インタビュー
JRグループ初の取り組み、JR四国のQRコード決済導入の経緯や意図を担当者に聞く
2025年5月20日 00:00
JR四国は、列車内でのきっぷ購入や精算時の決済に、PayPayをはじめとするQRコード決済への対応を4月1日より開始した。列車内でのきっぷ購入時のQRコード決済への対応は、JRグループとして初の取り組みとなる。
そこで今回、どういった経緯や意図でQRコード決済に対応したのか、JR四国の担当者に聞いてきた。
専用端末からの脱却と乗務員の働き方改善を目的として導入
JR四国は管内に259駅あるが、そのうち有人駅は37駅のみ(2025年2月末現在)で、約85%が無人駅となっている。同時に、券売機を導入している駅も108駅(同)しかない。そのため、JR四国では駅できっぷを買わずに乗車する乗客がかなり多いそうだ。
きっぷを買わずに列車に乗車した場合の車内での運賃精算には、主に2つの方法がある。ひとつはワンマン運転の列車に乗車した場合で、乗車時に整理券を取り、下車時に整理券を示しながら運賃を現金で支払う。これは路線バスの運賃精算とほぼ同じだ。
もうひとつが車掌が乗務する列車に乗車した場合で、車掌に乗車区間を伝えて運賃を支払う。今回JR四国が、運賃精算時にQRコード決済を利用可能としたのは、この車掌が乗務する列車の場合となる。
車掌が乗務する列車での車内精算は、従来までは「車内補充券発行機」という専用の端末を利用していた。
ただ、専用端末は故障時の修理に時間がかかったり、定期的に端末の入れ替えが発生する、専用機のため大きな機能追加が難しい、端末が大きく重いため乗務員に負担がかかる、といった問題があったという。
そこで、専用端末からの脱却と、乗務員の働き方改善を目的として、2023年4月よりiOS用アプリ「車内補充券発行アプリ」を利用した車内精算を開始した。アプリ用の端末には、iPhoneと汎用のモバイルプリンターを利用。
双方とも汎用のスマートフォンとモバイルプリンターのため、台数を柔軟に増減できる、故障した場合でも簡単かつ安価に交換でき、といったメリットがある。
コストについても、専用機と比べると、機器導入費やアプリの開発費、メンテナンス費などを含めた総額でも大幅に削減できたとのこと。
同時に、乗務員が携帯する機器が軽量化し負担が軽減するなど、様々なメリットがあったという。
また、車内補充券発行アプリはiPhoneだけでなくiPadでも動作する設計になっており、一部の駅での精算業務にも使用しているそうだ。こういった点は、専用機にはない大きな利点だ。
利用者の声に応える形でQRコード決済に対応
このように、車内精算にiOSアプリを利用することで、コストや乗務員の負担軽減になったが、当初は現金での精算のみとなっていた。
この点について、JR四国 鉄道事業本部 運輸部運輸課主席の中條祐輔氏によると、「キャッシュレス対応については、もしかしたら将来対応できるかも、という狙いはあったんですが、まずは専用端末からの脱却や乗務員の負担軽減を重視して導入」したとのことで、キャッシュレス決済への対応を主眼としていたわけではなかった。
ただ、乗客から「QRコード決済やクレジットカードは使えないのか」という声がコロナ禍以降かなり増えていたという。
その中でも、主にPayPayを中心としたQRコード決済への対応についての声が圧倒的に多かったとのことで、そのニーズに応える形でQRコード決済への対応を決めたそうだ。
対応するQRコード決済ブランドは、PayPay、d払い、au Pay、楽天ペイの4種類。決済方法は、乗客が表示したQRコードを乗務員のiPhoneで読み取って決済する「CPM」方式を採用。乗客はQRコードを読み取ったり金額を入力する手間がかからず便利だ。
QRコード決済への対応は4月1日に開始したばかりで、今回の取材時点では開始から3週間ほどしか経過していなかったが、乗務員からは「QRコード決済はお釣り不要で現金を扱う頻度が減って非常に楽になった」との声が届いているそうで、乗務員の省力化という点では期待通りの効果が得られているとのこと。
また乗客からも、QRコード決済が使えるようになったことで喜ばれているそうだ。
唯一問題としては、山間部やトンネルが多い場所など電波状況の悪い場所でサーバとの通信が行えず精算できない場合があるという。そういった場合には、駅到着時など電波の入る場所で精算することで対処しているが、現在のところ特に大きなトラブルにはなっていないそうだ。
QRコード決済以外のキャッシュレス決済手段への対応については、クレジットカードは、高校生以下の学生がなかなか持てないこと、クレジットカードをQRコード決済に紐付けて使っている人が多い、ことなども踏まえ、今回は見送っている。
同様に、交通系ICカードへの対応についても、JR四国管内で交通系ICカードが利用できる駅は高松周辺のごく限られた駅だけということもあって、需要も鑑みて考えて対応を見送ったそうだ。
インバウンド観光客を見据えた海外のQRコード決済ブランドへの対応については、システム的に対応可能であるもののJAPAN RAIL PASSなど周遊券の利用者が多く、個別にきっぷを買う人が少ないこともあって、需要を見つつ検討したいという。
キャッシュレスを増やすよりもチケットレス化を推し進めたい
近年、国内の交通事業者では、交通系ICカードだけでなく、QRコード決済やクレジットカードのタッチ決済などの導入でキャッシュレス化を進める事業者が増えている。これには、現金の取り扱いを減らすだけでなく、省力化や人手不足への対応という意味合いもある。
JR四国も同様の課題を抱えているが、改札のキャッシュレス対応は難しい部分が多いと指摘。その理由のひとつがコストだ。改札での交通系ICカードやクレジットカードのタッチ決済への対応には、カード読み取り機の導入やシステム改修、システム利用料など様々なコストがかかる。
また、クレジットカードのタッチ決済を導入するにしても、特急料金や指定席料金、グリーン料金などをどう扱うのかといった問題や、他のJRグループとの調整やシステム改修などを考えても、そう簡単には実現できそうにないという。
そういった中、JR四国が2022年11月より導入しているのが、スマートフォンアプリ「しこくスマートえきちゃん(スマえき)」だ。筆者が以前紹介したように、アプリできっぷを購入しQRコードで乗車できるサービスで、決済はクレジットカードまたはPayPayのみと完全キャッシュレス対応となっている。
しかも、スマえきはJR四国管内の児島駅以外の全駅と土佐くろしお鉄道会社線の全駅で利用できる。つまり、アプリを介する形ではあるが、JR四国管内では全駅を対象としたキャッシュレスかつチケットレスでの乗車が実現できている。
そういったこともあるから、というわけではないのかもしれないが、現在JR四国としては、キャッシュレスを増やすよりも、紙のきっぷの発行を減らすチケットレス化を推し進めたいという。
そもそも紙のきっぷには、きっぷ自体のコストはもちろん券売機や改札機などの保守コストもかかるし、環境負荷が高いという課題もある。ただ、JR四国としても、今後紙のきっぷは淘汰されていくだろうという見通しを示しつつも、JR各社との連携などもあり、そう簡単には廃止できそうにないそうだ。
そういった中でも、直近の四半期(2024年10月から2024年12月)では、定期券利用のうち17.2%、定期券以外の利用のうち5.8%がスマえきでの利用になっており、結果的にキャッシュレス利用、チケットレス利用は順調に伸びている。
とはいえ、今回車内精算でQRコード決済に対応したとはいっても、定期券以外の利用は、まだその大多数が紙のきっぷでの利用であり、そこをどう減らしていくかが今後の課題と指摘。そのためには、スマえきでの定期券以外の利用を伸ばす必要があり、今後よりアピールして利用率を伸ばし、チケットレス化を進めていきたいとした。