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IIJが「マイクロデータセンター」の実証実験、5G時代のコンピューティングの在り方とは

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、実証実験を進めているマイクロデータセンターを報道陣向けに公開した。

 データセンターとは、サーバーやネットワーク関連の機器を設置して運用するための設備や施設を指す。多くの現代企業にとって欠かせないものだが、24時間365日、コンピューターシステムを動かすためには、専門の設備と特化した技術者が必要不可欠。

 自社でそのような施設を持つほかに、データセンター事業者から借りたり、近年ではクラウド事業者の仮想サーバーを利用するいわゆる「IaaS」や「SaaS」といった手段がある。

 一般的にデータセンターの設備は、中核となるサーバールームに加えて電力供給やサーバー冷却、セキュリティといったものが挙げられる。特に巨大なものはハイパースケールデータセンターと言われ、非常に大規模な施設になる。

IIJの白井データセンター外観(IIJ提供)。6000ラック収容可能なサーバールームを備え、冗長化されたUPSや発電機、バッテリーを備える

冷蔵庫程度の大きさのデータセンター

 一方の「マイクロデータセンター」(MDC)は、冷蔵庫程度のサイズにデータセンターとして運用するための機能を搭載した機器のこと。

 インターネットイニシアティブ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 サービス開発課長の室崎貴司氏は「こうした小型のデータセンターが必要になってくる。どこにでもデータセンターをおけるコンセプトでMDCの開発に取り組んでいる」と語る。

 一般的なデータセンターと比較して設置が容易で需要に応じたスモールスタートやその先の拡張にも柔軟に対応できるという。加えて、専門の技術者を現地に必要とせず、遠隔で複数のマイクロデータセンターを一元的に監視・運用ができるといった特徴も備えるとしている。導入も運用コストも低く済むのも特長のひとつ。

 同社では、オーストラリアのマイクロデータセンター専業のZella DCとパートナーシップを締結。今回、報道陣には、IIJのデータセンターに試験的に設置されたZella DC製の機器が公開された。

 サイズとしては、3種あるラインアップの中でもっとも小さいもので全高は1m程度。通信設備の横や工場内への設置が想定されている。今回搭載されている機器は、熱を出すためにある実験用のもの。内部にはサーバーやネットワーク機器に加えて最下部にUPS(無停電電源装置)を搭載。オプションで上部に消火装置を取り付けられるという。

マイクロデータセンター。空調と合わせて150kg程度(機器未搭載時)

 横には室外機が設置されているが、これは機器の冷却のためのもの。外観からは確認できないが、本体下部に家庭用エアコンが横倒しのような形で設置されている。一般に普及しているメーカーのもので、故障しても対応が容易という。

室崎氏とマイクロデータセンター。コンパクトさがよく分かる
横に設置される5G(NSA)用設備

 前面は中が見通せるパネルが設置されており、ドアはカードキーをかざして開ける形でセキュリティを担保している。万が一の故障時などは遠隔での解錠もできるほか、修理などの作業を見通せるカメラが利用できる。

ダイキン製エアコンの室外機がある。室内機は装置の下に横倒しだという

 一方、今回のMDCが公開された白井データセンターの設備を見ると、広大な敷地の中にサーバールームや冷却設備などが立ち並ぶ。ここはIIJが提供するクラウドやネットワークの拠点であり、同社ユーザーの利用するIT機器も設置されているという。

 停電時のバッテリーや発電装置を備え、水冷の冷却設備は、貯水タンクも完備する。このタンクに水があれば、停電時でもサーバー室の冷却が可能。停電時でも1分ほどで発電機が起動するという。

IIJのデータセンター内のサーバールーム(IIJ提供)
空調設備と受電設備(IIJ提供)

実証実験の内容は

 今回の実証実験は、屋外環境に設置したMDCの設備としての性能や温度が上がってきたら必要のないプロセスを落とすなど自律運転のシナリオを検証するというもの。

 さらに、どこにでも置けるというコンセプト上、運用者が近くにいないことを考慮して、IIJのデータセンターインフラ管理システムから遠隔での監視・運用の検証も実施される。

 こうした実証を11月まで実施。その後は同社のデータセンター内でエッジコンピューティングのユースケースの実証を行う。ローカル5Gを組み合わせ、MDC内のMECとクラウドサービスを連携。ドローンなどを動かすような内容を想定しているとしている。

 室崎氏によれば、MDCの想定されるユースケースとしてエッジコンピューティング基盤として複数のMDCを一元運用。さらにポータブルなサーバールームとして、産業IoTやスマート工場、ファクトリーオートメーションといった低遅延や大容量ストレージが必要なアプリケーションといったものがあるという。

クラウドとエッジの両方が求められる

 室崎氏は、MDCやエッジコンピューティングの必要性について説明。5Gなどの存在により、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む一方で「現実的には大量のデータをクラウドだけで処理するのは厳しい」と語る。

 リアルタイム性やセキュリティ、コスト面を考慮するとクラウド上よりも手元のデバイスで処理するのが望ましく、故に今後エッジコンピューティングが伸びてくるとIIJでは予測しているという。そこで、これからのDX推進には、5Gとエッジコンピューティングを組み合わせたソリューションが重要と見ているとした。

 さらに室崎氏はクラウドとエッジの両者の特性を「脳」(クラウド)と「反射」(エッジ)と説明。生産ラインの不良品検出など学習モデルを必要とするものはクラウドコンピューティング、実際にその処理をするのは現場のデバイスで超低遅延で処理する必要があるのではと語る。

 クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングがお互いを補完する形でDXが進められていくのではと推測を述べる室崎氏。IIJでは、クラウドコンピューティングを担うハイパースケールデータセンターに加えて、コンテナ型のデータセンター、今回のマイクロデータセンターを取り揃え、これから求められるデータセンターに対する需要に応えていく構えを見せている。