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ナイアンティック東京新オフィスが示す次のステップとは

 位置情報とAR(拡張現実)を組み合わせた「Ingress」「Pokémon GO」「ハリー・ポッター:魔法同盟」を開発、提供するナイアンティックの日本法人が、新たなオフィスへ移転し、26日、報道陣へ公開した。日本法人の社長である村井説人氏は「目指すものは2つある」と語る。

ナイアンティック新オフィス。左からPokémon GOのグローバルマーケティングを担当する須賀健人氏、日本法人社長の村井説人氏、マーケティング担当の足立光氏、アジア統括本部長の川島優志氏

グーグルからスピンオフ、すぐ設立された日本法人

 もともとナイアンティックは、かつてGoogle Earthなどを手がけたジョン・ハンケ氏により、グーグル社内のスタートアップとして創設された。

ケーキに記されたロゴマークは創設当初から用いられてきたもの。ちなみに同席したメディア関係者の多くはケーキを遠慮されていたが、筆者は遠慮なく食べた

 当初から、人々を外へ誘うことを掲げ、まずは「Field Trip」というアプリを提供。こちらは世界的にもあまり拡大しなかったが、2012年11月にβ版として登場した「Ingress」がグローバルで受け入れられ、熱狂的なファンを獲得した。Ingressを通じて世界中で、さまざまなスポット情報がユーザーから投稿され、その後、Google Mapのエイプリルフール企画を契機に「Pokémon GO」の開発がスタートした。

昨秋より提供されているIngress Prime
これまでのイベント
最大級のイベントである「アノマリー」は日本各地で開催されてきた。Ingressの華と言えるイベントだ
今後の予定

 「Pokémon GO」が正式発表された2015年9月(サービス開始は翌16年7月)の直前である2015年8月、ナイアンティックはグーグルから独立。それから約4カ月後の2015年12月1日、ナイアンティック初の海外法人として、ナイアンティックの日本法人が設立、初代社長に村井説人氏が就任した。

村井氏

小さなマンションの一室からオフィスビルへ

最初のオフィスのドア(2015年撮影)

 ナイアンティック日本法人のオフィス移転はこれで3回目。2015年~2017年は、都内マンションの一室に入居し、靴を脱いで入室するスタイル。それでも当初のスタッフ4人にとって広く感じたが、すぐに手狭になったと村井氏。

最初のオフィスでの写真
最初のオフィスの一角にはダーツや、トレーニング器具があった
2015年7月、最初のオフィスで川島氏を取材しているときに撮影した写真
2つめのオフィスでの取材対応中の写真(2017年4月撮影)

 そこで2017年に、もう少し広いスペースに移転した。それでもまだオフィスビルというよりもマンションとも呼べる建物で、コンパクトな形。そこへ2018年夏、東京を拠点に新たな作品の開発を進める「Tokyo Studio」を設立。新たなスタッフを採用してさらに規模を拡大し、村井氏は1年かけて新オフィスを選定、3回目の移転に至った。

SHIKKOKU(漆黒)と名付けられた部屋
屋外の様子がわからない
SORAと名付けられた部屋
RURIという部屋
入口入ってすぐのスペース。ソファや机などはすべてオーダーメイド。村井氏によれば入札の結果、東北の企業が木材を使う内装を手がけたという。日本の被災地に寄り添って活動してきたナイアンティックにとってはそうした点でも新オフィスは意義深い
インドや西海岸などの時刻を一覧で
Ingressのユーザーからの寄せ書き。「だいたいNIAのせい」「NIA仕事しろ」と愛憎入り交じったメッセージ

 新オフィスの会議室は、日本の伝統色をルーム名に採用。その部屋には、その伝統色を採用した椅子が設置され、海外から訪問する人にとっても日本の伝統色を覚えてもらえる形にした。ただ新しい椅子だけではなく、旧オフィスで用いていた椅子も引き続き利用される。

新オフィス、会議室前の廊下

 米サンフランシスコの本社(筆者はまだ訪問したことがない)には、瞑想用の部屋も2カ所あるとのことだが、今回、日本法人には和室が1カ所用意された。またキッチンや、将来的に授乳スペースなどへの転用を見据えた休憩室なども用意されており、働きやすい環境にも配慮。写真撮影はNGだったが、執務スペースの机は高さを変えられるものが採用されている。

キッチンスペース

 ちなみに今回、プレス向けに公開された部屋の机はかなりサイズの大きなもので、動かせるようにキャスター(車輪)が付いている。このキャスター、実はグランドピアノに用いられているものと同じもの。村井氏によればPokémon GOの開発をリードし、現在はTokyo Studio代表である野村達雄氏が「グランドピアノを置きたい」と希望。ピアノを置く希望は叶わなかったものの、キャスターだけはグランドピアノと同じものにしたとこぼれ話を語っていた。

グランドピアノ用のキャスターを机に
筆者に会議室を案内してくれる村井氏
少人数での利用を想定した部屋
執務室への扉は重々しい鉄製

日本発で目指す次の一歩

 日本法人の設立当初は、社長職だけではなく、パートナーとの交渉を担っていた村井氏だったが、ここ最近、新たにジョインしたスタッフがパートナーへの対応面を担当する形になり、マネジメントに専念することになった。

 そうした中、村井氏はこれまでのナイアンティックは、規模の小ささが、部署や担当ごとの垣根を越えて、自由にコミュニケーションするというメリットを自然と生み出してきたことを紹介。オフィスの規模を広げることになった今回、そうした自由なコミュニケーションの在り方を維持したいと考え、机の配置位置など、オフィス内のレイアウトも重視した。

 住所は非公開ながら、ビル内のフロアや周囲の環境も村井氏は重視したと説明。これは外への出やすさ、過ごしやすい環境など、「人々を外へ誘う」というミッションを掲げる同社ならではの哲学によるもの。

プレス向け説明会の会場に使われた部屋も折りたたみの仕切りで小分けできる
ナイアンティックスタッフのインスタント写真を飾る

 新オフィスへの移転は、ナイアンティック日本法人が規模を拡大し続けることを意味する。ユーザーやパートナーなどへ感謝する村井氏は、今後、ナイアンティック日本法人で目指したいことが2つあると語る。

 ひとつは2018年夏に設立した「Tokyo Studio」の成功を目指すこと。日本法人の開発拠点というよりも、グローバルでのナイアンティック全体での開発拠点という位置づけであり、「新たな開発を発信して成功させることがもっとも重要なミッション」と村井氏。

 そしてもうひとつが世界への発信だ。

村井氏
「東京オフィスは、日本だけではなく、アジア全体をカバーするビジネスの拠点として発展したい。世界に向けてどんな価値を提供できるのか、我々自身突き進みたい」

 村井氏は、自由なコミュニケーション空間をオフィス内で維持しつつ、新たな価値を新たなテクノロジーで生み出していくこと、それが社会への貢献になることを目指すとも語っていた。