インタビュー

コンテンツプロバイダー探訪

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スポーツジャンルに特化するモブキャスト

 スマートフォンのゲームアプリ市場が拡大の一途をたどる中、ブラウザゲームで2大ソーシャルプラットフォームを追いかける会社がある。モバイル用のソーシャル・ブラウザゲームを企画・開発しているモブキャストだ。同社は、プロ野球を題材にした「モバプロ」、世界中のサッカー選手が登場する「モバサカ」、競走馬を育てる「モバダビ」、そしてメジャーリーグチームを作り上げる「メジャプロ」の4タイトルを柱に展開している。

 カードバトル型のソーシャルゲームがあふれる業界で、あえてカードバトル要素はなくし、あくまでもスポーツにこだわっている同社のソーシャルゲーム。しかも、ネイティブアプリではなくWebブラウザーで遊べるゲームでありながら、数百万人もの利用者を集めた、ソーシャルゲームの中でも珍しい成功例と言えるだろう。

 どのような理由でスポーツに特化したのか、なぜアプリではなくブラウザゲームを選択したのか、その他運営のポイントなどを同社代表取締役社長 CEO/COOの藪 考樹氏と、取締役CMOメディア事業本部 本部長の頼定 誠氏、取締役プラットフォーム事業本部 本部長の佐藤 崇氏の3氏に伺った。

モバプロ
モバサカ

1球1球をすべてシミュレーション

モブキャスト 代表取締役社長 CEO/COO 藪 考樹氏(巨人ファン)

――まず、スポーツ系のブラウザゲームを始めた経緯を教えていただけますか。

藪氏
 2010年、ゲームプラットフォームのオープン化の流れが出始めていた頃、他社のプラットフォームに入るよりは、自分たちでプラットフォームを作ったほうがいいんじゃないかと考えていました。グリーなら釣りゲー、モバゲーなら怪盗ロワイヤル、というように、自分たちにもキラーコンテンツがあれば、プラットフォームビジネスに参入できるのではないかと考えました。

 ちょうどその頃、第1弾の「Webサッカー」というゲームがワールドカップと重なったこともあって、1年で70万人まで会員が増えていました。以前の携帯キャリア公式コンテンツで、ブラウザゲームでの70万人という会員数は、大変な数字です。広告宣伝費もゼロで達成した数字でしたので、今度は野球をやってみようということになって、NPBに許諾をとり、権利処理できる体制を整えたうえで「モバプロ」を始めました。課金決済の手段なども増やし、現在では4タイトルで計約270万人ほどの会員数にまで伸びています。会社全体の売上の95%くらいが、これらのゲームによるもの、という状況です。

――具体的にはどういったシステムのゲームなのでしょうか。

藪氏
 4タイトルとも、基本的に同じエンジンを用いたチームシミュレーション型のブラウザゲームで、スポーツに特化しているのが特徴です。ゲーム以外のスポーツ系ニュースなど、他にもいくつかのコンテンツを提供しています。元々は携帯公式サイトのゲームコンテンツから始まり、弊社の発起人に元カプコンの岡本吉起さんがいたり、開発メンバーにPCブラウザゲームのアルゴリズムを作るのが得意だったコーエー出身者が多かったりして、いわゆる普通のソーシャルゲームとは違った異色の内容になっています。

 たとえば「モバプロ」では、選手のオーダーカードと監督の組み合わせでチームが強くなります。かつての巨人の王と長嶋、あるいは阪神のバースと掛布というようなオーダーになぞらえて、3番はファーストで左打ち、4番はサード、みたいなオーダーにすると強くなるんです。現代で言えばソフトバンクホークスの松中を3番に据える、といったようなオーダーが考えられますね。サッカーゲームの「モバサカ」でもそれと同じように、カカ(スペインのサッカーリーグ、レアル・マドリード所属)は右サイドに置いてもあまり活躍しない、ということまで考慮に入れてプレイすると良い結果が出るんです(笑)。

――そこまで考えて200万ユーザーの中を勝ち抜かなければならないのは、至難の技ですね。

藪氏
 ユーザー数は200万以上ですが、「モバプロ」では1500ユーザー(チーム)ごとに1ワールドとなっていて、その1ワールドの中で毎週1位を決めます。1週間で1シーズンが終わり、1ユーザーあたり1日15試合分、1週間で90試合分の結果が自動計算されてチャンピオンが決定します。その間ユーザーは何もしなくてもよく、試合結果を見に行くだけです。マイナー1とマイナー2からメジャー3、メジャー2、メジャー1までの5リーグに分かれ、それぞれのリーグの上位が入れ替わって昇格し、200万人超のユーザーの頂点を目指します。そこまで行くのは宝くじに当たるより難しいですね。

 ファンタジーなゲームとは違って、カードの合成による強化はないですし、コンプガチャもないので、“スーパー長嶋で本塁打800本打てる”(笑)みたいなものもないリアルに即したゲームです。手に入れた選手のカードも、毎週1歳ずつ年を取っていって、だいたい入手から6週目をピークに能力が落ちていってしまいます。江川だと3週目で落ちてしまう、みたいな(笑)。蓄積要素がないので、後から始めたユーザーでも不利になりにくいんです。金本が2000本安打を打った後には、フルパワーになっている金本の2000本安打記念カードを出すなど、リアルと連動したイベントを週1回必ず用意しているのも特徴です。

 ユーザーの9割が男性で、スポーツの知識がないと全然楽しめないゲームですね。残りの1割の女性も、彼氏に無理矢理プレイさせられている人じゃないでしょうか(笑)。

――試合結果の計算は、選手の投打1つ1つをすべてシミュレーションして出しているわけですか?

藪氏
 そうですね。ユーザー側ではダイジェストのように試合の流れを見ることもできるんですが、サーバー側では裏ですべて1球ずつシミュレーションしていて、200万を超える全チーム分の打率、打点、三振数、本塁打数、防御率、適性などを1つずつ計算しています。すごい選手ばかりを揃えたのに組み合わせによっては勝てない、というようなことももちろんあります。

同社取締役プラットフォーム事業本部 本部長 佐藤 崇氏(中日ファン)

佐藤氏
 8回の裏に点が入った場合、実際の試合でも次の9回表に点が入りやすいので、ゲームでもしっかりした抑えのピッチャーを用意しておかないと逆転されて負けやすいとか、リアルな現象を忠実に再現しているところもウリですね。

――他にもゲームアプリが数多くある中、こういったブラウザゲームのどのあたりがユーザーを引き付ける要因になっていると考えていますか。

藪氏
 コンシューマーゲーム機などでは、実際にゲームを始めるまでの時間がかなりかかってしまいますし、拘束される時間も長い。反対に、我々が提供しているようなブラウザゲームはすぐに始められて、時間がない人は1週間に1回結果を見られればいい。最近は忙しい人も多いので、自分の都合に合わせてプレイできるというのが大きいんじゃないでしょうか。ユーザーの動向を見ていても、日曜日に仕込んで次の土曜日に結果を見る、というような習慣性のあるスタイルになっています。

――ゲームを完全にスポーツ系に特化しようと考えたのはなぜでしょう。

藪氏
 マーケティング戦略的にも、さすがにモバゲーとグリーのようなあれだけの規模のプラットフォームを、似たようなゲームラインナップで追いかけても勝てません。スポーツに特化して彼らがやらないところを徹底的に追求すれば、勝負できると思いました。

 ですので、上場前に「モバプロ」が当たったときに、スポーツに特化しようと考えました。そのとき、恋愛シミュレーションやRPGも開発しかけていましたが、すべて中止にしたくらいです。野球については新しい選手が次々に入って盛り上げてくれますし、サッカーはオフシーズンでも移籍の話題が豊富なので、企画やストーリーが半自動的に作れるというのもスポーツを題材にしているメリットですね。

 それに、フィーチャーフォンと違って、スマートフォンというのは(勝手サイトでも手軽に)ブックマークできてしまうので、ポータルとなる総合チャンネルはいらないじゃないですか。すでに専門チャンネルの時代になっていて、その中でもスポーツというチャンネルは大きい部分を占めていると思います。ゲームに限らず、2~3年後はスポーツメディアとして「スマートフォンのニュースならモブキャストだよね」と言われるくらいのスポーツチャンネルを築き上げたいとも考えています。

――プラットフォーム化による他社ゲームの配信状況はいかがですか?

藪氏
 今年2012年からプラットフォームをオープン化しましたが、やはりスポーツ系に特化しつつ、審査をある程度厳しくしていきます。11月からはコナミさんの「Jリーグドリームレジェンズ」が始まり、コーエーテクモゲームスさんの「100万人のWinning Post for mobcast」などの配信も決まりました。今後もスポーツ系のソーシャルゲームで一定以上のクオリティのものを配信していくつもりです。

本当にスポーツ好きな人たちが会社に集まってくる

――ゲームからスポーツのことを知った、というユーザーも最近は多いのではないでしょうか。

佐藤氏
 我々のゲームをプレイするようになってから選手を知ったり、スタジアムに足を運ぶようになった、という人が周りにも何人かいますね。私自身、パ・リーグの選手のことは以前はほとんど知らなかったんですが、「モバプロ」で勉強できました。プロ野球人気は、最近は一時期より盛り返してきているような気がして、それって特に若い世代ではゲームの影響があるんじゃないかなと思っているんですよね。

藪氏
 Twitterで“モバプロ”で検索すると、「ゲームで自分が使っている選手を検索してみたらスポーツニュースに出ていて、このチームにいるんだ、ということがわかって野球を観るようになった」というような書き込みもけっこう多いですね。

――リアルと連動しているゲームでは、O2O的なソリューションにも結びつきやすいように思います。

同社取締役CMOメディア事業本部 本部長 頼定 誠氏(阪神ファン)

頼定氏
 実際に球場でイベントをやっていまして、既存会員にはレアカードをプレゼントしたり、新規会員にはチームとコラボしたスポーツタオルをプレゼントしたり、というキャンペーンを展開しています。

 球場のオーロラビジョンで選手紹介がありますよね。あの中でもコラボしていて、バッターが登場したときにビジョンの中で「モバプロ」のカードに選手の写真が乗った形で登場する、という演出もしています。

佐藤氏
 テレビのスポーツニュース番組でも、選手をカードチックな見せ方で紹介することがあって、カードというのがカジュアルになって一般にも受け入れられてきているのかな、という印象を受けています。

藪氏
 2012年のクライマックスシリーズの6日間に球場の5箇所でブースを出したところ、1万人の新規会員を獲得できました。デジタルコンテンツで1万人のためにリアルイベントを開催するのはどうなのか、という意見もあるかもしれません。昔よくあった月額300円のコンテンツのためにリアルイベントを開催しても採算が合わないでしょうが、ARPPU(Average Revenue Per Payed Use:有料会員1人あたりの平均月間売上)が高い我々のようなゲームでは効果があります。リアルイベントで新規会員獲得を真面目に狙っている会社はあまりないと思うんですが、我々は相当力を入れてやっていますよ。

――ブラウザゲームではなく、スマートフォンのネイティブアプリとして出すことは考えていないのでしょうか。

藪氏
 ネイティブアプリで遊ぶ人と、ブラウザゲームを遊ぶ人って、プレイする目的が違うと思うんですよね。前者はまさにそのゲームをプレイするのが目的であって、後者は本当に暇つぶしのためにやるのではないかと。映画館と自宅のテレビくらいの差があるんじゃないでしょうか。

 最近の流れを見ていると、コンシューマーゲームのユーザーはそのままネイティブアプリのゲームに移行したのだと思いますし、ブラウザゲームは、実は週刊漫画の読者がごっそりやってきたんじゃないかとも思っています。その競争の中で、ネイティブアプリのゲームはゲーム自体のクオリティを上げないと他に勝てませんし、ブラウザゲームはより手軽にプレイできて、盛り上がっている感や流行っている感がないと遊んでくれない。リアルと連動している我々のブラウザゲームは、そういう意味でも長続きできる可能性が高いんじゃないかと思いますね。

――スマートフォンとフィーチャーフォンのユーザーの割合、年齢層などはどのような状況ですか。

藪氏
 現在は6:4でスマートフォンが多く、2012年の新規会員の6~7割はスマートフォンユーザーです。ブラウザゲームの性質上、下の方にスクロールするといった操作もありますから、操作性のよいスマートフォンのユーザーの方が長く遊んでもらえているようです。2011年末からは、新しいサービスについても、まずスマートフォンから導入、という順序になりました。

 「モバプロ」のユーザーは10~20代が中心ですが、課金ユーザーとなると20~40代が多くなります。10代の人は対戦相手のピッチャーを見て、バッターの右打ち・左打ちを変えたりなど、お金ではなく時間を使ってどうにか勝とうと工夫しています。私の場合は(お金をかけて)長嶋、江夏といった強力なカードを揃えるんですが(笑)、そういうユーザー間のバランスでゲームが成り立っているという感じですね。

佐藤氏
 ただ、特に15歳以下の青少年に対しては利用金額の上限を抑える、というような業界の動きもありますし、NPB自体が青少年教育についても大変意識されているので、そのあたりは我々もすごく気を遣ってやっています。

――その他、運営にあたって難しいところはありますか。

藪氏
 週1回のイベントでは、リアルとあまりにもかけ離れた能力のカードを出してもユーザーが引いてしまいますので、バランスが難しいですね。オフシーズンの間は名球会の選手を登場させるといったことも考えられるのですが、特にシーズン中はスター性のある選手がいないとカードの価値も上がりませんし、ARPPUが上がっていかないというところが運営上難しいところです。

――そういったバランスなど細かいところも含め、スタッフが見ているわけですね。

藪氏
 そうです。BIS(プロ野球データベース・システム)のデータを元に選手データを作成していますが、細かいところはスタッフの手で微調整しています。掲示板ではユーザーから「この選手はそんなに打たないだろう!」といった意見もいただきますが、ゲームに対して言っているのか、その選手に対して言っているのかを見極めながら、ゲームに反映させたりしています。2軍機能ですとか、ファームに選手を入れる機能なども、要望を受けて実装したものです。

 スタッフについては、本当に野球が好きで、野球に関わる仕事ができるなんて! というマインドの人がたくさん入ってきますね。その会社辞めちゃってもいいの? と思うくらいの(笑)。スポーツに関係した仕事に携われることと、プラットフォームを自前で持っていて自由にできるというところが、大きなメリットに感じているんじゃないかと思っています。

2013年から海外へ本格展開し、1000万会員を目指す

――言葉を選ばない、国境を越えやすいスポーツということで、海外進出も期待したいところですが。

藪氏
 海外展開は2013年から本格的に始めます。最近では、ゲームオンの親会社である韓国のNeoWizと提携しまして、「モバプロ」の内容をNPBから韓国のKBOの選手に変えて、来年3月末までに提供する予定で準備しています。今、韓国では野球ブームに火がつき始めているようで、韓国の他のゲーム会社でも野球関連のタイトルを揃えてきているほどです。その中で、我々が作っているようなシミュレーション型のゲームはまだ存在していないようですし、スマートフォンの普及率が高く、課金決済手段も整っている韓国からまずはテストしてみようということになりました。

 野球についてはあと台湾と米国くらいしか盛んな国はありませんが、サッカーについては逆に可能性のない国の方が少ないくらいで、アジアで言えばインドネシア、ベトナム、フィリピンなど、どこでもサッカーが人気です。韓国での野球ゲームの成功をもって、アジアに展開していこうと考えています。

 欧米については、アジアのユーザーのように、こういったブラウザゲームをこまめにプレイする国民性なのか、という素朴な疑問があります。独自展開するより、海外大手ゲームメーカーの方々と組んで展開したほうが早いんじゃないかな、とは思っています。

――まずはアジアから、というわけですね。

藪氏
 実は、FIFPro(国際プロサッカー選手会)と契約し、世界6大リーグに所属している2000人の選手の実名・実写を使える権利を取得しています。日本のJリーグの選手だけでなく、ロナウド、メッシ、カカといった世界的なプレイヤーの名前や写真も使えるのが我々の強みです。

 2014年には世界中にサッカーゲームを展開して、インターネット上のワールドカップを開催するという構想もあります。その大会期間中だけは自分の国の選手しか使えないようにするとか。その国の会員数の数が選手の強さにも影響するというような仕組みにしたら、自分の国が負けそうだから友達をたくさん誘う、というようなことになるかもしれません。新規会員の獲得にも繋がるようにイベントの企画を考えているところです。

――ゲームコンテンツは今後タイトルを増やしていくのでしょうか、それとも現在のタイトルを充実させる方向でしょうか。

藪氏
 今あるコンテンツをより良くしていく方向で、「プロトレ」というプロ野球選手を育成するゲームをリリースする予定です。その他の「モバサカ」や「モバダビ」なども深掘りしていきます。

 あとはF1もやりたい。ライセンス料が高そうなので最後にとってあるんですが(笑)、これができるとサッカーとF1という組み合わせでヨーロッパ進出がやりやすくなります。ただ、ソーシャルゲームになりやすいか、なりにくいか、というのも考えなければなりません。チーム競技としては面白くても、選手のカードにお金をかけてまでやり込むほど面白くなるか、というのとは別ですから。

――最後に、今後の目標を教えてください。

藪氏
 本当にスポーツが好きなユーザーは獲得できたので、これからは他のプラットフォームのユーザーで、もう少しスポーツ寄りなユーザーを引き入れて、会員数に厚みを出していこうと思っています。また、先ほどお話ししたようなスポーツメディアを立ち上げると、最終的には実際にスポーツをしている人にまでリーチできます。オープン化によるプラットフォーム事業で新しいユーザー層を獲りに行き、メディア事業でスポーツ情報を入手したいという層をしっかり取り込んで、2013年は会員数1000万人を目指します。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史