インタビュー

コカ・コーラ自販機×スマホで大幅進化、1500万DLで新たなステージを目指す「Coke ON」アプリの秘密を聞く

 喉が渇いたので水分補給したい。はたまた、仕事の合間にリフレッシュしたいのでコーヒーでも飲もうか。そんな時の強い味方が自動販売機だ。店まで足を運ぶことなく、早朝深夜でも気軽にドリンクが買える。街中にここまで自販機が設置されている国は世界でも有数とされ、消費者として受ける恩恵も大きい。

Coke ON対応自販機

 その自販機が、いま進化していることをご存じだろうか。中でも筆頭格が、コカ・コーラの「Coke ON」だろう。2016年4月にサービスがスタートし、この6月末にはアプリのダウンロード数が1500万を突破した。

 Coke ONがどのように生まれ、そして3年強の間にどう進化していったのか。Coke ONの企画・開発を担当する、日本コカ・コーラ株式会社の宇川有人氏(マーケティング本部 IMC iマーケティング シニアマネジャー)に話を聞いた。

日本コカ・コーラ株式会社の宇川有人氏(マーケティング本部 IMC iマーケティング シニアマネジャー)

スタンプ15個でドリンク1本無料の「Coke ON」~ドリンクを1本も買わなくても、無料でもらえちゃう?!

 最初に、コカ・コーラの自販機に関する概況を確認しておこう。業界団体である日本自動販売システム工業会の2018年版調査データによると、日本国内の「清涼飲料」自販機(牛乳や酒の販売機を除く)の設置台数は約212万台。このうち88万台がコカ・コーラ自販機で、シェアは41.5%に上る。

 対して、Coke ONに対応したコカ・コーラ自販機の設置台数は2019年7月の段階で約32万台。つまり、街で見かけるコカ・コーラ自販機のうち、2~3台に1台程度がCoke ON対応だという計算になる(実際には地域差も多いが)。Coke ONがスタートしたのは2016年4月なので、およそ3年をかけて着実に台数を積み増してきている。

 Coke ONサービスの基軸となるのが、iOS/Android対応のスマートフォンアプリだ。Bluetoothによる無線で自販機と接続し、ドリンクを購入すると、デジタル形式のスタンプが1つ付与される。

Coke ONアプリのメイン画面。スタンプの獲得状況が表示されている

 スタンプは15個貯めると、ドリンク1本と無料で引き換えられる。この引き換え手続きにも面倒なところがなく、アプリと対応自販機さえあれば完結する。また実際には、スタンプの倍付けだったり、ドリンクを買わなくてもスタンプがもらえる制度・キャンペーンが相当数用意されるため、とにかく特典を利用しやすいのも嬉しいポイントだ。

スタンプを15個貯めると、ドリンク1本と引き換えられる「チケット」が発行される

 こうした取り組みが奏功し、アプリのダウンロード数は1500万を突破した。最近ではスタンプサービスのほかに、さまざまな新機能を追加している。アプリの進化スピードの速さも嬉しいところだ。

Coke ON誕生前夜~SNSやスマホの登場で、消費者マインドが変化

 コカ・コーラは国内外で抜群の知名度を誇るブランドだけに、そのマーケティング・広告戦略の幅は広い。代表的なところではテレビCMが思い浮かぶが、Webの施策にも積極的で、2007年には「コカ・コーラ パーク」を立ち上げた。同ブランドが実施する各種キャンペーンを楽しめるサイトとして、1300万会員を集めるなど一時代を築いた。しかし、それでも年月の変化はサービスに影響を与えていった。

宇川氏

「コカ・コーラ パークは大変な人気を集めましたが、やはり時代・社会情勢が少しずつ変わっていきました。その要因がSNSであり、やはりスマートフォンですね。それまでブラウザーベースのミニゲームなどで遊んでくれていた方々が、アプリやソーシャルメディアへシフトしていった。デジタル空間における時間の使い方が変わっていったのです」

 時を同じくして、「自販機を通じたドリンクの販売」もまた、市場環境の変化を受けていた。年々、コンビニやドラッグストアでの販売が台頭していくのに加え、2011年3月には東日本大震災が発生。節電意識の高まりにより、自販機への風当たりは強まった。また、2014年4月の消費税増税(5%から8%)に際しては、釣り銭のやりとりの関係上、値上げも余儀なくされた。

 自社運営のデジタルメディア、そして自販機ビジネス。この2つを再び元気にさせたい──。これがCoke ON誕生のきっかけだったと宇川氏は語る。

世の中は変わった。でも自販機は変われたのか?

 コカ・コーラは1962年に国内で初めて清涼飲料機自販機を設置して以来、自販機そのもの進化・改善に取り組んできた。

 2003年にはNTTドコモ、伊藤忠商事と連携して「Cmode」をスタートさせたが、これはキャッシュレスの先駆けのようなサービスとなり、2次元コードを自販機に読みとらせることで、ドリンクやデジタルコンテンツを購入できる仕組みだった。ちなみに宇川氏は、このCmodeの開発・運用にNTTドコモ側から携わるメンバーの1人であったという。

宇川氏

「このほかにも、あまり知られていないんですが、2015年頃からプラスチック製カードを使ったポイントサービス的なものをコカ・コーラ自販機でやっています。(工場など)クローズドなロケーションの中でだけ使えるというケースが大半なんですが、やはりポイントが貯まるとドリンクが1本もらえるという内容で、大変好評です」

 プラスチックカードによるポイントプログラムは好評な一方、カード自体がFeliCa方式のため、大勢のユーザーに配ろうとするとどうしてもコストが嵩んでしまう。また、デジタルマーケティングとの連動も難しく、例えばカード所有者にメルマガを送るといった発展が期待できない。

宇川氏

「振り返ってみると、やはり自販機ビジネスが伸び悩んだ理由は、外の環境だと思うんです。自販機は誕生して以来、ホット商品を販売できるようになり、節電機能を上げ、通信用モデムを内蔵するなど進化してきました。同時に世の中も急速に変わっていて、コンビニができたし、平成元年にはヨドバシカメラさんがポイントカードを作り、以後Tポイントなども続々登場しています」

 ポイントカードが発明され、社会的に人気・知名度を得ている現状について、宇川氏は「店が客を理解しようという営みそのものでは」と述べる。対人、オンラインを問わず、あらゆる店が「再び私たちの店を選んでほしい」と願い、投資を続けている。

 その中で、自販機は極論すれば「無人の箱」であり、顧客を理解するための施策に長けてはいない。そこをカバーしようというのが、まさにCoke ONの役割になってくる。まずは、ポイントカードシステムなどで先行する競合チャネルに追いつく。そして、社会的に普及しているスマートフォンを通じてキャンペーンメッセージなどを伝えることで、コカ・コーラ側の「顧客理解」を同時に深化させようとしている。

オフライン自販機であっても、Coke ONアプリ経由で一時的にオンラインになれる

 さてCoke ONの仕組みだが、スマホとCoke ON自販機間の接続はBluetoothによる無線で行われる。スタンプの付与処理のためにはインターネット接続が必要となるが、その際、自販機は客のスマホを経由してインターネット通信を行う。つまり、自販機そのものに通信モジュールなどを搭載しておかなくてもよい。

Bluetooth接続中の画面。この画面が出ている間に、ドリンクを買えばOK

 前提として、Suicaや楽天Edyなどの電子マネーに対応したキャッシュレス自販機は、コカ・コーラ自販機88万台中、15万台ほどあるが、これらの個体は決済のための通信モデムを100%の確率で搭載している。

 しかし通信機能を直に搭載するとなると、初期費用・ランニングコストがどうしてもかかってくる。

宇川氏

「自販機1台1台の売上は、そこまで多くはありません。コカ・コーラで独自に部材を開発したり、通信センターを運用したりしているからこそ(コストを抑えられて)15万台にまで増やせたとも言えます」

 こうした中、キャッシュレス非対応の自販機でも、Coke ON対応することにより、運用コストを抑えつつ、顧客サービスを充実させ、かつ自販機データを取得することができるようになった。

チケットをドリンクと引き換える際には、このように商品一覧がスマートフォン画面に表示される

 Coke ON対応機能のための部材は、自販機のコイン・紙幣挿入口付近に装着できるようになっていて、非常にコンパクト。2019年現在、新たに出荷されるコカ・コーラ自販機については、Coke ON機能が標準搭載されているという。今後も対応自販機が増えていくことになりそうだ。

機種ごとに違うBluetooth電波感度

 このようにCoke ONでは、Bluetoothを全面的に活用しているが、その開発にあたっては大変な苦労があったという。現在は、市場に出回っているスマートフォンすべてにBluetoothが搭載されているといっても差し支えないレベルだが、その電波の感度は機種ごとに大きく違うからだ。

宇川氏

「Coke ONがスタートした2016年4月頃は、Bluetoothをビジネスシーンでリアルに使うという事例がまだまだ少なく、スマートフォンメーカー側も、それほどBluetooth電波のチューニングをそれほど考えていなかったのではないでしょうか」

 Coke ONから出力されるBluetooth電波の強さは基本的に一定である。自販機が動作するためにAC電源が接続されているので、非常に安定して動作する。

 しかしスマートフォン側からその電波を見ると、機種Aでは「-90db」、別の機種Bでは「-70db」といった具合に、同じ距離で測定しているのに、判定の異なるケースがある。スマートフォン本体内のアンテナ配置の違いなどが、そうした感度の違いを生む背景とみられる。

 この差を、アプリ側のチューニングで吸収しなければならない。iPhoneは出荷モデル数が比較的絞り込まれているため、対処は容易だったが、Androidはそうはいかない。

宇川氏

「Coke ONアプリの開発にあたってBluetooth接続を試してみたんですが、あまり繋がらない。なぜだろうと電波を計測してみると、想定しているレンジを超える差が出ていました。そこで慌てまして……。自分たちでスマートフォンを買い集めたり、キャリア各社に『Bluetooth対応の機種をあるだけ全部貸してくれ』とお願いをしたりして、チューニングを進めていったんです。当時、100台は借りましたね」

 結果、接続まわりの電波チューニングは進み、安定して使用できるようになってきた。また、Coke ONのスタンプ付与が上手く行われなかった場合などに備え、コールセンターでサポート対応を行っているが、ここで特定機種に不具合が集中していることが明らかになった場合は、その機種を入手して、Coke ON側のチューニングを変えるなどの対応もとっている。過去には、こうしたチューニングの過程で、スマホ本体側ミドルウェアのバグ発見に繋がったこともあるそうだ。

 Coke ONリリースから3年4カ月が経過したが、現在もキャリア各社から新スマートフォンが発売される度に、追加のチューニングを実施している。特に最近は、スマートフォンのバッテリー消費を抑えるための省電力機能をメーカー各社が競って開発している。そこでターゲットになりやすいのが、Bluetoothをはじめとした無線周り。宇川氏らの苦労は今も絶えないようだ。

宇川氏

「ただ最近は、Bluetoothイヤホンをご利用になっている方が多いため、そこに対してスマホメーカーさんも目を向けていると思います。ただ我々のように、リアルに(かつビジネスで)Bluetoothを使っているところもあると、アピールしていきたいですね(笑)」

これがデジタルの力。キャンペーン実施数が年4~5本から250本以上へと激増

 宇川氏ら注意しているのは、なにより顧客にCoke ONで「楽しんで」もらいたいということ。

宇川氏

「2016年4月のCoke ON誕生のときからそうなんですが、お客様にとって楽しく、便利で、自分に合ったサービスを提供していきたいと常に考えています」

 その「楽しさ」の1つとなっているのが、とにかく矢継ぎ早に展開されていくキャンペーンの質・量だろう。

これまで自販機におけるキャンペーンと言えば、自販機本体に貼るPOPであったり、あるいはフィギュアなどのランダム添付(コカ・コーラ社内ではラッキーキャップと呼ばれる施策)などに限られていたりした。

当然、在庫補充などを行う営業担当者は、陳列する商品の入れ替えなど、特別な対応をしなければならない。プレゼントする賞品の企画、製造、在庫管理、配送なども考慮すると、1施策に数カ月かかるのはザラで、年4~5件の実施が限界だった。効果測定も、アンケートベースで実施するしかない。

 しかしCoke ONではデジタルキャンペーンが行えるようになり、またどんな消費者がどの賞品を買ったかも正しく理解できる。すでに特定の利用者に対してだけ、「スタンプ2倍」のキャンペーンを案内することもできるという。

 ではCoke ONの導入によって、売上はアップするのだろうか? 率直な疑問をぶつけてみたところ、宇川氏はその利用動向を答えてくれた。

宇川氏

「おかげさまで、Coke ON対応機種と非対応機種を比べた場合、対応機種のセールスが確実に数ポイント(数パーセント)は上がります。要因としては、Coke ONアプリをお使いいただくことで、(連動してコカ・コーラの自販機を)選んでいただける機会がやはり増えます。また、新商品の情報などもお届けできますし、1台1台の自販機に目を向けてみても、確かな効果が出ているのでしょう」

 さらなるメリットとして宇川氏が例示するのは、サンプリングだ。ドリンク市場では新商品発売のタイミングなどで、客に無料で試飲してもらうサンプリングイベントが頻繁に行われる。

 通常はスーパーの試食同様、店で紙コップにドリンクを注ぎ、客に渡す。しかしCoke ONであれば、飲み物の無料チケットをアプリ上で発行し、客は任意のタイミングで味わえる。

宇川氏

「例えば熱中症対策に絡めて、天気やエリアを限定してサンプリングするといったことができます」

 条件が複雑なキャンペーンも難なくこなす。東京都が推進する「時差Biz」に合わせたキャンペーンでは、「一部の駅構内に設置された自販機限定」「朝5~8時もしくは夕方17~20時」にドリンクを買ったときだけ、Coke ONのスタンプが2倍になる。

 時差Bizのキャンペーンは年2回ペースで実施しているが、知名度アップにも大きな効果があったようだ。コカ・コーラ自販機を土地・建物などに設置して利益を上げたいオーナー側からも、Coke ONについての問い合わせが増え、同様のキャンペーンができないかの相談が寄せられているという。

 キャンペーンの種類は実に多彩で、誕生日限定の特別スタンプなどを筆頭に、北海道や北陸といった広域エリア限定で実施されるのはもちろん、「ある特定の職場の自販機限定」という運用も可能になっている。このため、Coke ONアプリの利用者ごとに、告知されるキャンペーンの種類はかなり異なる。

利用者ごとに、通知されるキャンペーンの内容は大きく異なるという

宇川氏

「自販機関連のプロモーションは、一般的に年4~5本やるのが精一杯。でも、Coke ONではお客様の実際の購買データを元に、いろいろな施策が行えます。結果、大小含めて2018年には250本以上のキャンペーンを実施できました」

あれだけスタンプ2倍キャンペーンをやっても大丈夫なの? 実は…

 Coke ONの機能進化は続いている。2018年4月には「Coke ON ウォーク」が追加された。スマートフォン本体で歩数を計測し、1週間の目標値をクリアすると、スタンプが1つもらえるというサービスだ。利用者数は470万人を超える。

Coke ONウォーク機能の画面。1週間の目標歩数をクリアすれば、それだけでドリンク1本を購入したのと同じ、スタンプ1個がもらえる

 健康への関心は年々高まっており、従業員を雇用する企業にとっても、従業員の健康・福祉を重視する「健康経営」の理念が重視されつつある。例えば職場の自販機で特保ドリンク限定のスタンプ2倍キャンペーンを実施したり、従業員にCoke ON ウォークの利用を奨励してもらうなど、コカ・コーラとしてもさまざまな取り組みを行っている。

 健康、その維持のための軽い運動、そして水分補給というサイクルに対して、Coke ON ウォークは親和性が高い。その結果というべきか、利用者数は470万人を超えている。

 ただCoke ON ウォークを利用すると、極論すれば、ドリンクを1本も買わずに15週間目標歩数をクリアするだけで、特典を得られてしまう。かなりの“大盤振る舞い”とも言えるが、実は宇川氏らには明確な戦略がある。

宇川氏

「多くの方からご心配の声は頂きます(笑)。ただビジネスの観点で説明しますと、星の数ほどあるアプリの中からCoke ONを見つけていただき、ダウンロードしていただくのは本当に大変なことです。それ以上に難しいのは『使い続けてもらうこと』なんですね。そのためには、習慣的にアプリを立ち上げていただくためのきっかけを作って、アプリのコア(バリュー)となる部分と連動させ、よいアプリへと育てていきたいんです」

 その意味において、1週間を1単位とするCoke ON ウォークは、まさにアプリ利用の習慣化を促す存在という訳だ。スタンプ2倍キャンペーンなどを徹底的に利用し尽くす熱心なユーザーがいる一方、ドリンクをそれほど買わないライトなユーザーを獲得する意味でも、Coke ON ウォークは重要だと宇川氏は指摘する。

宇川氏

「結果的に、良いバランスになっていると思います。(ドリンク購買量にかかわらず)どんなお客様から見ても『意外とスタンプ貯まるじゃん』と感じていただけるのではないでしょうか」

新機能も続々、イチオシはARの「Coke ON カメラ」

 キャッシュレスの潮流に合わせる形で、Coke ONでは2つの新サービスを開始した。まず「Coke ON Pay」は、支払い方法の拡張の一環。自販機とアプリをBluetooth接続した際に、アプリ上に登録したクレジットカードおよびLINE Payを通じて決済する仕組み。ドリンクの選択もスマートフォンの画面上で行う。なお、Coke ON Pay対応自販機でのみ利用できる。

 2つ目は「Coke ON IC」で、こちらは電子マネー12種(PASMOなどの交通系、楽天Edy、WAON、nanacoなど)で自販機からドリンクを買った場合に、それだけでCoke ONスタンプがもらえる制度。Coke ON非対応だが電子マネーには対応している自販機でスタンプを貯めたかったり、Coke ONアプリを立ち上げたりするのがどうしても面倒な場合に重宝する。利用にあたっては、電子マネーのカード番号をCoke ONアプリに登録しておく必要がある。

 そして宇川氏がイチオシする機能が「Coke ON カメラ」だ。この6月に提供を開始した、いわゆる「AR(Augmented Reality)」系のサービスで、カメラを使ってキャラクターを表示させたり、ロゴを撮影するとプレゼント抽選権がもらえるなど、さまざまな遊びが用意されている。

宇川氏

「ARで話題になったアプリは数々ありますが、多くは単体アプリでした。Coke ONほどの規模でアクティブユーザーがいらっしゃるアプリにおいて、ここまでAR機能を取り込んだ例は少ないと思います」

Coke ON カメラの実演を行う宇川氏
Coke ON カメラを使った遊びの例。製品パッケージをスキャンすると、いろいろなお楽しみが

 加えて、Coke ON カメラは、ドリンクのパッケージを活用したサービスなので、自販機に限らず、コンビニやスーパーで買ったコカ・コーラ製ドリンクでも楽しむことができる。現在実施中(2019年7月時点)の「東京2020オリンピック 応援キャンペーン」では、製品パッケージにプリントされた専用マークをCoke ON カメラでスキャンすると、キャンペーンポイントが1ポイント貯まる(1日1スキャンが上限)。貯まったポイントは、聖火ランナー選出キャンペーンの応募などに使える。

宇川氏

「製品のパッケージが起点なので、流通チャネルにかかわらずお楽しみいただけます。やはりCoke ONは『コカ・コーラの公式アプリ』なので、ドリンクを買った場所に関係なく、お使いいただきたいですし、自販機に限定することなく、コカ・コーラと繋がれるアプリになっています」

1人1人に「ちょうどよい」サービスを目指す

 コカ・コーラが目指しているのは、自販機をまるで「馴染みの店」だと思ってもらえるようにすることだ。

宇川氏

「自販機は無人の箱ではありますが、Coke ONのようなデジタルのサービスも活用することで、お客様をおもてなししていきたいと考えています。それこそ、買った後に『ありがとうございます』とお伝えするように」

 Coke ONの利用を通じて取得した購買データを、ディープラーニングで分析するなど、AI的なアプローチもすでにスタートさせている。特にドリンクは「仕事に行く前、駅で買う」「週末スポーツするときに現地で買う」など、習慣に根ざした部分が大きい。こうした事象の中からマーケティングの方向性を見出すのは、まさにAIが得意とするところだと宇川氏は話す。

 こうした分析なども重ねていき、最終的には、顧客1人1人にとって「ちょうどよいオファー」を届けるのが具体的な目標という。もちろん、アプリのプッシュ通知機能を使えば今でも顧客へメッセージを届けられるが、数が多かったり、「自分に関係ない」と思われたりしてしまえば、プッシュ通知はすぐオフにされてしまうし、最悪の場合はアプリが削除される。

 ただ、そのレベルに達するのは容易ではない。実運用を進めながら、どんどん改善を重ねていく必要があると宇川氏も認める。

 また、在庫の補充などの業務オペレーションについても、Coke ONのもたらす情報が改善の手助けになりそうだ。現状、コカ・コーラ自販機の全数が常時オンラインにはなっていないが、顧客がCoke ONアプリを接続したタイミングだけはオンラインになる。この際、品揃え・品切れ情報などが管理サーバーに上がるため、これを活用する試みが一部グループ会社ですでに行われているという。

 自販機が使われる理由のうち、最たるものは「近くにあるから」だとされる。

宇川氏

「もちろん、その利点は活かしながら、楽しさだったり、心地よさだったり、『私のことを知っている』と思っていただけるようなところをCoke ONで目指したいですね」

インタビューは、東京・渋谷の日本コカ・コーラ本社にお邪魔して行った。完成からまだ3年という新築で、このように写真映えするスポットだらけ。コカ・コーラのロゴをかたちどっているのは、もちろんクラウン(王冠)。
お手洗いの案内サインもコンツアーボトル! なお、本社の一般公開はされていないので、あしからず