インタビュー

「Xperia 5 IV」開発者インタビュー――αシリーズ譲りの「見たままを残す」カメラ技術を探る

 ソニーが9月に発表した最新スマートフォン「Xperia 5 IV」では、プレミアムクラスの写真/動画撮影体験やゲームプレイ/配信機能など、「手軽にクリエイターになれる」充実の機能が搭載されている。日本では、NTTドコモとau、ソフトバンク、楽天モバイルから10月中旬以降に順次発売される。

 今回は、写真/動画撮影機能について、「Xperia 5 IV」の開発陣から話を聞いた。インタビューに応えたのは、ソニー モバイルコミュニケーションズ事業本部 企画部の折原 漱介氏と、イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部カメラ設計部の松本 一輝氏と有山 隆暁氏。

折原 漱介氏
松本 一輝氏
有山 隆暁氏

クリエイター経済圏を取り込めるスマートフォンに

――「Xperia 5 IV」について、特徴を聞かせてください。

折原氏
 まずは、「Xperia 5 IV」のプロダクト全体概要をお話します。

 ソニーとしては、Community of Interest戦略として「好きなものを極める人々へ」というのをテーマにプロダクトを企画・開発してきました。

 Xperiaシリーズもそうですが、カメラのαシリーズやオーディオなど「クリエイターのための機器」というところを基本的なプロダクトの考えにしています。そのなかで、クリエイターの経済圏(クリエイターエコノミー)というものが無視できないほどのボリュームとなり、ソニーとしてはこのクリエイターに対してどう価値を提供できるかという点を考えています。

 今回の「Xperia 5 IV」でも、「手の中に感動を」というコンセプトで、高精度AFや動画描写力というαシリーズ譲りのカメラ機能やオーディオ、ディスプレイ、大容量バッテリーといった部分で「本当に好きな方に存分に楽しんでいただく」プロダクトとして企画・開発いたしました。

 また、クリエイターでハードに使われる方も多いと思いますので、安心して利用いただける大容量バッテリーを搭載しています。

動画撮影機能も充実

――次に、「Xperia 5 IV」のカメラ機能ですが、どのように進化したのでしょう?

折原氏
 「Xperia 5 IV」は、カメラの専門知識はなくてもスマホのカメラ性能は高くあってほしい「プレミアムメインストリーム」レベルでアプローチをした製品になります。

 標準カメラアプリ「Photography Pro」について、Xperiaのカメラ性能を引き出しつつ簡単に撮影できる「ベーシックモード」を搭載しています。動いているものに対して、被写体をワンタップするだけでピントを合わせ続ける「オブジェクトトラッキング機能」を搭載していますので、かんたんにフォーカスが合った動画が撮影できます。

ベーシックモード

――これから写真/動画をはじめてみるユーザーなどにあわせた機能でしょうか?

折原氏
 先述のクリエイターエコノミーという観点でみると、最近のクリエイションは、最初から一眼レフカメラを買うというユーザーよりも、スマホからクリエイションを始めようという方がすごく増えてきています。

 そういった方に、この最初に立ち上がるベーシックモードで、動画撮影を始めてもらい、リアルタイムトラッキング機能などソニーの技術を「クリエイションを始めた段階」から使っていただけるように考えています。

――プロモーション面でも、工夫されたところがあるとか……

折原氏
 従来のモデルでは、訴求機能として静止画からご紹介してきましたが、今回の「Xperia 5 IV」では、動画機能から先にご紹介しています。

 昨今、InstagramなどSNSで写真を上げるよりも、TikTokなどで動画をアップロードするクリエイションの波があると考えており、今回は動画にも力を入れてプロモーションを実施しました。

――やはり動画シェアの波が無視できないレベルにきていると。

折原氏
 αシリーズやほかのソニーのプロダクト、特にVLOGCAM「ZV-1」が市場に受け入れられている点をみても、動画というのが重要であると、我々企画開発でもずっと意識しているところです。

 メインは静止画ということは未だに多いと思いますが、今どの波が来ているかと聞かれれば、明らかに動画だと考えています。

――動画撮影機能では、ほかにどのような機能が搭載されていますか?

折原氏
 「動画の表現力」で何が提供できるかというところも「Xperia 5 IV」の大きなポイントの一つです。

 今回は、4K 120FPSのハイフレーム撮影で、撮影後でも5倍のスローモーション再生ができます。また、ダイナミックワイドレンジへの対応で、夕焼けでも白飛びせずしっかりと表現できる点は、動画撮影時でも体験いただけると思います。

 SNSで動画をシェアする際、やはり「動画そのものの素材」が大事だという風に我々は考えています。編集加工は後々すると思いますが、そもそもピントが合っていなかったり、白飛び黒つぶれしてしまっていたりすると、撮影として失敗してしまっていることになります。

 Xperiaとしては、AF機能やハイフレームレート撮影、ダイナミックレンジワイド機能で撮影できる機能を搭載することで、派手な機能ではないけれどクリエイターにとって大事なところを意識してものづくりしています。

 もちろん、手ぶれ補正機能など(スマホカメラとして当たり前になりつつある機能においても)、他社に負けないように製品開発を行っています。

――いいカメラで撮影できるとなると、動画配信もしてみたくなりそうですね

折原氏
 「Xperia 5 IV」は動画配信機能があるので、これだけで配信することもできますし、αシリーズと接続してライブ配信できる機能もしっかり搭載しています。

 はじめて動画撮影するエントリーユーザーから、ヘビーユーザーまで、しっかりサポートできるところがXperiaシリーズのカメラ機能の強みだと考えています。

Xperia 5シリーズ初のリアルタイムトラッキング機能、秘密はAIによる距離測位

――引き続き、静止画撮影機能のポイントを教えて下さい。

折原氏

 動画機能でも触れましたが、120FPSの高速読み出しセンサーを3つのカメラすべてに搭載しております。これにより、すべての焦点距離で高精度のAF機能「リアルタイム瞳AF」が実現しました。

瞳AFイメージ

 やはり、写真を加工する場合においても、編集前のベースとなる素材がしっかりしていることが、クリエイションにおいてベストであると考えていることを具体化した機能です。

 リアルタイム瞳AFは、こうしたコンセプトをもとに顔をカメラに向けている際に、瞳を検知して顔にしっかりピントを合わせる機能です。これとは別に、瞳が見えない時も動き回る被写体でもしっかりとピントを合わせ続けられる「リアルタイムトラッキング」も搭載しています。

 従来のXperia 5シリーズでも、オブジェクトトラッキングは搭載していました。今回のリアルタイムトラッキング機能では、AI解析で距離情報を導き出すことで、被写体とカメラの間を別の物体が横切っても、指定した被写体を追跡しながらピントを合わせられるようになりました。2つの機能は、物体を追従するという目的は同じですが、リアルタイムトラッキングはオブジェクトトラッキングの上位互換にあたる機能で性能が向上しています

 また、似たような被写体を複数認識しても、距離情報が異なれば違うものであると認識できます。たとえ人混みのなかでも、一人だけにピントを合わせ続けることもできるようになります。

松本氏
 「Xperia 1 IV」では、 3DiToFセンサーが搭載されており、距離情報を利用していました。

 一方、「Xperia 5 IV」では、3D iToFセンサーを搭載しておりませんので、AIによって距離情報を計算することで補助情報として利用できるのが大きなポイントになります。

折原氏
 このほか、HDR連写撮影機能を搭載しています。

 広いダイナミックレンジのまま連写できるという部分も大きなポイントの一つです。例えば屋外で動きのある人物等を撮影するシーンでも、表情が黒つぶれしたり、背景が白飛びしたりといったことがなく連写撮影ができます。動きの予測できない赤ちゃんを撮影するシーンなどで、豊かな表情を黒潰れなく、背景も白飛びしない撮影ができます。

有山氏
 リアルタイムトラッキングで被写体を追従しながら、HDRで連写撮影できる撮影体験ができるのは、大きな特徴になるかなと思っています。動き回る動物に、ピントを合わせながらもHDR連写撮影できるというところですね。

広いダイナミックレンジで撮影できる(筆者撮影)

開発者こだわりのポイント「人物撮影」に力を入れる

――「Xperia 5 IV」の3つのカメラについて、この焦点距離になった理由を教えて下さい。「Xperia 5 III」では、70mmと105mmの切り替え式望遠カメラを採用していましたが、トレンドなどを意識しての事でしょうか?

「Xperia 5 IV」のカメラ構成

折原氏
 今回、カメラモジュール自体も変わった部分もありますが、望遠カメラ(60mm)は、被写体と背景がしっかりと撮影でき、画にストーリー性を持たせられるポートレート撮影ができる焦点距離になっています。

松本氏
 超広角と広角カメラは、「Xperia 1 IV」と同じ距離(16mmと24mm)になっています。一方、望遠カメラについて、「Xperia 1 IV」では長めの焦点距離(85-125mm)になっていたことから、広角と望遠の間がほしいという声がありました。「Xperia 5 III」でも長めの焦点距離(70mm)となっていたので、議論の結果「標準域ではあるけれども、ポートレートに適した60mm」というところを選択しました。

折原氏
 60mmの望遠カメラでは、使い勝手のいい焦点距離で、ひずみも少ないポートレート写真を撮影できます。

有山氏
 人物撮影を特に重視していて、肌の色再現・質感といった部分にこだわりました。

 犬の毛並みや麦わら帽子の質感、セーターのディテールなどもしっかりと出しつつ、かといって無理に誇張してギラつかせたりしないナチュラルで自然な画作りを行っています。

 その土台になるのが、私が担当する露出制御やホワイトバランスの部分だと思います。安定した露出制御とホワイトバランスに加え、色再現や肌色を重視し、ナチュラルな写真に仕上がるよう、こだわって作り上げました。

折原氏
 絵画を作っているのではなく、あくまでちゃんとリアルでナチュラルな写真作りというものに向き合っています。これは、カメラ屋といいますか、カメラを作っている我々だからこそのコンセプトかなと思っています。

 会社としても「絵を作っているのではなく、写真を撮ってもらう」ということを日頃から意識しております。

松本氏
  αシリーズの知見も込めながら、「見たままを残す」ということを基本コンセプトにしています。さらにホワイトバランスや露出にAIを活用することで、安定して撮影できるようにしています。もちろん、HDR撮影では重ね合わせ処理などは内部的に行っていますが、あくまでも「見たままを残す」というところを目標に活用しています。

――インカメラ(フロントカメラ)にもこだわっているとお伺いしました。

折原氏
 今回、先代機種からフロントカメラのセンサーサイズを拡大し、よりノイズの少ない写真撮影を実現しました。また、4K HDR撮影にも対応しています。

インカメラ作例、センサーサイズ拡大で暗い場所でもノイズが少なく撮影できる

 Xperia 5シリーズのフロントカメラに対するユーザーからの声もあり、今回の「Xperia 5 IV」では、前機種の「Xperia 5 III」で使っていたリアカメラのセンサーをフロントカメラに採用しました。

松本氏
 リアとフロントでソフトウェア的な違いはありませんが、それぞれのカメラに最適なチューニングを実施しています。

有山氏
 リアカメラとおなじ体験ができるように、できるだけ共通の機能を提供できるようにしました。どのカメラで撮影しても違和感がないように、チューニングしています。

動画も静止画も「素材が大事」

――ここまでの話を振り返ると、「Xperia 5 IV」では、静止画だけでなく動画機能にも大きな特徴がありました。

松本氏
 「一枚の写真をきちんときれいに残す」ということの連続が動画になると思います。これにより、写真も動画もきれいに残るように、技術が発展していくと思います。写真も動画も根本は同じだと思っています。

有山氏
 肌色を大切にするのは静止画も動画も大切だと思っています。カメラメーカーの押しつけの画質を提供するのではなく、実物に忠実な画質を提供し、クリエイターが工夫して作品を作ってもらうモノだと思っています。

松本氏
 我々は、業務用のムービーカメラも手がけているので、静止画に限らず動画の面でも強みを持っていると思います。

Xperia 5 IVはコスパが高い? ソニーの技術が集結

――カメラ以外の特徴も教えて下さい。

折原氏
 ゲームのライブストリーミング機能や、新構造のスピーカーなどが特徴です。

 DSEE Ultimate機能で、音楽ストリーミングサービスの音源でも、ハイレゾ相当に聴くことができます。

 また、ディスプレイではコンテンツを汚さないよう「ノッチがない」21:9のディスプレイを搭載し、リアルタイムHDRドライブの対応や輝度の50%向上を実現しました。

輝度が向上した21:9ディスプレイ

 本体サイズを小さくしながらも、バッテリー容量を拡大し、Xperia 5シリーズではじめてワイヤレスチャージに対応しています。

 デザインについては、丸みを帯びた前機種デザインから今風のデザインに仕上げました

――これだけXperia 5シリーズの機能が進化してしまうと、逆にXperia 1シリーズが売れなくなる気がしてしまいますね

折原氏
 Xperia 1シリーズを購入される方は、生粋のソニーファンだったりガジェットにすごく興味がある方が多いのではないかと思います。一方、Xperia 5シリーズは、手の届きやすい価格帯で、ソニーの技術をしっかりと感じていただけるモデルなのかなと思います。

 クリエイティブなコンテンツが簡単に作れる機能がいろいろ詰まっています。ぜひ手に取っていただいて、手軽なクリエイション体験をしていただきたいと思います。

松本氏
 「Xperia 1 IV」のように長い焦点距離が必要ないのであれば、非常にコストパフォーマンスのいいモデルであるといえます。

 Xperia 5 IV作例など見ていただければ、我々が大切にしているポイントをわかっていただけると思います。

――最後に、「Xperia 5 IV」で撮ってほしいというシーンを聴かせて下さい。

松本氏
 人肌にはこだわっていますので、ぜひ超至近距離でお子様やご友人を撮影してみてください

 一緒に遊びながらであったり、一緒の時間を過ごしながら日常をきれいに残してくというのが、私たちの開発コンセプトにも合うかなと思っています。

 加えて、リアルタイムトラッキング機能であったりHDR撮影だったり、焦点機能もふくめて調整しておりますので、ぜひいろいろなシーンで撮影してみて下さい。

有山氏
 120フレーム撮影など、さまざまな機能を搭載していますが、やはり人肌の撮影においては、ほかのスマートフォンを引き合いに出しても負けないようにこだわっています。

 人を「健康的に」表現できるのは、「Xperia 5 IV」の強みではないかなと思います。

――本日は、どうもありがとうございました。