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「スマホで株式投資」のはじめ方【前編】――大手キャリアが次々参入、まずは証券口座を作ってみた

 携帯電話会社(キャリア)の間では、収益の道を端末販売代や通信料以外にも広げようと、事業を多角化させる動きが広がっている。中でも注目したいのが「金融サービス」だ。一部では、自社会員アカウントと証券口座をセット契約した客に特典をプラスするキャンペーンなどが導入された。

「スマホで株式投資」はかなり身近になった。近年は、キャリアが自社サービスと連携させる例が顕著だ

 政府としても2014年度に「NISA」、2018年度に「iDeCo」制度が相次いで創設。そして今年4月からは高校で金融関連の教育が必修化され、具体的には家庭科の授業に組み込まれる。老後に向けての生活防衛という意味ではもちろん、今後は若い層でも「資産形成のための金融」が意識されていくことだろう。

 そこで今回は、キャリア各社の金融サービスの中でも特に「株式取引(売買)」にフォーカスを当てる。auにおける実践例として、auカブコム証券の口座を筆者が実際に開設してみた。

「○○を買うとポイントが貰える」が金融商品の世界にも波及? キャリア各社の戦略を探る

 キャリアによる金融サービスへの注力傾向は、近年ますます鮮明になってきた。携帯電話は今や国民全員に浸透しているといってよく、ユーザーもまたスマホを起点に各種のサービスを利用したいと考えている。「ユーザーにとって最も身近な窓口」であるキャリアが、資産運用にこれまで興味が無かった層を掘り起こし、新たな市場を開拓しようと企図するのも、理解できる話だ。

 利用者を増やすための宣伝・マーケティング施策をどう展開するかという点でも、キャリアはなにかと有利だ。もともと実施しているポイント制度を絡めたり、別サービスとの連携によって取引条件を優遇するキャンペーンなどがすでに多数実施している。

 たとえばNTTドコモでは、証券大手のSMBC日興証券と提携。新たに開発した「日興iDeCo for docomo」(個人型確定拠出年金)」に加入すると、毎月の掛け金5000円ごとにdポイントを1ポイント付与する特典を2月からスタートさせた。

こちらはNTTドコモの例。SMBC日興証券と提携し、金融商品の一種である「iDeCo」(個人型確定拠出年金)」加入者に対して、掛け金に応じたdポイントを進呈している

 ソフトバンク系の決済サービス「PayPay」のアプリから利用できる「PayPayボーナス運用」も、類似のケースだ。PayPay決済に応じて貯まるポイントをETF(上場投資信託)で運用できるというサービスだが、提供主体は別会社のPayPay証券。まずは投資の世界に触れてもらい、いずれ本格的にPayPay証券を利用してもらおうという腹積もりだろう。

株式取引を始める前に

 金融サービスは種々あるが、真っ先に挙げられるのが「株式投資(売買)」だ。では、ユーザーが実際に株式取引などの金融サービスを利用するには、どんな手続きがあり、どんなポイントに注意すべきなのか。以下にまとめた。

専用口座を証券会社で作らなければならない

 キャリア系の金融サービスかどうかに関わらず、株式投資のためにはまず証券会社において専用の口座──証券口座──を開設するのが大前提である。株式の購入代金を月々の電話料金と合算して支払うといったことはほとんど想定されておらず、あくまで金融資産取引用の専用口座が必要で、本人確認も改めて実施しなければならない。

 各キャリアは、グループ内に証券会社を抱えていたり、グループ外の証券会社と協力・提携しているケースが大半。楽天モバイルと楽天証券、ソフトバンクとPayPay証券などの関係が分かりやすいだろう。各キャリアの公式サイトや関連アプリなどには大抵、これら証券会社へのリンクが用意されている。

スマホ1台あればパソコンなどは不要

 本稿の後半で詳しく解説しているが、証券口座の開設はそれなりに手間がかかる。各キャリアも配慮はしているが、いくら証券会社と密に連携していても、法律対応のために相応の手順を踏まなければならない。

 ただし、口座開設、口座開設後の各種取引については、基本的にスマホ1台あればすべて完結するとの認識で間違いない。もちろん株式のデイトレーダーのようになりたければ高性能なパソコンや大型ディスプレイが要るだろうが、入門レベルならばパソコン購入を検討する必要はない。

auカブコム証券のスマホアプリ「kabu.com」

取引には手数料がかかる 口座からの現金引き出し時にも

 株式の購入にあたって代金を支払うのは当然だが、その取引にあたっては手数料が発生する。全体の相場感を一口で説明するのは難しく、乱暴承知であえて説明するなら「取引金額の0.1~0.5%程度」だろうか。より大口の取引になれば割安な条件が適用されうケースは多い。このほか、所有している株式を別の証券会社へ預け替える時などにも手数料がかかる。

 原則として株式購入用の資金は、証券口座へ一旦預け入れることになる。その入金にかかる手数料については無料化条件を比較的クリアしやすいが、出金となると証券会社によってかなり温度差があるようだ(完全無料であったり、系列の銀行への振込時のみ無料など)。

 なお口座維持手数料(口座管理料)はかなりの証券会社で無料化が進んでいる。株式を買って、あまり売買せずに長期保持するといった運用ならば、手数料は最小化されるだろう。

大前提としてリスク(元本割れ)がある

 最後に言うことではないが、株式は日々取引額が上下しているため、高く買って安く売るとなれば損が出る。またわずかに高く売った程度では、売買手数料を吸収しきれない。さらに投資した先の企業が倒産するなど、株式の価値が限りなくゼロに近くなる可能性もある。

 株式投資は貯金ではない。余裕資金の範囲でだけ運用するのが、初心者にはなにより重要だろう。

 もちろん細部にこだわれば、注意点がこの数だけにとどまることはない。覚えるべき用語は沢山あるし、取引できる時間帯・営業日なども頭に入れておきたい。

 株式取引に恐怖を感じる一方で、やはり実際に株式を保有して気付いたこともある。筆者は2019年夏頃に「LINEスマート投資」で約1万5000円分ほど株式を購入(正確には『テーマ投資』という、数銘柄の株をセットにして売買する商品)した。それが2020年1月頃、コロナ問題が発覚したあたりから下落したものの、1回目の緊急事態宣言が話題になったあたりからグイグイ上昇。これから困難が予想されるのなぜか株価的には有利になっていく現状を見て、世の無常というか、投資家が時に狂乱する理由に気付いた次第だ。

これは筆者が契約している「LINEスマート投資」(4月8日でサービス終了)。コロナ禍でもドンドン株価が上がり、2021年9月頃にピークを迎えた

 おそらく株を買った人の数だけ、こうした体験はあるだろう。もちろん社会情勢などのニュースにも敏感になる。

 一度得して、その後さらに儲けを狙って、逆に坂道を転がり落ちる人もいる。しかし、社会人の経験として、“株に手を出す”ことへの意義は少なからずあるだろう。

auカブコム証券の口座を実際に開設してみた

 では、ここからはauカブコム証券の口座を開設してみよう。キャリア各社の中でもauは特に金融サービスに力を入れており、同じくグループ企業のauじぶん銀行ともサービス面で連携している。

 auのWebサイト内では、サービスメニューとして「auの金融・保険サービス」「auの資産運用」のページが設けられている。ここで「無料口座開設」のボタンをタップすれば、auカブコム証券の口座開設へと遷移するという流れ。また、コード決済アプリ「au PAY」の各所からも口座開設メニューへ移行できる。

 口座開設メニューを選ぶと、顧客情報の取り扱いに関する規約確認画面が表示される。規約をよく読んでみると、auが発行する「au ID」に紐付けられた情報をauカブコム証券でも利用する、とある。

auのWebサイトから、auカブコム証券の口座開設を申し込み
au IDの紐付けなどに関する確認画面

 規約に同意して実際に画面を進めていくと、その意味が分かる。氏名・フリガナ・生年月日・性別・登録電話番号・メールアドレス・住所などが申し込みフォームに仮入力された状態になっているのだ。もちろんau携帯電話を契約していなかったり、au IDを保持していないユーザーの場合は例外となるが、入力の手間が少しでも軽減されるのは良いことだろう(気味が悪いとの声もあるだろうが……)。

申し込み画面の個人情報入力フォームには、au IDに登録済みの情報が仮入力済みになっている

 ただ、証券取引口座の開設はこれで終わりではなく、想像以上に入力・登録すべき内容が多い。国籍、米国永住権の有無、勤務先(住所含む)はもちろん、いわゆる「インサイダー(内部者)」についても確認が行われる。

国籍などの確認も必要

 インサイダーの詳細は申し込みの過程で確認できるが「勤務先が上場企業や上場投資法人等の資産運用会社を支配する会社の方」「上場企業の主要株主、大株主の方または1年以内に上場企業にお勤めだった方」「(該当者が)同居家族にいる方」などの条件に該当する場合は、申込時にその旨を登録しなければならない。

 条件的には、上場企業に勤務する同居家族がいるだけで該当するため、対象者は想像以上に多いはず。十分注意されたい。

インサイダー確認は、まさに株式取引ならでは

 手続きはまだまだ続く。取引の種類・投資期間などは選択肢から選ぶだけだが、筆者が戸惑ったのは「納税方法」。株式売買などで利益が出たときの税申告をどのようにするか、選択しなければならい。

 実質的にこの項目は、開設口座を「一般口座」「特定口座」にするかの選択だ。auカブコム証券に限らないが、証券会社の証券口座は「一般口座」「特定口座」の2種類があり、どちらかを選ぶ。損益の計算、利益に対する税の源泉徴収の方法が異なるため、一概にどれがベストとは決めづらい。ただauカブコム証券では「カブコムにおまかせ」と称し、「特定口座(源泉徴収あり)」を勧めてくる。これだと税金の計算・納付の手間が顧客から見た場合に最小化されるからだろう。筆者も申し込みの段階ではよく知らない事象だったため、大人しく「カブコムにおまかせ」を選んだ。

「特定口座」「一般口座」も初心者には難しい概念だが、選択必須

 同じく「NISA口座の開設」もここで選択できる。NISAも最近よく耳にするが、とりあえず今回は興味が無かったのでスルー。具体的には「開設を希望しない・今後検討する」を選び、先送りにした。

 なお、auじぶん銀行の銀行口座開設についてもこの一連の流れで行える(筆者はすでに開設済みである)。

最近よく聞く「NISA」口座の開設もできる

自撮り&身分証明書の撮影で本人確認

 ここから先は本人確認を行う。オンラインで携帯電話を契約したり、銀行口座を開設した経験のある方ならご存じかと思うが、身分証明書を撮影してデータとして送信したり、あるいはスマートフォンでの“自撮り”などを組み合わせて行う。店舗窓口に足を運ぶ必要はない。

 必要なものは、auカブコム証券の場合は「マイナンバーカード」「運転免許証と(マイナンバーの)通知カード」のどちらか。筆者は例年オンライン確定申告をしているし、必要書類の撮影の手間が1つ分とはいえ減るので当然「マイナンバーカード」をチョイスした。なお、アプリなどのインストールも不要で、必要事項入力を行ったブラウザー上で直接、本人確認作業が行える。

「マイナンバーカード」「運転免許証と(マイナンバーの)通知カード」のどちらかを選択

 筆者のケースでは、最終的に5カット(回)分の撮影を行った。自撮りを2カット、マイナンバーカードを3カットという内訳で、画面の指示にしたがって落ち着いて実行すれば、特には難しくはないはずだ。

 自撮り(本人撮影)では、自分の顔面の真っ正面、左右どちらかに顔を向けた状態の撮影を行う。撮影時には目安となるガイドラインが表示されるので、それに合うようにカメラの距離を調整したり、顔の向きを変えればOKだ。また、画像は鮮明なほうがよいので、部屋の照明位置を意識したい。場合によっては昼間・屋外での撮影も検討しよう。

イラストによる解説をしっかり読もう
ガイドラインに合わせて撮影
顔の向きを変えてもう一度撮影
送信前に写りを最終確認できる

 マイナンバーカードの撮影は表面、裏面、そして厚みの3カット。これもやはり画面上のガイドラインに大きさなどを合わせればいい。なお、机の上にマイナンバーカードを置いて撮影する場合、自撮り以上に光源には注意。光の反射で文字が白飛びしてしまうからだ。

 また自撮り・マイナンバーカード撮影どちらも、撮影作業中は「正しく撮れているか」が不安だろうが、送信前には必ず実画像の確認が入る。ピントが合っているかの確認はそこで行おう。

今度はマイナンバーカードを撮影
こちらも送信前に最終確認

 画像の送信が終わったら、あとは初期パスワードの登録。これで申し込み手続きは完了だ。要した時間は22~23分ほど。本稿執筆のためにスクリーンショットを撮ったり、かなりこまめに確認しながら操作したため、一般的な方であれば5~10分くらいは短くて済むと思われる。

パスワードを登録
ここまできてようやく申し込み完了だ

 もうひとつ覚えておきたいのは、申し込みから実際の口座開設までに多少の時間がかかること。筆者は平日の夜21時台に申し込み、口座開設の連絡が来たのは2日後の夜20時だった。申請事項と本人確認書類の記載に齟齬がある場合などには、確認作業も発生してくるはず。一般的な通販サイトであれば「会員登録して商品購入まで5分」といったケースもあるだろうが、証券口座だとそうはいかない。

手続きの進ちょくは、申し込み確認メール内のリンクから確認できる
手続きが完了すると、ログイン用の口座番号がメールで届いた。筆者の場合、申し込みから2日後だった

まとめ 「フィンテック」株式以外にも多数の投資商品

 以上、株式取引の第1歩となる証券口座の開設方法をご紹介した。やはり株式取引は金銭が動くサービスであるし、なによりリスクと不可分。それだけに顧客への説明事項・確認事項が多く、実際に利用するところまで行き着くのはなかなか大変だ。

 ようやく口座を作っても、次にどの銘柄を買うか具体的に選ぶのも大変だ。自分が好きな商品を作っている会社の株を買おうと思いついても、実際には数十万円の資金が必要ということもある。まずは証券口座を開設したら、少し頭を冷やしてじっくり銘柄選定するのも良いかもしれない。

株価のチャートやら、「指し値」「成り行き」といった用語など学ぶべきことは多い。口座を作ったからといって焦らず、じっくり取り組みたい

 また、実際に取引できる金融商品は株式以外にも沢山ある。株式、不動産、債権などへの分散投資を専門家に委託する「投資信託」や、ほかにも「FX(外国為替証拠金取引)」などが有名だ。人間ではなくAIが投資判断を行う「ロボアドバイザー」は、IT技術と金融を深く結びつける「フィンテック(FinTech)」の中でも代表的な存在である。

 こうして「どこが一番手数料が安いか」「自分が気になる投資信託を取り扱っているのはどこか」などを色々考慮していくと、証券会社選びは意外と複雑になる。そこで次回の後編では、大手キャリア4社の金融サービスを詳しく比較する。