インタビュー
決済にかかる摩擦を、グループの力で解消したい──PayPayカード 谷田智昭社長インタビュー
2024年8月30日 00:00
クレジットカードや電子マネーが中心だった決済の世界で、QRコード決済が存在感が高まって久しい。中でもソフトバンクグループの「PayPay」は2018年10月のサービス開始以来、確固たる地位を築いている。
PayPayは店頭でのQRコード決済に留まらず、キャッシュレス決済全般をサポートする総合プラットフォームとしての側面が強まってきた。あらかじめチャージした金額で支払う方式に加え、後払いにも対応。さらにはPayPayブランドを冠したクレジットカード事業も展開している。
クレジットカードより若い新興サービスで名を揚げた企業グループにとって、クレジットカードはどんな位置付けなのか。どんなビジネス戦略を描いているのか。そこで今回は、PayPayと表裏一体の関係と言えるPayPayカード代表取締役社長の谷田智昭氏に詳しく話を伺った。聞き手は本誌(ケータイ Watch)編集長の関口聖。連載「週刊モバイルCATCH UP」執筆者の法林岳之氏も同席した。
振り込まれた給与を、支払いのためにATMで現金化するという矛盾
──ケータイ Watchはモバイル通信をメインに取り扱うウェブ媒体ですが、近年はPayPayの大型還元キャンペーンをはじめとする、決済に関連した記事が多くの方に読まれています。そこでまずは、PayPayのサービスが広がる中で、いち領域であるPayPayカードはどんなビジョンで事業に取り組まれているのか? 目指しているゴールなどをお聞かせください。
谷田氏
決済プラットフォームを展開するPayPay株式会社と、クレジットカード事業者のPayPayカード株式会社という2つの会社にとって、共通する大義が「国内におけるキャッシュレス決済比率を高める」という点です。
40%近くにまで達しましたが(編注:経済産業省の発表によれば、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%)、これをますます高めていきたいと考えています。
現金を扱うには相応のコストがかかります。(利便もあるが)現金を持つことによって(盗難や詐取の可能性がある以上は)安全・安心が脅かされるという面は否定できません。そのためにもPayPayグループとしてしっかりキャッシュレスを推進したいのです。
例えば給与の扱いですね。金融機関各社の長年の頑張りもあって、いまや給料を手取り(現金)で受け取っている方はほぼいないでしょう。振込が一般的になりました。(財布を落としたりする心配もなく便利だが)しかし、(街中などでの支払いに備えて)ATMで給与を現金で引き出してしまっている。給与はデジタルなのに、支払いになると現金。これは一種の不都合というか、矛盾です。これを解消していきたいと思います。
一般のお客様に注目してみますと、まず「お金を払う」という根源ニーズは、2つしかありません。今払うか、後で払うか───この2つだけです。昭和の居酒屋や小料理屋だったら、今日は給料日後だから現金で払う、別の日はツケ払いする。こうしたコミュニケーションが昔から行われています。この根源ニーズは今後も一生変わらないものでしょう。
この状態から、今では「どこで払う」「何で払う」が重要になってきました。インターネットやECの発展によって、ですね。加えて、支払い手段が紙幣だけから、クレジットカード、QRコードへ広がっていきました。タッチ決済も流行ってきていますし、将来的には生体認証へ変わっていくかも知れません。
今払うか、後で払うかの二択は変わらない。でも、どこで、何で払うかはエブリウェアであるべきです。プラスチックカードでもQRコードでもタッチでも顔認証でも、PayPayとしては提供していきたいのです。
変化し続ける決済手段、PayPayはその全てを提供したい
谷田氏
PayPayアプリには今、2つのモードが用意されています。あらかじめチャージした金額で支払う「残高払い」。根源ニーズの一方、“今払う”を実現するものです。アプリ内では残高払いのためにコードを表示しようとすると、ユーザーインターフェイス(UI)が全体的に赤くなるので、社内では“赤モード”と呼んでいます。
PayPayアプリのトップ画面で、この赤モードから画面をフリックすると、“青モード”になります。“後で払う”ためのサービス「PayPayクレジット」は、この画面から利用できます(編注:PayPayクレジットの利用には、PayPayカードの取得が事実上必須)。ですので、お店での支払いでQRコードを見せるといっても、今払うか後で払うか、お客様は選べます。
そしてプラスチックカードもあります。これが我々のPayPayカードです。(あらゆる決済手段をフォローするための、一種の)媒介と言えます。QRコードで払うのか、もしQRコードで払えない場所だったらプラスチックカードを出して払えばいい。インターネットのECではQRコードを見せたりプラスチックカードを物理的に提示できないが、しかしカード上の番号を登録すれば、支払えます。
(アプリやコード決済としての)PayPayが使える加盟店の数は、まだまだ発展途上です。一方、PayPayがない時代から、インターネット上の決済には7~8割方、クレジットカードが使われてきました。
そうである以上、PayPayはやはりPayPayカードをしっかり準備し、(長らく親しまれてきた)16桁の番号による決済手段も、しっかりラインナップとして揃えていかねばなりません。この「何で支払う」という部分は、QRコード、プラスチックカードなどありますが、今はApple PayとGoogle Payも加わりました。「お客様が払いたい体験手段をすべて揃える」──これがPayPay、PayPayカードだからこそできることです。支払いにかかる摩擦を、2社がチームを組んで解消している。それがPayPayグループの大きな強みです。
法林
リアル店舗の世界では、(決済端末の機能拡充などによって)そもそもカードを持ち歩く必要性が減っていると私はみていますが、どう思われますか。
谷田氏
PayPayアプリの青モードの登場などによって、そうした質問をしていただいたのだと思いますが、実際、プラスチックカードはかなりしっかり使われています。
まずイオンであったりドン・キホーテであったり、PayPayのQRコード決済が使えないお店はまだまだあります。駅のみどりの窓口、空港関係などもそうです。
今はアプリの赤モードか青モードか、あるいはPayPayカードか、そのどれかを選択肢としてご用意するような状態です。結果、プラスチックカードもしっかりお使いいただき、伸びています。
井上雅博さんの言葉を胸に
──お話から感じ取れるのは、決済という世界・業界の広大さですね。振込やクレジットカードがしっかり存在感を示す中で、PayPayがコード決済で新しく切り込んでいこうとすると、しかしクレジットカードの必要性にしっかり目を向けねばならない。
谷田氏
思い出すのは井上雅博さんの言葉ですね。今はもう天国にいらっしゃいますが、ヤフー創業者のお1人です。私は2003年にヤフーへ入社したのですが、「プラットフォームがお客様の選択肢を決めるな」と一度メチャクチャ怒られた時がありまして。
我々は、街のお店をはじめとするPayPay加盟店にご参加いただき、プラットフォームを構築しています。そのPayPay加盟店を利用するお客様が、コード決済で払いたい、プラスチックカードで払いたい、タッチ決済で払いたいと言ったら、それら全てにしっかり対応し、手段を用意しておく。これが決済プラットフォームの使命だと思います。
スマートフォンでQRコードを活用する支払い手段をメインに、PayPay事業は始まりましたが、重要なのお客様の支払いにおいて摩擦がない、つまり選択肢において困らないことです。それら全てを解決して、お客様にも加盟店様にも、「PayPayでよかったな」と感じてもらえるといいのですが。
プロダクトドリブンでサービス開発
──クレジットカードの業界のトレンドはどうでしょうか。最近ではプラスチックカードのナンバーレス化などの話題をよく聞きます。クレジットカードとコード決済の連携も広がっている印象です。
谷田氏
決済は長年にわたって変化していて、給与支払いが現金払いから口座振り込みへ移行しきましたし、クレジットカードも進化しました。そのようにして、お客様の“体験”は変化を続けてきました。
今後も、その変化が自然とお客様に受け容れられるようにしなければならない。そのためには“お客様が求めているもの”を、常に我々がプロダクトとして届け続ける必要があります。
ユーザーファースト、プロダクトドリブンが我々のモットーです。(PayPayグループはソフトバンクグループやヤフーと関係が深いので)“インターネット屋”が金融サービスを作るとなれば、最新テクノロジーも多く使うことになります。テクノロジーを駆使して、お客様の決済、金融体験を変えていこう、と。
具体的な機能面で1つアピールしたいのが「使ったことがすぐに分かる」という点です。例えば現金で支払ったとして、そのデータがすぐに電子化される訳ではありません。お客様が(家計簿アプリなどに)データを手で打ち込んだり、レシートを写真に撮ったりする必要があります。
その点、PayPayは、赤モードでも青モードでも、支払えばアプリ上に取引履歴がすぐ反映され、決済額に加えてポイントまでしっかり把握できます。
クレジットカードの世界では、こうしたリアルタイムな体験がまだまだ足りないと考えていました。そこで今年3月、PayPayアプリを使わない取引……例えばタクシーに乗ってPayPayカード(プラスチックカード)で支払った場合でも、どこでどれだけ支払ったか、ポイントがどれだけ付くかをリアルタイムで通知するようにしました。24時間/365日リアルタイムのチェック体制を構築したPayPayだからこそ提供できる体験を、今後も増やしていきたいです。
PayPayカードの利用がPayPayアプリにリアルタイムに通知されることで、PayPayカードを海外で利用した際の挙動も、強化されました。例えば米国内で支払えば、その通知が今説明したようにすぐにPayPayアプリに反映されます。
PayPayはセキュリティなどの関係から、アプリを海外では利用できなかったんですが、新たに決済履歴は見れるようにするなど、これを一部変えたかたちです。
金額も、ドルで精算した金額が日本円に換算されて表示されます。為替がいくらだとか頭に入れておかなくても、例えば10ドルのものを買ったら1500円(為替により変動)請求、ということがすぐ分かります。
使い過ぎ防止機能である「お買いもの予算到達のお知らせ」もリアルタイムです。決済額を積算していき、今月の設定額を超えたらリアルタイムで通知できます。
こうした機能は、インターネットやアプリの活用あってこその利便ですし、翻って安心・安全にも繋がってくる部分です。インターネット屋だからこそできた、決済や金融体験の変化。こうした細かな一歩一歩を積み重ねていくのが重要だと考えます。
PayPayを海外利用するための現実解としての、PayPayカード
──この流れで海外についてもう少し詳しくお聞きします。QRコード決済は日本で広がる前にまず中国・アジア圏での発展が聞かれ、一方の欧州ではおおむねタッチ決済が広がっている印象があります。つまり、地域によって傾向が違う。そうした状況で日本国内ユーザーがいざ海外に行った時、PayPayが使えたら便利という期待もあります。
谷田氏
世界ではビザやマスターカードといったグローバル決済ネットワークが展開されている中で、QRコードの市場をいきなり作りにいくというのは、壮大なことです。本当に、国際ブランドには一日の長があると思っています。PayPayのクレジットカード事業も、そのブランドのネットワークあっての事業ですし。なので今PayPayを海外で使いたいという方には、やはりPayPayカードを持っていってほしいですね。決済時の通知も届きますので。
特にPayPayカードのプラスチックカードを持っていっていただきたいですが、今はApple Pay、Google Payにも対応しています。NFCによるタッチ決済はスマートフォンだけでもご利用いただけます。決済の選択肢を用意しておこうというのが、現状の我々のアプローチです。いずれはQRコードが広がっていくよう、それこそ台湾でもPayPayのクロスボーダーの取り組みをし始めています。しかしながら国際ブランドが時間をかけて作ったインフラと同じレベルの品質へ辿り着くには、それなりの時間とコストがかかると、自分自身は思っています。
PayPayカードの不正利用対策は「24時間365日リアルタイム」で
──最近ですと、なんらかの仕組みを悪用して「クレジットカードの利用を停止したのに不正利用された」といった報道もありました。詳細は不明なのでこの事態に対する直接のコメントは難しいかも知れませんが、分かりうる範囲で、PayPayカードとしてはどう対策していますか?
谷田氏
ご指摘の件は、クレジットカード利用上の課題を解決する手段として長年広く利用されてきた「フロアリミット」というルールを悪用したものと思われます。例えば1万円以下の決済はオーソリ(決済可否を確認するための照会作業)をしなくても済むといった運用が、現実にあります。
クレジットカードのインフラがまだ未成熟な頃は、器具を使って券面をガチャガチャとジャーナル(売上票)へ転記したり、電話による口頭確認を行っていました。クレジットカードはそんな時代からはじまって、昼間の飲食店ではとてもそんな作業やっていられないという不便に直面し、ならば幾ら以下だったら一部作業を省略できるという時期がありました。30~40年前の話ですけれど。
その上で、PayPayの現状ですが、QRコード決済については、赤モード・青モードも、1円の決済から全て、リアルタイムに承認作業を行っています。今払うか後で払うかは関係なく、即座に全て、です。これは、PayPayグループがネットワークを全て自前で作っているから実現しました。そこに関しては、ご安心くださいと間違いなく言えるかと思います。
今の時代はもう(インフラが整って)リアルタイムに承認できますし、その効果で不正利用も抑えられます。タッチ決済も含め、リアルタイム承認が普及するのが理想です。ただ、加盟店を含め、関係各所と一緒にやっていく話でもあります。
モニタリングは24時間365日体制で行っていますが、それでもお客様が実際に使っていないのに決済が発生してしまったら、一時的にご不便はおかけしますが、一定期間後に利用規約に基づいて返金する対応をとっています。
──PayPayカードがお客様体験向上のために取り組んだ結果、それが不正利用防止にも繋がっていると?
谷田氏
そうですね、我々の目指す24時間365日体制のリアルタイム処理は、テクノロジーを使った新しい体験に繋がっています。原始時代をギャグ的に描いた作品で、巨大な石が通貨として出てきましたが、その石が、今はQRコードになって、体験も変わった、というイメージでしょうか(笑)
PayPayのアプリ開発、社長が毎日毎日、関わってます
──PayPayアプリは決済サービスの中核ですが、細かな改善も含めて、どのような開発・改善スケジュールで臨んでいますか? 例えば、2週間に1度、アプリを必ずアップデートをするという話などは、他社でよく見聞きします。
谷田氏
PayPayでは、スパンで考えるより、日々改善でやっています。開発効率を考えつつ、とにかく高速に爆速に開発を進める。時には(朝令暮改どころか)“朝令朝改”の心境で変えるべきところは変え、いち早くお客様の手元に届けるという心構えです。
──谷田社長が直接口を出すことも多い?
谷田氏
……言っちゃっていいかな。僕は毎日、口を出してます(笑) 開発サイクルのなかでどうプライオリティを付けて、やるべき改善をどうしていくか、アサインするかに、日々取り組んでいます。
セブン-イレブンでは、開発した商品を会長が最後に必ず試食する、という話がありますよね。それと同じです。
──以前、PayPay証券株式会社の番所健児さん(代表取締役社長 執行役員 CEO)とお話したとき、やはりアプリの開発には直接意見していると聞きました。ただ社長クラスがそこまで、ユーザー体験に口を出すのは、金融界では異例なようでした。
谷田氏
それを聞くと、また井上雅博さんの「一期一会」という言葉を思い出します。インターネットは一期一会なので、一度来たお客様がガッカリしたら、もう二度と来ないよ、と。
──ではライバルは何でしょう? グループのPayPayとタッグを組んだ決済サービスであったり、アプリの取り組みなどを鑑みますと、何をもってライバルとするかは議論が分かれそうですが。
谷田氏
これも井上さんの受け売りですが、「圧倒的ナンバーワンが結果オンリーワン」と仰っていました。総合的にではなく、PayPayにある赤モード、青モード、クレジットカードといったサービス1個1個が、お客様に圧倒的に支持されるナンバーワンにならなければ、と常に思っています。
(それを推し進めて)「PayPayカードを持っていってよかったな」と感じていただき、お客様が別のお客様に勧めるようなサービスへになること。それが使命です。
日本の人口約1億2000万人がいる中、PayPayカードをお持ちの方は10人に1人です。一方でPayPayは6400万人なので、国民の2人に1人。この差がPayPayカードの伸び代だと思います。
我々はクレジットカード事業者としては最後発で、先を行く各社が作ってきた顧客体験には、本当に学ぶことばかりです。楽天カード、三井住友、ドコモなどからは本当に学びが多いです。
(市場競争の観点では)お客様は全ての決済金融サービスを選べ、その気になれば国内全銀行のキャッシュカードを持てます。クレジットカードも同じです。
その中で一番最初にPayPayを想起していただくことがとても重要です。そこに向けてユーザーファーストで、テクノロジーの力を使っていち早くプロダクトを届ける。それがお客様の満足に繋がると考えていますので、小さな改善から大きな発明まで、しっかりやっていきたいですね。
アプリとカードの機能は同質化へ
──現状の手応えはいかがでしょう? 提供したい機能は、ある程度、提供し切れている?
谷田氏
いえ、まったくそんなことはなくて。例えば8月9日まで実施していた「PayPayカードスクラッチくじ」です。PayPayでも決済ごとにスクラッチくじをひけるキャンペーンを実施していましたが、これがPayPayカードの(プラスチックカードを利用した)決済にもキャンペーンが適用されるようになっていました。
ご存じない方は大分減りましたが、初めて知った方は驚かれて、凄く喜んでいただいてくれて。PayPayカードとPayPayアプリを機能的に同質化していくのはとても重要だと思っています。
──カード利用者を増やしたいとなったら、申込み手続きをスムーズ化させるというのも1つの方向性です。しかしPayPayカードでは、カードの取得によって得られる体験をこそ、全面に押し出している?
谷田氏
マーケティングファーストではなく、プロダクトファースト、プロダクトドリブンは常に意識しています。プロダクトがお客様にとって受け容れられるものだったら、別のお客様に勧めていただける可能性は高くなるはずです。
マーケティングは、お客様の背中を押す手段として使っていきたいですね。これはPayPayグループの哲学、フィロソフィーとして徹底します。お客様にプロダクトを提供できるのが2年後などと眠いことを言っていては、なんにもならない。実際に作るスピードや運用効率を、テクノロジーの力で上げていきます。
ソフトバンクグループであっても、PayPayはユニバーサルで
──先日ドコモは新料金プラン「eximo ポイ活」を発表しました。このプランでは、dカードの利用特典がクローズアップされています。PayPay、PayPayカードはどう対応していきますか?
谷田氏
我々はPayPayグループであると同時に、ソフトバンクグループの一員であることはご存じのとおりです。
一方で、PayPayはユニバーサルでなければならない、と思っています。お金が無味無臭であるように、PayPayもそうでなければ。現金からキャッシュレスへの移行へどう貢献するのか。それがPayPayの根底にあると考えています。
とはいえ、近くにあるグループ会社同士ですから、ソフトバンクの店頭などを活用した普及促進だったり、カード割引、ペイトクというように、通信プランと連携してのお得を、すでにお客様には用意しています。
むしろPayPayとして特に意識しているのは、ユーザーインターフェイスであり、ユーザー体験の部分です。いざ特典を受けようとしても、どこでなにを手続きすればいいか分からないということだけは、絶対にさせたくない。そこだけはしっかりチェックしています。
──ユニバーサルという話の一方で、2025年1月以降は、PayPayに紐付けられるクレジットカードがPayPayカード限定になることが発表されています。これは当初の発表から、施策の実施を延期して、この日程になった訳ですが、その点はいかがですか。
谷田氏
まず何より、お客様が「後で払いたい」というニーズがあり、それに対してPayPayカードが期待に応えられなかったら、お客様は逃げてしまいます。
その上で、PayPayサービスを(機能的に磨き上げて)ピカピカに仕上げておきたい。お客様には選択肢があり、しかしPayPayカードならば最高の体験ができるのだと、自信を持ってお伝えできるようにしたいです。
(PayPayカード限定化は)私が決める立場にはないのですが、我田引水にするつもりもありません。サービスをとにかくピカピカにする。それだけをやる感じです。選ばれないサービスを作っているなら、それは私たちに至らない部分がある。ならば、選ばれる理由をしっかり作る、と。
法林
「eximo ポイ活」発表会で、ドコモの方にdカードの戦略について質問したんです。今まではドコモの通信料金をdカード GOLDで払うとポイント10%還元することを大きくアピールしていた。だが本当は店舗などでもドンドンdカードで決済してほしい、というようなお答えだったんです。その上で「じゃあ(通信分野だけでなく)あらゆる決済根こそぎ取っていきたい考えですかと聞いたら、先方は「ハイ、そうです」と。
谷田氏
(笑)
法林
それは決済サービス会社なら当然の発想だとは思うんです。ですがそれは、「クレジットカードなら、JALやANAの航空マイルを貯めるのが一番だよね」という、(通信分野に興味のない)お客様を獲得していくことです。そうしたクレジットカード発行会社とも戦うことになる。
ドコモの方は「それでも大丈夫」と言うんですが、(今や社会インフラの中核である携帯電話ネットワークを提供する会社である以上は)ユニバーサルにサービスを提供しないといけない。その観点が抜け落ちてはいないか、少し心配しています。
谷田氏
PayPayがユニバーサルサービスでありたいといった点は、まさにそこです。ちょっと極端なお答えのしかたになりますが、さすがにPayPayは飛行機を飛ばせません。(ソフトバンク携帯電話を契約していながら)航空会社のマイルを貯めるという選択肢はあって当たり前でしょう、と。それが本来の消費者行動です。
しかし、クレジットカードを5枚持っていて、財布に3枚しか入らないとします。その3枚にPayPayカードを選んでもらえるだけの体験を提供しないといけない。それが我々が今やりたいことです。
誰も取り残さずに、キャッシュレスを実現できるのか
──「選ばれる理由を作る」というお話が出ましたが、では今後、具体的な機能強化などについてはどうしていきますか? 方向性のようなものでも構いませんので、ぜひ教えてください。
谷田氏
私自身が今思っているのは「デジタルシフトを目指してはいくが、しかし全てのお客様がついてこれるか」という点なんです。
24時間365日体制での利用プッシュ通知などを推進していれば、例えば電話でやってきたカスタマーサポートなどの位置付けも変わるかも知れません。しかし、そこから取り残されるお客様が一定数いるのではないか。
その傾向は、実際にお客様の声から浮かび上がってきています。我々としては、分かりやすく、業務効率もよくしながら、何ができるのか。上手く解決していかなければならないと感じます。
──例えば、ソフトバンクショップでやっているスマホ教室のように、PayPayカード教室を実施するとか?
谷田氏
そうしたものは一定数あっていいと思います。恐らくは、そこで生成AIの活用はありそうです。現状では、生成AIに人間らしさを求めるのは難しいですが。
ソフトバンクグループはAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)をキーワードに掲げ、生成AIの活用だけでなく、人間らしさを残していくことを目標にしています。文字や映像だけでない形、例えばインタラクティブな音声などのサポートなども、今後やっていくことになるかもしれません。
──リテラシーの高い人からPayPayを使い始めたでしょうが、それも変わっていくということですね。
谷田氏
(IT普及から取り残されそうな人たちも見つめなければ)現金の代わりにはなれない、と思います。
──本日はありがとうございました。