インタビュー
気になるスマホのあの機能
気になるスマホのあの機能
MWCで披露された富士通の虹彩認証システムのすごさ
(2015/4/22 16:14)
富士通は、3月にスペイン・バルセロナで開催されたイベント「Mobile World Congress 2015」において、スマートフォン向けの虹彩認証システムを披露した。携帯電話向けには、フィーチャーフォン全盛期から指紋認証に取り組み、セキュリティに対する意識が高いユーザーを中心に同社の端末が人気になっていた。
こうした中、2012年にアップルが指紋認証技術開発のAuthenTec社を買収し、2013年発売のiPhone 5sから指紋センサーを搭載しはじめた。同社と熾烈なシェア争いを繰り広げるサムスンが2014年発売のGalaxy S5から指紋センサーを搭載、さらにファーウェイもAscend Mate7に指紋センサーを搭載した。
スマートフォンでの指紋認証が一般化し、「指紋認証と言えば富士通」というイメージが薄れつつある中で同社が発表したのが、今回の虹彩認証システムだ。
生体認証を使いやすさにつなげる工夫
富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 モバイルプロダクト統括部 第二プロダクト部 シニアマネージャーの今村誠氏は、「富士通は情報を守るということを大事にするとともに、それをどう使いやすくしていくかということを考えてきた」と振り返る。同社では、当初はセキュリティの認証に使うだけだった指紋センサーにボタンとしての機能を追加したり、指紋認証と組み合わせて多数のIDやパスワードを安全に管理できる「パスワードマネージャー」といったアプリケーションを用意したり、使い勝手を向上させるような取り組みを行ってきた。
今村氏によれば、虹彩認証については2年以上前から開発を進めてきたという。パソコン向けには指紋認証に加えて静脈認証機能も搭載している富士通だが、同氏は「静脈認証機能をスマートフォンに実装するのはサイズの面で難しい。将来的にはディスプレイに手をかざすと静脈認証が行えるようになるかもしれないが、使い勝手の面でそれでいいのかという議論もある。理想はユーザーが手に持っただけで、その人だと認識できる形」と、静脈認証ではなく虹彩認証に取り組んだ事情を説明する。
虹彩認証をスマホに搭載する難しさ
虹彩認証は、人間の目の瞳孔の外側にある虹彩と呼ばれる環状の部分の皺のパターンを読み取って同一人物かどうかを認証する技術だ。皺のパターンを読み取るという点では指紋認証と同じ仕組みだが、スマートフォンへの搭載にあたっては、センサーを顔の前にかざすような形では使い方として不自然になってしまうため、普通に端末を手に取った際の距離感で虹彩の模様を読み取ることが最も難しかったという。
今村氏は「虹彩認証のエンジンはDelta ID社のActiveIRISを使っているが、このエンジンで認識できるようにするところに苦労した。可視光のカメラだと模様が見分けづらいので、赤外線カメラを使うことにした。しかし、ユーザーが普通に使う距離感で虹彩を撮影しなければならない。当然、赤外線LED照明もその距離で届く必要がある。現在は25cmがベストだが、40cmぐらいの距離までは認識可能にすることを目指して開発を進めている」と語る。
もちろん、こうした仕組みをスマートフォンに搭載する上ではモジュールのサイズも重要になる。同氏によれば「小型化がポイントの一つで、スマートフォンに入れられるサイズに収められたところが大きい」のだという。
暗闇でも認証可能
端末に顔を向けることでロックを解除できるソリューションとしては、Android 4.0から顔認証(フェイスアンロック)機能が標準で搭載されるようになったが、顔写真や動画を見せることでロックを解除できてしまうといったセキュリティ面での弱さや、端末に搭載されている通常のインカメラを使うため、暗い場所では認証できないといった使い勝手の悪さが指摘されている。
富士通が開発した虹彩認証システムが注目されるのは、これらの課題を同時に解決してくれるからだ。今回の取材に際し、実際に真っ暗な部屋の中で試作機による認証デモを行ってもらったが、一瞬で認証が行われた。赤外線を使うことから屋外では強い日差しの影響を受ける可能性もあるが、この点については製品化に向けて影響の最小化を図っているところだという。
同社によれば、2015年度中にこの機能を搭載した製品が発売される予定。「虹彩認証機能を搭載したスマートフォンからは指紋センサーを外す方向で検討している」(今村氏)とのこと。早ければ例年ゴールデンウィーク明けに発表される夏モデル、遅くとも秋に発表される冬~春モデルで、初の虹彩認証対応スマートフォンが登場することが予想される。