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NVIDIAの”得意技”が光る「5G/6G」向け技術、海外で進む事例とは

 NVIDIAは9日、通信ネットワークをテーマにしたウェビナー「NVIDIA テレコムウェビナー 2022」を開催し、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)や、6G、ネットワークインターフェイスなどへの同社の取り組みを紹介した。

画像解析AIなどの機能を低遅延で提供するMEC

 まず最初にNVIDIAのストラテジックアカウント本部 テレコム営業部 MECデベロッパーリレーションマネージャーの橋本祐樹氏が「MECビジネス概要とスケールのためのワークロード」と題し、同社のMEC分野への関わりを紹介した。

地域の問題、MECを含むインフラ、MECサーバー上で動くワークロード

 MECは、ユーザーから地理的・ネットワーク的に近い場所にサーバーを設置するという考え方だ。通信事業者による提供地域限定のクラウドサービス、というイメージになる。

 たとえば固定網ならば電話局、モバイルネットワークなら基地局に近いコアネットワーク内などにサーバーを設置する。すると、同じ電話局や基地局に収容されるユーザーは、サーバーまでのネットワーク経路が最小限となり、低遅延や通信の安定、信頼性の確保といったメリットがある。

MECの意義

 橋本氏はMECの意義について、データの「地産地消」にあるとする。地域のデータセンターで地域のデータサイエンティストが地域の課題を扱う、それがMECという考え方だ。中央集約的なクラウドと違い、地域ごとにエッジサーバーのデータセンターを設置することで、単一キャリアによる安心感や安定性、電力効率化などによる環境配慮、地域ごとに特化したコンピューティングリソースの設計などのメリットを得られる。

 橋本氏はMECの用途として、NVIDIAのGPUが得意とするような、AIなどのコンピューティングの事例を紹介する。

MECで使われる映像解析AIの用途

 たとえばMEC向けの映像解析AI(IVA=Intelligent Video Analytics)としては、公共施設での監視カメラによる自動監視、公営カジノなどでの人物認識、街角での交通制御、小売り店での万引き対策や無人店舗、製造業における検品や見守りといった用途がある。

 映像解析AIを使った無人店舗はすでに実用化されていて、橋本氏はパリのスーパーマーケット「カルフール」で使われている「AiFi」の事例を紹介する。こちらは店内カメラが撮影した映像を解析し、客が手に取った商品を自動カウントするというものだ。最後に無人レジの前に立つと、合計金額が表示されるので、あとは決済すれば退店できる。

インディアナポリス500での事例

 同様の無人店舗は、米国ではモータースポーツイベントのインディアナポリス500のポップアップストアでも利用されたという。こちらはベライゾンとAiFiが提供したもので、MECで映像解析が行なわれている。

 こうした映像解析AI処理をMEC上で行なえば、各店舗が個別にサーバー機材を設置・メンテナンスする必要がなく、初期コストや電力、手間を削減できる。期間限定のポップアップストアなどにも応用しやすい。中央集約的なクラウドに比べて通信の遅延が少なく安定しているMECなら、こうした映像解析以外にも、対話AIやAIによるOCRなどさまざまな用途に適している。

NVIDIAのvGPUでGPUを仮想的に分割し、クライアントマシンに配分できる

 こうしたAIコンピューティングは、NVIDIAのGPUが得意とするところだが、GPUの元々の役割であるグラフィック描写も、MECに適した用途だ。サーバが搭載するNVIDIAのGPUを仮想的に分割すれば、GPUを搭載していないクライアントマシンからも、GPUパワーを必要とする高度なグラフィックスを描写したり、映像の圧縮変換といった作業がこなせる。

 サーバー上で描写したグラフィックスを表示するとなると、通信回線の遅延や容量が問題となるが、MECであれば、クラウドよりも大幅に低遅延だし、帯域を占有する区間も短く済む。

カーボンニュートラルなどのグリーントランスフォーメーション(GX)もMECのキーワードのひとつに位置づけられている

 AIもグラフィック描写も、ユーザーがバラバラにシステムを構築すると、多大なリソースを消費することになる。最近はデータセンターの電力消費が国内でも全体の数%というレベルに達しているが、効率化したり、MECデータセンターに再生可能エネルギーを導入することで、コンピューティングの二酸化炭素排出量を減らすことにつなげられるのも、MECのひとつのメリットとなっている。

6Gのためのシミュレーションツール「Sionna」

 続いてNVIDIAのテレコムビジネスユニット エバンジェリストの野田真氏が「NVIDIAの6Gに向けた取り組み - Sionnaとは?」の題で6Gに向けたNVIDIAのソリューションを紹介した。

6Gのリサーチトピック

 現在普及が進んでいる5Gのあとの6Gがどのようなものになるか、現在は研究段階ではあるが、野田真氏はその研究対象として、「テラヘルツ波」「再構成可能なインテリジェントサーフェス」「ジョイントセンシング&コミュニケーション」「AIネイティブ エア・インターフェイス」「セマンティック・コミュニケーション」「セルフリー&ホログラフィックMIMO」といったトピックがあると説明する。

モバイル通信にはさまざまな処理が入るが、それらに機械学習(ML)を導入する、というアプローチ(出典はノキア)

 その中でも野田真氏は「AIネイティブ エア・インターフェイス」について注目する。これは業界でも注目しているトピックスで、通信信号処理のさまざまなブロックをAIに置き換えていくというアプローチだ。最終的にはエア・インターフェイス全体で機械学習AIが大きな役割を果たすとされている。

複雑な6Gのリサーチ

 このような新しい考え方の6Gだと、新しいリサーチツールが必要となるが、まだ最適化されたシミュレーションツールは少ないが、NVIDIAでは「Sionna」というオープンソースライブラリを公開している。このSionnaは6Gの物理層をリンクレベルでシミュレーションするツールだ。

Sionnaの概要

 このSionnaには近日中に高速レイトレーシング機能が追加される。地形や建物の形状データから、電波が届きやすいかどうかをシミュレーションし、無線スループットや信頼性を検証できるという機能だ。

Sionnaのレイトレーシングのイメージ

 「レイトレーシング」というと、もともとは光線の軌跡をシミュレーションし、反射などをリアルに再現した3DCGを描く手法だ。NVIDIAのGPU、GeForceシリーズでは近年の大きなテーマとなっている。しかし6Gでは可視光により近い特性のテラヘルツ波が使われることもあり、NVIDIAが得意とする3DCGの技術が通信のシミュレーションでも活用されるというわけだ。

高機能な専用プロセッサを搭載するネットワークインターフェイス

 最後にNVIDIAのシニアソリューションアーキテクトの野田孝氏が「DPU/SmartNICを用いた高速化技術やユースケース」と題し、同社のネットワーク製品を紹介した。

通信事業者の直面する課題

 近年のネットワーク環境では、通信されるデータの大容量化、セキュリティの重要度の高まり、クラウドネイティブへのシフトなどから、サーバーやインフラ側のCPUだけで通信処理をするのが限界に達しつつあり、NIC(ネットワークインターフェイスカード)に高度なデータ処理能力を持たせたSmartNICの需要が高まっている。この分野に向けてNVIDIAでは「ConnectX SmartNIC」という製品シリーズを展開している。

ConnectX SmartNICシリーズ

 ConnectXシリーズにはASICのハードウェアアクセラレータが搭載されていて、通信処理をオフロードすることができ、ホストCPUの負荷を減らすことができる。これにより、CPUに別の作業に割り当てたり、サーバー台数を減らすといったことにもつなげられる。ネットワーク処理に特化したアクセラレーターなので、CPUで処理するよりも効率が良く、電力消費も少ない。

BlueFieldでは従来のConnectXより多くのことをNIC上でできるようになる

 さらにNVIDIAでは通信処理に特化したプロセッサ、「BlueField」を開発している。NVIDIAではBlueFieldのようなプロセッサをCPU、GPUに続く第3のプロセッサ「DPU(データプロセッシングユニット)」と位置づけている。現在、第2世代までのBlueFieldが販売中で、第3世代のBlueField-3が2023年3月に、第4世代のBlueField-4が2024年以降に登場予定だ。

DOCAとそのエコシステム

 BlueFieldはパートナーエコシステムを構築していて、「DOCA」というオープンソースベースのアーキテクチャー上でソフトウェアを開発できる。GPUにおいて「CUDA」があるように、DPUにおいては「DOCA」を活用するという考えだ。

GPUDirect RDMA

 BlueFieldやConnectXは直接GPUのメモリを読み書き可能で、ネットワーク経由でGPUのメモリを接続するGPU Direct RDMAをCPUやCPUメモリ、PCIe帯域に大きな負荷をかけることなく、スループットを向上させられる。これは分散コンピューティングの効率を向上させる重要な技術で、多数の使用実績があるという。

vSphere 8でのBlueFieldのベンチマークテスト

 VMwareのvSphereを使った実例では、BlueFieldを使ったところ、CPUの12コアを使っていた負荷をBlueFieldにオフロードし、CPUの使用コア数を0とし、スループットは36%向上したという。