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京セラが「人間拡張システム」発表、身体/存在/認知能力を拡張

 京セラは、人間が持つ能力をテクノロジーで拡張させる「人間拡張」技術について、3つのシステムを開発したと発表した。「人間拡張」とは、眼鏡や補聴器といった人間の身体、存在、知覚、認知に関する能力を拡張させたり補助したりするもの。今回は、身体、存在、知覚認知に関する3システムが披露された。

歩行センシング&コーチングシステム

センサーとスマートフォン

 3つの小型ウェアラブルセンサーを装着したユーザーの歩行姿勢を解析し、歩行の状態や理想の姿勢をアドバイスするシステム。

 ワコールと歩行印象に関する研究を共同で実施し、今回はユーザーの印象や健康に関わる「日常生活の歩行」を、美しく正しくするためのコーチングシステムを開発した。

 発表会のデモンストレーションでは、スマートフォンの画面に、5つのパラメーターに基づき「ゆったりしとやか」「しなやかすいすい」「よろよろぶらぶら」「しゃきしゃききびきび」に分類されたチャートが表示され、現在の歩行姿勢がどこに分類されるかが視覚的にわかるようになっている。

小型センサー
センサーを内蔵したバンド
骨伝導イヤホンにセンサーを装着したようす
小型センサーを足、手首、頭に装着する
現在どの姿勢で歩けているかを視覚的に確認できる。歩行中は、なりたい姿勢に音声でコーチングしてくれる。

 また、ユーザーはなりたい姿勢を設定することで、音声によるアドバイスをうけられる。ユーザーは、アドバイスに従って歩くことで、理想の歩行姿勢に近づける。

 歩行後には、3つのセンサーから歩行スタイルを類推し、3Dアバターで歩行スタイルを確認できる。通常であれば、カメラを設置した室内などで撮影しデータを収集する必要があったが、今回は3つのセンサーを装着するだけで、大まかな歩行スタイルを確認できるという。

3Dアバターで作成された歩行モデル

 京セラ フューチャーデザインラボ 主幹技師の村上 エドワード氏は、「今後レジリエンス拡張やメタバース、eスポーツといった分野にも活用したい」旨をコメントし、今後も研究開発を進めていく姿勢を示した。

フューチャーデザインラボ 主幹技師の村上 エドワード氏

フィジカルアバター

 新型コロナウイルス拡大の影響でリモートワークが急速に広がった一方で、「リモートワーク中のメンバーの存在が忘れられてしまう」ことや、コミュニケーションのしづらさが課題となっている。

 今回は、リモート中のユーザーの“分身”となるフィジカルアバターをオフィスに設置し、360度カメラやマイクを通じオフィスメンバーとコミュニケーションを図るシステムを開発したという。

 アバターは、パソコンやスマートフォンから操作でき、オフィスの誰が(どこから)発言があったかをカメラ映像で視覚的に確認できる。アバターの顔は360度回転できるので、話したい相手と正面で会話することができる。

 アバターはほかにもうなずいたり、首を振ったりするアクションも用意されている。操作画面のアクションボタンを押下することで、オフィスのアバターがアクションをすることで、より人間らしいコミュニケーションを演出している。

パソコンやタブレットから操作できる。カメラ映像上の赤丸は、ここからの発声を検知している

 担当の第1研究課 責任者 杉本 武士氏は、アバターの顔がシンプルである理由について「できるだけシンプルなものを目指した。アバターから発声されることで、なんとなくその人の顔を想像できる効果もねらっている」とコメント。価格についても、低廉になるよう研究開発を進めているという。

第1研究課 責任者 杉本 武士氏

 また、操作方法について「どこでも操作できる」ことを重視し、ディスプレイ上での操作を行っているが、開発段階ではVRゴーグルなどのデバイスでの操作も試行されているとしている。

聴覚拡張ヒアラブルデバイス

デモで使用された骨伝導イヤホンとバイノーラルイヤホン

 日常生活であふれる多くの音から、必要な情報の収集を助けるデバイスが、今回の「聴覚拡張ヒアラブルデバイス」。

 骨伝導イヤホンとバイノーラルイヤホンに、今回のAIシステムを組み合わせることで、重要な情報に気づかせたり、その場で聞き返したりできる。

 たとえば、駅や空港のアナウンスや、接客現場など複数の作業を同時に処理する場面などでの活用が期待されているという。

 担当の主席技師 金岡 利知氏は今後の展開について、イヤホンやヘッドホン、補聴器など既存のデバイスに、今回の聴覚拡張システムをアタッチすることで、デバイスに付加価値を与えることも検討しているという。

主席技師 金岡 利知氏

 一方、プライバシー問題については「注意深く検討していかなければいけない問題」とし、録音という形にならないようその場で数秒間だけ聞き返せるようにしているとし、あくまで「記憶の拡張」程度になるようにしていると説明した。

「舞」をテーマにした人間拡張

 京セラの人間拡張システムには「舞」というテーマが立てられている。

 フューチャーデザインラボ所長の横山 敦氏は、この「舞は日本の伝統芸能である『能』をインスピレーションしている。能では、さりげない所作を今後の物語を大きく変化させている。人間拡張は、さりげない技術で人に寄り添う、さりげないサポートで大きな価値を出すことをイメージしており、ここから舞をネーミングした。」と説明。

フューチャーデザインラボ所長の横山 敦氏

 一般的な言葉とはなっていない「人間拡張」について、横山氏は「陰で多くの企業が人間拡張のビジネスを行っていると認識しており、すでに眼鏡や補聴器といった人間拡張デバイスが長い期間使われている」と指摘。

 今後については、「これまで養ってきた商品、システム、周辺の技術で新しい価値を作れる」とコメント。数多く登場しているウェアラブルデバイスだが、横山氏は「京セラが計画しているのは、京セラの技術だけでなく、多くの世の中の技術を取り入れ、『新しい価値』を作ること。人間をさりげなくサポートできる技術は、まだまだ無限の可能性があると思っている。オープンイノベーションを活性化させ、早く良い物を作りたい」と今後の研究開発を活発化させていく姿勢を示した。

 今回の3システムを含めた人間拡張技術については、10月18日~21日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される「CEATEC 2022」に出展する。