インタビュー
ファーウェイ商品企画担当者インタビュー
ファーウェイ商品企画担当者インタビュー
フラッグシップスマホや日本独自製品を投入する狙い
(2013/5/8 17:25)
ファーウェイはこの春、NTTドコモ向け「Ascend D2 HW-03E」とイー・アクセス向けに「STREAM X GL07S」の2つのスマートフォンを投入。いずれもグローバルで発表されたばかりのハイエンドモデルだ。
メインストリームのスマートフォンを発売する一方で、NTTドコモが販売するWi-Fiタブレット「dtab」や、キッズケータイやポータブルWi-Fiルーターといった製品でも、ファーウェイは確固たるポジションを得ている。このように非常に幅広いジャンルに商品を展開しているのも、ほかのメーカーにはない、ファーウェイならではの特長だ。
今回はファーウェイの日本における戦略について、ファーウェイ・ジャパンの端末統括本部 プロダクトセンター 商品企画部長の伊藤正史氏にお話を伺った。
――キッズケータイなど、日本独自に作り込まれている製品もありますが、そうした製品を提供されている背景や狙いとは?
伊藤氏
最初に日本市場に入るとき、まずは戦略的にポータブルWi-Fiルーターやフォトパネルといった、他社のやっていないニッチな製品から参入しました。キッズケータイは、事業者様としてもキッズ世代の新規ユーザー獲得による純増に寄与できるジャンルです。ファーウェイに日本向けの端末を開発できる能力があると評価していただき、キッズケータイを担当させていただきました。
――キッズケータイなどの日本向け製品は、事業者がどのくらい開発に携わっているのでしょうか。
伊藤氏
大まかな製品の要求はもらっていますが、どういった製品にするか、デザインなどはファーウェイ側で商品企画をしています。まずはファーウェイ・ジャパンで企画を立て、本社と協議して商品を開発しました。
――ファーウェイ・ジャパンのチームが商品企画を行っているのですか?
伊藤氏
そうですね。もちろん、グローバルモデルがベースとなっている端末は、ベースにカスタマイズを加える形式になります。しかし、キッズケータイはイチから開発しています。ファーウェイ・ジャパンのチームが商品企画を行い、本社と協議して、商品化に持って行っています。
――商品企画や開発にもコストなどがかかると思いますが、そのあたりはどのように本社と調整しているのでしょうか。
伊藤氏
ファーウェイ全体として、日本市場は戦略的拠点ととらえ、重要視しています。日本市場は機能や品質に対する要求がハイレベルなので、そこで受け入れられるような日本基準の商品を作れば、グローバルでも受け入れられます。日本市場向けの商品については、日本市場におけるプレゼンス向上につながるものとして、本社と協議しながら商品化しています。
――ケータイの防水仕様では日本が先行していますが、ファーウェイは防水仕様のAscend D2をグローバルに持って行きましたね。
伊藤氏
日本では、フィーチャーフォン時代からどのメーカーも防水ケータイを開発していました。ファーウェイはキッズケータイで防水端末を作り、その後、Ascend D2も防水にしました。防水は、先進国を中心に一定のニーズがあると考えていますので、ファーウェイのフラッグシップモデルに日本で培った防水技術を搭載し、グローバルに展開して行きます。
――先進国だけでなく、新興国やアフリカなど、ハードな環境でケータイを使う市場でも、防水にはニーズがあると思います。
伊藤氏
潜在的なニーズはあると考えていますが、やはり現地のお客さまの手が届く価格帯というのがあるので、そこはバランスかな、と考えています。
――防水にすると開発の手間やコストがかかるということでしょうか。
伊藤氏
そうですね。とくに最初にキッズケータイをやったときは、筐体の継ぎ目が曲線になっているので、防水性能を確保するのに苦労がありました。Ascend D2は、電池カバーが曲面になっているのですが、そこに防水パッキンを入れるという、日本のメーカーでもやらないような難しい技術にチャレンジしています。
――Ascend D2では防水仕様だけでなく、ディスプレイに水滴が付きやすい環境でも操作しやすい、というところにも取り組まれています。これはどういった技術なのでしょうか。
伊藤氏
防水のスマートフォンはたくさんありますが、実はタッチパネルは原理上、濡れると操作ができません。それを解決するためのソリューションを提供したい、と考えました。タッチパネルに水滴が乗ると、それが指だと認識されてしまったり、指が正しい位置で認識できない問題があります。そこでまず、ディスプレイの表面に、水滴を小さく分散させ、流れ落ちやすくするナノコーティングを施しました。さらにタッチパネルの制御そのものをチューニングし、濡れた指で触ったときも、誤認識しないようにしています。
――これはグローバル版と同じ仕様なのですか?
伊藤氏
グローバル版のAscend D2では、「マジックタッチ」という、手袋をしていても操作できる、という機能を搭載しています。ちなみにイー・アクセス様向けの「STREAM X」は、マジックタッチを搭載しています。こちらは制御のチューニングで対応しています。
――タッチパネルインターフェイスに力を入れてらっしゃいますね。
伊藤氏
そうですね。まずは機能やハードウェアのスペックだけでなく、新しいユーザーエクスペリエンス(UX)を提供することが重要かな、と考えています。水滴対策やマジックタッチは、今までできなかったことを可能にする、という面で、UXを広げるものです。
――そういえばAscend P2はグローバルで発表する直前に、日本ではSTREAM Xとして発表されていました。これはどういった背景があるのでしょうか。
伊藤氏
イー・アクセス様向けにはこれまでもさまざまな端末を提供していましたが、LTE対応のスマートフォンをご提供するに当たり、製品ポートフォリオにAscend P2があったので、それをベースにしたモデルをイー・アクセス様向けにご提供することになりました。結果としてSTREAM Xの方が発表がやや先になった形です。イー・アクセス様には魅力的な価格と一緒に戦略的に展開いただいて、お陰様でセールスも好調で、4月9日から1週間の新規契約の中ではAndorid販売で1位になりました(GfK調べ)。
――これまでのファーウェイによるイー・アクセス向けのスマートフォンというと、「Pocket WiFiにAndroidがついた」という感じでした。しかし今回はフルスペックです。これはやはり、イー・アクセス側に意識の変化があったのでしょうか。
伊藤氏
おっしゃる通りのところもあります。Pocket WiFi的なスマートフォンはありましたが、昨年あたりから、単なるPocket WiFiの延長ではない、ハイエンドのスマートフォンにも製品を広げていきたい、という思いが双方にありました。テザリングにももちろん使えますが、1台目としても使える端末として商品企画しています。
――ドコモ向けのAscend D2では、LTEのCategory 4に他社に先駆けて対応されています。こうした最新の通信規格にいち早く対応できるのは、ファーウェイの強みなのでしょうか。
伊藤氏
ネットワークの進化に追従し、最新のソリューションを最速でご提供できるのは、ファーウェイの強みです。
なぜそれができるかというと、もともとファーウェイが端末だけでなく、インフラも提供しているので、そこ向けに関連会社のハイシリコンがチップセットを開発しているということがあります。ネットワークの進化において、グローバルでもいろいろな事業者様とお話をし、3GPPなどに参加することで技術を蓄積し、どのタイミングでどの技術を提供するのが良いか、ロードマップを作って計画してきました。こうした積み重ねで、今回のCategory 4も他社に先駆け、提供することができました。
――TIZENやFirefox OSといった新しいプラットフォームが登場し、これらにも対応されるとのことです。また、ファーウェイはWindows Phoneも手がけていらっしゃいます。こうした全方位展開の狙いとは?
伊藤氏
マルチOSはファーウェイの強みのひとつとして定義しています。現在はAndroidがメインではありますが、今後もこのままなのか、というところです。Windows Phoneのスマートフォンも手がけていますし、TIZENやFirefox OSも、技術検討は進めています。OSダイバーシティを常に持つという意図で展開しています。
――グローバル市場では、もっと幅広いニーズに応えるために幅広いラインナップが必要、ということでしょうか。
伊藤氏
Ascendシリーズだけでもハイエンドモデルからローエンドモデルまで、D/P/Y/Gの4つのラインがありますが、やはり各地域、国に応じて、どの製品がスイートスポットかは変わってきます。グローバルではフルラインナップが必要です。日本ではDかPが中心ですが、逆にDとPについては、日本基準のものをグローバルに展開するようなことを考えています。
――Ascendというブランドは前面に出していますが、一方でキッズケータイやdtabなど、ファーウェイのブランドを出さない製品もあります。この使い分けにはどういった意図があるのでしょうか。
伊藤氏
ブランディングは非常に難しい課題だととらえています。商品開発より、ブランド構築の方が時間がかかります。日本にはファーウェイ以外にもグローバルベンダーが参入していますが、ブランド構築には時間がかかっています。
ファーウェイもAscendを2機種を投入し、ブランドの認知向上について頑張っていますが、その活動とともに、キッズケータイやdtabも投入しています。Ascendのようにブランドを前面に出すだけでなく、キッズケータイやdtabのように「これ、実はファーウェイなんだね」と認識してもらい、ファーウェイのファンを増やすような事業展開も重要と考えています。たとえば、キッズケータイでファーウェイに親しんでいただいて、将来的に大人になってスマートフォンを買うとき、「そういえば子どものころ使っていたキッズケータイ、ファーウェイだったね」となれば、ファーウェイの製品を選択肢に入れてもらえます。
ブランドについては、なかなか一足飛びには展開できないと考えているので、ここは事業継続の忍耐が必要だと考えています。
――最近のスマートフォンは、とくにフラッグシップモデルはみんな「クアッドコアで5インチフルHD」と、スペックが横並びになっています。そのような中、ファーウェイはどのように他社と差別化を図っていくのでしょうか。
伊藤氏
まず1つは、先ほどもお話ししたように、ネットワークの進化への対応を継続していくことです。その一方で、差別化するための要素技術も投入します。水滴クリアタッチパネル対応やマジックタッチもそうです。UXという面では、「Emotion UI」というホームアプリをグローバルの顔として提供しています。
――最後に、ファーウェイは自身のライバルをどこだと考えているのでしょうか。
伊藤氏
どこがライバル、というのはありません。一方で、世界第3位のハンドセットベンダーになるという目標があります。今は瞬間風速的に、2012年の第4四半期で3位になりましたが、まだまだ1位、2位との差は大きいです。この1位と2位は、ベンチマークしていくべき存在として、常に意識をしています。また、ファーウェイの強みであるチップセットについても、1位と2位は持っているので、そこの競争もあります。チップセット、端末、ソリューションを含め、事業を推進し、世界第3位の地位を確固としたものにしたいと考えています。
――世界第1位と言わないのちょっと控えめですね(笑)。
伊藤氏
2015年までに3位、というのがグローバルでのメッセージです。ファーウェイはミッドクラスとロークラスでは高いシェアがありますが、フラッグシップのハイエンドクラスではまだまだです。そこではブランドが重要で、すぐに、というものではありません。まずは1つの事業の目標として、世界3位を掲げています。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。