インタビュー
名古屋「IGアリーナ」内覧レポート、ドコモが目指す“通信×スポーツ/エンタメ”
2025年5月19日 00:01
愛知県名古屋市に新施設「IGアリーナ」がまもなく完成する。5月24日には映画音楽の巨匠であるハンス・ジマー氏が初来日してプレオープンイベントが開催されるほか、5月31日には滝沢秀明氏が演出する開業式典、著名フィギュアスケーターによるトークショーが予定されている。
国内各地のアリーナと比べ、IGアリーナの特長は、まずNTTドコモが運営側に参画していることが挙げられる。16日、報道関係者などに向けた内覧会が開かれ、IGアリーナを運営する愛知国際アリーナ代表取締役社長の寛司久人(ひろし ひさと)氏が取材に応じた。
IGアリーナ内部の設備を紹介するとともに、ドコモ出身の寛司氏が語る通信面での取り組みや、IGアリーナの目指す姿などをお届けしよう。
地上5階建、隈研吾氏が設計
名古屋城がある名城公園の一角、地下鉄名城線の名城公園駅に隣接する場所に建設されたIGアリーナ。その名称は、英国拠点の金融業であるIGグループのネーミングライツによるもの。もともとは野球場があった場所で、敷地面積は約4万6000平方m、地上5階建となる。
設計には建築家の隈研吾氏が担い、鉄筋コンクリート造のアリーナにはふんだんに木材が用いられている。地下鉄から地上に出て、まず目を引くのは、建物から張り出した木材だ。
緑豊かな名城公園のすぐ側という立地から、周辺との調和をはかるデザインとして採用されたもので、鉄筋の表面に木材を貼ったような部材が用いられている。
IGアリーナのロゴが掲げられている周辺がメインゲートとなり、ドコモがネーミングライツを得て「d CARD GATE」と名付けられた。ちなみにその左右にあるゲートも、サントリーなど別の企業の名が冠されている。
1階はメインアリーナとなり、高さは30m。巨大な空間に仕上げられた背景には、海外アーティストが用いるステージ機材に巨大なものがあり、そうしたものも搬入できるようにするため。
アリーナの座席はいわばU字型に配置されており、奥は黒い壁で覆われているように見える。装飾もないため、黒い壁がいったいなにか一見するとわからないが、実は吸音材が貼り付けられている。スポーツ興行では音が響いても問題はないが、コンサート・ライブでは余計な反響を避けたい。音をコントロールしやすくするために採り入れられたものだという。
2階には「d CARD LOUNGE」と名付けられたプレミアムラウンジが用意される。dカード会員以外でも、イベントによっては、プレミアムラウンジ利用権を購入すると利用できるフロアで、中にはサントリーがネーミングしたバーが2カ所、和食と洋食を提供するキッチンが1カ所ずつ用意されている。ちなみに3階はVIPフロアで、今回は取材できなかったが、40室用意されているという。
4階も用意されており、観客席の外には飲食店などもある。
観客席にはWi-Fi 7、ミリ波やMassive-MIMO
座席数は約1万5000席、最大1万7000人を収容できるIGアリーナ。当然のことながら、携帯電話の繋がりやすさにも配慮されている。
アリーナの、とある場所には携帯電話の基地局設備がぎっしり用意されている。それらの基地局装置は、JTOWERの設備に繋がり、JTOWERの設備から建物内の各所に設置されたアンテナへ、という構成になっている。
運営に参画するドコモの場合、観客席にはミリ波対応アンテナも設置されている。ちなみにIGアリーナメインゲートのすぐそばにある施設「名城公園 tonarino」には、メインゲートに向けてMassive-MIMOのアンテナが設置され、エリアが構築されている。
このほか、固定回線としてIOWNも導入済みだ。
IGアリーナのキーパーソンに聞く
内覧会では、愛知国際アリーナ代表取締役社長の寛司久人氏と、取締役の勝亦健氏がグループインタビューに応えた。
――4月に愛知国際アリーナの社長職に就いてから、どんなことに取り組んでいるのでしょうか。
寛司氏
いくつかのビジネスモデルが組み合わさっています。興行をしっかり作ること、食事を提供すること、はたまた、経済界と一緒にビジネスを作るべく連携に取り組んでいます。
この地ならではの興行を作っていきたいです。興行主からは大きさに感心していただきますし、1万7000人というサイズもちょうど良いと反響を得ています。
――そもそも「アリーナを運営する」のは、どんなお仕事なんでしょうか。
寛司氏
基本は、お客さまに来ていただき、しっかり楽しんでいただき、安全に帰っていただくことです。
IGアリーナに関して言えば、チケット販売もドコモと連携して取り組んでいます。ドコモがファンダム(熱心なファンによって形成される世界、文化)をベースにしたビジネスに乗り出していますので、そのあたりも含まれます。
――IGアリーナ自身が興行を決めていくんでしょうか。
寛司氏
そうです。興行主さんとお話して、いつ開催しようかと決めていきます。
――(ライオン・キングでアカデミー賞、パイレーツ・オブ・カリビアンやトップガン マーヴェリックなど多くの映画作品の楽曲に携わる)ハンス・ジマー氏のライブが開催されることになった経緯は?
寛司氏
ハリウッドの巨匠ですが、我々の座組(愛知国際アリーナ株主)のなかに、海外でプロモーターやアリーナ運営を手掛けるAEGという企業が参画しています。
海外アーティストはAEGのチームと連携して興行を誘致しており、ハンス・ジマー氏はその第一号となり、たまたま(開業の時期に)はまったということになります。
最初の公演ですから、音の鳴り方などもテストを重ねて進めていきます。
――Bリーグの盛り上がりもあって、全国でアリーナが増えています。どういった要素で差別化しますか。
寛司氏
NTTドコモが株主、そしてファウンディングパートナーですから通信の快適さはアピールしたい点のひとつです。
たとえばドコモのミリ波に対応したアンテナも設置されています。また、Wi-Fi 7対応のアクセスポイントが、キャットウォーク(天井に設けられた通路)で、前面に張り巡らされています。
IGアリーナは、Bリーグの名古屋ダイヤモンドドルフィンズのホームでもあります。たとえばスポーツ観戦をして、「あの場面をもう一度、リプレイで観たい」というときも、快適に通信できれば手元の端末で自分だけのリプレイを再生できます。そういう体験を進化させていくと考えています。
またアリーナ内は完全キャッシュレスです。キャッシュレスサービスを利用していない人向けにプリペイドを販売します。通信以外で、ドコモがIGアリーナに関わることでもたらせる体験のひとつです。
勝亦氏
ユーザー体験はどんどん進化させたいと考えています。キャッシュレスに加えて、モバイルオーダーやチケット発行といったあたり、イベントに関わる機能を全てオールインワンでまとめたアプリを7月13日に提供を開始する予定です。
やっぱりアリーナやイベントでの飲食購入って、並んで待つというイメージを持たれる方が多いと思います。そこがストレスになって楽しめない。IGアリーナのアプリは、そうした行列をなくす魔法のようなアプリを目指しています。デジタル技術で体験を改善する取り組みも、ドコモが関わっているからこそ提供できる世界観のひとつです。
寛司氏
1万7000人が入っても十分耐えられるネットワーク品質です。ライブやスポーツを観て、感動したときにすぐSNSなどでシェアすることもスムーズになる。そうした体験をWi-Fiとモバイルネットワークで実現するというコンセプトです。
勝亦氏
興行主によっては、セットリストと言いますか、ライブで歌う曲を決めず、その場でお客さまからアンケートで募るといったことができればいいなという要望もいただいています。
そうしたことが実現できれば、IGアリーナだけの体験になるかと。
――国内外のアリーナ運営で参考にしているものはありますか。
寛司氏
AEGさんがいくつか運営されているうち、英国のO2アリーナは年間200公演ほど開催し、200万人が訪問していると聞いています。
そういったアリーナでは、ラグジュアリーな体験など、試合だけではなく、試合の前後をしっかり楽しんでいただく点が特徴です。我々も日本のアリーナ体験をアップグレードしたいと考えていますので、参考にしながら取り組みます。
たとえばIGアリーナでサントリーのビールが美味しかったと感じていただき、そのお客さまへ街で使えるクーポンを渡して街でも楽しんでいただく、といったイメージです。
IGアリーナへの来場客を、名古屋の街へ送ることができれば、全体が賑わっていきます。そんな風に取り組みたいです。
――入退場での技術活用はありますか。顔認証ですとか。
勝亦氏
そういった仕組みは検討しています。海外の事例なども出揃いつつありますので、学びながら進化していきます。
寛司氏
チャレンジする点としては、IGアリーナの来場客の人流分析です。多くのお客さまが駅に集中しすぎないようにするなど、退館時の誘導などのご案内もできるようにしていきたいです。
――ありがとうございました。