インタビュー

「コロナ禍で人々はどう移動しているか」、スマホの人流データを毎日無料公開するAgoopが目指す社会貢献と今後の狙い

 「新宿ではより人が増えた」「品川では減った」――そんなデータが、日々、ニュースとして報じられている。

 これは、新型コロナウイルス感染症が登場した後、昨春から用いられている“人流データ”が重視され、活用されるようになったためだ。国では、「新型コロナウイルス感染症対策」のポータルサイトにおいて、日々、全国の主要な駅・繁華街における人流データを紹介している。

 そのデータ提供元のひとつであるAgoop(アグープ)代表取締役社長の柴山和久氏に、同社が手掛ける人流データから何が見えるのか。そしてAgoopの今後について聞いた。

柴山氏

Agoopの人流データとは

 今、ニュースや政府で活用される人流データ、つまり人がどこからどこへ動いたのか、という情報は携帯電話をもとにしていることが多い。

 Agoopでは、人の流れや速度を可視化したり、50m四方や100m四方、500m四方、1km四方という単位で地域を区切り、その場にいる人数を推定したデータを提供している。

 それらのデータは、スマートフォンから得られるさまざまな情報がもとになっている。わかりやすいのは現在地測位による位置情報だが、たとえば加速度センサーや角速度センサーからは端末の動く度合いがわかる。

 スマートフォンにはさまざまなセンサーが用意されており、それらをもとに、移動スピードや移動の方向、高度の情報、気圧の情報をAgoopでは、スマホアプリから取得している。

 人々が常に手元にスマートフォンを持つからこそ、見えてきた人の動き。そのデータはもちろん、匿名化が施されたもので、個々人の動きが特定されるわけではない。大まかな人の動きがわかるものであり、昨春からAgoopでは政府機関へ提供し、メディアでも活用されるようになった。

人流データから見えた人の動き

 「前日から10%人が減った」などと報じられる人流データ。Agoopでは同社Webサイトを通じて、主要な駅前などの人流の変化をグラフで開示している。では、そのデータがどういったものか。具体的に見てみよう。

新橋や渋谷の様子

 「サラリーマンの聖地」とも称される東京・新橋駅前は、数多くの飲食店が立ち並ぶ繁華街のひとつ。周辺はオフィスも多く、さまざまな人が訪れる場所でもある。

 しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、その駅前周辺に在留する人口は、拡大前の4割程度(2021年8月5日10時時点)まで減少している。

新橋駅周辺の人出

 一方、「若者の街」として知られてきた渋谷はどうだろうか。

 Agoopのデータでは、感染拡大前の46%減(8月5日13時時点)と、半減近くになっていることがわかる。

渋谷駅周辺の人出

 どちらの場所もコロナ前よりも大きく人出は減っている。しかし、昨年4月、初めての緊急事態宣言(2020年4月7日~5月25日)での人出と比べればその減少幅は限られていることもわかる。

 一方、首都圏で滞留する人が増えているのは、いわゆる住宅エリアだ。東京都江戸川区の葛西駅周辺を見ると、コロナ前と比べ、滞留している人は79%増えた(8月5日12時)。リモートワークが進み、「ランチなどで最寄り駅前に行く人が増えたのではないか」と柴山氏は分析する。

葛西駅周辺の人出
人流増減マップ

 同じような動きは葛西駅周辺だけではなく、さまざまな場所で見て取れる。千代田区・中央区・港区では流入や滞在が減少し、その外縁部の地域に人が増えた。

 渋谷や新宿、池袋という東京を代表する繁華街での人の動きを見ると、コロナ前と比べ夜間は減少している。しかしここ最近は、緊急事態宣言で多少減ってはいるものの、やや減少幅が小さいようにも見える。

歌舞伎町の人出(8月5日20時台)
渋谷センター街の人出(同)
池袋東口・サンシャイン60通りの人出(同)

開会式当日は

 7月23日~8月8日、東京オリンピックが開催された。アスリートたちの活躍が日々伝えられた中、ほとんどの競技会場は無観客となった。

 一方、Agoopでのデータを見ると、興味深い動きがわかった。たとえば国立競技場駅周辺は、7月23日、昼12時と夜20時どちらも人出が増えていたのだ。

 国立競技場周辺に多くの人が訪れたことは、当時も報道されたことだが、それがデータで裏付けられた格好だ。23日の昼は航空自衛隊の「ブルーインパルス」の展示飛行が実施された。また同日夜は開会式があった。国立競技場周辺を訪れたくなる理由があり、実際に人が動いたことがわかる。

人の動きが変わると何が変わる?

 報道や政府の広報では、人の動きを抑制し、感染の拡大を抑えようとする取り組みの中で、人流データが活用される場面が多い。

 だが、人流データが活用できる場面はそれだけではない。たとえば先にご紹介したデータのうち、オフィス街から人が減り、住宅エリアに人が増える動きからは、商圏をどう考えるか、という考察にもつながる。つまり、飲食店などを営もうとする立場からすれば、参考になり得るデータと言える。

 先にピックアップした場所のうち、新橋駅平均人口は、2019年と比べ、2020年は44%減となった。一方、葛西駅は20%増えた。これらのデータから導き出せる考察の一つが「飲食店」への需要の動き。シンプルに、新橋ではその需要が減り、葛西では供給が足りていないと言える状況だ。

災害対策にも

 そうしたビジネスの利用だけではなく、災害対策にも人流データは活用できる。

 約1年前の2020年7月に発生した令和2年7月豪雨では、熊本県人吉市周辺で大きな被害があった。

 その当時の人流データを見ると、駅周辺ではなく、「人吉スポーツパレス」「人吉西小学校」に人が集まっていることがわかった。

 また3年前の2018年7月に広島で発生した平成30年7月豪雨では、山陽自動車道が通行止めとなり、迂回路である国道2号線で渋滞が発生していたことが、Agoopのデータ分析でもわかった。スマートフォンの加速度センサーからそのスピードや動き方から、現地の様子が推察できたわけだ。

 はたまたスマートフォンの気圧センサーを使うことで、刻々と変わる気圧の様子もわかる。

 これらのデータは、人がどこへ避難し、救援物資を届ける際にはどういったルートを使うべきか、といった判断材料のひとつとして、人流データを活用できると言えそうだ。

スマホの動きで社会課題解決へ

 筆者は8年ほど前、柴山氏とAgoopへ当時話題だった「ソフトバンクの接続率」について取材したことがあった。

 「かつてはソフトバンクのためだったが、人流解析がメインになっている」(柴山氏)と変化し、携帯電話の通信品質対策から、同じデータをもとに、今は人の動きを可視化し、さまざまな場面で活用できるようになってきた。

 Agoopでは、スマートフォンから得られるデータを、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で「見えるデータ」へ自動的にアウトプットできるようにしており、スピーディなデータ提供が特徴のひとつ。

 柴山氏は、今後のAgoopでの取り組みについて「コンサルティング」を挙げる。

 たとえば、2021年7月には、滋賀県日野町と「地域活性化包括連携協定」が締結された。町民にスマートフォンアプリ「WalkCoin(アルコイン)」をインストールしてもらうことや、公共交通の活性化などを目指すという内容だ。

 アルコインは、歩けば歩くほどアプリ内のポイントである「コイン」が貯まる。貯まったコインはAmazonギフト券などに交換できる。そのアルコインアプリをインストールしたスマートフォンから、匿名化したデータが活用されている。

 また公共交通では、人の動きや位置がわかることで、より適切な運行ルートや運行ダイヤの設計に向けてAgoopから町へアドバイスする。さらには防災計画や緊急時の避難などでの活用も視野に入れる。

 柴山氏は「データを解析し、『こういう施策がいいのでは』と提案するというもの。今後のAgoopでは新たな取り組みとして、単なるデータ提供から、レポートを提供し、さらにその情報活用の方法もサポートしていく」と説明。自治体や企業に向けて、ウィズコロナ時代、あるいは人口減少社会といった社会課題へ対応していくための取り組みを進めていく。