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なぜ「Facebook」に360度動画やライブ動画チャットが追加されたのか――最高製品責任者のクリス・コックス氏に聞く

 世界最大級のSNSである「Facebook」の最高製品責任者のクリス・コックス氏が来日した。1日、日本のメディアとの会見に応じ、Facebookの根底にある考えと短期的、そして長期的に同社が目指すところを語った。

太鼓で学んだ「今のFacebook」にも通じること

コックス氏

 昨年1月以来の来日というコックス氏は、Facebookがまだ米国の大学生向けSNSであり、「The Facebook」という名称だった2005年に入社した。友人が投稿する文章や写真などが表示される「ニュースフィード」を開発したことで知られ、今ではFacebookで人事部門も統括し、Facebookという企業が掲げるミッション、価値の基準を策定し、Facebook内の企業文化を育成する役割もリードしており、トップレベルの幹部の1人だ。

 そんなコックス氏が、入社前、Facebook共同創業者であるダスティン・モスコヴィッツ氏に会ったとき、丸と丸を線で繋いだような図を見せられた。

コックス氏
「当時、ダスティンは、『Facebookはネット上の全ての人々を繋げられるシード(種)だ』と語っていた。この図はまさに、Facebookが成長するための根本となる概念だ」

 ソーシャルグラフの原形とも言える図を紹介するコックス氏は、学生時代の2001年、カリフォルニアで日本の太鼓演奏に出会う。部活として太鼓の練習を始めたが、まずは「間の練習」として、何カ月も太鼓を打つ前に静けさを学んだという。

太鼓を学んでいたころの写真。当時のコックス氏は長髪でヒゲを生やしていたというが、いったいこの写真の誰が……

 コックス氏は「音をコミュニケーションで使うために、まず体を使うということを初めて学んだ場でもあった」と振り返り、そこで得た考え方はメッセンジャーやInstagram、VRにいたるまで、“コミュニケーションがよりビジュアル(視覚的)になっていく”というFacebookの現在の考え方に通じる、と語った。

2017年はコミュニティにフォーカス

かつてのFacebookのオフィス

 2004年に米国の大学生向けSNSとして誕生したFacebookは、2005年になると高校生も利用できるようになり、2006年には法人、2007年には多言語化と徐々に利用対象を拡大した。その考え方は、2016年、2G(第2世代の携帯電話サービス)という低速なモバイル環境でも利用できるようにする、という形で現在にも引き継がれている。ちなみにそうした接続性向上のためには、太陽光で動く飛行機(ソーラープレーン)の実験も2016年に行っており、飛行機に搭載するレーザー通信などでインターネット接続環境を提供しようと試みている。

2G接続でも利用できるように

 今や「人と人を繋げ、世界をより良くしていく」というミッションを掲げるFacebook。次にコックス氏が示したのは、縦軸と横軸のグラフ。縦は人と人の結びつきの規模を示し、横はそこで利用される手段、といった具合で、たとえば縦軸は1対1の関係から、家族、近しい友人、全ての友人、地域などのコミュニティ、メディア、文化……とスケールが拡がっていく。

縦がコミュニティのスケール、横がコミュニケーションに使うツール

 コックス氏は「2017年は、コミュニティにとってFacebookは何ができるかという視点で製品を開発していきたい」と短期的な展望を示す。ここで言うコミュニティとは、職場や学校、学校の父兄、小規模な街、あるいは同じ病気を抱える仲間といったイメージだ。

AIへの取り組み

 いわゆるAIに関する取り組みとして、コックス氏は「現在は、何が見えるか、写し出されるかというところで、ニュースフィードや、InstagramのランキングにAIが活用されている」と説明。

 また視覚障害者向けに、ニュースフィードへ流れる写真に何が写っているか、回答してくれる機能を提供している。

「体験」の共有へ

 人々との繋がりが縦軸となる一方、コックス氏が示すグラフの横軸は、テキストに始まり、写真、動画、ライブストリーミング、そしてVRが配置されている。

 かつてはテキストで、自分の身の回りにあったことを報告する、といった投稿だったが、それが写真や動画になって、より豊富な情報をシェアできるようになった。それが、ライブ中継になり、さらには360度動画やVRコンテンツになり、自分自身の体験そのものを共有できるようになる。

「ビジュアルコミュニケーション」で体験の共有

 「10年前は何か言いたかったらテキストだけだった、7年前には写真をアップロードするようになり、今や動画を撮って共有することにも慣れてきている。次は、自分を取り巻く体験全てを共有する」と語るコックス氏は、2021年までにモバイルを通じた通信量の75%が動画を占める、という調査会社の報告を示す。

2021年、モバイルトラフィックの75%が動画になるという予測

 その先駆けとして、既にFacebookユーザーが友人へ動画をシェアする「Facebook Live」はFacebookに投稿される動画の1/5を占めており、その量は2016年の4倍に成長した。

 さらに5月24日には新機能「Live Chat with Friends」が追加された。これは、ライブ動画を見ながら、友人同士でチャットできるというものだ。

Live Chat with Friends

 日本でも高い人気を得たInstagramは、投稿後、24時間で消え、より気軽に使える「Instagramストーリーズ」を2016年8月にリリースしたところ、現在では毎日2億人以上に使われるまでになった。Snapchatの後追いとも言える機能だが、コックス氏は動画を気軽にシェアしあえる仕組みと位置付ける。

 Instagramは、2014年に長時間の動画を短く凝縮するタイムラプス動画の撮影機能、2015年に再生・逆再生を繰り返す動画を作れる「ブーメラン」をリリース。動画をより手軽に楽しめる環境を作り上げた。

カメラエフェクトを充実させている

 この流れはFacebookアプリ本体にも徐々に採り入れられている。カメラ機能では目や鼻を認識して「SNOW」のようなエフェクトを楽しめるようにした。またビジュアルアーティストがエフェクトを投稿できるプラットフォームも用意した。そのエフェクトを一般ユーザーが使えるというもので、たとえば米国の人気アーティスト、ブルーノ・マーズが投稿したエフェクトは、ある曲のビデオで使ったもの。ユーザーは動画を撮るときにそのエフェクトを選べば、ブルーノ・マーズのミュージックビデオと同じような動画を撮影できる。こうしたカメラエフェクトは、日本のユーザーもよく利用しているという。

ブルーノ・マーズのMV
同じようなエフェクトを一般ユーザーも楽しめる

 ARが進化していけば、机の上にあるカップにレイヤーを重ねて、画面上ではそのレイヤーに描かれたオブジェクトでゲームが楽しめる、といった機能も実現できるのでは、とコックス氏。既にカメラエフェクトのオブジェクト認識、ビジュアルトラッキングといった面でAIが活用されている。

机の上のマグカップに……
ARでイラストを重ねる
さらにそれでゲームまでできるように、という未来像。この機能はまだ実現していない

 VRもまた、ビジュアルコミュニケーションの一環として開発、提供される機能だ。Facebook上には、既に100万を超えるVR対応写真および動画が存在する。

VRコンテンツの対応もビジュアルコミュニケーションへの対応の一環

 ここ最近のFacebookは、Instagramやメッセンジャーなどコアのサービスに注力してきたが、今後5年は、今後勃興していくような新しいインタラクションを産みだすサービスの開発に注力する方針。10年後についてはFacebookを通じてより深く繋がるにはどうするか、という視点で開発していく。コックス氏は「日本はビジュアルコミュニケーションやビジュアルカルチャーが最も発達している国。これからも学びたい」と意気込む。

震災にも対応

 Facebookの進化は、ビジュアルコミュニケーションだけではない。

 2011年の東日本大震災を受けて、Facebookでは、ユーザー同士が安否確認できる「セーフティチェック」という機能を開発。リリース以降、これまでにグローバルで600の出来事で利用された。こうした形で、機能が開発される例は他にもあり、数千人、数万人のアイデアが寄せられる。

 コックス氏は、何かユーザー自身に重要な問題が発生すれば、Facebookの利用が高まると感じていると説明。2016年4月の熊本地震では、Facebookを通じて日本のユーザーだけではなく、世界各国のユーザーから声援が寄せられた。

10年、15年先は「眼鏡型」

 先述したようにソーラー飛行機まで開発しはじめたFacebookは、今春、高品質な360度動画を撮影できる新型カメラを開発した。この技術は、カメラメーカーや、映像製作会社にライセンスを提供していく考え。

Facebookの10年先まで見据えたロードマップ

 ハードウェアの開発まで視野にいれた活動を行うFacebookはどういった視点で投資を決めているのか、という問いに「我々のプラットフォーム上でユーザーがどう利用しているか、将来どう使っていくのか予測しながら決めている。それに加えて、テクノロジーのビジョンとして面白いものは何かという先見性を持って決めている。今ならARやAI、グローバルでの接続性の向上といったものになる」と語る。

 さらにポストスマートフォンのユーザーインターフェイスは? という未来への展望を投げかけられたコックス氏は「10年、15年後ならば、アイウェア(眼鏡型)だろう。ポケットに入っている携帯電話を取りだして、という行動はなくなるのではないか。写真やメッセージなど見たい情報がオーバーレイされて、どう選ぶか、OS上で利用できるようになるのではないか。歴史上、UIの変遷は、普段自然にやっていることに近づいているように思う。手を使ってタイピングしていたものが、コミュニケーションでは目や口を使うといった形になるのでは」と予測した。