インタビュー
富士通「ARROWS NX F-04G」開発者インタビュー
富士通「ARROWS NX F-04G」開発者インタビュー
スマホ初搭載の虹彩認証などで“一瞬”という心地よさを実現
(2015/5/27 14:26)
富士通の携帯端末というと、ハイスペックなだけでなく先進機能を他社に先駆けて搭載したモデルが登場することが多いが、この夏モデルの「ARROWS NX F-04G」はその傾向にさらに磨きがかかっている。WQHD(2560×1440)のディスプレイや最新のプロセッサーなど、最新最高のスペックに加え、スマホとしては世界初となる虹彩認証機能とTransferJetを搭載している。
虹彩認証は文字通り、虹彩(眼球の黒目部分)を使って個人を識別・認証するという技術だ。インカメラと同じラインに搭載された専用カメラを自分の顔に向けるだけで、ほぼ即時に認証が行える。実際に試してみるとわかるが、まるで手品のような機能だ。その一方で他人受け入れ率は虹彩認証では10万分の1程度と、高い精度となっている。
富士通というと10年以上、ケータイに指紋認証センサーを搭載してきたメーカーだが、その富士通が指紋認証を搭載せず、新たに虹彩認証を採用したという点でも、ARROWS NX F-04Gは注目の端末と言える。
今回はそのARROWS NX F-04Gについて、富士通のユビキタス戦略本部 モバイルプロダクト統括部 第二プロダクト部の筒井万紀子氏、ユビキタスビジネス戦略本部 先進開発統括部 ヒューマンセントリックエンジン開発部 マネージャーの北村卓也氏、富士通デザイン サービス&プロダクトデザイン事業部 デザインディレクターの板野一郎氏にお話を伺った。
テーマは「一瞬」という心地よさ
――今夏のARROWS NX F-04Gはいろいろな機能が搭載されていますが、全体のテーマのようなものはありますか?
筒井氏
今はスマホは、どの機種でも、ほぼ不満なく使えます。しかし、思ったことがすぐにできない時など、ちょっとだけストレスを感じる瞬間があります。だからこそ心地よく使えるように、「一瞬」でできる心地よさをテーマに商品企画をしました。大きな特徴は4つあります。
まずスマホを使うときはロック解除から始まりますが、ここに一瞬でユーザーを認識し、認証する虹彩認証を搭載しました。
次にカメラもよく使われている機能なので、一瞬で撮れるよう、オートフォーカスを高速化しました。
3つめに、スマホではいろいろなコンテンツを楽しめますが、大容量コンテンツも一瞬で楽しめるよう、高速ダウンロードを強化しています。
最後に、スマホとしては世界初となるTransferJetに対応しました。一瞬でコンテンツを共有できます。
ほかにもWQHD解像度のディスプレイなども他社にはない特徴です。機能で言うと主なポイントは以上の4つですが、デザインも今回はこだわっています。
板野氏
デザインについて、大きく伝えたいことは2つあります。1つめは今回の製品の特徴でもある虹彩認証に注目してもらいたい、ということです。富士通の端末は元々、ディスプレイの上側部分にさまざまなセンサーが搭載されており、今回は虹彩認証も入ってますが、そこで実現する利便性が特徴となっています。その頭部分に注目して欲しいということで、「ヘッドライン」に質の高いパーツを採用しました。このヘッドラインにまず注目してもらい、この端末が何者かをわかってもらいたいと考えました。
もう1つの特徴は、「アイリスグリーン」です。この色は、デザイン面だけで思いついた色ではありません。実は虹彩認証のカメラ部分、ここはレンズが美しいグリーンになっています。これをデザインのポイントとしてフィーチャーし、この端末の色として強調できれば、特徴として際立たせられるのでは、と考えました。
ですから、いろいろな部分にアイリスグリーンを使っています。カタログやWebコンテンツなどにも採用し、「虹彩認証といえばアイリスグリーン」と認識していただければいいなと考え、フィーチャーしました。
北村氏
虹彩認証については、「一瞬」というコンセプトと合致する技術ということで作り込みました。
虹彩認証自体は、海外では空港や住民管理で使われています。これまではどうしても大がかりな装置になっていて、このサイズで実現するには課題がいくつかあるチャレンジングなものでしたが、今回、スマホに搭載するまでこぎ着けました。
――先ほどのレンズの色というのは、赤外線カメラだからですか?
北村氏
赤外線を透過し、ほかの色は透過しにくい、つまり赤い色以外、青や緑を反射するので、こういった色に見えます。
板野氏
この色は必ずコアとして残ります。ホワイトのカラーバリエーションではこの部分だけ、アイリスグリーンで主張しています。
――カラーバリエーションごとに色の入れ方が違うのが面白いですね。
板野氏
そうですね。プロモーションカラーのアイリスグリーンは、全身がアイリスグリーンになっています。
ブラックは差し色と呼んでいますが、トピック部分だけアイリスグリーンを入れています(虹彩認証カメラのレンズ周囲と本体上端)。虹彩認証を使うときはここを見て下さいよ、ということです。ちなみにUI画面にもアイリスグリーンを取り入れ、デザイン的に一連性を狙っています。
ホワイトに関しては、色的にピュアさを求める人が多いので、カメラのレンズ部分だけアイリスグリーンで、あとは無彩色でまとめています。
――デザインのテーマは?
板野氏
デザイン的には、「無駄をそぎ落とす」ということがテーマとしてありました。前の端末に比べると、かなりシンプルになっていると思います。
――今回はARROWS NXもメタルパーツが使われています。業界ではメタルフレームがちょっと流行していますが、これをどう見ているでしょうか。
板野氏
お客様の求める方向をデザインに取り入れよう、と考えています。今はシンプルでミニマムなものが求められています。金属パーツを使うメリットとしては、頑丈そう、強そう、あるいは高級そうに見えるといったところがあります。そういった価値をピンポイントに訴求したいところに導入しました。
――金属パーツは上端のヘッドラインのみですか?
板野氏
側面のキーにも使っています。ヘアライン加工やダイヤカット、アルマイト処理、ブラスト処理など、深い処理をしていて、かなり手間がかかっています。このあたりに日本の物作りらしさを表現できているかと思います。
背面も単純にカラーを見せるだけでなく、グラデーションやヘアライン加工を加えました。ホワイトもよく見るとディンプル模様が入っていたりします。そういったところで金属パーツもそれ以外でも、一手間かけています。
ディスプレイ上部の“激戦区”に虹彩認証機能を実装
――虹彩認証は今年3月の展示会(Mobile World Congress)でも試作機を試しましたが、当然ですが、それよりもだいぶ使い勝手が良くなっていると感じました。
北村氏
試作機はアタッチメント型でしたが、今回は内蔵しています。そういったところの使いやすさは向上しています。
うまく使えない人にどのように使ってもらうか、最初に1回だけ試して「もういいや」にならないようにするにはどうすれば良いかを議論し、使い方やコツなどを掲載した説明サイトを用意しました。メニューからそちらのサイトに飛べるようにしています。「使いにくいな」と感じられたとき、どうすれば良いかわかるようにしました。
――そういえば設定しないでも虹彩認証だけを試せるアプリがプリインストールされていますね。通常、この手のアプリは展示用だったりしますが。
筒井氏
まずは虹彩認証をどのようなものか体験していただきたい、ということでプリインストールとしました。
北村氏
端末を実際に使用中の人がほかの人に虹彩認証を試してもらいたいというとき、普通はデータや設定を削除・変更しないといけなくなりますが、このアプリならばすぐに体感することができます。
――画面をタッチするとスリープ状態が解除されるのは使いやすいですね。
筒井氏
従来端末では指紋センサーでオン/オフしていたユーザーが多いかと思いますが、指紋センサーがなくなるので、片手でも簡単に、ということで搭載した機能です。
――そういえば指紋センサーは搭載していませんね。
北村氏
複数の生体認証を組み合わせるのは、これから出てくる話かな、とも思っています。今回は指紋認証の代わりに虹彩認証ということで、虹彩認証だけを搭載しています。
――ずっと搭載してきた指紋認証をなくして、虹彩認証だけにするというのは、それなりに覚悟が必要なのでは。
北村氏
そこは気合いを入れてやりました。
――指紋センサーに比べると、実装の難易度としてはどうなのでしょうか。たとえば実装容積などは。
北村氏
そこは一概には比較できません。場所によって土地代(スペースの希少さ)が違います。背面の指紋センサーがついていた場所は、それほど激戦区ではありません。しかしディスプレイの上部分は“激戦区”です。初めてというところもありますが、ここに入れることにはかなり苦労しました。
――虹彩認証は指紋認証よりも他人受け入れ率が低いとのことで、認識速度も速く、簡単でストレスが少ないと感じましたが、弱点はないのでしょうか。赤外線カメラと赤外線LEDを使っていますが、赤外線を含む太陽光などの影響は?
北村氏
弱点は無い……と言いきってしまいたいところですが、赤外線を照射するものと赤外線を邪魔するものは苦手です。炎天下では太陽を背にした方が良いですし、光を透過しないサングラスやカラーコンタクトレンズなども苦手です。もちろん、端末側のカメラが汚れていてもダメです。
筒井氏
そうした使い方もコツを掴めるよう、サイト上や端末内で案内しています。
――パスワードマネージャーについては、以前から搭載されていましたが、より便利に使えそうですね。今後は法人向けにも応用されたりするのでしょうか。
北村氏
指紋でも虹彩でも、認証データ管理方法と社内システムとの連携部分ですね。そこはすでに法人向けに別サービスを提供しています。
――そもそも虹彩認証をなぜこのタイミングでスマホに搭載したのでしょうか。
北村氏
デバイスの進化が大きな要因です。いままでも大型装置では実用化されていましたが、スマホサイズに搭載できる小型で高出力な赤外線LEDが登場したことがポイントです。カメラ側もこの大きさで作れるようになったのはここ数年の進化のおかげですね。
――そういえば今回のモデルは横置き型の卓上ホルダを採用されていますね。
筒井氏
ユーザービリティの観点から採用しました。卓上ホルダ利用中も虹彩認証できます。
北村氏
(カメラの縦横が変わるので)卓上ホルダ利用時は片目で認証するようになります。
――片目だと精度が落ちたりしないのでしょうか。
北村氏
片目でも他人受入率は低下しません。
大容量コンテンツの受け渡しもTransferJetで快適に
――今回、カメラも強化されているとのことですが、どのあたりにこだわっているのでしょうか。
筒井氏
2013年冬モデルから、ARROWSカメラの考え方として、「簡単キレイに撮れる」をコンセプトにしています。他社だといろいろな付加機能があるかと思いますが、そういった部分はサードパーティのアプリがあるので、そうした付加機能に注力するより、本来のカメラの画質そのものがキレイになるように、と考えています。
具体的には、メインカメラは4K動画やリアルタイムHDRなどに対応しました。インカメラは顔認証などに対応しています。
カメラの使い勝手としては、たとえばプレビュー画像と撮った画像がシームレスに切り替わるあたりは使いやすいと好評をいただいています。オートフォーカスも独自技術で高速化し、1年前のモデルに比べると半分以下になりました。
――TransferJetも先日の説明会では大きな扱いになっていた印象です。なぜTransferJetを載せたのでしょうか。
筒井氏
高速ダウンロードをやっている理由と通じるところがありますが、コミュニケーションも大容量コンテンツの動画を使うことが増えているので、そういった中でデータのやり取りを瞬時に、ということで搭載しました。
板野氏
大容量データの共有するときに大きいですね。たとえば人に動画を見せたいとき、YouTubeなどを使いますが、やはりアップロードが遅く、ストレスがたまることがあります。ローカルなコミュニケーションですぐにデータを渡せるTransferJetは、やはり大きいです。ほかの通信も速くなっていますが、ARROWSは選択肢をたくさん持っているのがポイントです。
――本日はお忙しいところありがとうございました。