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「スマホで株式投資」のはじめ方【後編】――携帯電話を契約していると、どれだけお得? ドコモ・au・ソフトバンク・楽天で比較
2022年3月31日 00:00
資産形成の一環として、これから株式取引にチャレンジしたい。なるべく簡単に、少しでも得したい。その時、自分が契約している携帯電話会社(キャリア)の系列証券会社をチョイスする価値はあるの? そんな疑問に答える特集の後編をお届けする。
まず先に結論を言ってしまおう。 「各キャリアともなんらかの優遇制度はあるが、中身はまったくバラバラ。自分の目的に応じて、お得度が高いと感じたら選ぼう」 ──ありきたりで恐縮だが、正直こう言うほかない。それくらい各社の方向性が違う。
そこで今回は、各社の特典制度を詳しく見ていこう。携帯電話を契約していれば無条件にお得になるケースかあるかと思えば、むしろポイント制度と深く結びついていることも……。とにもかくにも、まずは普段使っているキャリアの項目をチェックしていただければ幸いだ。
4社4様、キャリア系金融サービスの特典を比較
au 株式取引手数料が1%値引き、12カ月限定で投資信託積立は4%ポイント還元
今回紹介する4キャリアの中で、おそらく最も“攻めている”のがau(KDDI)だろう。三菱UFJフィナンシャル・グループのネット証券会社だったカブドットコム証券を株式公開買付によって取得し、2019年12月には社名を現在のauカブコム証券へと変更。auがグループとして金融サービスに注力する姿勢を明確に示した。現在は、auフィナンシャルホールディングスという金融持株会社のもとで、auじぶん銀行をはじめとした各種金融サービスが提供されている。
au携帯電話を契約していて、かつauカブコム証券で株式を売買する際には、手数料割引サービス「auで株式割」の適用を受けられる。
携帯電話契約と紐付けられている「au ID」を証券口座に登録すると国内現物株式手数料、国内信用取引手数料(1日定額手数料コースのみ)が1%割引される。
対象となる1日定額手数料コースは1日あたりの約定代金が100万円以下の場合はそもそも手数料無料で、100万円を超えてはじめて有料(2200円~)となるため、少額取引の初心者には縁遠い恩恵かもしれない。とはいえ、覚えておいて損はないだろう。
また、auの各種サービスを利用することで貯まる「Pontaポイント」で、株式を購入できる制度が2021年11月にスタートした。いわゆる「単元未満株」を買える「プチ株」サービス限定となるが、Pontaポイントで株式を本当に買える。また単元未満株を少しずつ買い集めていき、最終的に単元株にすることも可能だ。手元に貯まっている「Pontaポイント」は、よほどのことがない限り余剰資産のはず。その範囲でだけ株式売買するのも、1つの選択肢だろう。
ただau金融グループにおける目下の注目は株式取引ではなく、むしろ投資信託。3月28日にスタートする「投信積立 au / UQ mobile特典」がそれだ。
投資信託を積立で取得した場合、12カ月間の期間限定ではあるがau回線契約者なら毎月100円ごとに4ポイント(上限2000ポイント)、UQ回線契約者なら100円ごとに2ポイント(上限1000ポイント)、Pontaポイントが貯まるようになる。これにau PAYカード決済に対する1%還元を加えると、最大で5%分のポイントが貯まる。
なお、グループ内のauじぶん銀行とauカブコム証券の併用による優遇制度もある。銀行口座と証券口座間の資金移動をスムーズにする「auマネーコネクト」機能を設定すれば、auじぶん銀行の円普通預金金利が年0.10%(税引き後0.07%)になる。
ソフトバンク 加入者ならPayPayポイント増量特典多数ながら、直接の優遇はなし
ソフトバンクグループは傘下の決済・金融サービスを「PayPay」ブランドに一本化しており、証券会社も例外ではない。
それまでOne Tap BUYという社名だったフィンテック企業を2021年2月付けでPayPay証券に変更した。
PayPay証券では株式や投資信託の売買といった基本的な金融サービスを提供しているが、最大の特徴はコード決済サービス「PayPay」との連携だ。店頭やネットショッピングの決済で貯まる「PayPayボーナス(4月1日からはPayPayポイントに改称)」を、「PayPayボーナス運用」へと投資できる。なお同種のサービスは他の3キャリアでも展開中だ。
「PayPayボーナス運用」だけの利用であれば、PayPay証券の口座を開設する必要はなく、最低投資額も1ポイント(1円相当)から。アプリも「PayPay」さえあればよい。それていで運用によって利益・損失どちらかがキッチリと出る。
ただし「ソフトバンク携帯電話を契約しているから○○%得する」といった直接的な特典は現状ない。しかし、ソフトバンク携帯電話の契約者向けにPayPayボーナスを付与するキャンペーンなどは随時、行われている。当然「PayPayボーナス運用」への投資余地は高く、間接的な優遇にはなっている。
楽天モバイル 「楽天ポイント」の還元率に特典集約、最大で1%プラス
楽天グループは自社携帯電話サービスをスタートさせる以前から、「楽天ポイント」の付与率アップ施策を基軸に各種サービスを連携させていて、楽天モバイルと楽天証券もその範疇にある。
具体的には、貯まった楽天ポイントで投資信託を3万円以上購入(現金との組み合わせも可)すると、当月に楽天市場で商品を購入した場合のポイント還元率がプラス0.5倍となる。同じく米国株式を3万円以上購入してもプラス0.5倍となるので、フルに制度を利用すれば、楽天市場での買い物で1%トクすることになる。
この条件が適用されるのは4月1日から。ただし、そのほかにも楽天証券と楽天銀行の口座を連携させるサービス(マネーブリッジ)の登録が必要など、いくつかの条件を満たさなければならない。また18歳未満は制度の対象外となっている。
もう少し単純なキャンペーンとしては、楽天モバイル契約者が所定のサイトでエントリー手続きをした後に楽天証券の口座を開設すると2000ポイントが貰える。ただし月によって条件が多少違うケースもあるようなので注意を。なお、楽天証券には、株式取引手数料、楽天カードでの投資信託積み立て時などにポイント還元される制度があるが、これらは楽天モバイルの契約有無に関わらず適用される。
NTTドコモ 加入者なら資産運用サービスのポイント還元率がプラス0.5%
NTTドコモでは、おもに外部企業との提携を通じて金融サービスを提供中。中でもSMBC日興証券とは2021年7月付けで協業に向けた基本合意契約を締結している。
NTTドコモ回線の契約者がまずチェックしたいのが、2018年5月にスタートした「THEO+docomo」だ。こちらは株式取引ではなく、総合的な資産運用サービスだが、毎月の運用金額に対して1%相当のdポイントが付与される。この時、ドコモの携帯電話契約者なら付与率が1.5倍(1.5%)に増額。ほかにも、クレジットカード「dカードGOLD」の会員であれば毎月の運用手数料が優遇される。
前編でも少々触れたが「日興iDeCo for docomo」が2月にスタートしている。こちらは個人型確定拠出年金であり、投資商品のような流動性はないが、毎月の掛け金5000円に対してdポイントが1ポイント貯まる。システムの立て付け的には「日興iDeCo」(無印版)にdアカウント情報を紐付けると「日興iDeCo for docomo」として扱われるため、こちらは必ずしもドコモ携帯電話契約とは関係しない。なお、総じてSMBC日興証券では、株式取引など各種サービスの利用でdポイントが貯まる。
まとめ 株式取引手数料が割引」は少数派、トレンドは「貯まるポイントが増える」か?
以上、4キャリアの金融サービス特典を比較した。ここまでお読みいただいた方なら納得いただけると思うが、各社まったくもってアプローチが違う。携帯電話の加入契約の有無で株式取引手数料を割り引いているのはauカブコム証券だけで、完全に少数派だ。
一方で「ポイント」は、細部こそ違えど各キャリアに通底する戦略となっている。
auとNTTドコモでは、携帯電話加入をトリガーに金融サービス利用のポイント還元率がアップさせているし、ソフトバンクと楽天も、グループ内の別サービスとはやはりポイント軸でガッチリ連携している。
キャリアとは直接関係しない証券会社の例では、SBI証券がポイント施策に積極的だ。取引に応じて貯まるポイントはTポイント、Pontaポイント、dポイントの3種類から選択でき、さらに貯まったポイントで投資信託を購入できる。近年はよく「ポイント経済圏」の話題が取り沙汰されるが、小売店だけではなく、金融・証券の世界にもこれだけ浸透してきている。裏を返せばそれだけ、新規顧客の誘引、そして将来的な顧客囲い込みに効果を上げているということだろう。
キャリア4社のサービスを比較してみて、料率的なお得度ではauは頭1つ抜け出している印象だ。あくまで12カ月間限定だが、au電話契約者は投資信託の積立で4%のポイントが貰える。もちろん投資信託はリスクゼロの商品ではないが、それでもこの還元率は破格。正直なところ筆者も、この特典を利用して投資信託にチャレンジしようか検討中だ。もし機会があればその顛末もお伝えしたい。また、NTTドコモの加入者なら「THEO+docomo」に注目してみよう。
「株式取引」だけに注目すると、4キャリアのサービスにそこまでの違いはない。しかし投資信託の売買や、ポイントの貯まり方にも目を向けると一気に色彩は変わっていく。自分は株式取引がしたいのか? 投資信託に興味があるのか? とにかくポイントを貯めたいのか? 貯まったポイントの使い道を探しているのか? そうした嗜好・用途をベースに、資産運用との向き合い方を考えていくとよいだろう。