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急斜面を登る「四足歩行ロボット」でスマート林業を目指す実証実験、ソフトバンクと森林総合研究所
2022年6月29日 06:00
ソフトバンクと森林研究・整備機構 森林総合研究所は、電動四足歩行ロボットを林業で活用するスマート林業実現に向け、「ロボットが林業で担える作業を検証するための実証実験」を6月から開始した。
同様の実験は2021年度にも実施されており、林業の現場となる造林地や急斜面地でも、一定の条件下で電動四足歩行ロボットで安定した歩行ができることがわかったという。
今回は、電動四足歩行ロボットが実際に急斜面を登る様子や2022年度からの実証実験の内容をご紹介する。
林業の課題
森林総合研究所 研究ディレクターの宇都木 玄氏は、林業における課題として「国産材供給力の強化」を挙げた。
具体的には、国内の人工林の50%は伐採適期にもかかわらず、木材の自給率は40%以下にとどまっているという。
さらに、伐採後の再造林率が、伐採面積と比較して半分以下の状況が続いており、再造林を強化する必要があると指摘。
再造林が進まない理由として、「伐採利益より再造林経費の方が高くつく」ことや、急斜面地や伐採後の根などの障害物があることから機械走行が困難であること、それに伴う人手作業が多いことによる労働者不足などが挙げられ、これを解決するため「高い走破性があるモビリティ」が必要だと宇都木氏はコメント。
加えて、林業の課題として「鹿の獣害」が挙げられた。
猟師が減っていることに加え、鹿の生息地が拡大しており、再造林しても苗木が鹿に食べられてしまう被害もあるという。これらを含めた鹿などによる獣害は年間50億円以上になるという。
そこで、課題の解決に向け走破性が高いかつマルチに使え、小型で電動化できる機器として4足歩行ロボット「ボストンダイナミクス社の『SPOT』」に注目したという。
宇都木氏は、スマート林業のロードマップを示し、2050年の完全自動化/AI生産管理に向け、2030年には急斜面を含めた不整地でのムービングとハンドリングデバイスの開発を目指すとしている。
ソフトバンクの狙い
続いて、ソフトバンク CSR本部地域CSR企画室室長の安東 幸治氏から今回の取り組みの狙いを聞いた。
ソフトバンクでは、脱炭素への取り組みとして「2050年までに温室効果ガスの排出量ゼロ」や「再生可能エネルギーへの転換」を挙げている。
最先端技術によるカーボンニュートラル達成への取り組みの一つとして、環境負荷の軽減や林業の活性化を目指し、四足歩行ロボットでスマート林業の実現を目指す取り組みを続けるという。
安東氏からは、期待される実用化作業として、具体的に「防鹿柵点検」や「森林の調査計測」、「苗木や柵などの運搬」が挙げられた。2022年度の実験では、自己位置補正機能や歩行者追尾、歩行ルート作成、複数台による協調作業機能などを試験し、国家プロジェクト化を目指す。
昨年度の研究では、造林地での歩行試験で期待通りの成果を得られたとし、今年度での検証では「ロボットが林業でどのように役立つか」可用性を探る研究になるという。
安東氏は、これに加えて造林地における通信環境の改善にも取り組むという。
目指すものは、林業従事者の通信環境確保による労働環境改善や、ロボットなど機器間の通信環境確保。検証では、長距離Wi-FiやプライベートLTE「sXGP」による通信環境の改善を図る。将来的には低軌道衛星(HAPS)をバックボーン回線にした通信環境構築を目指す。
今回5G通信を利用しない理由として、ソフトバンク担当者は「5G回線の特徴である低遅延や広い帯域」が今回のスマート林業には過大なスペックであるとし、まずは通信環境を構築するということに焦点を当てた実証実験を行うとした。
なお、今回の実証実験は、2021年度に森林総合研究所とソフトバンクが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した、「NEDO先導研究プログラム/農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発」において実施されている。
NEDO スマートコミュニティ・エネルギーシステム部 統括主幹の小林 正典氏も登壇し、今回の実験を「大いに期待したい」とコメント。国家プロジェクト化が期待できる成果が出ている兆しが感じられた。
急斜面を登る四足歩行ロボット
森林総合研究所に設けられた造成地で、実際に四足歩行ロボットが自動で急斜面を上り下りする様子をご紹介する。
今回は、3つの角度から成るデモコースを合計2回上り下りするデモンストレーションが披露された。ロボットに備え付けられている6つのカメラを使って、カメラで捉えた映像から特徴点を見つけて自身の位置を把握し、自動的に走行する流れとなった。
当初、順調良く登るロボットであったが、下りにさしかかった段階で、ロボットが「しゃがむ」ように立ち止まる姿が見えた。担当者によると、コントローラーとなる端末が一般的なAndroid端末で熱暴走を起こしたという。デモンストレーションが実施された当時、近隣の最高気温は33.8度を記録(気象庁 つくば/館野の気象情報より)しており、直射日光によりデバイスの温度はさらに高温になっていたと思われる。
ロボット自体は、高温に耐えられる性能を持っているようだが、コントローラーとなる端末と通信ができなくなると、安全機能が働きロボットが自動的に「しゃがむ」ようにして停止するという。
また、坂の途中でロボットがひっくり返ってしまう光景が見られた。オペレーター(操作者)が起こすのかと思いきや、ロボットが自動的に起き上がることができた。デモンストレーションの流れにはなかったが、奇しくもロボットの多彩な機能を利用したデモンストレーションとなった。
デモンストレーションの後半には、一連の自動歩行がスムーズに披露され、今後の実証実験の発展と拡大が期待できる内容となった。