの資産管理や運用に関する情報を提供し、将来的にはユーザー同意のもと運用状況や興味関心を分析し担当者がフォローアップする。資産相続などユーザーの複雑な悩みについては、担当者がリアルで相談を受ける体制になる。

 池田氏は当初「デジタルで完結」を考えていたという。一方で、完全デジタル化にあたり“ラストワンマイル”の難しさもあったとコメント。野村證券の“対面での強み”を生かし、オンラインとオフラインのサービスを融合(OMO)させたサービスを提供すると説明した。

 また、これまでの「取引だけ」を見て担当者が提案する形から、ユーザーがアプリで何を見ているのか? 不動産なども含めどのように運用しているか? といったアクティビティーのデータをユーザー同意のもと預かり、よりパーソナライズされた情報を届けていくという。“最適なタイミング”で“価値のある情報”を届けないと、ユーザーは情報提供に納得しないと池田氏は指摘し、取得したデータは今後一定の仮説に基づき、的確な情報提供などのサービスを提供していく。

野村證券のアプリ

 デジタル戦略のカギとなるのが、野村證券のスマートフォンアプリだ。

 池田氏からは、「OneStock」、「FINTOS!」、「NOMURA」と開発中の「Follow Up」の4アプリが紹介された。

資産管理「OneStock」

 「OneStock」は、マネーフォワードと共同開発した資産管理アプリ。

 池田氏は、「ユーザー自身がどれだけの規模で運用すればいいか?」について、ほとんどの人がわからないと考えを示し、保有資産が将来どれだけもつか「資産寿命」を確認することで、資産管理や運用をはじめてもらうきっかけにしてもらいたいという。

 「OneStock」アプリでは、収入や保有する不動産などの資産を計算し、ユーザーが何歳になるまでもつかを確認できる。ユーザーは、日々の支出を節約することや資産運用、不動産投資などを行う指針を示すことができると説明する。

 アプリ自体の収益性を記者から問われた池田氏は「家や預金だけ持っている人にとっても、資産全体を把握することは難しい」と指摘し、企業など職域ベースで従業員の資産管理や資産運用をサポートし、ここから資産運用の入口とすることができる旨をコメントした。

投資情報「FINTOS!」

 「FINTOS!」アプリでは、野村證券が機関投資家などに提供しているレポートなどの投資情報を、デジタルで提供するアプリ。

 一般向けの投資情報や、資産運用に関するアドバイスなども今後充実させていくという。

 一部のレポートなどを閲覧するには、月額5000円弱必要だが、池田氏は「最初の1カ月は無料で利用できるので、決算期に『企業の決算に関するレポート』などをチェックしてもらえれば」とコメントしている。

野村證券ユーザーには「NOMURA」

 「NOMURA」アプリは、野村證券に口座を持つユーザーが利用できる。

 資産管理や運用について、野村證券のノウハウをスマートフォンで提供するほか、野村證券に保有する複数の金融資産情報の確認や取引することができる。

提案型アプリ「Follow Up」

 今年度内のローンチを目指しているという「Follow Up」アプリについて池田氏は「保有資産に値動きがあったりしたときに通知を出す」ものと説明。特に変動資産を持っているユーザーに便利なアプリとアピールする。

運用パフォーマンス向上でユーザーに選ばれるように

 池田氏は、これらのアプリについて「資産運用のパフォーマンスを向上させるもの」であるとコメント。アプリにどういった価値があるのかを感じてもらい、これらのアプリをクロスユースしてもらうことで、資産運用に関わるパフォーマンスを高めることができるとした。

 池田氏は、現在「OneStock」、「FINTOS!」、「NOMURA」のアプリ合計で数十万ダウンロードされていることを明らかにした上で、将来的には530万人の野村證券に口座を持つユーザーにダウンロードし「スマホの一番最初の画面においてもらいたい」との期待を示した。

 なお、複数のアプリに分かれている理由について池田氏は、大きくなりすぎたアプリは小回りがきかないアプリになってしまうと指摘。

 統合した方がよいとユーザーからの声があれば、統合していくが、まずは必要としているユーザーに必要としている機能を届けることを優先しているとした。

LINE証券について池田氏「多くの学びがある」

 LINE Financialと野村ホールディングスによって設立されたネット証券「LINE証券」は、池田氏の「デジタル・カンパニー」が関わっているサービス。

 LINE証券について池田氏は、野村證券のIPOや金融商品をLINE証券で取り扱ったり、野村證券とは異なるユーザー層にLINE証券で野村證券のサービスを使ってもらっているといい、「多くの学びがある」とコメント。

 LINE証券は、若いユーザーが多く、野村證券とは違ったアプローチで展開しており、野村證券ではできなかったことをLINE証券でできているとした。

 LINEとの協業について「立ち上がって2~3年で口座数が大きくなり、コストをかけずにユーザー数が伸びてきている。プラットフォーマーの強さを感じる」と指摘。

 1人あたりの資産運用額がそこまで大きくないものの、アクティブユーザーが多いLINE証券のユーザーも、将来的には野村證券のユーザーに十分なり得ると分析しているという。