インタビュー
「ポケポケ」がiPhoneベストゲーム、現地取材でアップル幹部に聞く「優れたアプリの選び方」
2025年12月10日 00:00
アップル(Apple)はApp Store Awards 2025を発表。受賞作を展示するショーケースイベントを、米ロサンゼルスで開催した。
iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TV、Apple Vision Proといった同社製デバイス用として、App Storeで公開されるアプリは年間数万本。その中から各デバイス用「ベストゲーム」5本、「ベストアプリ」6本、そしてエポックメイキングなアプリとして「カルチャーインパクト」6本、合計17本が発表された。
イベントは、ロサンゼルスのカルバーシティにある特設会場で行われた。会場には17本のアプリの開発者がデモンストレーションを行うテーブルが設けられており、全米のメディアと、海外からもいくつかのメディアが招待された。
アップルといえば、シリコンバレーのクパチーノにある本社Apple Parkを想像する人が多いと思うが、実は全米各都市はもちろん、世界各国にオフィスを持っており、Apple TVやゲーム・アプリといったエンターテイメント関連については、カルバーシティにあるオフィスが大きな役割を果たしている。
カルバーシティはハリウッドやビバリーヒルズに近い映画産業の中心地で、古くはMGM、現在ではソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの本社が存在しており、このイベントに相応しい場所だ。
初めて日本のアプリがiPhoneベストゲームに選出
なんといっても今回、特筆すべきはApp Store AwardsのiPhoneベストゲームに日本の株式会社ポケモンが販売している「Pokemon TCG Pocket(通称ポケポケ)」が選ばれたことだろう。
全カテゴリーを統括した「最優秀賞」的な賞はないが、ユーザー数からいってもiPhoneが圧倒的なので、一番中心的な賞を、日本のポケポケが受賞したということだ(US国内メディアがほとんどの中、筆者が呼ばれたのもそれが理由だと思われる)。ちなみに、Pokemon TCG Pocketのローンチは昨年10月30日。
「Pokemon TCG PocketのiOS版ユーザーは全世界で7000万人います。Android版を含めると1億5000万人の人が、ポケポケを楽しんでくださっています。Pokemon TCG Pocketはポケモンカードの「デジタル版」と言えるアプリです。
物理カードと同じように、カードを集めたり、交換したり、バトルしたりできます。オンライン対戦も可能なところが物理カードと違うところですね。
人気の理由のひとつは、もちろんポケモン自体の人気にありますが、ポケモンのカードゲームは多くの人にとって最初に触れた「思い出のポケモン」の入口であることが多いのです。ですから、Pokemon TCG Pocketはたいへん幅広いユーザーに触れてもらっています」と担当者は語った。
Pokemon TCG Pocketでは、毎日2パックのカードが無料で配布され、それを開封してどんなカードが手に入るか楽しむことができる。
アプリで表現されるカードは、物理版のカードをかなり凝ったグラフィックで表現しており、レア度の高いカードだと、ホログラムなどの特殊なエフェクトや、ポケモンが画面から飛び出すような立体表現が施されている。紙のレアカードを手に入れた時と同じような興奮が味わえるというわけだ。
パックを開封する時のグラフィックも凝っていて、紙のカードの入ったラミネートパックを開く時と同じような緊張感が味わえる。わずか1年あまりで1億5000万人に受け入れられ、App Store Awards 2025に選ばれたのも納得のアプリだといえるだろう。
ありそうでなかったTodo+AIアプリ
ベストiPhoneアプリに選ばれたのが『Tiimo(ティーモ)』。デンマークの会社が作ったTodoアプリ。ちょっと微妙な感じのティーモというキャラクターと、AI対応が特徴だ。
たとえば、『運動をする』というザックリした予定を入れた時に、AIボタンを押すと『ウェアに着替える』『10分間歩く』『結果をメモする』という細かいタスクに分割して優先順位を付けてくれる。
話した内容から自動的にタスクを作ってもくれる。「病院に電話しなきゃ、プレゼン作らなきゃ、メールも返さなきゃ」というように話すと、それぞれ個別のタスクとしてリスト化してくれる。
「やることはいろいろあるけど、今最優先で何をやったらいいかわからない」ということになりがちな人に、『今フォーカスすべきタスク』を教えてくれる……とのこと。
Apple Arcadeならではの気楽にできるミニゲーム
ベストApple Arcadeゲームに選ばれたのは、日本ではあまり話題になっていない「WHAT THE CLASH?」というちょっと変わったミニゲームが詰まったアプリ。
開発しているのはデンマークのTriband(トライバンド)という会社で、頭が手のカタチをした奇妙なキャラクターを操作して、テーブルテニス、レース、鬼ごっこなどのミニゲームで遊ぶ。オプションのカードを組み合わせることで、ゲームはさまざまに変化する。
他愛のないゲームではあるが、奇妙なキャラクターと、ユニークな世界観、オプションのカードで変化する独特のゲーム性で、ついつい病みつきになってしまう。ゲームは日々新しいものを開発、次々に追加されており、ユーザーの人気度合いに応じて、プッシュするものを変化させているという。
Apple Arcadeは、アップルのゲームのサブスク。Apple Musicや、Apple TV+、iCloudとのバンドルサブスクApple Oneに含まれており、前出のサービスを契約するならほぼ無料でついてくるような価格設定だ。
ゲーマーが注目するようなゲームはあまり含まれていないが、広告やガチャや追加アイテム課金などがないので、ムキにならずにほどほどにゲームをプレイしたい人、子どもに安全にゲームをさせたい人、高品質なインディーズゲームをじっくり楽しみたい人に向いている。
実際、「WHAT THE CLASH?」はそういう人にピッタリの、「過熱しすぎずにのんびり楽しめるゲーム」だといえるだろう。
iPad、Mac、Vision Pro用のベストゲームもご紹介
iPhone以外のデバイス用のゲームも紹介しておこう。ベストiPadゲームは、釣りをテーマにした不気味なミステリー「DREDGE」。普通の釣りゲームとしてスタートするのだが、次第に奇妙なものが釣れたり、不思議な出来事が起こるようになる。
「オープンワールドゲームで、釣りだけに専念することもできるし、ホラーゲームとしても遊べる。さまざまな世界を旅して依頼されたタスクをこなすこともできる。一番の目的は自分がなぜここにいるのかを解明することです」と、ニュージーランドからやってきたBlack Salt Gamesのスタッフ。
ベストMacゲームはサイバーパンク空間を描いた高精細なグラフィックが魅力のアクションRPG「サイバーパンク2077 アルティメットエディション」。オープンワールドで旅し、乗り物に乗り、戦うことができる。非常に高度なグラフィックだが、M1以上のMacで動作可能。
ただし、M1の場合、1600×900ピクセル、30fpsに制限される。M3 Pro以上のスペックのマシンを使えば、1920×1080(または1800×1125)ピクセル、60fpsで楽しむことができる。Macでヘビーなゲームをプレイしたい人にお勧めだ。ちなみに、このアプリはポーランドで開発されている。
ベストApple Vision Proゲームは、Apple Vision Pro専用に開発された「ポルタヌビ:謎解き冒険」というXR没入型パズルアプリ。目の前の空間をインタラクティブなパズルに変え、身体でパズルを体験できるのだという。
アメリカ以外で開発されたエキゾチックなゲームが選出された
今回、アップルが選んだゲームには、エキゾチックな美しいグラフィックを用いたものが多かった。そういえば、「DREDGE」はニュージーランド、「サイバーパンク2077 アルティメットエディション」はポーランド、「ポルタヌビ:謎解き冒険」はオーストリアで作られている。
カルチャーインパクト賞に選ばれた架空の文字の法則性を解読していく「Chants of Sennaar」はフランスで、「Art of Fauna」はオーストリアで、そして、もちろん「Pokemon TCG Pocket」は日本で作られたアプリだ。
App Storeはエキゾチックな雰囲気を求めているのかもしれない。今年、アメリカのアップルゲーム開発コミュニティは悔しい思いをしたに違いない。
今年の受賞ゲームの開発者が世界に分散しているのは偶然かもしれないが、シリコンバレーにいなくても、世界のどこにいても世界中のユーザーにアプローチできるのはApp Storeの特徴のひとつだと言えるだろう。
App Store登場以前は、我々はパッケージに入ったディスクか、ネット経由で信頼性の低い決済方法を介してダウンロードアプリを買うしかなかった。開発者も国外にアプローチするのは大変だった。
App Store登場以来、仕様にさえ合致していれば世界175の国と地域で販売可能で、開発者もユーザーも決済方法や税制について考える必要がない。これは大変なメリットだ。
デベロッパーのチョイスも一国に集中しておらず、世界のさまざまな国で開発されたアプリを、世界のさまざまな国でプレイできるというのは素晴らしいことだ。
エクスぺリエンスと、革新性と、使いやすさ
グローバルのApp Storeを統括するシニアディレクターであるカーソン・オリバー氏に、選定の基準を聞いた。
「大切なことはいくつかあります。まず、最初にユーザーエクスペリエンスが良いか? 次に既存のアプリにないイノベーティブな側面があるか? そして使いやすく、いろいろな方に使ってもらえるアクセシビリティが確保されているか、どこの国の人も不快な思いをせずに使えるローカライズがされているかを考えています」とのこと。
日本を含む世界各国に100人以上のエディターがいて、これらのアプリをひとつひとつ使ってみて隠れた宝石のようなアプリを探すのだそうだ。
App Storeのアプリは、一般的な商品より広告展開や、メディアによる記事紹介などの機会はかならずしも多くない。年間数万本も登場するアプリの中から、多くの人に楽しんでもらうアプリをピックアップして紹介する作業は本当に重要だ。
今回の選出されたアプリをいくつか触ってみたが、いずれも確かに既存のアプリにない革新的な名作揃いだ。対象デバイスを持っている方は、ぜひ体験してみていただきたい。












