インタビュー
SUPER GTでレクサス勢を支えるKDDI、無線音声のデータ化で戦略分析
2018年8月7日 11:00
SUPER GT 第5戦で今季初優勝を果たしたau TOM'S。同チームのタイトルスポンサーとなっているKDDIは、上位カテゴリーとなるGT500のレクサス勢に車両を供給するTRD(Toyota Racing Development)とその車両を使用するチームとの間での通信をサポートしている。
KDDIがサーキット内においてTRDをサポートするのは今年で3年目となる。1年目はピットガレージ内のネットワークインフラの整備がテーマで、通信環境を整えた上で「ダッシュボード」と呼ばれるモニタリングシステムの構築を支援。2年目には給油塔から伸びるブームにネットワークカメラを設置し、ピット作業の効率化に取り組んだ。
3シーズン目は無線音声のデータ化に着手
KDDI ソリューション推進本部 ソリューション5部 5グループ 技術担当の吉田研彦氏によれば、3年目となる今シーズンからの新たな取り組みとして、チーム内での無線連絡をその都度ファイル化してダッシュボード上で共有するシステムの開発に着手しているという。
SUPER GTでは車両とピットの間でのリアルタイム通信は規則で禁止されており、詳細な走行データは車がピットに戻ってこないと取得できない。一方でドライバーとの音声通信は許されており、そこから得られる情報が戦略上、非常に重要になる。
ただ、TRD側のスタッフは1人で複数のチームを担当することが多く、複数の無線機を持ち、担当チーム内でのやり取りに耳を傾けており、ピットストップのタイミングなどでは音声が被って内容を把握するのが難しくなる場合があるという。それをデータ化し、しっかり内容を確認できるようにするとともに、チーム間で共有することで、リアルタイムな戦略判断やレース後の解析に役立てようという狙いだ。
吉田氏によれば、第5戦では第1フェーズとしてチーム内のやりとりを音声ファイル化することを実現。今後は、音声をテキスト化することなどにも取り組んでいくことを検討しているという。
チームを強くすると同時にファンの増加に繋げたい
こうしたシステムを構築する狙いについて、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント テクノクラフト本部 執行役員の永井洋治氏は、内向きと外向きにそれぞれの理由があると語る。
内向きは、チームを強くするための取り組みで、レクサスチーム間でデータを共有し、タイヤ選択などのピット戦略上で他メーカーより優位に立とうというもの。さらに、車両の走行データとともに映像や音声を記録することで、個々の判断や作業が正しいものだったかを検証可能にし、次戦以降に役立てる。
一方の外向きは、ファンの増加に繋げようというものだ。現時点では規則や放映権との関係上で実現できていないが、こうしたチーム内のデータをファンにも見えるようにして、モータースポーツ観戦をより見応えのあるものにしたいという。
「内向きになるほど情報を出さなくなってしまうが、バランスが大事」と語る永井氏。同氏によれば、ファンにダッシュボードの一部を見せていくこともあり得るという。
同氏は、「モータースポーツは予算がどんどん厳しくなっている。でも、ものすごく人気があるものには、きちんと予算がつく。ファンを増やすことを怠ってはいけない。SUPER GTにはまだまだ伝わっていない面白さがある」と、レースへの情熱を燃やす。
レース主催者の発表によれば、第5戦の観客動員は、予選日(8/4)が2万2100人、決勝日(8/5)が3万8300人の延べ6万400人だった。こうしたサーキット内の熱気をさらに高め、テレビ中継やインターネット経由でさらに多くの人々に伝えていくのが次の課題だ。