インタビュー

「IP-Phone SMART」担当者インタビュー

「IP-Phone SMART」担当者インタビュー

基本料金0円で自分専用の電話番号が使えるIP電話サービス

 フュージョン・コミュニケーションズは、今年6月からスマートフォン向けIP電話サービス「IP-Phone SMART」の正式サービスを開始した。昨年からβ版として提供されていたが、iPhone向け公式アプリの公開と同時に正式サービスへと移行した格好だ。8月にはAndroid版の公式アプリも公開されている。

 IP-Phone SMARTの最大の特長は、月額基本料金0円、つまり維持費なしで、自分専用の050電話番号を取得し、利用できることだ。通話料金も国内ならば30秒8.4円と、ケータイの標準料金よりも安い。公式アプリは無償で提供されているので、対応スマホを持っていれば、追加投資なしで利用を開始できる。通話時にデータ通信を行なうが、当然、通常の定額データプラン内で利用可能だ。

 今回はこのIP-Phone SMARTについて、サービスを提供しているフュージョン・コミュニケーションズの事業推進部 コンシューマービジネスグループ SMARTチーム リーダーの鈴木暁氏にお話を伺った。

フュージョン・コミュニケーションズの鈴木氏

――まずフュージョン・コミュニケーションズとIP-Phone SMARTの概要についてご説明をお願いします。

鈴木氏
 フュージョン・コミュニケーションズは、インターネットと電話を組み合わせたサービスを提供しています。全国の電話網を持っている会社はそれほど多くなく、そこが我々の強みです。このインターネットと電話網を組み合わせて、固定電話やケータイにも電話をかけられるIP電話サービスを構築しました。

 今回ご紹介するIP-Phone SMARTは、基本料金が無料で050の電話番号を利用できるIP電話サービスになります。IP-Phone SMARTはプラットフォームとして提供するもので、公式アプリのSMARTalkを提供していますが、別のアプリを使ってもらうこともできます。自由に使っていただける、というスタンスです。

 サービスの最大の特長は、月額基本料金が無料なことです。留守番電話も無料です。着信転送もライバルにはない機能で、ご好評いただいているかな、と思います。

――どうして月額基本料金を無料にしようとしたのでしょうか。

鈴木氏
 1年前にIP-Phone SMARTの企画をした技術の役員は、2000年にフュージョン・コミュニケーションズが設立され、マイラインをやっていたときからの人間でした。マイラインでは、電話網は使うけど、基本料金や初期費用は課金していません。ただ0038を頭につければ、電話をかけた分だけ当社に料金が落ちる、という形式でした。その原点があるので、なんとかそれをスマホ上で実現できないか、という考えがありました。

 マイラインでは、基本料金0円で、どこにかけても一律3分20円です。当時は電話する距離に応じて料金が変わっていましたが、その中でシンプルに、「どこにかけても3分20円」でやっていました。この料金体系をスマホで、と考えたわけです。こうした経緯があって、IP-Phone SMARTも基本料金は0円で、通話料も一律30秒8.4円で提供しています。各キャリアの標準的な通話料金より、60%安い料金でご提供しています。

 国際電話は30秒8円で提供します。ただしこれは通話できる国を32カ国に絞らせていただいています。通話先を主要な国に絞らせていただくことで、この料金で提供しています。

 こうしたサービスを提供する背景としては、ケータイ各社の料金プランの変化があります。フィーチャーフォン時代は、複数の基本料金プランから通話の頻度によって選んでいましたが、LTEになってからそれが選べなくなってしまいました。無料通話分もありません。このことについて認識している人は少なく、私もこのサービスを担当するまで意識していませんでした。

 通話料の部分を下げるとなると、たとえばソフトバンクのWホワイトだと、980円払って半額、とかになります。通常ですと、30分通話すると1000円以上かかり、しばらくしてから「スマホって高いよね」となるかな、と思います。このように全体的なケータイの料金が上がっているところに、我々のビジネスチャンスがあるかな、と考えました。

 IP電話は3Gだと厳しいかな、というところもありましたが、LTEだと比較的快適です。LTEが整備され、普及も進んでいるので、IP電話がもっと使われるようになるかな、とも考えています。

――やはり3Gだと厳しいのでしょうか。

鈴木氏
 速い3Gと遅いLTEを比べても、遅いLTEの方が良いくらいです。でも、速い3Gであれば問題なく利用できます。

――3Gだと通信方式によっては遅延もありますが、遅延の差も大きいのでしょうか。

鈴木氏
 大きいです。遅延については、我々のシステム側でもできることがあると思っているので、順次改善を行っています。

――国際通話も安価ですが、日本に滞在している外国人の利用も想定しているのでしょうか。

鈴木氏
 IP-Phone SMARTには日本の住所とクレジットカードが必要なので日本の方の利用を想定していました。しかし、リリースしてみると、楽天グループの中に外国人が多いのですが、そういった方にも高評価をいただいています。

 それから、フュージョン・コミュニケーションズのIP電話同士での通話が無料で可能です。フュージョンは長年法人向けにIP電話サービスを提供していますので、実は無料で通話できる番号はかなりあります。ご要望としては、アプリで電話をかけるとき、無料通話先かどうかを識別して、と言われていますが、そこについても前向きに検討しています。

――auやソフトバンクは時間帯制限があるものの同一キャリア間の通話が無料なので、そういったところはキャリアの音声通話を使って、というのも識別できると良いですね。

鈴木氏
 そうですね。公式アプリも電話をかけるとき、発信ボタンを長押しするとキャリアの音声通話で発信できたりします。このアプリだけでシーンごとに使い分けることができています。同キャリア識別機能についても、MNPができてしまうので技術的に超えなければいけない部分はありますが、検討していきたいと思います。

――公式アプリも配信されています。

鈴木氏
 公式アプリの「SMARTalk」、こちらはチェコのAcrobitsとの共同開発になります。IP-Phone SMARTは昨年から1年間、β版としてプラットフォームを提供してきました。その中で寄せられたユーザーからの要望としては、多かったのが「通話品質」と「バッテリー消費」でした。その中でまずは「バッテリーの消費」をアプリで改善できないか、と考えました。

 SMARTalkのベースとなっているAcrobits Softphoneは、プッシュ通知に対応するSIPアプリです。そこでAcrobitsに協力を依頼して、IP-Phone SMART専用のアプリを提供してもらいました。プッシュ通知に対応することで、アプリを立ち上げておく必要がなくなり、バッテリーを節約できています。

――SMARTalkは先日、Android版もリリースされました。Androidでは他のアプリから発信するときにも、キャリアの音声通話とSMARTalkのどちらを使うか選べて便利ですね。ただ、ちょっとまだ動作が不安定という声もあります。

鈴木氏
 端末や搭載しているソフトウェアなどによるのですが、一部のアプリから発信する際に落ちてしまう問題やプッシュ通知のステータス表示でエラーが起きる場合があります。ご利用の端末によっては全く問題なく使えていますが、現在検証を行っており、急いでフィードバック対応しているところです。

 なかなか難しいのは、Androidだと不具合の再現ができないことがあることです。どの機種のどのバージョンとか、Wi-FiではダメだけどLTEだと着信するとか。こういったあたりの検証に時間がかかっています。

SMARTalk(iPhone版)
SMARTalk(Android版)

――留守番電話などのサービスも無料で提供されていますね。

鈴木氏
 着信転送も提供しています。アプリ内ではできませんが、Webサイト上の設定画面から行えます。無条件に転送するだけでなく、設定した時間内に応答できないときにのみ、例えばケータイの090番号に転送する、といった設定ができるので、使い勝手は良いかな、と思います。

 これ以外にユーザーからの評価が高いのは、通話録音の機能です。ただし、元々のAcrobitsの仕様により、通話録音中、警告音が相手に流れるようになっています。これがユーザーに不評だったので、現在修正をしているところです(先日のアップデートでiOS版は修正済み)。

――IP-Phone SMARTはどういったユーザーの利用を想定されているのでしょうか。

鈴木氏
 当初はある程度リテラシーの高い方にご利用いただくことを想定していました。しかし、お問い合わせではビジネスで使っている方の声も寄せられていますし、想定しているよりも幅広いユーザーに使っていただいている感触も得ています。

――音質や遅延はネットワークに依存するかと思います。Wi-Fiであれば高音質で低遅延、というわけですよね?

鈴木氏
 そこは考え方次第です。SMARTalkの場合、Wi-FiではG.711、LTE/3GではiLBCという音声コーデックを使い分けるようになっています。ここは手動設定も可能です。LTEと3Gの判別はしていませんが、たとえばiLBCであれば、32kbpsあれば利用できます。たとえばフュージョン・コミュニケーションズが楽天ブロードバンドブランドで提供しているMVNOサービスのエントリープラスプランでは、月500MBを使い切ると256kbpsに速度制限されるのですが、このくらいでも普通に話せるかな、と思います。逆にポータブルWi-Fiルーターでこういった速度制限のある回線を使い、G.711で通話すると、音質が確保できないことがあるかも知れません。

――しかし、なぜ電話番号の発行までするIP電話サービスを基本料金0円で提供できるのでしょうか。ユーザーとしては魅力的ですが、裏側がどうなっているか、気になります。

鈴木氏
 基本的にはすべて、社内で行っているからです。フュージョン・コミュニケーションズは電話網を持っているし、IP-Phone SMARTのシステムも全部自社内です。サーバーコストだけなので、コストを削減できています。開発費用もそんなに膨大ではないので、基本0円で提供できています。ユーザーが増えれば増えるほど、ユーザー当たりのコストを抑えることが可能です。

 ユニバーサルサービス料だけは外部に支払うので、そこだけユーザーに支払ってもらう、という意見もあったのですが、あえてフュージョン・コミュニケーションズが負担させていただく形になっています。その分、通話をしてもらえれば、と。

――従来からも050番号のIP電話サービスを提供していらっしゃいますが、スマートフォン向けのサービスが加わったことで、050番号の発行スピードは伸びているのでしょうか。

鈴木氏
 確実に伸びていますね。IP-Phone SMARTもありますが、ほかのサービスも伸びています。特に法人向けのサービスで広告に掲載した電話番号の効果を測るサービスがあるのですが、このサービスが伸びています。

――IP-Phone SMARTは無料で提供されるとあって、申し込みが殺到すると、フュージョン・コミュニケーションズに割り当てられた050番号の枠が足りなくなるのではないでしょうか。

鈴木氏
 そこは調整しながらやっています。常に在庫の番号数を確認し、ほかのサービスや次の追加タイミングを見ながら、調整しています。

 規約では、12カ月請求がなかったお客様に関しては、解約扱いになると規定しています。このことについて、たまにお問い合わせをいただくのですが、解約の実施については、お客様の利用状況を見ながら時間をかけて基準を再検討しようかな、と考えています。

――通話発信時だけでなく、着信したときも、料金の収入があるのでは?

鈴木氏
 着信したときは、発信側のキャリアからアクセスチャージが支払われます。しかし、これはそこまで大きくありません。メインの収入源は発信時の料金です。それでも、050の電話番号が認知されれば認知されるほど、かけてもらうケースが増え、そこからの収入も増えて来ると思います。

――御社は楽天ブロードバンドブランドでLTEのMVNOも提供されています。そちらとの組み合わせた利用は?

鈴木氏
 MVNO環境での利用率は高いです。実際には楽天ブロードバンドかどうか、どこのMVNOかは把握できていませんが、問い合わせを見ると、MVNOの人は多いな、という印象があります。

 ここはプロモーションでうまく連携できれば、とも思っています。この間、SMARTalkの公式Twitterアカウントで楽天ブロードバンドのキャンペーンをつぶやいたところ、かなりの反響がありました。SMARTalkをフォローしている人は、こうしたことに敏感に反応するということがわかりました。両方ともスマホの料金を安くできるサービスですから。

――端末を含め、もっと連携ができると面白いですね。

鈴木氏
 検討しています。とくにMVNOは他社を含めて動きが加速していますね。

――IP電話サービスを自前で持っていないMVNOさんと提携するという可能性もあるのでしょうか。

鈴木氏
 あり得るとは思います。そもそもIP-Phone SMARTはプラットフォームなので、アプリ開発者の方々には自由に使っていただけます。そういったところで、プラットフォームを上手く使ってもらえる展開もあります。MVNOさんに限らず、一般のアプリ開発者などにも広く使ってもらえるプラットフォームにしていきたいと考えています。

――ずばり言ってしまいますが、ライバルはやはりNTTコミュニケーションズの「050 plus」なのでしょうか?

鈴木氏
 そうですね。でも、まだ050の電話番号自体が認知されないといけない段階です。他社と一緒に、この050のIP電話を広げていきたいと思います。まだユーザーの母数は限られていますが、そこはパイを取り合うのではなく、うまく共存しつつ、マーケット自体を広げていきたいです。

――ちなみに、iOSとAndroid、どちらがアプリを作りやすいのでしょうか。

鈴木氏
 やはりiOSですね。Androidは端末のバリエーションが多く、端末によって、プロセスを切ってもプッシュ着信する端末や、逆に立ち上げているはずなのに着信しない端末があったりします。OSのバージョンが一緒でも、端末ごとに扱いが違ったりするので、細かい対応が大変です。プッシュサーバーの仕組みも、iOS側は安定しています。そういった意味では、iOSの方が開発スピードは速くなります。しかし、iOSでは別のアプリからの発信にIP-Phone SMARTを使えないなど、できることに制限がありますね。

――Androidアプリは登場したばかりで不具合も見つかっているようですが、β版として提供する手もあったのでは。

鈴木氏
 お客様からAndroid版の要望はかなり多かったので一刻も早く提供したかったのは正直なところです。その上でβ版にしてしまうと、お客様からは「いずれやめちゃうんですよね」とか「β版だから基本無料なんですよね」とか言われてしまう事もあるんですよね。β版にしていないのは、当社として本気でここに取り組んでいる、というメッセージなんです。

――iOS、Androidと展開しましたが、たとえば将来的にTIZENやFirefox OSへの展開は?

鈴木氏
 直近でやるとしたら、まずはWindowsパソコンですね。それもどこまでニーズがあるかな、とは思っています。公式アプリ以外でもアクセスはできるので、現状でも汎用のSIPアプリを設定すればパソコンからも利用できてしまいます。ほかのプラットフォームについて、検討はしていますが、どこからやるかな、と模索している段階です。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

白根 雅彦